3−2:軟X線写真
3−3:観察結果 (太線:地層境界 細線:礫・ブロック 破線:ラミナ)
3−4:実視写真と観察結果の重ね合わせ
3−5:軟X線写真と観察結果の重ね合わせ
第6節 矢野遺跡発掘調査に伴う種実分析
渡邉正巳 (文化財調査コンサルタント株式会社)
1.はじめに
矢野遺跡は島根県東部の出雲市矢野町地内に位置する。本報告では,矢野遺跡発掘調査に伴い検出 された種実の同定結果について報告する。
2.試料について
同定試料は,出雲市文化企画部文化財課から,水洗選別され提供を受けた 14 試料である。同定試 料の詳細を第1表に示す。また,第1表には同定結果も示してある。
3.種実同定結果
第1表に,分析結果を示す。以下に,代表的な試料の記載を行い,図版に写真を示す (下線の試料) 。
(1) マツ属 (複維管束亜属) ( ) 球果 試料№ 14
卵状円錐形。種鱗の露出部の多くは四辺形を成し,中央部に臍がある。
(2) オニグルミ Carr 核 試料№3,4,5,6,11
側面観は広卵形。一端が尖る。側面には縦に走る一本の縫合線がめぐる。表面全体に不規則な隆起 がある。
(3) トチノキ Blume 種子 試料№7,12,13
下半部は光沢のない暗い褐色の粗面を呈し,上半は光沢のある黒色で平滑である。光沢のある黒色 部には微細な指紋状の構造が見られる。
(4) トチノキ Blume 果皮 試料№8,9,10
倒卵状球形の果実が 3 裂した 1 片。果皮は厚く,先端が尖る。表面の劣化が激しいが,円形の突起 の痕跡が残る。
(5) 根茎:Rhizome 試料№1,2
外形は楕円形で,断面は丸い。中央が最も厚く,両端が先細る。褐色。
背景は1mm 方眼 オニグルミ 核
オニグルミ 核
トチノキ 果皮 トチノキ 種子
マツ属 (複維管束亜属)
根茎 第1表 樹種同定結果
試料№ 出土地点 時期 和名 学名 部位
1 SK2866 弥生時代前期後葉 不明 Rhizome 根茎
2 SK2866 弥生時代前期後葉 不明 Rhizome 根茎
3 Ⅴ層 弥生時代前期中葉〜後葉 オニグルミ Carr 核
4 Ⅴ層 弥生時代前期中葉〜後葉 オニグルミ Carr 核
5 Ⅴ層 弥生時代前期中葉〜後葉 オニグルミ Carr 核
6 Ⅴ層 弥生時代前期中葉〜後葉 オニグルミ Carr 核
7 Ⅴ層 弥生時代前期中葉〜後葉 トチノキ Blume 種子
8 Ⅴ層 弥生時代前期中葉〜後葉 トチノキ Blume 果皮
9 Ⅴ層 弥生時代前期中葉〜後葉 トチノキ Blume 果皮
10 Ⅴ層 弥生時代前期中葉〜後葉 トチノキ Blume 果皮
11 Ⅴ層 弥生時代前期中葉〜後葉 オニグルミ Carr 核
12 Ⅴ層 弥生時代前期中葉〜後葉 トチノキ Blume 種子
13 Ⅳ層 弥生時代前期 トチノキ Blume 種子
14 Ⅳ層 弥生時代前期 マツ属 (複維管束亜属) ( n) 球果
第7節 矢野遺跡D区 (南側), A区 (東側) 発掘調査に伴う樹種同定
渡邉正巳 (文化財調査コンサルタント株式会社)
1.はじめに
矢野遺跡は島根県東部の出雲市矢野町地内に位置する。本報告は,D区 (南側) 発掘調査に伴って 検出された自然木 (倒木) ,及びA区 (東側) 発掘調査に伴い検出された柱 (柱根) の樹種ついて述べ たものである。
2.分析試料について
第1図にD区 (南側) の調査区内平面図及び採取試料を示す。D区 (南側) では倒木1,倒木2の 2試料について樹種同定を行った。また,第2図にA区 (東側) 内平面図及び試料採取地点を示す。
A区 (東側) では,SB1004 P4,P 9,SB1031 P6の 3 試料について樹種同定作業を行った。
3.分析方法
顕微鏡観察用永久プレパラートは,渡辺 (2000) に従い作成した。作成した永久プレパラートには 整理番号を付け,文化財調査コンサルタント (株) にて保管管理をしている。顕微鏡観察は,光学顕 微鏡下で4倍〜 600 倍の倍率で行った。同定した分類群ごとに最も特徴的な試料について,3断面の 顕微鏡写真撮影を行うとともに,島地ほか (1985) の用語に基本的に従い,記載を行った。
4.分析結果
分類群ごとに記載を行った。また,第1表に同定結果を示した。また,下線試料の顕微鏡写真を図 版に示した。
(1) カヤ
試料 No.:SB1004 P9 (W09020603)
記載:構成細胞は仮道管,放射柔細胞からなる。樹脂細胞,放射仮道管及び樹脂道は存在しない。年 輪幅は非常に狭く,早材から晩材への移行は緩やかである。晩材の幅は非常に狭い。仮道管にらせん 肥厚が明らかに存在し,2本のらせんが対になる傾向がある。放射組織は大部分が 15 細胞高以下で ある。分野壁孔はヒノキ型で,1分野に2〜4個存在する。以上の組織上の特徴からカヤ属と同定で きる。またカヤ属のうち,日本にはカヤのみが生育していることから,ここではカヤとした。
(2) マツ属 (複維管束亜属) sp.
試料 No.:SB1031 P6 (W09020605)
記載:構成細胞は仮道管,放射仮道管,放射柔細胞,垂直樹脂道及び水平樹脂道を囲むエピセリウム 細胞からなる。年輪幅は広く,早材から晩材への移行は急で,晩材の幅は広い。放射組織は単列で1
〜 25 細胞高であるが,水平樹脂道を含むものは紡錘形を示す。放射仮道管の内壁に鋸歯状肥厚がある。
分野壁孔は窓状である。垂直樹脂道は早・晩材の移行部から晩材に大型で孤立して存在し,垂直樹脂 道及び水平樹脂道にチロソイドが見られる。以上の組織上の特徴から,マツ属 (複維管束亜属) と同 定した。
(3) スギ
試料 No.:SB1004P6 (W09020604)
記載:構成細胞は仮道管,樹脂細胞,放射柔細胞からなる。放射仮道管,らせん肥厚及び樹脂道は存 在しない。年輪幅はやや狭い。早材から晩材への移行はやや急である。晩材の幅は狭い。樹脂細胞は 早・晩材の移行部から晩材にかけて存在し,接線方向に配列する傾向がある。放射組織は単列で,1
〜 25 細胞高である。分野壁孔は典型的なスギ型で,1分野に通常2個存在する。以上の組織上の特 徴から,スギと同定した。
(4) アカガシ亜属 subgen. sp.
試料 No.:倒木1 (W09020601)
記載:中庸で楕円形の道管が単独で放射方向に配列する放射孔材である。道管せん孔は単せん孔であ る。また,道管にはチロースが非常によく発達し,周囲仮道管が存在する。軸方向柔細胞は接線方向 に 1 ないし 2 細胞幅の独立帯状柔組織を形成している。放射組織は同性で,低い単列放射組織と極め て幅の広い広放射組織がある。更に道管放射組織壁孔は典型的な柵状を示す。以上の組織上の特徴か ら,コナラ属 (アカガシ亜属) と同定した。
(5) ヤナギ属 sp.
試料 No.:倒木2 (W09020602)
記載:散孔材で,非常に小さい道管が単独ないし2〜4個放射方向に複合し,年輪全体に一様に多数 分布する。道管せん孔は単せん孔,道管相互壁孔は交互状配列,道管放射組織間壁孔は比較的大きく ふるい状である。放射組織は単列で,平伏細胞と直立細胞からなる異性型である。また,ターミナル 柔組織が明らかに認められる。以上の組織上の特徴からヤナギ属と同定した。
5.柱材の樹種につて
当社用材データベース (全 1027 点) には,現在 299 点の柱材が登録されている。このうちカヤ (カ ヤ属) としたものとマツ属 (複維管束亜属) がそれぞれ8点,スギが 15 点含まれる (最も多い樹種はク リで,217 点) 。
時代別に見ると,奈良時代の可能性のある柱材 110 点の内カヤ (カヤ属) が3点 (すべて出雲市内か ら出土:青木遺跡2点,三田谷Ⅰ遺跡1点) ,マツ属 (複維管束亜属) が5点 (すべて出雲市内から出土:青 木遺跡4点,中野清水遺跡1点) ,スギ属が5点 (このうち出雲市内では4点が出土:九景川遺跡2点,三田 谷Ⅰ遺跡1点,中野美保遺跡1点) 含まれている。また中世の柱材として,マツ属 (複維管束亜属) は県 下で初めての例である。
このように今回樹種同定を行った柱は,比較的まれな用材であった。建物の用途など,特殊なもの
であった可能性もある。ただし,現在までに建物の用途と用材の関係は,データベース化されていな
いことから,単なる指摘に止めるものとする。
6.まとめ
矢野遺跡A区 (東側) で出土した建物遺構 SB1004,SB1031 に係る柱材 3 点の樹種同定を行った。
この結果,奈良時代の建物と考えられる SB1004 の2本の柱は,カヤ (カヤ属) とスギであると同定
できた。また,中世の建物と考えられる SB1031 の1本の柱はマツ属 (複維管束亜属) であると同定で
きた。いずれも,柱の用材としてはまれな例であり,集落内でも特別な建物であった可能性が指摘で
きる。
ドキュメント内
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