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第1図 暦年較正年代確率密度分布

ドキュメント内 <88E290D55F3495AA8DFB2E696E6464> (ページ 109-112)

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第 12 節 矢野遺跡から出土した赤色顔料付着遺物について

柴崎晶子 (島根県埋蔵文化財調査センター)

1.はじめに

 出雲市矢野遺跡から出土した赤色顔料付着遺物について蛍光X線分析を行なった。蛍光X線分析は 物質の構成元素を知るもの (定性分析) として資料を破壊せずに分析を行なうことが可能であるため,

従来から考古学の分野においても多用されている分析手法である。

 赤色顔料には硫化第二水銀 (HgS) を主成分とする水銀朱,酸化第二鉄 (Fe

2

O

3

) を主成分とするベ ンガラ,四酸化三鉛 (Pb

3

O

4

) を主成分とする鉛丹があるが,出土した土器の形式や年代から水銀朱 かベンガラの使用が想定される。水銀朱の構成元素である水銀 (Hg) と硫黄 (S) は土壌に含まれる ことが少なく,蛍光X線分析での判別が可能であるため,蛍光X線のスペクトルピークのうち,Hg と S が高いピークを示せば水銀朱であると判断した。一方,ベンガラの構成元素は Fe (鉄) であるが,

Fe は土壌や土器胎土にも含まれ,赤色を呈していても蛍光X線分析だけではベンガラであると判断 することは難しい。したがって,蛍光X線のスペクトルピークのうち Fe が高いピークを示すことと,

肉眼観察による赤色顔料の付着状況と併せてベンガラと判断した。

 使用機器は島根県古代文化センター設置の「エスアイアイ・ナノテクノロジー社製 SEA1200VX 卓上型ケイ光X線分析計 (エネルギー分散型) 」である。

 分析条件は以下のとおりである。

 測定時間:100 秒 (うち分析可能な有効時間は 97 〜 100 秒)

 試料室雰囲気:大気    コリメータ (分析範囲): 直径 1.0㎜

 励起電圧:50 k V    管電流:1000 μ A 2.分析結果

 分析結果は第1表の通りである。

 弥生時代前期中葉〜後葉の土器からはベンガラを検出した。

 1点のみ水銀朱を検出した土器があったが,弥生時代後期後葉のものである。

3.まとめ

 分析結果より以下の3点について述べる。

(1) ベンガラの使用について

 矢野遺跡では,弥生時代前期中頃の土器を中心に蛍光X線分析を行なった。その結果,ベンガラを 使った赤彩が主に行なわれていたことがわかった。

 ベンガラは先土器時代から使用されており,縄文時代,弥生時代から古代に至るまで赤彩土器の顔

料として全国的に広く使われていた。ベンガラは天然の赤鉄鉱や沼沢地に堆積する含水酸化鉄を焼い

たものをその原料としており,産地は限られず,ごく身近なものとして利用しやすいものであったと いえる。したがって,矢野遺跡から出土した遺物にも普遍的にベンガラが使われたと考えられる。

 また,ベンガラは塗彩技法について,土器焼成前に塗彩する「焼成前塗彩」と焼成後に塗彩する「焼 成後塗彩」があるとされている。「焼成前塗彩」では,ベンガラあるいは鉄分を多く含む土などを焼 成前の土器に塗りつけ焼き上げるが,「焼成後塗彩」では土器焼成後にベンガラなどの赤色顔料に漆 などの固着剤を混ぜて塗りつける。矢野遺跡出土土器では,赤彩のみ行なわれているものと黒漆を塗っ た後に赤彩を行なったものがあり,両方の技法が使われていたと考えられる。

(2) 水銀朱の使用について

 弥生時代後期後葉の土器から水銀朱を検出した。

 水銀朱は,近畿地方南部から四国地方中央部を通り九州へと至る断層である「中央構造線」上にあ る水銀鉱床にその産地が限られることから,ベンガラと比べて入手が難しいとされる。しかし,出雲 平野において中野清水遺跡や山持遺跡などで水銀朱の付着した弥生時代後期の土器や石器が確認され ており,ベンガラと並ぶ赤色顔料として矢野遺跡にも弥生時代後期には水銀朱がもたらされたことが 考えられる。

(3) 出雲地方における矢野遺跡出土遺物付着の赤色顔料の位置づけ

 先述したようにベンガラは先土器時代から使用されており,出雲地方でも山間部の原田遺跡や北原 本郷遺跡などで縄文土器の赤彩として縄文時代後期から広く利用されている。

 一方,水銀朱の土器塗彩は全国的にみると縄文時代後期からの使用が認知されており,出雲地方に おいても同様であると示唆されるが,その個体数はベンガラ塗彩のものに比べると少ない。水銀朱が 付着した土器が出雲地方において多く確認されるのは弥生時代後期からである。

 したがって,矢野遺跡において弥生時代前期のベンガラ塗彩の土器が多く確認されたことから,こ の時期には水銀朱の使用はまだ一般的ではなく,縄文時代後〜晩期から継続してベンガラが土器塗彩 の顔料として広く使われていたと考えられる。

参考文献

市毛勲 1998『新版 朱の考古学』雄山閣

成瀬正和 1998「縄文時代の赤色顔料Ⅰ」『考古学ジャーナル』No.438

柴崎晶子 2009「出雲圏域における赤色顔料の使用について」『島根考古学会誌』第 26 集

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