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アメリカ(2) 米国教育協議会(ACE)による国際化評価活動

機関の組織運営評価から学生の学習効果分析へ 野田文香

本章では、米国高等教育機関の国際化を把握する上で主要な役割を担う非政府機関、米国 教育協議会(ACE)¹による国際化評価活動の取り組みを紹介する。特に、当機関による自 己点検評価の推進と各種プロジェクトの経緯を通し、国際化に関する評価内容の焦点が大学 機関の組織運営としての成果から学生の学習効果分析に移行してきた動向を概観する。

ACE は、高等教育の国際化に精力的に取り組んでいる非政府研究組織であり、政府およ び高等教育機関に対して様々な提案・評価活動を展開している。2001年の9.11テロ事件以 後、米国社会における国際問題への緊張感が急速に高まる中、翌年 2002 年には「Beyond September 11:A Comprehensive national policy on international education」といった報 告書を発表し、連邦政府と高等教育間の緊急なる連携体制の強化を提唱している。この報告 書では、高等教育の国際化に対する連邦政府の果たすべき役割が明確化され、政策的課題な らびに国際化政策の質の改善の提案が強調されている。さらに、ACEは国際化戦略に関する 自己点検評価のガイドラインや評価指標を開発し、政府および高等教育機関に対して大学国 際化の士気を高めるにあたり第三者機関としての重要な役割を果たしている。以下、ACEに よるこれまでの評価活動の動向を紹介する。

1.大学機関に対する国際化評価指標

ACE は 2003 年 に 国 際 化 を 専 門 に す る 大 学 の 教 職 員 を 対 象 に し た ガ イ ド ラ イ ン

「Internationalizing the campus :A user’s guide」において、大学国際化の戦略プランとキ ャンパスの国際化の現状に対する自己点検の必要性を提案している。このガイドラインは、

欧州における国際化の評価指標であるIQR(Internationalization Quality Review)を基に、

米国の高等教育機関の文脈に適応させた形で独自に打ち出したものである。この IQR は、

1999年にHans de Wit教授(アムステルダム大学)とJane Knight教授(トロント大学)

を筆頭に推進された大学国際化の評価指標であり、欧州の高等教育機関を対象としている。

米国の高等教育機関は構造上のタイプにより教育目的や内容、学生の規模や特徴が異なる とされており²、機関類型別に国際化の政策や活動を検討する必要があることが指摘されてい る。ACEは2003年にフォード財団支援による全米規模の大学国際化調査を実施しており、

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¹ 米国教育協議会(American Council on Education):ワシントンDCに位置する非政府研究 機関:http://www.acenet.edu/AM/Template.cfm

²カーネギー分類:http://chronicle.com/stats/carnegie/

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大学類型により国際化の活動やアプローチ方法が異なることに着目した上で、キャンパスに おける国際化の実態を分析している。ACEは調査の便宜上、高等教育機関を構造上4タイプ に類別し、それぞれの機関類型別報告書「Measuring Internationalization」(調査対象:A.

研究大学144校・B. 総合大学233校・C. リベラル・アーツ187校、D. コミュニティ・カ レッジ188校)をまとめている。この全米調査では、各大学の学長向けにアンケート調査を 実施し、国際化戦略内容を量的方法を用いて測定している。ACEは機関レベルの大学国際化 に焦点をあて、その評価指標を以下の6分野に策定した(表1参照)。

表1 ACEによる高等教育の国際化戦略の評価指標 評価指標 内容

1)国際化目標の明文化 大学の設立理念、中長期戦略、入学案内書、留学 案内資料などの文書において、国際化の目標や政 策を明文化しているか。

2)教育面

(カリキュラム)

外国語履修、国際要素を含んだ一般教育を必修化 しているか。留学を単位として認めているか(履 修単位とならない活動は含まない)。

3)組織的インフラ 人的資源(国際センター職員、国際化関連委員会 などの設置)および物的資源(設備、事務所など)

が充実しているか。Eメール、ニュースレター、

ホームページ等の IT 基盤のコミュニケーション も含む。

4)外部資金 国際化推進を目的とした外部資金-1) 連邦政府 資金 2) 州政府資金 3) 民間資金(財団、民間 企業、卒業生による寄付金) 4) その他の財源―

を確保しているか。

5)大学教員支援 教員の国際交流、カリキュラムを国際化するため のワークショップなど教員に対する研修、ファカ ルティ・ディベロップメント対策があるか。

6)外国人留学生と 学生プログラム

大学内外の学生向け国際活動、外国人留学生の在 籍数、留学生リクルート政策の取り組みはどう か。

American Council on Education 2005

2. 機関の国際化に関する評価要素

機関の国際化に関する評価は、国際化を推進する環境、カリキュラム、学生生活、海外留 学、国際パートナーシップ、資源やインフラ、そしてファカルティ・ディベロップメント支 援など幅広い項目を含む。国際化に関する諸活動はキャンパス内でも細分化しており、海外

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留学担当、外国人留学生担当、ファカルティ・ディベロップメントの財政支援担当等を含む 多様な取り組みを一つの情報にまとめる必要性が求められている。機関全体の国際化の現状 を把握することは、その機関が各自定めた目標レベルに到達しているか、そして今後どのよ うな方向で国際化を進めていくかを検討する上で有用である。

ACEは、国際化の評価に関して以下の2点が解明すべき核となる内容だと提案している。

1. 機関の国際化が総合的に進んだ場合、キャンパスはどのような状態になるか。

(機関の国際化の展望はどのようなものか)

2. 国際化の進捗状況はどうか?どのようにそれを知ることができるか。

ACEによると、国際化の評価プロセスは1)準備、2)情報収集および報告、3)分析の3 段階で成り立っており、評価結果の分析を基に、現行のカリキュラムや活動の問題点を把握 し、学生の学習成果の向上につながるような改善策が求められる。ACEは国際化評価を進め る際にはその理由と活用方法を理解する必要があることを指摘し、以下の内容を提案してい る。

● 評価対象機関をより大きな枠組み(環境)の中に位置づけること。

● 体系的な評価プロセスを開発し、議論を高めること。

● 多様なステークホルダーとの議論を高めること。

● 国際化の目標、実践、期待、成果に関して機関全体の理念に着目すること。

● 個々の国際的資源や活動の一貫性を目指して評価結果を活用すること。

● 国際化戦略計画の作成、更新に評価結果を活用すること。

さらに、ACEは国際化の評価要素として以下の11項目を示している(表2参照)。

表2 機関の国際化に関する評価要素

1. 明確な責務

(理念・展望・目標)

大学機関の理念や展望と照らし合わせた時に、国際 化はどの程度不可欠なものと捉えられているか。

2. 国 際 化 に 対 応 で き る 環境

地域社会や州、またはより大きな文脈での環境が国 際化推進の現況にどのような影響を与えているか。

環境が今後の国際化の動向にどのようなインパクト を与えるのか。

3.戦略 目標達成を成し遂げる明確な戦略がどの程度ある

か。

4.構造・政策・実践 機関の構造や政策、実践、資源が機関の目標にどの

程度一貫しているか。どれが国際化を促進している のか。どの要素が国際化の妨げとなっているか。

5.カリキュラム・ 機関の教育にとって、国際教育がどの程度不可欠で

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共同カリキュラム あるか。カリキュラムや共同カリキュラムのどの要 素が国際教育を推進しているか。

6.海外留学・

海外インターンシップ

海外留学に関する機会はどのようなものがあるか。

過去5年から10年間における海外留学・研修プログ ラムの学生参加の傾向はどうか。

7.海外機関との かかわり

教育方法、研究、学習活動、共同開発の分野に関し て海外諸機関のキャンパスとのかかわりはあるか。

それらはどれ程うまく機能しているか。

8.キャンパス文化 国際化がどの程度、教育機関の文化の一部になって

いるか。それを示す証拠はあるか。

9.個々の諸活動間の 相乗作用や相互接続

キャンパスにおける国際化の諸要素間での相乗作用 はどの程度存在しているか。どのようなコミュニケ ーション手段があるのか。それはどれ程うまく機能 しているのか。

10.結論と提案 現行の国際化推進活動の強みや改善点は何か。どの

ような機会が存在しているか。今後の国際化の促進 の妨げとなるものは何か。この評価から浮かび上が る最も重要な結論は何か。

11.国際化計画 翌年ないし今後 3~5 年以内の機関の優先事項を考

えた際にこの評価過程にはどのような含蓄がある か。

American Council on Education 2006

ACEによると、多くの大学機関では特にキャンパス文化とカリキュラムが大きな要素とし て大学の国際化に影響を与えていることが報告されている。この2つの項目が、キャンパス の国際化を左右する上で重要であると同時に難しい課題になり得るのは、カリキュラムやキ ャンパス文化は学生に直接かかわる要素であるため、国際化の成果は学生との相互交流によ り発生してくるからである。組織機関として国際化を評価する観点から、学生個人レベルに 掘り下げた国際化成果の評価がますます求められるようになってきている。

3.学習効果分析からみる国際化

上記の評価要素は、キャンパスの国際化の進捗状況を高等教育機関の組織という観点から 把握する際に用いられていたが、近年、この自己点検評価の焦点が学生の学習効果分析へと 移りつつあり、その評価内容はどうあるべきかが大きく問われるようになってきている。高 等教育における学生の学習効果の評価は、この過去 20 年間にますます注目されるようにな ってきているが、「国際化」に特化した学習効果分析を試みる動きは新しい動向であり、機関 における従来の評価方法に国際化戦略の視点を合わせて考慮していくことが求められている。