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大学の戦略的な国際展開及び組織的な国際化に関する考察

―大学国際戦略本部強化事業を事例として―

太田浩・佐藤亜希子

文部科学省が2005年度に「大学国際戦略本部強化事業」を開始してから、3年が経過し た。大学としての国際戦略を打ち立て、国際戦略本部を核に学内の各関係組織(部局)を 有機的に連携させながら、全学的・組織的な国際活動を展開するための「基盤づくり」を 支援することを目的とするこの事業は、過去にも他国にも例を見ない特色ある事業として、

関係者の注目を集めてきた。文部科学省により採択された20の大学・機関(以下「機関」)

が、本事業の支援を受けながら、各機関の特色に応じた国際(化)活動を展開してきてい る。事業中間年次にあたる2007年度には、本事業における採択機関の取組について文部科 学省が中間評価を行ない1、17 機関が「順調に進捗している」、3 機関が「一層の努力が必 要」とされた。1)

独立行政法人日本学術振興会(以下「JSPS」)では、本事業において、採択20機関の取 組を分析し、また、大学国際化に関する国内外の調査研究を行い、戦略的な国際展開ある いは組織的な国際化活動の基盤強化に資するモデルづくりに取り組んでいる。2007年4月 には、その中間報告として「大学の優れた国際展開モデルについて(中間報告書)」2)を公 表し、現在、事業終了時の最終報告に向けて、引き続き大学国際化に関する各国や各機関 の動向を追っている。本章では、JSPSが行う好事例分析の観点に沿って、採択機関のこれ までの取組の特徴を挙げつつ、課題を明らかにするとともに、いくつかの好事例を詳述し たい。

1 採択機関における取組の特徴と課題

上述のとおり、JSPSでは本事業に採択された20機関(表1)の取組を分析し、日本の大学 の戦略的な国際展開、組織的な国際化に関する優れたモデルの開発に取り組んでいる。大 学の国際展開について、「普遍的な」モデルをつくることは、極めて困難である。なぜなら、

大学の戦略的な国際展開、組織的な国際化は、その大学の様態に大いに関係するからであ る。しかも、大学の様態は、実に様々であり、採択機関だけを見ても、規模の大小、総合 大学か特定分野に特化した、いわゆる単科大学か、都市部にあるか地方にあるか、伝統あ る大学か新設大学か等々、多種多様である。また、大学が行う幅広い教育研究活動を「国

1 なお、評価活動の実施に関しては『文部科学省「大学国際戦略本部強化事業」の中間評価の実施方針に ついて』(http://www.u-kokusen.jp/program_org/data.html#h181220)を参照のこと。評価結果については

「大学国際戦略本部強化事業」の中間評価の結果について』

(http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/19/08/07080918.htm)を参照のこと。

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際」という枠組みで捉えた場合、その範囲は極めて幅広く、全てをひとまとめにして取り 扱うと、かえって論点が見えなくなる恐れがある。そこで、JSPSでは、9つの観点を設定 し、各観点別に採択機関の取組を分析し、好事例を抽出しようとしている。観点の設定に あたっては、芦沢(2006)が提唱する「大学国際化指標(チェックリスト)」3)をはじめ、

本事業と同様に政府関連機関が大学の国際化に関して分析や好事例の抽出を行っているス ウェーデン4)とノルウェー5)の事例

を参考とした。

分析の対象となる採択機関の取組 状況については、個別の意見交換会や 訪問調査、公開シンポジウム、Webサ イトを通じ、随時把握に努めている。

また、2007 年度からは新たな取組と して、採択機関同士の情報交換や意見 交換を促進するために定期的に「情報 交換会」を開催し、各機関の活動状況 の把握に一層力を入れるとともに、機 関同士の活動情報のシェアや関係者 のネットワーク化の促進に努めてい る。

以下、JSPS が好事例の抽出・分析 を行う過程で明らかになった、現在ま での採択機関の取組の特徴を、先の 9

つの観点に沿って整理してみたい。あわせて、各観点における国際(化)活動に係る課題 を挙げてみたい。

1)組織体制、ガバナンス 採択機関の取組の特徴

全学的、戦略的な国際活動を推進する組織体制(国際戦略本部のあり方)のポイントと しては、特に①企画部門と実施部門の円滑な連携、②本部と部局との適切な業務分担及び 連携、③教員と職員の一体化(共働化)が挙げられる。本事業に採択された20機関は、初 年度(2005年度)に、まず「国際戦略本部」の立ち上げ及び整備に取り組んだ。結果とし て、4つの類型(特定プロジェクト型、本部先導型、集中管理型、部局支援型)2に分類で きるような国際戦略本部が各機関に設置されたが、それらを俯瞰してみると、以下のとお り、いくつかの共通する特徴がある(表2)。

2 4類型の詳細については、日本学術振興会(2007)『大学の優れた国際展開モデルについて(中間報告書)

(http://www.u-kokusen.jp/activities/interimreport.html)を参照のこと。

機 関 名 国 際戦略本部組織 名 北海道大学 「持続可能な開発」国 際戦略本部

東北大学 グローバルオペレーショ ンセンター

東京大学 国際連携本部

東京外国語大学 国際学術戦略本部 東京工業大学 国際戦略本部

一橋大学 国際戦略本部

新潟大学 国際学術サポートオフィ ス 名古屋大学 国際交流協力推進本部

京都大学 国際交流推進機構 大阪大学 国際交流推進本部 神戸大学 国際交流推進本部 鳥取大学 国際戦略企画推進本部

広島大学 国際戦略本部

九州大学 国際交流推進機構 長崎大学 国際連携研究戦略本部

会津大学 国際戦略本部

慶應義塾大学 国際連携推進機構 東海大学・北海道東海大学・九州東海大学 国際戦略本部

早稲田大学 国際研究推進本部 自然科学研究機構 国際戦略本部

表 1 大学国際戦略本部強化事業採択機関一覧

67 特徴1) 本部長を学長もしくは副学長としている。

特徴2) 企画立案部門と学内の関係組織(国際業務担当課、国際センター、研究所、

海外事務所等)とを連携し、組織している。

特徴3) 関係部局の教員と職員により構成されている。

特徴4) 外部専門家を含めた「アドバイザリー・ボード」を設置している。

上記のような特徴を持ついわゆる国際戦略本部(大学によって名称は異なる:上記表 1 参照)の設置は、大学構成員個人に依拠しがちであった国際活動を、組織的で戦略的な取 組へと変化させる効果をもたらすことが期待されている。

課題

① 「国際戦略本部」の認知と学内コンセンサスの形成

採択機関が「国際戦略本部」を設置して、3 年が経つ。しかし、「国際戦略本部」の学 内での認知度は、十分とは言い切れないというのが実情である。戦略的かつ組織的な国 際化・国際展開を狙うのであれば、全学的に国際戦略本部の存在が認識され、本部によ るトップダウン的なアプローチと本来大学が持つボトムアップ的な志向とが上手く融合 することが必要である。採択機関においては、国際戦略本部の存在を学内に十分に知ら しめながら、国際戦略本部を中心に、国際化・国際展開に対する学内のコンセンサスを 形成することが求められる。

② 真に「組織的」な国際活動の体制づくり

国際戦略本部の設置は、大学の国際活動を「個人型」から「組織型」へシフトさせる ことを狙ったものだ。しかし、これまでの国際戦略本部の活動を見てみると、国際戦略 本部に所属する特定の教員ないしは職員が持つリーダーシップやネットワーク、力量に 依存している場合が多く、真に組織的(全学的)な国際活動とは言い難い面がある。実 際、本部に係わる教職員の人事異動やメンバーの交替に伴い、その活動に大きな支障が 出るケースが多いようだ。職員の養成や確保といった面も含めて、国際戦略本部をいか に組織的な国際活動や展開の推進主体としていくのか、中長期的なプランが必要と思わ れると同時に、国際化に関する教職員全体の関与をどのようにして高めるかという観点 での施策が検討されなければならない。

2)目標設定、行動計画、評価体制 採択機関の取組の特徴

採択機関は、2005年12月に各機関の国際化・国際活動に向けたポリシーやミッション、

表 2 採択機関の国際戦略本部に見られる特徴

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目標、将来計画を明記した「国際戦略」を策定し、公表した。いくつかの採択機関の国際 戦略においては、ポリシーや目標のみならず、その目標の達成にむけた実施計画や行動計 画である、いわゆる「アクションプラン」を詳細にまとめ、そこに具体的な数値目標及び その目標の達成期限までも明文化しているものもある。目標設定や行動計画の内容自体は もちろんだが、それらをまとめあげるプロセスにも着目したい。目標の設定や行動計画策 定のためには、まずは自校の国際化・国際活動の現状を客観的に把握し、課題を認識する ことが必要だからである。特に大規模大学の場合、こういったプロセスは骨の折れる作業 である。採択機関の中には、外部の専門家や学内の教職員から意見を収集し、それらを分 析、活用しながら、国際戦略を策定した取組も見られた。

課題

①十分な現状分析が必要

先述のとおり、国際戦略を策定するにあたっては、自校の国際化・国際活動の現状を 十分に分析することが不可欠である。しかしながら、採択機関の国際戦略の中には、十 分な現状分析を経ずに策定したと思われる内容も少なくない(総花的なもの、ミッショ ン・ステートメントで終わっているもの)。外部専門家の意見を取り入れたり、他大学と のベンチマーキングを実施し、その結果を踏まえて国際戦略を策定した例は、日本の大 学全般にとって、戦略的取組として参考となり、他の分野での応用を促すものとなるで あろう。

②アクションプランの策定

いくつかの採択機関は、目標達成にむけた「アクションプラン」を詳細にまとめてお り、具体的な数値目標やその目標の達成期限までも明文化しているものもある。目標作 成のための目標に留めず、着実な実現に結びつけるためには、このようにアクションプ ランを策定し、目標の達成に向けて学内関係者間での意識の共有、向上を図ることが重 要である。

③国際戦略の改定

グローバル化の進展に伴い、世界の大学の潮流や自校を取り巻く状況は刻一刻と変化 している。それらに対応する形で、既に国際戦略の改定作業に着手している採択機関も 見られる。各採択機関が国際戦略を策定してから 3 年しか経過していない中で、改訂作 業を行うのは時期尚早の感がある反面、自らが置かれている状況を敏感に把握し、国際 戦略をアップデートする試みには注目すべきであろう。

3)外部資金の獲得 採択機関の取組の特徴

大学が組織的に国際活動を展開するための資金の獲得は、どの採択機関においても重要 事項として位置づけられている。採択機関の中には、JICA等の国際開発協力事業において、

大学が事業体としてプロジェクトを応札・受託し、新たな国際展開の端緒に発展させてい る例が見られる。また、外国からの資金を得て、国際活動を展開している機関もある。特