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第三者機関による大学国際化に関する評価

廣内大輔・高森智嗣・米澤彰純・大佐古紀雄

はじめに

本章では、第三者機関による大学国際化に関する評価の現状と課題を検討する。具体的 には、2007年3月現在、機関別および専門職大学院の認証評価機関として認定されている 6つの評価機関に対してヒアリング調査を行った。また、このほかに、工学教育のアクレデ ィテーション団体として、国際的なネットワークであるワシントン・アコードに加盟して いる日本技術者認定機構(JABEE)について、主にウェブサイトに基づいて情報を整理した。

いずれも、各節にインタビュー対象者を示したとおり、組織としての取り組みや見解と同 時に、それぞれの担当者の有識者としての個人的な見解や意見が含まれている場合がある が、今後の大学国際化に関する評価の改善に資すると考えられるものについては、記載さ せていただくこととした。

なお、「はじめに」と「まとめ」の主執筆者は米澤、第1節から第3節は高森、第4節か ら第7節は廣内である。

1. 大学評価・学位授与機構

調査日時:2008年3月3日

応対者:木村孟氏(大学評価・学位授与機構長)、井村隆氏(評価事業部評価企画・国際課課 長)

訪問者:米澤彰純(東北大学)、大佐古紀雄(育英短期大学)、高森智嗣(広島大学大学院)

※本記録は、大学評価・学位授与機構についてウェブサイト等で公開されている情報及び、

訪問調査の際に提供された資料およびインタビューの記録に基づいて作成したものである。

大学評価・学位授与機構の国際的取り組みの概要

大学評価・学位授与機構(以下、機構とする)では、国際的取り組みとして、平成17年 10 月から「国際連携センター」を設置した。国際連携センターは、その業務に国際連携推 進のための各種プログラムの企画・立案・運営、機構の行う業務のうち国際的な高等教育 の質保証及び国際連携に関する調査研究、高等教育の評価・質保証に携わる研究者及び評 価担当者に対する専門家養成のための研修プログラムの研究開発、その他国際連携センタ

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ーの目的を達成するために必要な業務を掲げて活動を行っている2。その上で、平成19年度 においては、1.APQN(Asia-Pacific Quality Network)総会(機構主催)を実施する、2.

QAA(the Quality Assurance Agency for Higher Education)との覚書に基づく連携協力 を進める、3.中国教育部高等教育教学評価センター等の中国関係機関との協力関係の構築 による連携協力を進めるという 3 点を国際交流に関する重点事項として位置づけている。

また、国際連携の実施方針として、国際ネットワーク等について、APQN の活動を中心と し て 展 開 す る と と も に 、 ア ジ ア 太 平 洋 地 域 の 代 表 と し て INQAAHE(International Network for Quality Assurance Agency in Higher Education)への活動につなげること、

OECD、UNESCOなど国際機関の情報収集についても取り組むこと、アジア太平洋地域に

ついて、中国教育部高等教育教学評価センター及び中国教育部学位与研究生教育発展セン ターを中心に中国との協力関係を構築・確立し、APQN 加盟各国や欧米諸国に対するプレ ゼンスを示すこと、欧州地域について、QAA との連携、協力プロジェクトの実施及び HEFCE(The Higher Education Funding Council for England)との連携協力の検討を行 うこと、北米地域について連邦政府教育省や地域アクレディテーション団体及び CHEA

(Council for Higher Education Accreditation)などについての情報収集を行うことを掲 げている3

国内評価の国際的通用性にむけた努力

「大学評価・学位授与機構評価事業部国際交流に関する方針」として、諸外国の高等教 育の質保証、評価に関する情報収集により、評価事業の改善・向上及び当機構の行う評価 事業の国際化に資すること、我が国の高等教育機関に対して情報を整理、提供することに より、各機関の行う教育研究活動の質保証、評価活動の改善・向上に資すること、当機構 の行う評価事業の通用性を高め、我が国の高等教育機関の国際通用性を高めるとともに、

我が国の高等教育利害関係者の保護に資することを目標として掲げている。

機構の行う評価の背景

認証評価制度は、その成り立ちから、大学の個性化の伸張に資することを一つの目的と して考えられた多元的な評価システムであることから、評価に当たっては、まず、各大学 が自己評価を行ったものを文部科学大臣が認証する機関の設定する評価基準等により評価 が行われる。

平成12年に学位授与機構が大学評価・学位授与機構となって以降、認証評価制度の創設 以前に試行的評価として、全学テーマ別評価、分野別教育評価、分野別研究評価を国公立 大学及び共同利用機関に対して行っており、そのうち、全学テーマ別として、国際的な連 携及び交流活動をテーマとして平成14年度から平成15年度にかけて実施した。

2 http://www.niad.ac.jp/n_kokusai/index.html参照。

3 2008年3月3日に行ったインタビュー時におけるNIAD提出資料による。

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現在機構で行われている認証評価については、少なからずこれらの経験が反映されてお り、各機関の行う国際的取組みについても対応可能なものとなっている。

評価基準等における国際化関連事項

機構が行う認証評価の大学評価基準の中では、直接的に国際化を評価する基準は見られ ないものの、基準1「大学の目的」において「各大学がその教育研究活動に関して、例えば、

国際連携や地域社会への貢献等を目的として重視している場合、そのことを明示すること で、大学の個性や特徴を評価に反映させることも可能」としている。

収集資料・情報における国際化関連指標

認証評価における中心的な収集資料は自己点検・評価報告書であるが、機構の自己評価 実施要綱においては「研究活動実績票について Ⅱ記述要領 2研究活動実績票」において

「国内・国際シンポジウムの開催状況(件数や特徴的な事例)」を、研究活動実績を示す根 拠情報の例として提示している。

大学の国際化の評価に関する意見

国際化に焦点を置いた評価の例としては、例えば、日本の工学教育の国際通用性に関す る努力としてJABEE(ワシントン・アコードへの加盟)があげられる。しかし、専門分野 によってはこのような取り組みが難しい場合もありうる。また、このほかに、日本学術振 興会が国際戦略本部強化事業において20大学を選抜し中間報告を行っている4他、グローバ ルCOE等の評価を行っている例なども個別の国際化の評価の枠組みとして考えられる。

現時点において、「国際化」というテーマで評価を行ってみる意義はあると考えられる。

政府の留学生30万人計画の推進や少子化の影響により、留学生数の増加が大学としての重 要な要因となっていくことが考えられるが、認証評価制度が教育の質の低下を抑止する機 能を担っていることを考えると、留学生受け入れにどのようなビジョンを持っているのか などを評価することが考えられる。そのひとつの方法として、機関別認証評価基準の項目 として組み込むことも考えられる。

ユネスコにおいては、「国境を越えて提供される高等教育の質保証に関するガイドライ ン」を踏まえ、「高等教育機関に関する情報ポータル」(The UNESCO Portal on Higher Education Institutions)構築のパイロット事業を2007年度にも終え、世界レベルの高等教 育機関のホワイトリストが構築されようとしている。

各国の高等教育の質保証がますます重要となってくることから、国際化への各大学の取 組みとその適時な大学の質保証への取組みを推進していく必要があるのではないか。

大学評価・学位授与機構では、機構の行う評価の国際化と併せて、国際連携・協力とい う観点から、英国、中国など諸外国との情報交換などを通じた「相互理解」への取組みに

4 http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/19/08/07080918.htm参照。

46 力を入れている。

2. 大学基準協会

調査日時:2008年3月4日

応対者:工藤潤氏(大学評価・研究部 審査・評価系 企画・調査研究系 主幹)

訪問者:米澤彰純(東北大学)、大佐古紀雄(育英短期大学)、高森智嗣(広島大学大学院)

第三者評価機関としての国際的取り組みの概要

大学基準協会(以下、基準協会とする)では、高等教育における質保証に関する国際会 議には積極的に参加する方針をとっている。INQAAHE(International Network for Quality Assurance Agency in Higher Education)への加盟以来、平成 15 年度には、

INQAAHEの総会において、本協会代表者2名が、それぞれ日本の大学評価制度の改革方

向、高等教育の質保証における国境を越えた地域連帯について報告を行った。また、

INQAAHEの下位組織であるAPQN(Asia-Pacific Quality Network)の活動のうち、本 協会が担当する e-ラーニング等による国境を越えた高等教育サービスの質保証に関わる問 題について、他の評価機関との連携を図りつつ、アジア諸国における e-ラーニングの普及 状況の調査方針の検討を行った。基準協会の国際的取り組みとして以上のような、総会・

ワークショップへの参加、管理運営へのコミット、INQAAHE の理事クラスを呼んだ国際 会議、APQNの会議運営への参加など、INQAAHE、APQNの活動への関与があげられる5。 また、大学基準協会のスタッフが日本学術振興会の科学研究費補助金を受け取り、アメリ カ・イギリス・オランダ・ドイツの評価機関を訪問し評価者トレーニングに関する研究を 行うとともに、アメリカ・イギリスの評価機関からスタッフを招待してワークショップを 行った。平成 17~18 年度には文部科学省の委託研究として質保証にかかわる報告書6を作 成している。

また、「評価疲れ」という議論が大学関係者の間で話題になったことから、評価の効率化 をテーマに平成18年度にはオーストラリアの評価機関のスタッフ及び評価を受けた大学関 係者を招いてワークショップを行っている。また、平成19年度には、上海の高等教育評価 委員会のスタッフ、タイの評価機関のスタッフ、AACSB(The Association to Advance Collegiate Schools of Business)との交流も行った。また、年々増加する本協会への海外か らの訪問者に向けて、本協会の諸資料の英文化に努めている。

各大学の国際化の評価の実践例

例えば山口県立大学は、大学・学部の理念・目的・教育目標の中で平成 8 年度男女共学

5 その他,平成16~18年度にはINQAAHE及びAPQNの会議への参加

6 『国境を越えて提供される学位の質保証に関する国際比較研究』