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米澤彰純・廣内大輔・村澤昌崇

はじめに

本章では、大学調査に基づき、日本の大学における大学国際化への支援とその評価につ いて概観する。まず、各大学の国際的な取り組みと財政との関連について分析を行う。次 に、大学国際化の評価について検討する。最後に、日本の大学の国際化とその評価につい ての大学からの意見を検討する。

1. 国際的な取り組みと財政との関連

問8では、各大学の国際的な取り組みと財政との関連についてたずね、図1 のような結 果を得た。すなわち、最も回答が多かったのは、「国際的な取り組みは、大学のイメージア ップなど非金銭的な効果も考慮して行う」45.3%(国立53.9%、公立28.4%、私立46.4%)

で、国立・私立が多かった。次いで回答が多かったのが「国際的な取り組み自体に意義が あり、財政面などでの効果は期待していない」32.0%(国立34.2%、公立50.7%、私立29.0%)

であり、これは公立が多かった。「国際的な取り組みは、財政的に負担にならなければ行う」

18.1%(国立10.4%、公立18.6%、私立19.3%)は、公私立の方が回答割合が高く、「国際

的な取り組みは、財政的にプラスであれば行う」2.6%(国立1.3%、公立0.0%、私立3.1%)

との回答は、各設置者ともごく少数であった。

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0.0  10.0  20.0  30.0  40.0  50.0  60.0 

財政的にプラスであれば行う 財政的に負担にならなければ行う 非金銭的な効果も考慮して行う 財政面での効果は期待していない 全体 国立 公立 私立

図1 国際的な取り組みと財政の関係(百分率)

他方、以上の前提を踏まえた上で、国際化によって、何らかの収入を確保しようと考え る大学は少なくない。問9では、国際化に関係する収入確保の可能性として、「外国人学生 からの学費」「外国人学生受け入れに関する各種の補助金収入」「外国政府や国際機関など からの研究資金」「国際協力・研究などについての外部組織からの事業資金」についてそれ ぞれ「意識しているか」を多重回答で聞いた。その結果は図 2 に示したが、国公立大学に おいて肯定的回答が多かったのが、「国際協力・研究などについての外部組織からの事業資 金」(全体55.3%、国立91.9%、公立は80.4%、私立45.3%)、国立大学で多かったのが「外 国政府や国際機関などからの研究資金」(全体23.1%、国立50.0%、公立は23.2%、私立は 18.2%)であり、いずれも研究や社会貢献を中心とした活動・事業からの収入を意識したも のと言える。これに対して、私立大学において肯定的回答が多かったのは、「外国人学生受 け入れに関する各種の補助金収入」(全体 44.0%、国立 32.4%、公立 7.1%、私立 51.1%)、

ついで「外国人学生からの学費」(全体32.4%、国立17.6%、公立5.4%、私立31.6%)と、

いずれも教育面、すなわち、外国人学生の受け入れに関する項目であるが、直接的な授業 料収入よりも、補助金収入を意識するという回答の方が高い点は、特徴的といえる。

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0.0  10.0  20.0  30.0  40.0  50.0  60.0  70.0  80.0  90.0  100.0 

留学生が納める学費で大学の収入を増やす 留学生受入に関する補助金収入を得る 国際機関から研究資金を得る 事業資金を外部組織より得る

全体 国立 公立 私立

図2 国際化に関係する収入確保の可能性(百分率)

2. 大学国際化の評価

問10では、国際関連の事項についてどのような評価活動を行っているかを多重回答で聞 いた。このうち、回答が多かったのは、「大学独自で自己点検評価を実施し、その一部分と して国際関連事項の評価を実施」(全体74.2%、国立78.9%、公立81.8%、私立72.1%)、「第 三者評価(認証評価・国立大学法人評価など)の一部分として国際関連事項の評価を実施」

(全体60.3%、国立 85.5%、公立 57.6%、私立 56.1%)であり、自己点検・評価、第三者

評価の定着が、半数以上の大学で何らかの国際化に対する評価の実施が行われている状況 を支えていることがわかった。他方、「大学の国際関連事項(国際化・国際戦略など)に対 して、独立した評価体制を設けている」大学は全体では3.8%にとどまり、国立大学が15.8%

と一定程度の割合であった他は、公立6.1%、私立1.2%とごく少数であった。また、「外国 の大学やコンソーシアム・学会等と共同で、ベンチマーキング(様々な指標等による比較)

を実施」(全体 3.1%,国立 2.6%,公立 0%,私立 3.6%)「国外の団体のアクレディテーシ ョン(ビジネススクール対象のAACSBなど)を受けている」(全体1.6%,国立1.3%,公

立0%,私立1.9%)との回答も、ごく少数であった。

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0.0  10.0  20.0  30.0  40.0  50.0  60.0  70.0  80.0  90.0 

第三者評価の一部として実施 国外の団体のアクレディテーション 自己点検評価の一部として実施 独立した評価体制を設けている 学会等と共同でベンチマーキングを実施 全体 国立 公立 私立

図3 国際関連の事項について,行っている評価活動(百分率)

国際化において参照される大学、先進的・意欲的な大学

問12では、「国際化を進める上で参考にしている大学」、問13では、「国際化が進んでい るあるいは意欲的であると思われる大学」を、それぞれ 3 校まで大学名で回答を求めた。

なお、大学は、国内外を問わないとしたが、「参考にしている大学」「進んでいる・意欲的 な大学」とも、日本の大学が大部分を占めた。また、回答傾向として、国公立は国公立大 学を、私立は私立大学を挙げる傾向がみられた。

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0.0  10.0  20.0  30.0  40.0  50.0  60.0  70.0 

国立大学 公立大学 私立大学 外国の大学

合計 国立 公立 私立

図4 国際化を進める上で参考にしている大学

(回答された大学名を設置者別に集計・百分率)

0.0  10.0  20.0  30.0  40.0  50.0  60.0  70.0 

国立大学 公立大学 私立大学 外国の大学

全体 国立 公立 私立

図5 国際化が進んでいる・意欲的である大学

(回答された大学名を設置者別に集計・百分率)

30 国際的な活動と評価

問14では、大学の国際化に関わる諸活動の実施の有無と、その評価の実施の有無を聞い た。まず、実施している諸活動について図 6 に示したが、全体として国立大学が私立大学 よりも活動の実施割合が高く、また、教育・研究・社会貢献など幅広い分野をカバーして いるのに対し、私立大学で広く普及している活動は、学生と教員の交換や外国からの受け 入れに集中する傾向がみられた。また、図 7 に示した評価の実施の有無も、同様の傾向が 確認された。

0.0  20.0  40.0  60.0  80.0  100.0 

学生の海外留学・研修 外国人の教員・研究者の雇用 教員・研究者の海外派遣・研修 学生の英語力の強化 外国人学生への奨学制度・学費免除 研究面での国際協力・連携 外国人学生の積極的な受け入れ 外国人の客員教員・研究員の招聘 国際関連の学科・専攻・課程の設置 国際・異文化コミュニティとの連携 職員の海外派遣・研修 英語での授業・教育課程の整備 国際ネットワーク・コンソーシアム等への参加 海外での教育プログラムの提供 海外との教育連携プログラム の実施 途上国への援助プロジェクトの実施 競争力がある分野に対する重点支援 一定の英語力を進級・卒業要件 海外事務所の設置 教員・研究者の英語力の強化 職員の英語力の強化 海外を含めた遠隔地・通信教育 英語以外の外国語による授業・教 …

海外キャンパスの設置

全体 国立 公立 私立

図6 国際的な活動の実施(百分率)

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0.0  20.0  40.0  60.0  80.0  100.0 

学生の海外留学・研修 学生の英語力の強化 外国人の教員・研究者の雇用 外国人学生への奨学制度・学費免除 教員・研究者の海外派遣・研修 外国人学生の積極的な受け入れ 研究面での国際協力・連携 国際関連の学科・専攻・課程の設置 外国人の客員教員・研究員の招聘 英語での授業・教育課程の整備 海外での教育プログラムの提供 国際・異文化コミュニティとの連携 職員の海外派遣・研修 競争力がある分野に対する重点支援 海外との教育連携プログラムの実施 途上国への援助プロジェクトの実施 一定の英語力を進級・卒業要件 国際ネットワーク・コンソーシアム等への参加 英語以外の外国語による授業・教育 …

海外事務所の設置 海外を含めた遠隔地・通信教育 教員・研究者の英語力の強化 職員の英語力の強化 海外キャンパスの設置

全体 国立 公立 私立

図7 国際的な活動に関する評価の実施(百分率)

データの整備・数値目標の設定

問17では、大学の国際化に関連するデータの整備状況と、数値目標を設けているかどう かを聞いた。図 8 は、そのうち、全学で整備しているとの回答があった比率を示したもの である。全体的に、国立大学の整備割合は私立大学より高く、私立大学が主に学生や教員 の交換・受け入れにデータ整備の中心があるのに対し、国立大学では、研究関係のデータ も整備が進んでいる。なお、英語で教育ができる教員や、対応できる職員についてのデー

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タを整備している大学は、各設置者とも極めて少数にとどまっており、実際にサービスと してどのような人材が活用可能かについて組織的に把握するよりも、個々の構成員の自主 的な活動を期待する傾向が強いと考えられる。

他方、数値目標の設定については、全体的に割合は少ないが、国立よりも私立大学の方 が、積極的に数値目標を定めていることがわかった。しかし、私立大学が、主に学生や教 員の交換についての指標設定に重点があるのに対し、国立大学は、研究での設定目標を立 てる傾向が確認できた。また、国立、私立とも3割程度の大学が、「学生のTOEFL、IELTS、

TOEICなどの点数」について数値目標をさだめている。すなわち、データ整備は国立を中

心にかなり進んできてはいるものの、全体としてはまだ十分ではなく、また、数値目標な どの形で戦略的にこれらのデータが使われている割合は低いなど、今後この領域での一層 の整備・有効活用を進めていく余地はある。

0.0  10.0  20.0  30.0  40.0  50.0  60.0  70.0  80.0  90.0  100.0 

外国人学生数・比率 外国人教員・研究者の数・比率 教員の海外派遣者数・比率 学生の海外派遣者数・比率 国際協定数・コンソーシアムへの参加 職員の海外派遣者数・比率 国際学会での発表 英語等での授業数・比率 国際学会等の国際的な賞の受賞 国際学術雑誌への掲載等 学生のTOEIC等の点数 国際協力・開発援助の実施 引用度高い学術雑誌への掲載数 英語で教育できる教員数・比率 英語で対応できる職員数・比率 卒業生(修了生)の国際的活躍

全体 国立 公立 私立

図8 国際化に関連するデータ整備(全学レベル・百分率)