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関数と無次元量

ドキュメント内 数学リメディアル教材 (ページ 162-167)

第 9 章 積分の応用 133

10.10 関数と無次元量

既に学んだように, sinxは,以下のように無限次の多 項式でマクローリン展開できる:

sinx= x 1!−x3

3! +x5 5! −x7

7! +· · · (10.53) ここで, もしxに何らかの次元があれば, 困ったことに なる。実際,xがもし「長さ」という次元を持ち, mとい う単位で表されるなら,x3はm3という単位を持つ。と ころが, mという単位を持つ量とm3 という単位を持つ 量を足すことはできない(異なる次元の量は足せない)。 従って,式(10.53)の右辺が意味を持つのは,xが無次元 量(単位を持たない量)であるときに限る。従って,現実

的には, sinxのような関数の引数(関数に入れる数, つ

まり独立変数)は, 無次元量でなければ意味がないので ある。そこで, 現実的な問題を扱う科学では, このよう な関数の引数を無次元にするために, 何らかの定数を掛 けたり割ったりして,つじつまをあわせる必要がある。

例10.11 P.110では,単振動の式:

x(t) =x0cos(ωt+δ) (10.54) を学んだ(tは時刻, ωは角速度,δは適当な定数)。既に 学んだように, cosθもθに関する無限次の多項式でマ クローリン展開されるので,引数θは無次元量でなくて はならない。ところがtは「時間」という次元を持ち,

「秒」などの単位で表される。そこで, それを無次元に する(単位を消す)ために,ωという係数が必要なのだ。

このことから,ωが「1/時間」の次元を持ち, s1などの 単位で表されるということがすぐわかる。同様にδも無 次元量である(「初期位相」と呼ばれる)。(例おわり)

もちろん, ωは角速度という, 立派な意味を持つ量で あり, 単なるつじつまあわせの為だけに存在するのでは ない。しかし,数学的な形式と,量の次元(単位)の整合 性だけに着目しても, このようにいろいろなことがわか るのである。

演習問題

演習26 あるお菓子は半径Rの球形をしており, 中の 方が甘い。お菓子の中の砂糖の濃度をCとすると,Cは 中心で最大値C0をとり, 表面で0である。中心から表 面までは,Cは中心からの距離rに関する一次関数で表 されるとする。このお菓子に含まれる砂糖の全質量を表 す式を導け。それは,このお菓子と同じ形・大きさで,砂

10.10 関数と無次元量 153 糖が濃度C0で均一に存在するような別のお菓子に含ま

れる砂糖の全量の何倍に相当するか? ヒント: 中心から 半径r,厚さdrの球殻に含まれる砂糖の質量は? それを 足し合わせれば(すなわち積分すれば)よい。

演習27 テーラー展開を直接せずに(式(10.10)などを 使って),次式を示せ:

1

1 +x = 1−x+x2−x3+x4−x5+· · · (10.55) ln(1 +x) =x−x2

2 +x3 3 −x4

4 +· · · (10.56) 1

1 +x2 = 1−x2+x4−x6+x8− · · · (10.57) arctanx=x−x3

3 +x5 5 −x7

7 +x9

9 − · · · (10.58) 1−1

3 +1 5 −1

7+1

9 − · · ·= π

4 (10.59)

ヒント: 式(10.55)は,式(10.10)をちょっと工夫。式(10.56)

は式(10.55)の両辺を不定積分してx= 0でつじつまが合う

ようにすれば出てくる。式(10.55) のxにx2 を代入すると 式(10.57)。式(10.57)の両辺を不定積分してx= 0でつじつ まが合うようにすれば式(10.58)。式(10.58)の両辺にx= 1 を代入すると,式(10.59) (x= 1は,もとの式(10.10)の収束 半径のぎりぎり端っこであって,内側ではないが,式(10.58) の収束半径の内側には入っている)。

演習28 テーラー展開を直接行なって, 式(10.55), 式 (10.56),式(10.57),式(10.58)を示せ。

演習29 以下の関数で,xが無次元量でなければ意味を 持たないものを選び, その理由を述べよ。 ヒント: 1は 無次元量である。

(1) x2 (2) 1/x (3) 1 +x

(4) 1/(1−x) (5) tanx (6) expx (7) lnx

問題の解答

答221 式(10.2) で, x2以降の項を無視すると, 線型近 似の式に一致する。すなわち, 式(10.2)は,線型近似の 式に,さらに高次の項を付け加えたものと見ることがで きる。

答222 f(x) = exと置くと, f(0) = e0 = 1, f(0) =

e0 = 1, f′′(0) = e0 = 1, · · · であるので, これらを式 (10.3)に代入すると,

ex= 1 0!+ 1

1!x + 1

2!x2+ 1

3!x3+ 1

4!x4+ · · ·

= 1 0! + x

1! + x2 2! + x3

3! + x4 4! + · · ·

f(x) = sinxと置くと, f(0) = sin 0 = 0, f(0) = cos 0 = 1, f′′(0) = −sin 0 = 0, f′′′(0) = −cos 0 =

−1, f′′′′(0) = sin 0 = 0 · · · であるので, これらを式 (10.3)に代入すると,

sinx= 0 0!+ 1

1!x+ 0

2!x2+(−1) 3! x3+ 0

4!x4+ 1

5!x5 + · · ·

= x 1! − x3

3! + x5 5! − x7

7! · · ·

f(x) = cosxと置くと, f(0) = cos 0 = 1, f(0) =

−sin 0 = 0, f′′(0) = −cos 0 = −1, f′′′(0) = sin 0 = 0, f′′′′(0) = cos 0 = 1 · · · であるので, これらを式 (10.3)に代入すると,

cosx= 1 0!+ 0

1!x +(−1) 2! x2+ 0

3!x3+ 1

4!x4+ 0 5!x5 · · ·

= 1 0! − x2

2! + x4 4! − x6

6! + · · ·

答223式(10.6)の両辺をxで微分すると, (ex)= 0 + 1

1!+2x 2! +3x2

3! +4x3 4! + · · · (ex)= 1

0!+ x 1!+x2

2! +x3 3! · · · (ex)=ex

式(10.7)の両辺をxで微分すると, (sinx)= 1

1!−3x2 3! +5x4

5! −7x6 7! + · · ·

= 1 0!−x2

2! +x4 4! −x6

6! + · · ·

= cosx

式(10.8)の両辺をxで微分すると, (cosx) = 0−2x

2! +4x3 4! −6x5

6! + · · ·

=−x 1!+x3

3! −x5 5! + · · ·

=−sinx

答224式(10.6)にx= 1を代入すれば与式を得る。

答225f(x) = 1/(1−x)とする。

(1) 合成関数の微分によって, f(x) = (1−x)1

f(x) = (−1)(1−x)11(1−x) = (1−x)2 f′′(x) = (−2)(1−x)21(1−x) = 2(1−x)3 f(3)(x) = 2(−3)(1−x)31(1−x)

= 2×3(1−x)4

f(4)(x) = 2×3(−4)(1−x)41(1−x)

= 2×3×4(1−x)5

· · ·

f(n)(x) =· · ·=n!(1−x)(n+1)

となる。これらにx = 0を代入して, f(0) = 1, f(0) = 1, f′′(0) = 2,f(3)(0) = 3!, f(4)(0) = 4!,

· · ·, f(n)(0) =n! となる。これを式(10.2)に代入 すると,

f(x) = 1 +x+2 2x2+3!

3!x3+4!

4!x4+· · ·+n!

n!xn· · ·

= 1 +x+x2+x3+x4+· · ·+xn+· · ·

となる。 ■

(2) x= 2とすると,左辺=1/(1−2) =−1だが, 右辺 は1 + 2 + 4 + 8 +· · · であり,無限大に発散する。

従ってこの式は成り立たない。

(3) 式(3.97)でr=xとすると,

1 +x+x2+· · ·+xn=

n

k=0

xk= 1−xn+1 1−x

(10.60) となる。ここでnが無限大に行くときを考える。

右辺の分子のxn+1 は, |x| < 1 のときであれば, 0に収束するので, 右辺は1/(1−x)に収束する。

|x|>1であれば, xn+1は発散する(1 < xなら正 の無限大に発散するし, x <−1なら正負に振動し ながら正か負の無限大に発散する)ので, 右辺は収 束しない。x=−1ならば,xn+1は1と−1の間を 振動するので, 右辺は収束しない。x= 1なら右辺 の分母が0になるので式(10.60)は無意味になる。

以上のことから, 式(10.60)の右辺が収束する(も しくは意味を持つ)のは|x|<1のときだけである。

答226z=a+biとする(a, bは実数)。

z=a+bi (10.61)

z=a−bi (10.62)

これらの辺々を足せば, z+z= 2a

従って,a= (z+z)/2となる。すなわち式(10.12)の第 1式が成り立つ。一方,式(10.61)から式(10.62)を辺々 引けば,

z−z= 2bi

従って,b= (z−z)/(2i)となる。すなわち式(10.12)の 第2式が成り立つ。

答227 (1)(2)略。

(3)e = cosπ+isinπ=−1 + 0i=−1。 従って,e+ 1 = 0。

答228

e×e = (cosα+isinα)(cosβ+isinβ)

= cosαcosβ+i(sinαcosβ+ cosαsinβ) +i2sinαsinβ

= cosαcosβ−sinαsinβ+i(sinαcosβ+ cosαsinβ) 一方,

ei(α+β)= cos(α+β) +isin(α+β) 実数部と虚数部をそれぞれ比べて,与式を得る。

答229f(x) =eix, g(x) = cosx+isinxとする。

f(x) =ieix=i(cosx+isinx) =icosx−sinx g(x) =−sinx+icosx

従って,f(x) =g(x)。 答230

eix= cosx+isinx (10.63)

eix= cosx−isinx (10.64) 辺々を足せば,

eix+eix= 2 cosx 従って,

eix+eix

2 = cosx (10.65)

一方,式(10.63),式(10.64)より, eix−eix= 2isinx

10.10 関数と無次元量 155 従って,

eix−eix

2i = sinx (10.66)

答231

(sinx)=(eix−eix 2i

)

=ieix+ieix 2i

= eix+eix

2 = cosx cosの微分も同様(略)。

答232 (1)

cos3x=(eix+eix 2

)3

= e3ix+ 3eix+ 3eix+e3ix 8

= e3ix+e3ix

8 + 3×eix+eix 8

= 1

4×e3ix+e3ix

2 +3

4×eix+eix 2

= cos 3x+ 3 cosx 4

従って, cos 3x= 4 cos3x−3 cosx。 (2) 略(上と同様)。

答233図10.5のとおり。注:(2)は原点対称。(5)は90 度だけ左回り。

-3 -2 -1 1 2 3 4

-3 -2 -1 O 1 2 3Re

Im

z

z

1+z zi iz

z2

1/z

図10.5 問233の答え。

答234

(1)

√2 exp(π 4 i)

(2)

2 exp(π 6 i)

(3)

exp(3π 2 i)

(4)

√1 2+ i

√2 (5)

−2

(6)

1 +√ 3i

答235

(1) ei7π/12 (2) eiπ/12 (3) ei3π/4 (4) eiπ/2 (5) 8e

答236 z=r1e1,w=r2e2とする(r1, r2, θ1, θ2は実 数。r1とr2は0以上)。式(10.26)と式(10.29)より, 絶対値と動径は同じである。従って,|z|=r1,|w|=r2

である。

zw=r1e1r2e2=r1r2e1e2 =r1r2ei(θ12) (10.67) この最後の項を極形式とみれば, その動径はr1r2であ る。絶対値と動径は同じなので, |zw|=r1r2 =|z||w|, すなわち式(10.33)が成り立つ。 ■ 答237複素数z, wについて,

(1) z=reとする。ez =rei(θ+α)となる。これは もとのzに対して, 偏角がαだけ増えた式なので, 複素平面上では,原点を中心にαだけ左向きに回転 することに対応する。

(2) z=re =rcosθ+irsinθだから, z=rcosθ−irsinθ

=r{cos(−θ) +isin(−θ)}=re

答238 

(1) 複素平面にiをプロットすると, 動径1, 偏角π/2 であることは明らかなので, 極形式で表現してi= eπi/2

(2) 前問の結果の両辺をi 乗すれば, ii = (eπi/2)i = eπi2/2=eπ/2

(3) ii=eπ/2≒e1.5708≒0.2079。

答239 (1) ∂f

∂x = 2x, ∂f

∂y = 2y (2) ∂f

∂x =yexpxy, ∂f

∂y =xexpxy (3) ∂f

∂x = x

√x2+y2, ∂f

∂y = y

√x2+y2 (4) ∂f

∂x =− x

(x2+y2)3/2, ∂f

∂y =− y (x2+y2)3/2

答240∂f /∂x=yexp(xy)より,

∂y

∂f

∂x = exp(xy) +xyexp(xy) また,∂f /∂y=xexp(xy)より,

∂x

∂f

∂y = exp(xy) +xyexp(xy) よって,

2f

∂y∂x = ∂2f

∂x∂y = exp(xy) +xyexp(xy)

答241

(1) ∂2f /∂x2=−(ey+ey) cosx (2) ∂2f /∂y2= (ey+ey) cosx (3) (1)(2)より明らか。

答242

(1) ρ=P/RT に値を代入しρ= 44.08 mol m3。 (2) ρ= 43.96 mol m3

(3) それらの差をdρと書くと,

dρ = 43.96 mol m3 − 44.08 mol m3 =

−0.12 mol m3。 (4)

∂ρ

∂P = 1

RT, ∂ρ

∂T =− P RT2 従って,全微分公式から,

dρ= ∂ρ

∂PdP + ∂ρ

∂TdT = 1

RTdP − P RT2dT

(5) dT=1 K, dP=1 hPa=102 Paとして上の式に代入 すると,dρ=−0.12 mol m3

答243

2

2

(∫ 3 0

(x2+xy)dx) dy=

2

2

[x3 3 +x2y

2 ]3

0dy

=

2

2

(9 + 9y 2

)dy=[

9y+9y2 4

]2

2= 36

答244 位置(x, y, z)にある, 体積dx dy dzの直方体の 中に含まれる砂糖の量dSは, C dx dy dz。これを積分 して,

S=

c 0

b 0

a 0

C dx dy dz

157

第 11

ベクトル

第1.15節(P.11)で学んだように,平面や空間の中で, 大きさと向きをもつ量をベクトルと呼ぶ。本章では, ベ クトルについて,より深く学ぼう。

11.1 ベクトルの書き方

ベクトルを記号で呼ぶときは,上に矢印のついた記号 か, 太字のアルファベットを使う約束だった。ここで, ベクトルを記号と座標で表す時の書き方を確認してお こう:

例11.1 ベクトルの記号と座標の書き方

正しい: a= (2,−1) (11.1)

正しい: b= (x, y) (11.2)

間違い: a= (2,−1) (11.3)

間違い: a(2,−1) (11.4)

間違い: b= (x, y) (11.5)

間違い: b= (x,y) (11.6)

間違い: b= (x,y) (11.7)

式(11.3)は細字のaがダメ。式(11.4)は=が入ってい ないのがダメ。式(11.5)は細字のbがダメ。式(11.6) は成分まで太字で書いたところがダメ(ベクトルといえ ば何でもかんでも太字で書けばよい, というものではな い)。式(11.7)は全部ダメ。(例おわり)

よくある質問121 なぜベクトルは太字や上付き矢印で書く

のですか? ... スカラーと区別するためです。スカラーとベク

トルは, 本質的に違う量です。例えばa, b, cがスカラーの場 合,ab=cなら,両辺をbで割って,a=c/bとできますね(b は0でないとする)。ところが,aがスカラーでb,cがベクト ルの場合,ab=cだからといって,a=c/bとしてはいけな いのです(理由は後述)。「ベクトルでの割り算」は許されない のです。そのように,ベクトルはスカラーとは違った扱いをす る必要があるために,「要注意記号」として,太字や上付き矢 印で書くのです。

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