第 2 章 物理量と単位 19
2.11 例外 !
ここで, 少しやっかいな話。「物理量は数値と単位の 積」と述べたが,そうではない場合が存在するのだ。
もし物理量が「数値と単位の積」なら,その「数値」が 0のときにはその物理量は0である。例えば, 0 mは長 さが0 (無い)ということである。
すると, 「数値が0でも物理量が0にならない場合」
は,「数値と単位の積」ではない,ということになる(こ れは上で述べたことの対偶である。対偶がわからない人 は,索引で調べよ)。そして, 実際にそのような場合があ るのだ!
例2.15 温度はそもそも, 分子の平均運動エネルギーに 比例するような物理量であり, その単位としてK (ケル ビン) が使われる。当然, 分子の平均運動エネルギーが 0 のときの温度は0 Kである。ところが,温度を摂氏で 表すと, 0◦Cのときは273 Kであり, 0 Kではない。
例2.16 pHは, 水溶液の中の水素イオンの濃度[H+] の指標であり,次式で定義される:
pH :=−log10 [H+]
mol L−1 (2.39)
● 問51 次式を示せ:
[H+] = 10−pH mol L−1 (2.40)
● 問52 pHが−1の水溶液の水素イオン濃度は?
● 問53 以下,必要なら関数電卓を使ってよい。
(1) 水素イオン濃度が0.005 mol L−1のときpHは? (2) pH=5.6のとき, 水素イオン濃度は中性(pH=7)の
ときの何倍か?
(3) pH=5.0の塩酸と, pH=3.0の塩酸を, 等量, 混ぜ合 わせたら, pHはどのくらいになるか? ただし塩酸 はすべて解離するものとする。
ここで示した2つの例は, 「数値と単位の積」では ない。つまり, ◦CやpHという単位は, 普通じゃない, 変な単位である。こういう単位は, 単位同士の掛け算, 割り算, 約分はできないし, それを利用した単位換算 法も使えないし, 式(2.14)のような表現もできないし, dimension checkも使えない。なので, こういう単位の からむ計算や変換は, ケースバイケースで慎重に対応し なければならない。
よくある質問31 「ケースバイケースで慎重に対応」って,
具体的にはどういうことですか?... いちばん簡単なのは,単位 換算や他の量と一緒に計算する時にはそういう量を「数値と 単位の積」に書き換えてしまうことです。◦CはKに, pHは
mol L−1に書き換えてしまうのです。
演習問題
演習5 0 ◦Cは273 Kである。つまり,
0◦C = 273 K (2.41)
である。ところが,この両辺を2倍すると,
0◦C = 546 K (2.42)
になってしまう。この2つの式に式(1.4)を使うと,
273 K = 546 K (2.43)
となってしまう。どこでどのように間違ったのか? 演習6 生物資源学類で農業を学ぶとき,古い単位が出 てくることがよくある。以下のそれぞれの単位につい て, その由来と, 相互の関係, そしてSI基本単位でどの くらいかを調べよ:
長さの単位: 寸,尺,丈,間,町,里 面積の単位: 畳,坪,畝,反,町 体積の単位: 合,升,斗,石 質量の単位: 貫
演習7 伝統的に, 生物資源学類生の多くには, 教員が テキスト・プリント・口頭で繰り返し注意しても, 必要 な単位を付け忘れるという性質がある。「単位の付け忘 れ」に関する君の体験を述べ,このミスを解消できる,人 道的で手間と費用の少ない教育法を提案せよ。ちなみに
「テストで減点」とか「呼び出して説教」というのはあ まり効果が無いことがわかっている。また, 「テストの 解答用紙に単位を書く欄を設ける」とか, 「テストのた びに, 単位を忘れないように注意を与える」などはむし ろ, 自主的に単位をつけようとする態度や習慣の成長を 阻害する可能性がある。
よくある質問32 教育とは手間のかかるものだと思います...
それは一般論として正しいけど,「単位の付け忘れ」は小中学 校で矯正されるべきですし,自分でも「単位つけないのはまず くね?」と気づくべきことです。大学がわざわざ「手間をかけ て教育」するようなことではありません。
よくある質問33 テストとかで後から見ると信じられないよ うなミスをします。ミスを減らす方法ってありますか? ... 人 間だからミスはなかなか無くせないですよね。むしろミスし
2.11 例外! 31 てミスから学ぶのです。ただし,ミスを指摘されているのに気
付かずに同じミスを繰り返したり,最初からテキストで注意喚 起されているところをミスするのはダメです。
問の解答
答25 「お互いに単位を揃えることができるかどうか」
という観点で共通する性質。
答26
(1) 500リットル
5 時間 ×2時間= 200リットル
(2) 5 時間
500リットル ×4 m3
= 5時間
500 リットル×4×103 リットル= 40時間 (3) 21000 t
4900 ha= 21000×103kg
4900×104 m2 = 2.1×107 kg 4.9×107 m2
≒0.43 kg/m2
(4) (3)の逆数。 1/(0.43 kg/m2)≒2.3 m2kg−1 (5) 0.43 kg
m2 ×260×104m2≒110×104kg = 1100 t (6) 60kg
人 ×130人×2.3 m2
kg ≒18000 m2= 1.8 ha (7) 120 ha×2.5トン
1 ライ ×4.4 バーツ
1 kg × 100 円 33バーツ
= 120×104 m2×2.5×103kg 1600 m2 × 4.4
1 kg×100 円 33
= 2.5×107 円(= 2500 万円)
答28 (略解)いずれも, kg, m, sの3つの単位のどれかで 表すことができる。(1) 60 s。(2) 3600 s。(3) 100 m2。 以下,略。
答30 (略解)
(1) 1 m=10−3 km。1 m=0.001 kmと書いてもOK。 (4) 1 m2=1×(10−3 km)2=10−6 km2。
(8) 1 km3=1×(103 m)3=109 m3。
(11) 1 dL=10−1L=10−1×10−3m3=10−4m3。他略。
答31 (略解) (1) 9×103 m2。(2) 3×104 m3。 答32 (略解)
(1) mL=10−3 L = 10−3 × 10−3 m3=10−6 m3。 cm3=(10−2m)3=10−6 m3。よって, mL = cm3。 (2), (3) は 略 。(4) Gt=109 × 103 kg=1012 kg。 Pg=1015 g=1012 kg。よって, Gt=Pg。
答33
2.0 g/s = 2.0 g
s = 2.0 g s
kg 1000 g
3600 s h
= 2.0 g s
kg 1000 g
3600 s
h =2.0×3600 1000
kg
h = 7.2 kg/h 答34 (略解)
(1) 1220 km/h。(有効数字 3 桁とみなした。4 桁で 1224 km/hでもOK)。
(2) 1.08×109 km/h。(3) 1.0 kg/L。(4) 1.0 t/m3。(5) 1.3 kg/m3。(6) 1.4×10−2g/s。
答35与えられた量に対して0.5倍から数倍の違いがあ る事物でOK(ざっくり!)。以下は例。レポートではこ こに挙げた例を答えてはならない。
(1) 1 mL ... インフルエンザワクチンの容量(0.5 mL)。 (2) 1 m3... 銭湯の小さめの浴槽の容量。
(3) 1 mg ... キイロショウジョウバエ1匹の質量。
(4) 1 g ... 1円玉1個の質量。
(5) 1 kg ... サッカーボールの質量(0.5 kg)。 (6) 1 t ... 軽自動車1台の質量。
(7) 1µm ... 大腸菌1匹の大きさ。
(8) 10000 km ... 地球の直径(13000 km)。 (9) 100000 km2 ... 北海道の面積(83500 km2)。 答37 60×9.8 N≒590 N
答39
(1) 2 kg×3 m s−2=6 kg m s−2 = 6 N (2) 2 N×4 m = 8 N m = 8 J
(3) (略解) 5 Pa (4) (略解) 200 J 答40(略解)
(1) J = N mの両辺をmで割る。(2) Pa=N/m2の右 辺に,前小問で示したN=J/mを代入。(3)以下は略。
答41式(2.32)の右辺のNに式(2.30)を代入すると, J=kg m s−2 m=kg m2s−2 (2.44) 式(2.33)の右辺のNに式(2.30)を代入すると,
Pa=kg m s−2/m2=kg m−1s−2 (2.45) 式(2.34)の右辺のJに式(2.44)を代入すると,
W=kg m2s−2/s=kg m2 s−3 (2.46) 答42 (1) 1 kW h = (103W)×(3600 s) = 3.6×106W s
= 3.6×106 J。(2) 1 hPa = 102 Pa = 100 Pa。
答43
(1) 1 atm := 1013.25 hPa = 1.01325×103×102Pa
= 1.01325×105 Pa。
(2) 1 atm=101.325×103 Pa=101.325 kPa
(3) (1) よ り, 1 Pa= 1/(1.01325 × 105) atm = 9.86923×10−6 atm。
(4) 895 hPa = 895×102×9.86923×10−6 atm
= 0.883 atm。 答44
V = nRT P
= 1.0000 mol×8.3145 J mol−1K−1×273.15 K 1.01325×105 Pa
= 8.3145×273.15 J
1.01325×105 Pa = 2.2414×10−2 J/Pa
≒2.2414×10−2 m3= 2.2414×10−2×103L
= 22.414 L
なお, J/Paをm3に置き換えたところがわからない人
は,問40(4)を参照せよ。
答45問40(3)より, J=Pa m3。また, m3=103L。 従って, J=103 Pa L。また,問43より,
Pa = 9.86923×10−6 atm。従って,
J=103×9.86923×10−6atm L=9.86923×10−3atm L。 従って,R= 8.3145 J mol−1K−1
= 8.3145×9.86923×10−3 atm L mol−1 K−1
= 0.082058 atm L mol−1 K−1。
答46物質を温めるときに, 投入した熱量をQ, 温度変 化を∆T,質量をmとすると,比熱はQ/(m∆T)と定義 される。常温では液体水は, 1 gに1 cal の熱を与える と1 Kだけ温度が上がる。すなわち,Q=1 cal,m=1 g,
∆T=1 Kをその定義に代入すればよい。すなわち, 1 cal
1 g×1 K = 4.184 J
10−3kg×1 K = 4184 J kg K
答47おおよその略解(君は計算過程もきちんと述べ,有 効数字を適切に考えること): (1) 約107 J。(2) 約5 K (3)約100 km
答48式(2.6)の左辺は無次元量であり,右辺は面積の次 元を持つ量である。等号の左右で次元が一致していない ので,これは誤った式である。
答49 SI基本単位で表すことを考える。ポテンシャルエ
ネルギーはエネルギーなのだからJ,すなわちN m, す なわちkg m2s−2という単位で表される。右辺は,mは kg, gはm s−2,hはmという単位で表される。従って, mghはkg m2 s−2という単位で表される。左辺と右辺 はともに同じ単位(kg m2 s−2)で表されるので,両辺の 次元は一致している。
答50rは半径なので, SI基本単位で表すとmで表現で きる。A君の記憶している公式では,V は「無次元量×
r2」なのでm2という単位で表される。すなわちV が 表すものは体積ではなく面積になってしまう。同様に, A君の記憶している公式では,Sは面積でなく体積を表 すことになってしまう。
答51式(2.39)の両辺に(−1)をかけると,
−pH = log10 [H+]
mol L−1 (2.47)
となる。対数の定義から, 10−pH = [H+]
mol L−1
となる。ここから与式を得る。 ■ 答52式(2.40)の右辺にpH=−1を代入すると,
[H+] = 10−(−1)mol L−1= 10 mol L−1 答53
(1) [H+]=0.005 mol L−1のとき, pH =−log10 [H+]
mol L−1 =−log100.005 mol L−1 mol L−1
=−log100.005≒2.3 (2) 式(2.40)より,
pH=5.6のとき[H+]=10−5.6 mol L−1 pH=7.0のとき[H+]=10−7.0 mol L−1
で あ る 。前 者 を 後 者 で 割 る と, 10−5.6/10−7 = 101.4≒25.1。すなわち,約25倍。
(3) 2つの塩酸の体積をそれぞれxLとする。H+の物 質量は,
pH= 5.0の液には, 10−5xmol。 pH= 3.0の液には, 10−3xmol。
2つの塩酸を混ぜ合わせたとき, H+の濃度は, 10−5xmol + 10−3xmol
xL +xL = 10−5+ 10−3
2 mol L−1
= 5.05×10−4 mol L−1 従って, pH=−log10(5.05×10−4)≒3.3
33
第 3 章
代数
過去の受講生の言葉: 「予習大切。やんなきゃできない。」