第 9 章 積分の応用 133
9.4 微分方程式
P.92で,簡単な微分方程式を学んだ。そのとき,
f′(x) =af(x) (9.26)
という微分方程式の解は
f(x) =f(0)eax (9.27)
となることを式(6.47)で学んだ。式(9.27)が式(9.26) を満たすことは,代入してみればすぐにわかる。しかし, ここでは, そういう天下りなやり方を使わないで微分方 程式の解を得る方法を学ぶ。
例えば,関数f(x)について,
f′(x)−2x−1 = 0 (9.28)
は,微分方程式である。といってもこれはf′(x) = 2x+ 1と同じだから,f(x)は2x+ 1の原始関数である。従っ て, 2x+ 1 を不定積分すれば解は求まる。従って, 式 (9.28)の解は,一般に,
f(x) =
∫
(2x+ 1)dx=x2+x+C (9.29) となる。ここでCは任意の定数(要するに積分定数)で ある。だから,x2+x+ 1,x2+x−5,x2+x+ 100など は,いずれも式(9.28)の解である。このように,一般に, 微分方程式は複数の解を持つ。その「複数の解」は, 式
(9.29)のように任意定数を含む式で一般的に書けること
が多い。そのような解を 一般解 という。
式(9.28)は,あまりに簡単な例である。この程度の話
なら, わざわざ微分方程式という概念を持ち出さないで も「積分」で十分である。しかし, 実際にはもっと複雑 な微分方程式が, たくさん使われる。例えば, 式(9.26) という微分方程式は,
f(x) =
∫
af(x)dx (9.30)
とできるはずだ。しかし, 右辺の積分の中に, f(x)その ものが入ってしまっている。f(x)が欲しいのに,そのた めにはf(x)を積分しなければならない。これは困った (注: もちろん我々は既にこの微分方程式の解は式(9.27)であ ることを知っているのだが,ここではあえてそれを知らないと いう前提で話をしている)。
実は, 式(9.26)は,以下のような工夫で解くことがで きる:
まず, 微分の定義を思い出そう。すなわち, 十分0に 近い∆xについて,
f(x+ ∆x)≒f(x) +f′(x)∆x (9.31) である。これは,f(x+ ∆x)−f(x) = ∆f とおいて,
∆f ≒f′(x)∆x (9.32)
と書いても同じことである。ここで,式(9.26)を使って f′(x)を消去すると,
∆f ≒af(x)∆x (9.33)
となる。両辺をf(x)で割ると(以下,f(x)の”(x)”など は省略して書く),
∆f
f ≒a∆x (9.34)
9.4 微分方程式 137 となる。ここで,xがx0, x1, x2,· · · , xnのときに, f は
それぞれf0, f1, f2,· · ·, fnであるとする。つまり,kを 0からnまでの整数として, fkはf(xk)のことである。
各xkとxk+1の間隔は十分に小さいとする。
∆fk =fk−fk−1 (9.35)
∆xk=xk−xk−1 (9.36)
とすれば,上の式(9.34)より,
∆f1
f0
≒a∆x1
∆f2
f1
≒a∆x2
∆f3
f2
≒a∆x3
· · ·
∆fn
fn−1
≒a∆xn
となる。これを辺々,足しあわせれば,
n
∑
k=1
∆fk
fk−1
≒
n
∑
k=1
a∆xk (9.37)
となる。これは, ∆fkや∆xkを十分に小さくとれば,積 分の定義式(8.11)から*2,
∫ f(x) f(x0)
df f =
∫ x x0
a dx (9.38)
となる。ここで, xn をあらためてxとおいた。また,
∆がdに変わった瞬間に,近似等号”≒”は等号”=”に変 わった。
上の式の両辺の積分をそれぞれ実行すると次式に なる:
ln|f(x)| −ln|f(x0)|=a(x−x0) (9.39) この式は,以下のように変形できる:
ln
f(x) f(x0)
=a(x−x0) (9.40)
f(x) f(x0)
= exp{a(x−x0)} (9.41) f(x)
f(x0) =±exp{a(x−x0)} (9.42) f(x) =±f(x0) exp{a(x−x0)} (9.43)
*2ここで,式(9.37)左辺の分母がfkでなければ式(8.11)を使 えないのでは?と思う人もいるかもしれないが, ∆xkが十分に 0に近ければ,fkもfk−1もほとんど同じなので, OKなのだ。
ここでx=x0のとき両辺が一致するには, 右辺のマイ ナスはありえない。従って,
f(x) =f(x0) exp{a(x−x0)} (9.44) これが,上の微分方程式(9.26)の解である。特に,x0= 0とすると,これは次式のようになる:
f(x) =f(0)eax (9.45)
(無事に式(9.27)が得られた!)
f(0)の値が何であっても, 式(9.45)は解なので,解は 無数にたくさんある。ところが,f(0)の値があらかじめ 具体的に決まっていれば, 解はひとつに定まる。このよ うに, 特定のxでのf(x)の値が決まっていれば*3, そ れが条件となって, その条件を満たす解は一つだけに絞 られる。このような条件を 初期条件(initial condition) という。
ところで, もし君が注意深い人ならば, 式(9.34)で,
「f = 0のときは”0での割り算”は許されないので,この 変形は許されないのでは?」と思っただろう。その通り である。しかしそれは,結果的には,どうでもよくなる。
というのも,あるxにおいてf(x) = 0ならば,式(9.26) に戻ると, f′(x) = 0である。従って,そのxにおいて, 微小量dxについて,
f(x+dx) =f(x) +f′(x)dx=f(x) = 0 (9.46) となる。つまりxのすぐそば(x+dx)でもf = 0であ る。これを延々と繰り返して考えると,全てのxについ て, f(x) = 0となる。つまりf は恒等的に0に等しい, 定数関数となる。これは, 式(9.45)でf(0) = 0とした 場合になっている。結果的に, うまくつじつまがあって いるのだ。そうだからといって, f = 0の場合を無視し て割り算をしてしまうのは, 論理的に正しくは無いのだ が, ここは結果オーライということで, 特段f = 0の場 合に言及することは不要としておこう。
上で述べた解法は, 説明のために, まわりくどく記 述した。ところが, f′(x)をdf /dxと書き換えれば, 式 (9.26)は
df
dx =af(x) (9.47)
と書くことができる。すると, 式(9.33)以降の議論は, 形式的にはdf /dxを分解して,dfとdxをそれぞれ独立
*3多くの場合,x= 0での値。
した変数のように演算し, 積分に持ち込めるということ がわかるだろう(わからない人は, とりあえずそういう ものだと思ってほしい)。つまり,この微分方程式(9.26) すなわち式(9.47)は,左辺にf とdfが,右辺にxとdx が, それぞれ集まるように整理して(係数aはどちらに あっても良い),
df
f =adx (9.48)
として,両辺に積分記号をくっつけて,
∫ df f =
∫
adx (9.49)
として,あとは両辺の積分を実行すればよい。
このように,dfやdxなどの微小量まで含めて, 2つの 変数(ここではf とx)を式の左辺と右辺に分離して寄 せ集めること(ここではf は左辺に,xは右辺に寄せ集 めた)を 変数分離 と呼ぶ*4。
変数分離したあとは, 各辺を積分すればよいのだが, その積分区間をどう設定するかという問題が残る。しか し実際にはあまり気にせず, とにかく積分定数を残して 不定積分してしまってもよい。そして最後に初期条件を 代入することで,残った積分定数を決定すればよい。
そういう手順で上の微分方程式をもういちど解くと, 以下のようになる(君が今後, このような微分方程式を 解くときには,以下のように考えればよい):
**微分方程式の変数分離解法(例) **
df
dx =af (9.50)
これを変数分離して, df
f =adx (9.51)
両辺を不定積分して,
∫ df f =
∫
adx (9.52)
この不定積分を実行して,
ln|f|=ax+C (9.53)
*4変数分離が可能な微分方程式のことを,「変数分離型微分方程 式」と呼ぶ。変数分離ができない微分方程式もたくさん存在す る。そういう微分方程式の場合は,別の解法を探さねばならな い。
(ここで本来は両辺に積分定数が現れるが,それを右辺に Cとして集約した)従って,
|f|=eax+C=eCeax (9.54)
f =±eCeax (9.55)
これにx= 0を代入すると(初期条件),
f(0) =±eC (9.56)
となる。式(9.55)の右辺の±eCをf(0)で置き換えて,
f(x) =f(0)eax (9.57)
■ よくある間違い48 式(9.56) を, 「f(0) = eC と f(0) =
−eCのどちらでもよい」と解釈してしまう... そういう人は, 微分方程式の最終的な解を,式(9.57)のかわりに
f(x) =±f(0)eax (9.58)
としますが,これは間違いです!。試みにx= 0をこの式に入 れてみましょう。
f(0) =±f(0) (9.59)
となります。明らかに, 右辺にマイナスがつく必要はない し,むしろマイナスがついたら変です(マイナスがついたら,
f(0) = −f(0)となってしまい, 右辺を左辺に移項したら
2f(0) = 0, つまりf(0) = 0,それを式(9.58)に入れると, f(x)は恒等的に0になってしまう)。そもそも,指数関数の性 質上,Cがどんな値であっても,eCは常に正だけど,±eCな ら正の値も負の値もとれます。問題によってはf(0)の値は正 だったり負だったりしても,この±が,そのつじつまをあわせ てくれるのです。言い換えるとこういうこと: ±eCは,「+eC と−eCのどちらもありえる」という意味ではあるけど,f(0) の値が与えられたら,そのどちらか片方に決まってしまい,も う片方の可能性は無くなるのです。もしf(0)が正なら,±eC は+eCに決まるし,もしf(0)が負なら,±eCは−eCに決ま るのです。
● 問214 以下の微分方程式を変数分離法で解け:
f′(x) = 3f(x) (9.60)
初期条件: f(0) =−2
● 問215 以下の微分方程式を変数分離法で解け:
f′(x)−3f(x)2= 0 (9.61)
初期条件: f(0) = 1