第 8 章 積分 115
8.5 原始関数と不定積分
8.5 原始関数と不定積分 121
あったとすると,その差F(x)−G(x)を微分すれば, d
dx{F(x)−G(x)}=F′(x)−G′(x) (8.39)
=f(x)−f(x) = 0 (8.40) となるので, F(x)−G(x)は定数である (微分して恒等 的に0になる関数は定数関数しかないので)。つまり,
積分の公式9: 原始関数の不定性
関数f(x)の原始関数がF(x)であるとき, それに 任意の定数Cを足した関数F(x) +Cも, f(x)の 原始関数である。また,逆に, f(x)の任意の2つの 原始関数の差は,定数である。
従って,原始関数は,定数の足し引きのぶんだけ,不確 定である。その不確定な定数のことを 積分定数 と呼び, 通常はCと書く。
不定積分は原始関数を 一般的に 求めることなので,答 えには常に積分定数Cをつけねばならない。
例8.3 2xの原始関数は, 一般的に, x2+C と書ける (Cは積分定数)。すなわち,
∫
2x dx=x2+C (8.41)
(例おわり)
よくある間違い41 不定積分して,積分定数をつけ忘れる。
以後しばらく, 不定積分において重要な公式をいくつ か示す。これらの多くは, 定積分でも似たようなものが あったことに君は気づくだろう:
積分の公式10: xaの不定積分 aを−1以外の定数とすると,
∫
xadx= 1
a+ 1xa+1+C (8.42) 証明:微分で学んだように,a̸=−1ならば,実際,
d dx
( 1
a+ 1xa+1)
=xa (8.43)
■
● 問196 上の公式を利用して以下の不定積分を求 めよ。
(1)
∫ x2dx
(2)
∫ 1 x2dx
(3)
∫ dx
また, 積分の公式1, 2は, 不定積分についても成り立 つ。というのも,もしf(x), g(x)の原始関数がそれぞれ F(x), G(x)ならば,
(F(x) +G(x))′=F′(x) +G′(x) =f(x) +g(x) (aF(x))′ =aF′(x) =af(x)
なので,F(x) +G(x)はf(x) +g(x)の原始関数であり, aF(x)はaf(x)の原始関数である。従って,
積分の公式11: 線型性
∫
{f(x) +g(x)} dx=
∫
f(x)dx+
∫
g(x)dx (8.44)
∫
af(x)dx=a
∫
f(x)dx (8.45)
ただし, 右辺に任意の定数(積分定数)がついても かまわない。
よくある間違い42 式(8.44)の左辺を,∫
f(x) +g(x)dxと 書いてしまう... これはダメ。定積分でも不定積分でも意味 的・形式的には,dxはf(x) +g(x)全体にかかる乗算なので, f(x) +g(x)は括弧( )に入れなければいけません。
例8.4 以下の不定積分を求めてみよう:
∫
(2 + 3x)dx (8.46)
積分の公式11より, 与式は,
∫
2dx+
∫
3x dx= 2
∫
dx+ 3
∫
x dx (8.47) となる。右辺の各項に積分の公式10, つまり式(8.42) を使えば,与式は,
= 2(x+C1) + 3(x2 2 +C2
) (8.48)
となる。ここでC1, C2は, それぞれ∫
dxと∫
x dxか ら生じる積分定数であり, それぞれ任意の実数である。
この式を整理すると,
= 2x+3x2
2 + 2C1+ 3C2 (8.49)
となる。ところが, C1, C2は任意の実数なので, 2C1+ 3C2も任意の実数である。従って2C1+ 3C2を改めて Cとおけば,与式は
= 2x+3x2
2 +C (8.50)
8.5 原始関数と不定積分 123 となる。この例では説明のために積分定数のことを念入
りに書いたが,結局最後には積分定数は一つにまとまっ てしまった。従って,いくつかの関数の定数倍や和であ らわされる関数の不定積分は, それぞれの項を, 積分定 数をいったん忘れて不定積分し, 最後に全体でひとつの 積分定数をつけたせばよい。つまり,式(8.46)という問 に対して, 式(8.47), 式(8.48), 式(8.49)を省略してい きなり式(8.50)を答えてよい。(例おわり)
ここで注意: 不定積分の結果は元の関数の原始関数の はずだから,結果を微分したら元の関数に戻るはず。だ から, 不定積分の結果に自信が持てない場合は, その結 果を微分して元の関数に戻るかどうか確かめるとよい (ほとんどの場合, 関数は不定積分するより微分する方 が計算は簡単である)。不定積分に慣れていない人には, 特にそのことを強く勧めておく。
● 問197 以下の不定積分を求めよ。得られた原始関 数を微分し,被積分関数に戻ることを確認せよ。
∫
(1 +x+x2)dx (8.51)
ところで, xa の不定積分に関する公式10は, a=−1 のとき, つまり1/xについては使えない。なぜなら, こ
のときa+ 1 = 0となって「0での割り算」が発生して
しまうからである。ここで, 自然対数の微分, すなわち P.89式(6.30)を思いだそう:
(lnx)′= 1
x (8.52)
これを使えば, 1/xの不定積分は以下のようになりそう な気がする*3:
∫ dx
x = lnx+C (8.53)
ただし, lnxという関数は, 0 < xでしか成立しない。
しかし, 1/xという関数は,x <0でも成立する。では, x <0も含めた1/xの不定積分はどうなるだろう? 答え は, ln(−x) +Cである(この場合, x <0だから, lnの 内側の−xは正である)。実際, これを微分してみると,
*3
∫ 1
xdx を ∫ dx
x と書く。
合成関数の微分より, {ln(−x)}′= (−x)′ 1
−x = 1
x (8.54)
となり,確かに1/xになる。つまり, 0< xのとき,
∫ dx
x = lnx+C (8.55)
x <0のとき,
∫ dx
x = ln(−x) +C (8.56) となる。いずれの場合も, 右辺のlnの内側は正なので, いっそ統一的に|x| と書いてしまおう。要するに, xが 正だろうが負だろうが,次式が成り立つ:
積分の公式12: 1/xの不定積分
∫ dx
x = ln|x|+C (8.57)
よくある質問95 なんで絶対値が出てきたのか,不思議です ... 似たような話が,問142(3)で出てきたの,覚えてますか? よくある間違い43 1/xの不定積分で, lnの中の絶対値記号 を付け忘れる... これは毎年,多くの資源生を泣かせるミスで す(後で「微分方程式」を学ぶときに痛い目に会うのです)。 よくある質問96 1/xの不定積分はx0で1ではないのです か? ... 式(8.42)で,a=−1のときですか? あそこには「a を−1以外の定数とする」と書いてあったでしょ? それに,も しも無理やりa=−1としたら,
∫
x−1dx= 1
−1 + 1x−1+1+C
= 1
0x0+C= 1
0+C (これは間違い) のように, 「0での割り算」が出てきて, うまくいかないの です。
農学や環境科学などの応用分野では,この公式12は, 極めて重要である。というのも, 様々な現象を微分方程 式というツールで記述して解析しようとするとき, この 形の不定積分が, 頻繁にあらわれるからである。詳しく は第10章で学ぼう。
指数関数は, 微分しても指数関数だから, 不定積分も 簡単である:
積分の公式13: 指数関数の不定積分
∫
expx dx= expx+C (8.58)
ところで, 関数 f(x)の原始関数が F(x) であると き, F(ax+b)をx で微分すると(a, bは定数とする), af(ax+b)となる。従って,
f(ax+b)の原始関数は,F(ax+b)/a (8.59) となる。
例8.5 式(8.59)を使うと,
∫
(3x+ 1)4dx= 1
3×5(3x+ 1)4+1+C (8.60)
=(3x+ 1)5
15 +C (8.61)
(例おわり)
注: 式(8.59)は「合成関数の微分」を逆にしたような
公式だが, あくまでf( )の中がax+bという形のとき にしか使えない。
よくある間違い44 以下のような誤りをする人が多い:
∫ dx 1 +x2 = 1
2xln|1 +x2|+C これは間違い! 右辺をxで微分すると決して左辺には一致しない。この積分 は,後に問203で学ぶ。
今まで学んだ公式を組み合わせれば, 以下のような不 定積分ができる。それぞれ,右辺を微分して確認せよ。
例8.6
∫ dx
x−1 = ln|x−1|+C (8.62)
∫ dx
(2x+ 1)2 =− 1
2(2x+ 1)+C (8.63)
∫
exp 2x dx= exp 2x
2 +C (8.64)
(例おわり)
● 問198 以下の不定積分を求めよ。得られた原始関 数を微分し,被積分関数に戻ることを確認せよ。
(1)
∫
(2x+ 1)3dx (2)
∫ dx x+ 1 (3)
∫ dx 1−x
(4)
∫
exp(−x)dx
(5)
∫
exp(x+ 1)dx
よくある間違い45 この問題の(3)を, ln|1−x|+Cと答 えてしまう... これも毎年,多くの資源生を泣かせるミスです。
これを微分すると,−1/(1−x)になってしまう! よくわから ない,という人は,問142(6)を復習しよう。
こんどは三角関数の不定積分を考えよう。P.108 の 式(7.61), 式(7.62)より, (sinx)′ = cosx, (cosx)′ =
−sinxだから,
積分の公式14: 三角関数の不定積分
∫
cosx dx= sinx+C (8.65)
∫
sinx dx=−cosx+C (8.66) となることはすぐわかる。sinxやcosxの累乗や積を 含むような関数は, 倍角公式などを使ってシンプルな形 に変形してから不定積分する。
例8.7
∫
cosxsinx dx=
∫ sin 2x
2 dx=−cos 2x
4 +C
ここで, P.104の式(7.36)を使った。ちなみにこの不定 積分は,後でP.127問202で学ぶように,「置換積分」と いう方法でも可能。 (例おわり)
例8.8
∫
cos2x dx=
∫ 1 + cos 2x
2 dx= x
2 +sin 2x
4 +C
ここで, P.104の式(7.37)を使った。(例おわり)
例8.9
∫
sin2x dx=
∫ 1−cos 2x
2 dx= x
2 −sin 2x
4 +C
ここで, P.104の式(7.38)を使った。(例おわり) 以上のような不定積分は, 勘と慣れがあれば, なんと かできるだろう。しかし, 一般に, どんな関数でもきれ いに不定積分できるわけではない。ちょっと複雑な関数 になると, その不定積分は不可能になるか, できても職 人芸になる。不定積分できるのは, 被積分関数が単純で
8.6 部分分数分解 125