第 8 章 積分 115
8.4 積分の公式
実際に関数を積分するときは,積分の定義式(8.11)に 遡ってやることは少ない。複雑な関数の場合は前節で やったように数値積分を使うし, そうでなければ, 以下 に示すような,いくつかの便利な定理(公式)を活用して ちゃっちゃとやってしまうのだ。
よくある質問94 ん? なんか同じようなセリフをP.70あた りで読んだような... ... 気のせいでしょう!
8.4 積分の公式 119
図8.3 y= cosx(太実線)と,その数値積分(点線), そしてその数値微分(細実線)。xの刻みは0.1。この 刻みを小さくすると, 太実線と細実線はもっと近く なる。
以下, a, b, cは実数の定数, f(x), g(x)を, 任意の(積 分可能な)関数とする*2。また,以後,本章で出てくる変 数や定数は全て実数とする(虚数は考えない)。
積分の公式1: 足し算はバラせる
∫ b
a {f(x) +g(x)}dx=
∫ b a
f(x)dx+
∫ b a
g(x)dx (8.13) 証明:
∫ b
a {f(x) +g(x)}dx≒
n
∑
k=1
{f(xk) +g(xk)}∆xk
=
n
∑
k=1
f(xk)∆xk+
n
∑
k=1
g(xk)∆xk
≒
∫ b a
f(x)dx+
∫ b a
g(x)dx
1行目から2行目にかけてP.41の式(3.86)を使った。
■
注: ここでの”≒”は, ∆xkを無限小に,nを無限大に する極限では等号”=”になる。以下,同様。
よくある間違い37 式(8.13)の左辺を
∫b a
f(x) +g(x)dx
と書く。... カッコを忘れちゃダメです。理由は,上の証明を 見ればわかります。カッコがないと,f(x)には微小量がかか
*2詳しくは説明しないが,世の中には積分できない関数も存在す る。例えば次式のような積分はできない(∞に発散する):
∫1 0
1 xdx
りません(dxがg(x)だけにかかる)。
積分の公式2: 定数倍は前に出せる
∫ b a
cf(x)dx=c
∫ b a
f(x)dx (8.14)
証明:
∫ b a
cf(x)dx≒
n
∑
k=1
cf(xk) ∆xk
=c
n
∑
k=1
f(xk) ∆xk≒c
∫ b a
f(x)dx 1行目から2行目にかけてP.41の式(3.87)を使った。
■
積分の公式3: 積分区間は分割できる
∫ b a
f(x)dx+
∫ c b
f(x)dx=
∫ c a
f(x)dx(8.15)
証明: aからcまでの区間をm個に分割し, 途中, n個 めの分割(n≤mとする)の右端がbになるようにする。
つまりx0=a,xn =b,xm=cである。m, nが十分に 大きければ,積分の定義から,
∫ b a
f(x)dx≒
n
∑
k=1
f(xk)∆xk (8.16)
∫ c b
f(x)dx≒
m
∑
k=n+1
f(xk)∆xk (8.17) である。このとき,右辺どうしを足し合わせると,
n
∑
k=1
f(xk)∆xk+
m
∑
k=n+1
f(xk)∆xk =
m
∑
k=1
f(xk)∆xk
となる。x0=a, xn =b, xm=cを固定したまま,nと mを限りなく大きくして∆xkを限りなく小さくすれば, この式は, 積分の定義から
∫ b a
f(x)dx+
∫ c b
f(x)dx=
∫ c a
f(x)dx
■ さて,積分の定義によると, ∫b
af(x)dxは,a < bが前 提だった(式(8.11)の「ただし」以下を見よ)。これを, a≥bの場合にも拡張しよう。それには, ここまで証明 してきた公式が,a≥bの場合にも成り立つように,つじ つまを合わせればよい。まずはa=bの場合。積分の公
式3で,b=c=aとすれば,
∫ a a
f(x)dx+
∫ a a
f(x)dx=
∫ a a
f(x)dx 右辺を左辺に移項すれば,
∫ a a
f(x)dx= 0
よって,以下のように約束しよう:
積分の公式4: 始点=終点なら積分は0
∫ a a
f(x)dx= 0 (8.18)
次に,a > bの場合。積分の公式3で,c=aとすれば,
∫ b a
f(x)dx+
∫ a b
f(x)dx=
∫ a a
f(x)dx (8.19) ここで積分の公式4より, この右辺は0。従って, 以下 のように約束しよう:
積分の公式5: 積分区間を逆転すると正負も逆転
∫ b a
f(x)dx=−
∫ a b
f(x)dx (8.20)
次に,積分と微分の関係を調べていこう。
積分の公式6: 微小区間の積分は単なる掛け算 f(x)を連続関数とする。hが微小量であれば,つま りa≤x≤a+hの範囲でf(x)がほとんど変化し なければ,
∫ a+h a
f(x)dx≒f(a)h (8.21)
証明: x0=a, xn=a+hとして,積分の定義より,
∫ a+h a
f(x)dx≒
n
∑
k=1
f(xk)∆xk (8.22) とできる。xk をa ≤ xk ≤ a+hの範囲に限定すれ ば,hは微小量であるという前提から,f(xk)≒f(x0) = f(a)。従って,
n
∑
k=1
f(xk)∆xk≒
n
∑
k=1
f(a)∆xk =f(a)
n
∑
k=1
∆xk
ここで, ∆xk は,aからa+hまでの範囲をn個の区間 に刻んだものなので,その総和はhとなる。従って,
f(a)
n
∑
k=1
∆xk =f(a)h (8.23)
従って,与式が成り立つ。 ■
積分の公式7: 積分の微分は元の関数 f(x)を連続関数とし,aを定数とする。
d dx
∫ x a
f(t)dt=f(x) (8.24)
証明: aを任意の定数とし, F(x) :=
∫ x a
f(t)dt (8.25)
とおくと,
F(x+dx) =
∫ x+dx a
f(t)dt (8.26)
となる(dxは無限小)。ここで積分の公式3から,
F(x+dx) =
∫ x a
f(t)dt+
∫ x+dx x
f(t)dt
=F(x) +
∫ x+dx x
f(t)dt (8.27) dxは微小量なので積分の公式6より,
∫ x+dx x
f(t)dt=f(x)dx (8.28)
となる(dxは無限小なので≒が=になった)。従って, 式(8.27)右辺は,
F(x) +
∫ x+dx x
f(t)dt=F(x) +f(x)dx となる。従って,式(8.27)は,
F(x+dx) =F(x) +f(x)dx (8.29) となる。従って,導関数の定義式(5.5)(P.66)より,
d
dxF(x) =f(x)
■ この公式7は,問194で見たことを裏付けるものだ。
8.5 原始関数と不定積分 121