第 9 章 積分の応用 133
12.11 ベクトルの線型変換
12.11 ベクトルの線型変換 183
(3) 原点を中心として, 角π/4だけ左回りに回転。
● 問300 式(12.78)の行列をAとする。以下を求め よ:
(1) detA (2)A−1 (3)A2
演習34 式(12.71)の行列式を考える。
a=
a1
a2
a3
, b=
b1
b2
b3
, c=
c1
c2
c3
とする。
(1)
(a×b)•c (12.79)
は, det(B)に一致することを示せ。
(2) このことを利用して,|det(B)|は,a, b,cが張る平 行六面体(互いに平行な菱型3組からできる立体。
豆腐を斜めにひしゃげたような形)の体積に等しい ことを示せ。
(3) a=bまたはa=cまたはb=cのとき, det(B) = 0であることを示せ(ヒント: 計算しないでも示せ る!)
この性質は, 2次の行列式が「平行四辺形の面積」を表 すことの拡張版だ, ということに気づいただろうか? こ のように, 行列式は, 面積や体積のようなものを表すの だ。このことは, いずれ, 複数の変数による積分(面積 分や体積分)で使う。1変数による積分について学んだ
「置換積分」が,面積分や体積分では,行列式を使って表 されるのである(ヤコビアンという。興味のある人は調 べてみよ)。
演習35 3次正方行列Bについて,
(1) 第1 列と第2 列を入れ替えてできる行列をB′ と する。
detB′=−detB (12.80)
であることを示せ。
(2) 第1列と第3列の入れ替えや,第2列と第3列の入 れ替えでも,行列式は符合が逆転することを示せ。
(3) 同様のことが行についても成り立つことを示せ。す なわち,行列Bの任意の2つの行を入れ替えてでき る行列の行列式は符合が逆転することを示せ。
このような,列の入れ替え(又は行の入れ替え)によっ て符合が逆転する,というのは, 2次や3次だけでなく, もっと大きな行列式にも成り立つ。いわば, 行列式の本 質的な性質(のひとつ)である。このことは, 化学にお いて, 分子内の電子の挙動を表現するときに使われる。
それがなぜなのかは, 今はわからなくてよい。電子は行 列式と相性が良い, ということは頭の片隅に置いておこ う。勉強を続けていれば, そのうち,「ああ,こういうこ とだったのか!」と,わかるときが来るだろう。
問題の解答
答278 (1) 2A=
[ 2 4
−2 2 ]
, A−B=
[−1 2
−2 0 ]
(2) AB=
[4 2
−1 1 ]
, BA= [2 4
0 3 ]
従って,AB̸=BA。 (3) (AB)C=
[ 4 2
−1 1
] [3 1 1 −2
]
=
[14 0
−2 −3 ]
,
A(BC) =
[ 1 2
−1 1
] [6 2 4 −1
]
=
[14 0
−2 −3 ]
従って, (AB)C=A(BC) (4) A(B+C) =
[ 1 2
−1 1
] [5 1 2 −1
]
=
[ 9 −1
−3 −2 ]
,
AB+AC=
[ 4 2
−1 1 ]
+
[ 5 −3
−2 −3 ]
=
[ 9 −1
−3 −2 ]
従って,A(B+C) =AB+AC
答281 detA= 1×1−2×(−1) = 3。detB= 2×1− 0×1 = 2。
答282 detE= 1
答283両者は全く違う。行列は,数を格子状に並べたも の。行列を構成する個々の数を行列の成分という。行列 式は行列の成分に関する,ある種の多項式。
答284aとbで張られる平行四辺形の面積は, det
[21 19
8 9
]
= 21×9−19×8 = 37
この平行四辺形の半分がaとbを2辺とする三角形だ から,この三角形の面積は, 37/2
答285行列Aを A=
[a b c d ]
12.11 ベクトルの線型変換 185 とすると, detA=ad−bc。一方,Aの第1行と第2行
を入れ替えた行列A′は次のようになる, A′=
[c d a b ]
この行列式は, detA′ =cb−da=−(ad−bc)となる。
これは−detAに等しい。
答286
det(AB) = det
[ap+br aq+bs cp+dr cq+ds ]
= (ap+br)(cq+ds)−(aq+bs)(cp+dr)
=acpq+adps+bcqr+bdrs
−(acpq+adqr+bcps+bdrs)
=adps+bcqr−adqr−bcps (detA)(detB) = (ad−bc)(ps−qr)
=adps+bcqr−adqr−bcps 従って, det(AB) = (detA)(detB)
答287式(12.27)の行列をBと置く。
AB= [a b
c d ] 1
detA
[d −b
−c a ]
= 1
detA [a b
c d
] [ d −b
−c a ]
= 1
detA
[ad−bc ab−ab cd−cd ad−bc ]
= 1
detA
[detA 0
0 detA
]
= [1 0
0 1 ]
=E (BA=Eとなることはここでは省略。各自,確かめよ) 従って, 定義より,行列BはAの逆行列である。
答288 A−1=
[1/3 −2/3 1/3 1/3
]
, B−1=
[ 1/2 0
−1/2 1 ]
答289
(1) 式(12.24)より, det(AB) = (detA)(detB)。ここ で, A, B はともに正則行列なので, detA ̸= 0か つdetB ̸= 0である。従って, (detA)(detB)̸= 0。 従って, det(AB)̸= 0。従って,ABは正則行列。
(2) (AB)(B−1A−1) =A(BB−1)A−1=AEA−1
=AA−1 =E。従って, B−1A−1はABの逆行列 である。
答290 AA−1 =Eだから, detAA−1 = detE = 1で
ある。一方, detAA−1 = (detA)(detA−1)。これらの 2つの式を組み合わせると, (detA)(detA−1) = 1。こ の両辺をdetA で割ると, detA−1= 1/detA。 答292 この行列をAとすると, その特性方程式は, 式 (12.53)より,
det(A−λE) = (2−λ)(3−λ)−1×2
=λ2−5λ+ 4 = (λ−1)(λ−4) = 0
となる。これを満たすのは, λ = 1と, λ = 4である。
これが固有値である。では固有ベクトルを求めよう。ま ず,λ= 1のとき,
(A−λE)x= [1 1
2 2 ] [x
y ]
= [0
0 ]
(12.81) となる。これを満たす解は無数にあるが,代表的に,
[x y ]
= [ 1
−1 ]
(12.82) としよう。これが,固有ベクトルのひとつである。
次に,λ= 4のとき, (A−λE)x=
[−2 1 2 −1
] [x y ]
= [0
0 ]
(12.83) となる。これを満たす解も無数にあるが,代表的に,
[x y ]
= [1
2 ]
(12.84) としよう。これも, 固有ベクトルのひとつである。以上 より,行列Aについて,
固有値が1のとき,固有ベクトル [ 1
−1 ]
固有値が4のとき,固有ベクトル [1
2 ]
である*16。
答294 (略解: 本来は固有値と固有ベクトルを求める過
程も書くこと。) [2 1
3 2 ]−1[
−1 2
−6 6 ] [2 1
3 2 ]
= [2 0
0 3 ]
(12.85) または,以下のようにしてもよい:
[1 2 2 3
]−1[
−1 2
−6 6 ] [1 2
2 3 ]
= [3 0
0 2 ]
(12.86)
*16ただし,固有ベクトルはこれらを何倍かしたもの(0倍以外)で もかまわない。
答295
(1) (略解)λを固有値とすると,Aの特性方程式は λ2−1.7λ+ 0.7 = (λ−1)(λ−0.7) = 0 となり, λ= 1,0.7。それぞれに対応する固有ベク トルは,代表的に,
[1 2 ]
, [ 1
−1 ]
である。これを並べた行列をP とすると, P=
[1 1 2 −1
]
(12.87) これによって,
P−1AP = [1 0
0 0.7 ]
(12.88) (2) 略。
(3)
(P−1AP)n= (P−1AP)(P−1AP)· · ·(P−1AP)
=P−1AP P−1AP· · ·P−1AP
=P−1AA· · ·AP
=P−1AnP となる。一方,前小問より,
(P−1AP)n= [1 0
0 0.7 ]n
=
[1 0 0 0.7n
]
(12.89) 従って,
P−1AnP=
[1 0 0 0.7n
]
(12.90) 従って,
An=P
[1 0 0 0.7n
] P−1
=· · ·= 1 3
[1 + 2×0.7n 1−0.7n 2−2×0.7n 2 + 0.7n ]
(4) n= 3とすると,
[b3
f3
]
=A3 [b0
f0
]
=
[0.562 0.219 0.438 0.781
] [80 20 ]
= [49.34
50.66 ]
である。従って,裸地と森林がほぼ同面積(50 km2 程度)になると予想される。
(5) (3)の答えでn→ ∞とすると,Anは [1/3 1/3
2/3 2/3 ]
(12.91) に収束する。従って,
[bn
fn
]
→
[1/3 1/3 2/3 2/3
] [80 20 ]
= [100/3
200/3 ]
≒ [33
67 ]
従って, 裸地33 km2,森林67 km2と予想される。
答296
(1) 0 (2) −1 (3) −2 (4) 略
(5) 13 (6) −13 (7) 略
答297
(1) 同じ点に移動(というか,そもそも,移動させない)。 (2) x軸に関して対称な点に移動。
(3) 原点に関して対称な点に移動。
(4) 直線y=xに関して対称な点に移動。
(5) x方向だけを2倍に拡大。
(6) x軸に下ろした垂線の足に移動。(射影)
答298 (2), (3), (4)は, いずれも, 線または点に関する 対称変換なので, 2回繰り返すともとに戻る。従って,そ れらをあらわす行列を2乗したものは単位行列になる。
答299 (1)
[1 0 0 −1
] (2)
[−1 0 0 −1
] (3)
[ 1
√2 −√12
√1 2
√1 2
]
答300
(1) detA= cos2α+ sin2α= 1 (2)
[ cosα sinα
−sinα cosα ]
(12.92) 注:これは,角(−α)の回転をあらわす行列である。
(3) (計算過程は省略) [cos 2α −sin 2α
sin 2α cos 2α ]
(12.93) 注:これは,角2αの回転をあらわす行列である。
187
第 13 章
論理・集合・記号
ここで学ぶ内容の多くは,ある意味,直感的に「当たり前」
のことである。しかし,当たり前のことが,数学では,注意深 く選ばれ,注意深く定義されていることに注意してほしい。こ れらの「当たり前」のことを土台にして数学が構築され,それ を土台にして,現代科学が構築されているのだ。
13.1 条件と命題
例えば以下のようなものを,条件(condition)と呼ぶ:
• 整数nは4の倍数である。
• 整数nは偶数である。
• ある人は筑波大生である。*1
条件は, 正しいとか正しくないとかの議論, つまり真偽 の議論の対象にはならない。ある人は筑波大生である, と言われても, 「ふーん, それで?」と思うだけだ。とこ ろが, 条件を適当に組み合わせれば, 真偽が問われる発 言になる。それを 命題(proposition)という。
「命題」は,多くの場合, 2つの条件p,qについて,「p ならばqである」という形で表現できる。
例13.1 • 整数nが4の倍数ならばnは偶数である。
という命題は,
条件p: 「整数nは4の倍数である」
条件q: 「整数nは偶数である」
の2つの条件について, 「pならばqである」という形 の主張になっている。ちなみに, この命題は真である。
(例おわり)
命題は,一見すると「pならばqである」という形には なっていないものも多い。そのような場合は, 適宜, 言 葉を補って読み替える必要がある。
例13.2 • 4の倍数は偶数である。
*1ここで言う「ある人」とは,特定の人をさしているのではない。
誰でもいいから筑波大生のひとりを想定するのだ。
という命題は, 一見すると「pならばqである」とい う形にはなっていないが,実は上の例13.1で考えた,
• 整数nが4の倍数ならばnは偶数である。
と同じことである。(例おわり)
例13.3 • 筑波大の学生は優秀である。
という命題は,
• ある人が筑波大の学生ならば,その人は優秀である。
と同じことである。ちなみに, この命題が真か偽かは, 判定が難しい。そもそも「優秀」とは何かという議論や, それ以上に, 君の努力にかかっているのだろう!(例お わり)
さて,数学では,命題の「ならば〜〜である」を二重線 の矢印”=⇒”で表現することになっている。
例13.4 上の例13.1, 例13.3の命題は, それぞれ以下 のように表現される:
• 整数nが4の倍数=⇒nは偶数
• ある人が筑波大の学生=⇒その人は優秀 (例おわり)