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間取り問題の目的( 4 部屋の場合)

第 4 章 進化的多目的最適化 39

4.2 間取り問題の目的( 4 部屋の場合)

建築間取りに対する評価項目は多数ある.それらは具体的には,各部屋の床面 積及び形状,動線等の居住者の利便性,採光などの建築関係法令への適合性,配 管長や壁長等の経済性などである.また,好みなどの主観評価項目もある.本論 文ではEMOで最適化するこれらの定量的な多目的として以下の6目的を定義す る.実験では,これらの中から4目的の最適化と6目的の最適化を行う.また,計 画要件や計画意図によってはこれ以外の目的も当然あり得る.さらに本研究では 今後IECの導入によって定性的評価も7番目の目的として導入する.

集合住宅住戸の間取りの成立には今回設定した目的(その中でも特に最初の4目 的)が一般的に必要と考えられる.類似研究[62]でも同様に設定されている.具 体的な実施計画への応用では個々に必要とされる特別な目的が追加されるであろ う.例えば,構造に関する項目,換気や熱などの環境工学に関する項目,避難な どの安全に関する項目,室内外の景観などの美観に関する項目等の目的が考えら れる.また,ユーザが独自に希望する目的はIECによって最適化へ反映されるこ とも考慮している.

各フィットネス関数への入力値は,生成された間取り図から求める.

目的 1  床面積

住戸全体の床面積を49 m2 とした場合の各部屋の床面積の目標を居間=16m2, 台所=12m2,水廻り=9m2,寝室=12m2とする.次に部屋iの床面積aiと目標床 面積aˆiからこの部屋のフィットネス関数fi1(ai)を図4.1のように定める.要求され る床面積の±10% 以内になるように計画することが一級建築士設計製図試験対策 において求められていること[29, 70]を根拠としている.間取り全体の床面積仕様 に対するフィットネス値をこれら4部屋のフィットネス値の総和 f1 =∑4

i=1fi1(ai) で表す.

図 4.1: 目的1用のフィットネス関数.部屋iの目標面積aˆiを与えた時の床面積ai に対するフィットネス.

目的 2  部屋形状

部屋毎にフィットネス関数と形状重要性の重み係数を用意し,これを総合して目 的2に対するフィットネス値を求める.

第1に,部屋iの短辺長/長辺長比をriとし,この部屋の縦横比に対するフィッ トネス関数fi2(ri)を図4.2のように定める.建築の部屋の平面形状は細長くなると 一つの部屋として使い難くなる.建築計画学や建築士試験の設計課題対策におい てもriは1(1:1)から最悪でも0.5(1:2)の範囲であることが求められている[29, 70]. [62]でもその範囲を基準としている.第2に,部屋形状の矩形の度合いとしてgi2

を(床面積ai)/(部屋iを全て含有する最小の四角形の面積)と定めた.本システム

の生成する部屋の形状は矩形だけではなく,矩形の角のいくつかが欠けたL字形 や凸形などの形状もある.部屋形状は矩形が理想的であり,それ以外の場合は部 屋形状のフィットネス値をその欠け具合に応じて下げるためにgi2を用いる.第3 に,部屋に種類によって形状の重要性が違うため各部屋の形状に対して重み付け wiをする(居間=0.75,台所=0.50,水廻り=0.10,寝室=1.00).

以上より,間取り全体に対する部屋形状のフィットネス値を,f2 = ∑4

i=1(wi× fi2(ri)×gi2)で表す.

図 4.2: 目的2用のフィットネス関数.部屋iの平面形状の縦横比riに対するフィッ トネス.

目的 3  動線(部屋間の隣接関係)

ここでは住戸内に廊下を設置しない場合を想定している.まず,部屋と住戸内 廊下の性格をパブリックな空間とプライベートな空間の二つに分類する.パブリッ クな空間とは通過経路とすることが出来る空間,つまり居間と台所を意味する.一 方,プライベートな空間とは通過経路とできない空間,つまり寝室と水廻りを意 味する.また,部屋間に隙間が出来た場合は,利用者はその隙間を通過経路とし て利用できるものとする.

部屋間の隣接関係,間取りの動線の建築計画的な成立のためには,共同通路か ら住戸にアクセスし各部屋を経由してベランダに出ることができることが必要で ある.次の5つの隣接関係が成立する毎に1点を動線に関するフィットネス値に加 算する.⇔はその左右の部屋または空間の行き来ができる,隣接関係にあること を意味する.

共同通路 ⇔ 居間 or台所

居間 ⇔ 台所

居間 or台所 ⇔ 水廻り

居間 or台所 ⇔ 寝室

居間or 台所 ⇔ ベランダ

目的 4  採光(窓面積)

建築基準法第二十八条により各居室(ただし建築基準法第二条により水廻りは 居室ではない)の床面積の1/7以上の採光(窓)面積を取る必要がある.居間と 台所が接する場合は襖等の可動式間仕切りで仕切る場合を考慮する.採光は共同 通路に接する壁に1m2/m,ベランダに接する壁に2m2/m取ることができるもの とする.フィットネス値は1/7以上取れる場合を1とし,それ以外をその度合いに 応じて0から1とする(図4.3).間取り全体の採光に関するフィットネス値f4を それらの総和で表す.

図 4.3: 目的4用のフィットネス関数.部屋iの床面積aiを与えた時の採光(窓)面 積wiに対するフィットネス.

目的 5  住戸内壁長

計画する4部屋間で隣接するセルの辺数を加算することで住戸内壁長を求め,経 済性の指標とする.EMOでの他の目的と合わせるため,フィットネス値はこの数 値の逆数で定義する.また,この住戸内壁は構造体ではなく,建築の躯体と比べ ると経済的影響はそれ程大きくないため,4目的実験ではこの目的5は含めない.

目的 6  住戸内給排水管長

今回の実験では台所と水廻りの各セル間のユークリッド距離の平均をその長さ とする.EMOでの他の目的と合わせるため,フィットネス値はこの数値の逆数で 定義する.給排水管長に依存するコストは建築の躯体と比べると経済的影響はそ

れ程大きくないため,4目的実験ではこの目的6は含めない.なお,通常はパイプ スペースからの距離も考慮し経済性の指標とする.また配水管は排水勾配が必要 となる.集合住宅においてパイプスペースの位置や範囲が限定されることが多い.

またメーターボックスも必要とされ一般に共同通路側に面する位置に配置される.

目的 7  定性的評価

上記の6つの定量的目的を定め,4目的と6目的の2つの場合について第4.3節 で建築的間取りを最適化する評価実験を行う.計画要件や計画意図によってはこ れ以外の目的も当然あり得る.また第5章ではIECによる定性的評価を7番目の 目的として導入する.