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第 6 章 建築計画支援システム主観評価実験 85

6.3 考察

各目的(フィットネス)値

芸術情報系学生グループの実験2(図6.4(b))の第11世代以降の目的1(床面 積),目的2(部屋形状),目的3(動線)のフィットネス値の上昇が顕著に見られ,

建築設計実務者グループの実験2(図6.5(b))では反対に下降しているのは,芸術 情報系学生が評価においても4目的を強く意識し,一方建築実務者は4目的以外 の事項についても判断基準に取り込んだ結果という推測もできる.

アンケート

アンケートの各項目の回答について考察を行う.

操作は簡単だった(図6.6(上)):システムの操作性については概ね問題な いようである.

評価するのは簡単だった(図6.6(中)):建築計画の経験があるほど間取り の評価を難しく感じている傾向が見られる.多様な評価基準を持つほど評価 は難しくなるだろう.

最終的に又は途中であなたの欲しい間取りができた(図6.6(下)):芸術情 報系学生にはそれほど欲しい間取りが得られたと感じられなかったのは建築 計画の経験の無さによることが原因なのだろうか.

最終的に又は途中で妥当な複数の間取りができた(図6.7(上)):この項目 についても前項同様,芸術情報系学生の評価が悪い.これも建築計画の経験 の無さによることが原因なのだろうか.

最終的に又は途中で思ってもみなかった間取りができた(図6.7(中)):こ の項目は前項,前々項と反対に建築計画経験の無いグループほど「思っても 見なかった間取り」があったと思っている.建築計画経験があれば既に多く の間取りパターンを知っているので当然の結果だとも言える.

刺激になった(図6.7(下)):はっきりとした傾向は見られないが全体的に 見て「どちらでもない」〜「そう思う」と感じているようである.

このシステムに実用の可能性はあると思う(図6.8(上)):3つのグループ共 に概ね「そう思う」と感じている.

2つのシステムの違い(良い間取りが得られたまでの時間,待ち時間,その 他)が感じられましたか?(図6.8(中),(下)):1,2の順序で実験と2,1 の順序で実験共に「ほぼ同じ」〜「システム(実験)Bが少し良い」の傾向 が見られる.システムBは後に行った実験なので被験者はシステム操作か評 価の「慣れ」によって2つのシステムの差を感じた可能性が高い.なお,実 験の開始前には5分程度の操作練習を行っている.

あなたが評価のために注意した事項(評価基準)は何ですか?(複数回答可): 間取り計画に不慣れな被験者のために,どのような観点で評価すべきものな のかも実験の前に説明した.建築系学生と建築実務者のグループへも条件を 同じにするために同じ説明をした.そのためか説明した評価観点を強く意識 した評価となってしまった.

操作性はどうでしたか?自由に記述ください:これについては概ね問題ない との回答を得た.また,評価方法のヒントとなる意見も頂いた.

表示は2D,3Dのどちらをどの程度使用しましたか?:ほとんどが2Dを使用 している.今回の計画の目はが平面プランニングであるから2D表示が基本 であるのは自然である.

全体システムについての問題点・改良点,アドバイスがありましたらお願い します:スケール感を把握するための仕組み,例えば家具などを大きさがわ かるものの表示の希望があった.

質問その他ありましたら自由にご記入ください:指摘のあった通り,実験で 用いたシステムは世代が進むにつれて個体群の中に同じ間取りが多くなる傾 向があった.これは直ぐに解決すべき問題である.

システム全体について

被験者の本システムに対する印象は概ね良好なものであったと言える.ユーザ の建築計画習熟度の違いによって反応の異なる項目もあったが,本システムは幅 広いユーザ層を対象にできる手応えを得た.一方,問題や課題も残っている.例え

ば間取り図にスケール感がないと言った直ぐに解決できるようなものから,間取 りの多様性が生まれにくいと言った多目的最適化の根本的な問題まである.また,

建築間取り図は瞬間的に見た印象だけで判断できるような問題でないため,間取り を5段階で総合的評価することに被験者も疑問を感じているようであった.EMO 部で設定した定量的要素の目的をユーザが再度判断しなくても良いような仕組み が必要である.また5段階評価のGUIではなく,間取りの情報を直接的にユーザ が指定や調整ができるようなインタラクションを導入する発展研究も考えられる.

7 章 考察と今後の課題

空間生成アルゴリズム

提案の空間生成アルゴリズムを今後改良していくための理論的背景として,ボ ロノイ図との類似性の視点から提案アルゴリズムを解釈することが有用であると 思われる.種座標間の距離に応じて,あるいは他から成長して来る生成空間との 隙間距離に応じて成長速度を制御するなど,将来複雑な成長ルールを導入した場 合でも,対応するボロノイ図の距離の観点から考察することで生成される空間形 状が理論的に解析できる可能性がある.

この空間生成アルゴリズムによって作成できる間取り数がまだ正確には判って いない.理論的に検証を行うか実験的にその数をカウントする必要がある.

本研究の計画範囲は矩形のものとしたが,実際の建築計画では不整形な敷地や 住戸形状も当然ありうる.その場合にも適応できるのかどうか今後確かめる必要 がある.

建築計画の進化的多目的最適化

本研究のMOGAでの目的関数フィットネス値の最適化は比較的速いが,解(計 画案)の多様性までは確保できていない.これはパレート・ランキングでの優劣 判断で弱パレート解を劣勢解としているために,ニッチングにおける比較対象の 同ランクの個体数が少ないことに起因している可能性が高い.また,研究ステッ プとして定性的目的に対応するためのIEC導入することを前提に個体数を21とし たが,これは通常のEC手法に比べて少ない個体数であり,この点も解の多様性に 影響している可能性がある.これらの問題についてのパラメータ調整や改良,さ らにMOGA以外のEMOアルゴリズムを使用した場合の検証も行う必要がある.

実用的な間取りとして6部屋+住戸内廊下の配置計画も問題なく最適化が行わ れた.住戸内廊下は空間生成部で他の6部屋と同様の成長アルゴリズムとルール によって生成され,最適化部では面積や形状の設定値が異なるもののそれ以外は 同じ方法での最適化を行っている.目標面積や形状に関する目的の変数に違いは あるものの,その他は部屋と条件の違いは無い.にもかかわらず廊下としての形 状や機能が十分に形成されている.住戸内廊下はその住戸内廊下の一端が共同廊 下からのアプローチ,つまり玄関と成って,それが台所や居間へと繋がっている,

あるいは部屋同士を間接的に繋ぐ役目も担っていることもある.また,4部屋の場 合と比べて6部屋と住戸内廊下の場合の方が6目的の最適化に進展が見られるが,

部屋数が増えたことや住戸内廊下を設置することによって間取り(個体)間の差 が大きく現れることが要因であると考えられる.

4部屋の配置計画,6目的の場合での本システムは最適化が行われなかった.こ れを解決するための多数目的問題の研究に取り組む必要がある.

本研究はパレート・アプローチによる多目的最適化を行っているが,この手法 が重み付けによる単目的最適化と単純に優劣の判断は出来ない.単目的化する場 合の「重み」が最適化の前に決定しているのならば,単目的化による最適化は有 効であるが,多くの場合「重み」は未確定であろう.研究の発展として,支援シ ステムの使用中にIECによって「重み」を決定する仕組みは発展研究として十分 考えられる.

建築計画の対話型進化的多目的最適化

4目的のみの最適化では試行毎に収束する間取りが大きく違うので,種の初期値 が重要であると考えられる.人間評価を組み合わせる大きな目的は「好み」を間 取りに反映させることで,設定している4目的では直接的に決定できない「部屋 の位置」がここでは好みにあたると考えられる.更に人間評価の回数を5回以下 にできる可能性もあり,最初に大まかな部屋の位置を手動で指定することも考え られる.今後もIEC手法のEMOへの組み込み組み合わせについて研究を続ける 必要がある.少ないユーザ評価回数によって多目的空間での進化の方向性を決定 できるような手法の導入も考えられる.

本研究が将来的に多数目的の解決策としての対話型EMOの研究に繋がる可能 性もある.EMOにおける目的数が多くなり過ぎると進化が止まる,あるいは遅れ ることが指摘されており,その解決の方法として,関係性の強い目的同士をまと める,あるいは重要性の低い目的をランキングに算入させないなどが考えられて いる.IECの評価値による目的の扱い方の研究は今後のテーマとなるであろう.

建築計画支援システム

建築間取り図は瞬間的に見た印象だけで判断できるような問題でないため,間取 りを5段階で総合的評価することに被験者も疑問を感じているようであった.EMO 部で設定した定量的要素の目的をユーザが再度判断しなくても良いような仕組み