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空間生成アルゴリズムの実験

第 3 章 空間生成アルゴリズム 24

3.2 空間生成アルゴリズムの実験

各部屋の種座標をランダムに生成し,提案アルゴリズムと成長ルールで部屋を 成長させて得られた間取りの特性を観察する[22].これは図1.3の空間配置案生成 部(上部)出力であり,まだ最適化部処理は行われていない.提案のアルゴリズ ムと成長ルールが間取りを生成できるかを確認することがここでの目的である.

観察によると,生成される部屋の形状は基本的に長方形や正方形であり,さら にL字形,凸形,十字形などの四角形の角の一部が欠けた形状の部屋も作成でき る(図3.5).

図 3.5: 生成された様々な形の部屋の例(最適化前).

間取りにはそれほど大きな隙間を作ることがない.隙間ができる場合でも,幅 1m程度に留まっている(図3.6).止まってしまった成長方向には再度成長しない という成長ルールによってこの隙間は生じている.

隙間の生じる頻度は少なくサイズも小さいので,建築計画支援システムには問 題のないレベルである.さらに必要であれば成長過程終了後に隙間を埋めるプロ セスを導入することも可能であろう.

図 3.6: 部屋間に生じた隙間の例.

部屋座標(種)の重なりがある場合,間取りにおいて現れない部屋が生じる(図 3.7).必要な部屋数を確保するためには,部屋の成長開始点(種)座標の生成時 にシステムは部屋座標の重なりの有無を確認する必要がある.部屋形状がL字形 の場合,建築計画的に見て細く長くなりすぎることがある(図3.1の右下).これ を回避するためには,あるステップで成長を止める必要がある.

図 3.7: 種座標が同じ(重なる)場合は必要な部屋数nが生成されない.この例で は水廻り(W)と台所(K)が重なっているため,台所が間取りには現れていない.

本空間生成アルゴリズムと成長ルールでは,長方形の単純な組み合わせの間取 り,他の部屋で囲まれた島状態で計画範囲の端の障害物に接していない部屋を持 つ間取り,L字形の部屋を持つ間取りも生成できる(図3.8).しかし 「」 のよ うなL字形の向かい合った組み合わせは生成できない[22].

図 3.8: 正方形や長方形の部屋で構成される間取りの例(左と中央)と計画範囲の 境界に接しない島状の部屋がある間取りの例(右).

空間配置案生成部には,間取り案を制御する3つの要因,つまり部屋種座標の初 期値,成長順序及び成長速度がある.部屋種座標の初期値は,部屋の配置と位置 決定において支配的な要因である.また部屋の種の位置関係が部屋の大きさを決 定している(図3.9).どの部屋から成長させるかの成長順序も生成間取り案に影 響を及ぼす.今回の間取りの基本設定で,間取りの最小単位であるセルは1m単位 の離散データである.そのため種の間のセル数が奇数である場合は,当然このシ ステムはその中央(セルの中)に境界線を引くことが出できない.この場合どち らか一方の部屋がそのセルを埋めることになる.そこで複数の部屋の間には優先 順位が必要となる.優先順位つまり成長ステップの順序が,競合する位置にある セルがどちらの部屋になるかを決定する要因となっている(図3.10).なお,セル の最小単位をもっと細かいものにすれば,近似的ではあるが,各部屋の成長プロ セス順序をなくし同時とすることもできる.成長速度は,主に部屋の形状に影響 を与える.矩形だけでなくL字形や凸形などの部屋生成を可能にし,また制限す ることもできる.成長プロセスにおいて,次の成長方向に障害物や他の部屋があ る場合,実験で用いた成長ルールは,それ以降のその方向への成長を止める.こ の部屋形状への制約は,隙間が生じる要因にもなっている.成長ルールの例外処 理や時間的な変更によって隙間を回避できることもある.

図 3.9: 部屋の種座標のわずかな違いが異なる間取りをもたらす.左図の種2が右 方向に一つ移動することにより,右図では2と4の部屋の大きさが変わり,隙間が 無くなっている.

図 3.10: 間取り生成における成長順序が異なれば異なる間取りを生成する.図中

の数字は成長順序を表す.左図における種3と4の順序を右図では逆にすること で,部屋3と4の大きさが変化し隙間が無くなっている.

このアルゴリズムを用いた間取り生成では,個体の持つべきデータは種座標だ けであり(第3.1.4節),部屋の寸法や向きに関する情報は不要である.そのため,

第4章のEC手法による最適化時には,染色体の情報量を比較的少なくすることが できる.

各セルの部屋割当ての組合せ数,つまり間取り総数について,次の3種類の方 法で検討を行う.

1. 7×7=49のセルをそれぞれ独立にランダムに4種類の部屋に割り当てる場合 の,組合せ数は449(;3.17×1029)通りになる.

2. 7×7=49のセルを一つの空間として二等分して行きそれを3回繰り返し4つ の部屋を作る(正方形と長方形のみ)場合,文献[38]では,その間取り総数

は49,344通りである.これは同じ条件である7×7=49のセルの場合で,分割

パターンと線引きの選択数より次の通り算出した.(6C3×2 + (6C2×6C1)× 18 + (6C1×6C1×6C1)×2(6C1×6C1))×4! =49,344.

3. 7×7=49のセルの中に4種類の種の取り得る組み合わせ数は49P4 = 49×48× 47×46 = 5,085,024通りである.これにさらに成長させる部屋の順序を考慮 すると,4部屋の場合は4!=24通り乗算され,122,040,576通りとなる.ただ し,本提案アルゴリズムでは種座標の組合せが異なる場合でも同じ間取りに なることがある(図3.11)ため,生成され得る間取りの総数は122,040,576通 りよりも少ない.実際のパターン数は計算か実験により確かめる必要がある.

図 3.11: これら左右2つの間取り図の種座標は異なるが,種間のバランスが同じ

であるため,同じ間取りが生成されている.

以上の間取り総数を表3.1にまとめる.

表 3.1: 間取り総数

独立セル・ランダム 449通り 二分割手法[38] 49,344通り 本提案手法 122,040,576通り未満

提案アルゴリズムと成長ルールは計画する空間配置問題に必要な部分空間の形 状を作成することができ,さらに最適化を行う探索空間を有効に限定することが できるため空間配置案生成にとって有用である.