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第2章 北朝鮮の外資政策と外資系企業の現状

④ 開城工業地区

(2)新設の経済開発区(19 カ所)と新義州国際経済地帯の現状

金正恩第1書記は2013年3月31日の党中央委総会にて経済開発区の設置を言及し、

その後の5月29日の最高人民会議常任理事会の政令で「経済開発区法」が制定された。

同法は経済開発区を、国家が定めた法律に従い経済活動で恩恵を受けられる特殊経済地 帯と定め、外資を導入し、インフラ、先端科学技術、国際市場で競争力のある製品の生 産などを奨励すると規定した。経済開発区は工業開発区、農業開発区、観光開発区、輸 出加工区、先端技術開発区などに分類されている。この法律に基づいて、北朝鮮政府は 2015年までに全国19か所に「経済開発区」を設置し、また新義州に国際経済地帯(経 済特区)を設置した。その内容は以下の通りである。

図表 32 経済開発区(19 カ所)と新義州国際経済地帯の現状 名 称 区分 場 所 面積

㎢ 内 容 投資規模

(100 万㌦)

① 鴨緑江 経済開発区

地方級 平安北道義州郡 龍雲里

6.6 観光、農業、休養、

貿易

240

② 渭原 工業開発区

地方級 慈江道渭原郡 徳岩里、古城里

3 鉱物加工、木材加工、農 業加工、機械

150

③ 満浦 経済開発区

地方級 慈江道満浦市 美他里、浦上里

3 観光、農業、休養、

貿易

120

④ 恵山 経済開発区

地方級 両江道恵山市 新長里

2 輸出加工、観光、農業、

休養、貿易

100

⑤ 穏城島 観光開発区

地方級 咸鏡北道穏城郡 穏城邑

1.7 休養、観光(ゴルフ、水 泳、民俗村)

90

⑥ 清津 経済開発区

地方級 咸鏡北道清津市 松坪区域月浦里

2 鉱山機械、石炭化学 n.a

⑦ 漁郎 農業開発区

地方級 咸鏡北道漁郎郡 龍田里

4 農業開発 70

⑧ 北青 農業開発区

地方級 咸鏡南道北青郡 文洞里、富洞里

3 総合果物加工、牧畜 100

⑨ 興南 工業開発区

地方級 咸鏡南道咸興市 海岸区域

2 機械装備、化学品 100

⑩ 南浦臥牛島 輸出加工区

地方級 南浦市臥牛島区 域

1.5 輸出加工 100

名 称 区分 場 所 面積

㎢ 内 容 投資規模

(100 万㌦)

⑪ 松林 輸出加工区

地方級 黄海北道松林市 西松里

2 輸出加工、倉庫 80

⑫ 新坪 観光開発区

地方級 黄海北道新坪郡 平和里

8.1 観光 140

⑬ 峴洞 工業開発区

地方級 江原道元山市 峴洞里

2 情報産業、軽工業、民芸 品

100

⑭ 恩情先端 技術開発区

中央級 平壌市恩情区域 衛星洞

2 尖端技術研究開発、 n.a

⑮ 進島 輸出加工区

中央級 南浦市臥牛島区 域進島洞

1.37 軽工業、化学製品 n.a

⑯ 康翎国際緑 色モデル区

中央級 黄海南道康翎郡 康翎邑

3.5 緑色産業(農業) n.a

⑰ 粛川 農業開発区

地方級 平安南道清南区 龍北里

3 観光、農業、休養、

貿易

n.a

⑱ 清南 工業開発区

地方級 平安南道清南区 龍北里

2 鉱山機械、石炭化学 n.a

⑲ 青水 観光開発区

地方級 平安北道朔州郡 清城労働者区

1.4 観光 n.a

⑳ 新義州国際 観光地帯

中央級 平安北道新義州 市

40 総合経済開発区 先端技術、貿易、観光

n.a

出所:『朝鮮新報』2014 年 7 月 31 日

また、上記の図表には含まれていないが、2015年4月22日に最高人民会議常任委員 会が中朝国境の長白山(朝鮮名:白頭山)の茂峰地区(中朝間の唯一の陸路税関)に国 際観光特区を設置することを決定した(朝鮮中央通信 4 月 23 日報道)。中国の報道に よると、第1段階の 20km2の開発・運営は香港星潤投資有限会社が担当する(延辺日 報2015年7月15日報道)。

新義州国際経済地帯は、元々は2002年9月制定の「新義州特別行政区基本法」によ り設置された総面積132km2の新義州特別行政区が始まりであった。当時は香港の制度 と同じく特別行政区が立法権、行政権、司法権を50年間変更なしで持ち、北朝鮮政府 は外交・国防以外には関与しないという大胆な開放措置であった。しかし、最初の行政 長官(オランダ国籍の華僑である楊斌氏)が中国での非合法的経営のため中国政府に逮 捕され、新義州特区の開発は頓挫した。その後紆余曲折の末、2013年11月に新義州特 殊経済地帯として復活し、2014年7月に現在の名前に改称された。2015年10月に「新 義州国際経済地帯開発総計画図」が公開されたが、これを報道した韓国の中央日報によ ると、北朝鮮の対外経済省と中国遼寧省政府が新義州国際経済地帯の開発を本格化する ことに合意し、インフラ投資1,000億ドルを含み合計4,000億ドルの投資を行い、今後 5年でインフラ整備を終え、10年以内に特区を完成するという82。発表された計画図で は2002年の計画時にあったカジノなどの娯楽施設の建設がなくなり、その代わりに物 流、産業、電力などの施設が建設されることになっている。これは中国政府の要求を反 映した計画であると考えられる。

以上のように、経済開発区と新義州国際経済地帯は建設の計画が発表され間もない段 階である。また北朝鮮の経済開放政策に対する国際社会の懸念も払拭できず、外国企業 の投資はまだ報告されていない状況である。

82 中央日報20151026日付

図表 33 新義州国際経済地帯開発総計画図

出所:新義州地区開発総会社

(3)開発が進む特区の現状:「元山―金剛山国際観光地帯」

韓国との観光協力事業地域であった「金剛山観光地区」は2008年以降観光中断とな り、北朝鮮は2011年に「金剛山国際観光特区」として金剛山を外国人観光に開放する 政策転換をおこなった。その後2013年3月31日の党中央委総会で金正恩第1書記は元 山市を観光地区として開発するよう指示があり、2014年6月に最高人民会議常任委員 会の政令で元山から金剛山にわたる地域を「国際観光地帯」に指定した。この「元山―

金剛山国際観光地帯」は元山地区-馬息嶺スキー場地区-通川地区-金剛山地区を含む 大規模な観光ベルトとなっている。

外資誘致のため、対外経済省の主催した2014年9月に大連、2015年3月に瀋陽、

そして5月に元山・金剛山で連続の投資説明会が開かれた。 5月の投資説明会が元山・

金剛山で開催されることもあり海外から世界海外韓人貿易協会大連支会代表団、中国の 遼寧北四達集団有限公司代表団、遼寧省湖北商会代表団、遼寧東北亜経済文化促進会代 表団、香港グローバル実業投資集団有限公司代表団などが参加した。投資説明会で発表 された投資環境と計画・推進状況をまとめると以下の通りである。

図表 34 元山―金剛山国際観光地帯の計画

地 区 計 画

元山地区

(元山市)

o 約 7,400ha

o 都市中核部・住宅区・産業地区・緑地・観光施設の建設、宿泊施設の 現代化

o 観光施設を海岸沿いの都市部に集中配置。松涛園海水浴場にレジャ ー施設を増設

o 沿岸部の企業所を統合・整理して観光地関連産業を主とした産業地 区を建設

馬息嶺スキー場地区

(法洞郡)

o 約 2,200ha

o 既存のレジャー施設に加え、宿泊・スポーツ・飲食施設を拡充 ウルリム瀑布地区

(川内郡、文川市)

o 約 1,000ha

o 既存のレジャー施設に加え、宿泊・スポーツ・飲食施設を拡充 釈王寺地区

(高山郡)

o 約 1,500ha

o 登山路の開拓、既存の宿泊施設や観光スポットの現代化 通川地区

(通川郡)

o 約 9,000ha

o 健康・治療施設、ホテル、療養施設の改築・新設 o 海水浴場、旅客埠頭などのレジャー施設建設 金剛山地区

(高城郡、金剛郡)

o 約 22,500ha

o ホテルなど観光施設の拡充。自然公園などのレジャー施設を増設 出所:対外経済省主催投資説明会資料より

図表 35 元山―金剛山国際観光地帯のインフラ計画と税制優遇措置

区 分 内 容

港湾 o 元山港を改修・拡張するほか、日本海沿岸の複数の地区に中小規模

の旅客埠頭を建設。

鉄道 o 元山―金剛山間の既存の鉄道を改修して貨物輸送に利用。

o 元山―金剛山観光道路と並行して新たな高速観光鉄道を建設。

道路 o 元山―金剛山間の既存の観光道路を改修するほか、新たな元山―

金剛山道路路線を新設。

o 元山市中心部の道路を拡張。各地区に環状道路網を形成。

電力 o 出力数万 kVA の変電施設を新設。

o 水力発電能力を拡大し自然エネルギーを活用して発電能力を数十万 kW 増加。

空港 o 葛麻飛行場を改造し軍民兼用(元山国際空港)

(走路 3,500m、12 台の飛行機を係留、年間 120 万人処理能力)

‐香港の PLT 設計建築会社が 2 億ドルを投資し建設 環境施設 o 元山市に大規模な固体廃棄物処理場を建設。

o 汚水処理場を現代化して都市の汚水処理システムを改善し、海水汚 染を完全に防止。

税制優遇 o 特区における奨励部門に投資する企業には、敷地となる土地の選択 で優先権を与え、一定期間について土地使用料を免除。

o 10 年以上操業する企業については企業所得税を減免。

o 利潤を再投資する場合は再投資分に相当する企業所得税を減免。

o 特区における企業所得税率は 14%(奨励部門については 10%)。

o インフラ部門に投資する開発企業には、観光・ホテル業などの有利な 対象の経営権 取得で優先権を与え、開発企業の財産やインフラ施設 運営には税を賦課せず。

o 特区では特恵的な関税制度を実施し、投資家の建設用物資・加工輸 出用物資、生活用品、企業の生産・経営に必要な物資、企業が生産し た輸出品については関税を賦課せず。

出所:対外経済省主催投資説明会資料より