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銀行保有有価証券の公正価値情報の有用性に関する      先行研究のレビュー

ドキュメント内 nagano 2005 keiei (ページ 110-121)

1.はじめに

 会計情報の有用性を高めるために会計制度が変更されていると考えられる。前章では,

会計情報の有用性が時系列でみた場合に,どのように変化してきたのかを扱った先行研究 を取り上げた。本章では,会計情報の有用性を高めると考えられる有価証券の公正価値情 報の有用性に焦点をあてた先行研究を取り上げることにする。

 DCFモデルを用いて企業価値を評価しようとするならば,取得時点の情報である取得原 価情報よりも,公正価値情報のほうが有用だと考えることができる。企業が将来に生み出 すであろう期待将来キャッシュフローを一定の率で割り引くことにより企業価値を算出す るこの企業評価モデルは,市場価格や見積将来キャッシュフローの割引現在価値であると される公正価値と結びつきやすいと考えられるからである。両者のこのような関係につい ては第4章において明らかにした。しかしながら,理論的に有用だと考えられるだけでは,

会計情報のなかでも認識情報として新たに取り入れられるには不充分である。会計制度に おいては,理論的に有用だと考えられる情報をまず開示清報として提供する。そして,開 示情報として提供された情報の有用性が実証されることによって,認識情報に組み込まれ るようになると考えられるからである。

 そこで有価証券に代表される金融商品に関する会計基準をみてみると,金融商品をはじ めとした資産や負債を貸借対照表上で公正価値により評価する基準が公表されている。ア メリカではSFAS第115号『負債証券および持分証券への投資の会計処理』(Accounting for Certain lnvestments in Debt and EqUity Securities)により,国際会計基準では第39号

『金融商晶:認識および測定』(Financial lnstruments:Recognition and Measurement)

によりそれぞれ規定されているのである。また,わが国においても1999年1月に『金融 商品に係る会計基準』が公表されている。このように会計情報のなかでも有価証券の公正 価値情報が認識情報として提供されるようになった背景には,有価証券の公正価値情報の 有用性が実証的に明らかにされたからだと考えられる。そこで本章では,公正価値情報の なかでも,有価証券のそれ1に焦点をあてて行われたアメリカとわが国における実証研究 をあとづけ,本研究におけるリサーチデザインへの示唆を得ることにする。

 まず,第2節において有価証券の公正価値晴報の有用性を貸借対照表の面から検証した 基本となる研究を取り上げることにする。つづく第3節では,さまざまな会計データを加 えたうえで行われた研究を取り上げることにする。会計データを増やすのは,前節で概観

した研究が抱えるモデルの問題を解決するためである。第4節では,第3節と同じように 第2節の問題点を回避すべく行われた研究をみていくが,その方法は会計データの拡充で はなく,市場関連の変数を加えることにより行った研究を取り上げることにする。そして 最後に,本章で取り上げた研究を要約し,有価証券の公正価値情報に関する研究において いかなる課題があるのかを明らかにし,本研究の検証にさいして用いるモデルのべ一スを 確認することにする。

 なお,「公正価値」という表現は,アメリカでは用いられているものの,わが国ではむ しろ「時価」という表現が使われている。「公正価値」は必ずしも市場を介在しないという 点で,市揚価値を表す「時価」とは異なる。しかしながら,有価証券のように期待将来キ ャッシュフローの割引現在価値が市揚価値となる場合には,その測定誤差はきわめて小さ いと考えられる。そこで,本研究ではアメリカの先行研究においては「公正価値」という 用語を用いるが,わが国の研究においては原文の表現を重視することにする。また,貸借 対照表の情報提供能力に重きを置く公正価値会計の枠組みで公正価値情報を捉えた場合に

は,評価差額にたいしては実現・未実現という用語ではなく,本章では単に「評価差額」

と表現することにする。ただし,日本語文献においてはこの限りではない。

2.基本となるモデルによる研究

 公正価値情報は,期待将来キャッシュフローの割引現在価値を軸として,理論的には投 資家の意思決定に有用だと考えられてきたが,公正価値の測定にさいして誤差があると考 えられることから,その有用性はなかなか実証されてこなかった。そのようななかで,測

定誤差が比較的小さいと考えられる有価証券に焦点をあてて調査した研究が1990年代に 入り活発に行われるようになった。そこで本節では,基本となるモデルによる研究をみて

いく。

 投資有価証券の公正価値情報の有用性を貸借対照表をもとにした評価モデルから検証 した先駆的な研究として,Barth(1994)の研究をあげることができる。また, Barth(1994)

では,貸借対照表による評価モデルのほかに,利益資本化モデル(earnings capitalization model)によっても有価証券の公正価値情報の有用性を検証している。そこで,本節では Barth(1994)の研究から取り上げることにする。次に, Barth(1994)の研究と同じよ

うに貸借対照表をもとにした評価モデルをわが国のデータにたいして用いた桜井・桜井

(1998)の研究を取り上げることにする。そして,最後に公表年は前後するものの,Barth

(1994)が用いた利益資本化モデルに近いモデルを用いてわが国のデータを扱った桜井・

呉(1995)の研究をみていくことにする。

2.1 Barth(1994)による研究

 Barth(1994)の研究は,投資有価証券の公正価値情報の有用性を確かめるために,貸 借対照表をもとにしたモデルを用いた先駆的な研究としてあげることができる。Barth

(1994)の研究では,投資有価証券の公正価値情報の有用性とその評価差額の有用性を異 なるモデルにより検証している。両情報は同じく有価証券の公正価値情報でありながらも,

その測定誤差が投資家の意思決定にさいして異なる影響をおよぼす可能性があるからであ る。前者の有用性を検証するためには貸借対照表をもとにしたモデルが用いられており,

後者のものには利益資本化モデルが使用されているのである[Barth(1994), p.6]。こ の点にBarth(1994)の大きな特徴があるといえよう2。そこではじめに公正価値評価額 の有用性を検証した分析を取り上げ,そのあとにその評価差額の有用性を取り上げたもの をみていくことにする。

 Barth(1994)は投資有価証券の公正価値情報を,その簿価情報とは別に開示する必要 があるのか否かを確かめるために,その簿価情報と公正価値情報をともに独立変数として モデルに加え,分析している。つまり,簿価情報を所与としてもなお,公正価値情報には 株主持分の時価にたいする増分説明力があるのかを検証しているのである。彼女が用いた モデルは以下のようである[Barth(1994), p, 6]。

ル砺,,=α。,+α1,BVE 、、,+α、,BINV ,,+β、,FINV,、+ん,(1)

このモデル式において,MVEとは株主持分の市場価値を表している。 BVEBとは投資有価 証券控除後の純資産額を,BINVならびにFINVはそれぞれ投資有価証券の簿価情報と公 正価値情報を意味している。各変数についている添え字のiは各銀行を,tは各年度を表し ている。これらの各変数は不均一分散性の影響を緩和するために,株式分割等調整後の発 行済み普通株式数により除されている。(1)式において,FINVの係数が有意に0と異な

るならば,投資有価証券の公正価値清報はその簿価情報よりも増分情報内容があること示 している[Barth(1994), p.7]。なお, Barth(1994)の分析対象は,1971年から1990 年までCompustatのデータベースから入手できる銀行である。

 Barth(1994)では,(1)式を用いて,各年データにたいしてクロスセクション回帰分 析を,全データをまとめたものにたいしてパネル分析が行われている。その分析結果

[Barth(1994), p.11, table 2]は次のようであった。まず,クロスセクション分析の 結果であるが,BVEBは20年間すべての年度において係数の有意性を確保できたものの,

BINVにっいては20年中10年のデータにおいて,またFINVにおいては20年中16年

のデータにおいてその有意性が確かめられた。また,パネル分析の固定効果モデルによっ て係数を推定したところ,FINVの係数については,その値が0ではないという仮説を棄 却できたものの,BINVについてはこれを棄却することができなかった。このことから,

銀行の株価にたいしては,投資有価証券の公正価値情報はその簿価情報よりも増分説明力 があるということを示しており,銀行が保有する投資有価証券の公正価値情報は投資家に とって目的適合的かつ信頼できるとBarth(1994)では述べている[Barth(1994), p.12]

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 Barth(1994)では,この分析のほかに投資有価証券の公正価値評価差額の有用性に関 する分析も行っている。彼女が用いたモデルは,株式リターンを,投資有価証券売却損益 前の当期純利益と有価証券の実現損益およびその評価差額に回帰させる次のモデルである

[Barth(1994), p.7]。

R,=β。t+β1,AE。,,+β、,RSGL,+β、,.FSGL,+μ,,(・)

Rとは年次株式収益率を示し,EBは有価証券実現損益前の当期純利益を,∠EBとは1期 前からのEBの変化額を表している。 RSGLは有価証券の実現損益であり, FSGLは有価

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