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調査対象データの特性

ドキュメント内 nagano 2005 keiei (ページ 167-200)

1.はじめに

 本章では,前章で取り上げたモデルと検証方法を用いて実証分析を行うにあたり,調査 対象となるデータの特性を明らかにする。本研究の調査対象としては,第6章で取り上げ た有価証券の公正価値情報の有用性を検証した研究と同じように,銀行業を選択すること にする。銀行業は,他の業種に比べて有価証券の保有割合が高い。そのため,有価証券の 公正価値情報に関する会計制度の変更による影響や,開示情報や認識情報として報告され ていたときの有用性の相違を他の業種より明瞭に観察することができると思われるのであ

る。

 調査対象期間については,第4章で明らかにしたように有価証券の公正価値情報が一般 に入手することができるようになった1991年3月期から2003年3月期までとする。し かしながら,1991年3月期から1999年3月期までは主要な財務諸表が個別財務諸表であ ったために,連結べ一スでの有価証券の公正価値情報を入手することができない。したが って,個別データの調査対象は1991年3月期から2003年3月期までとなるが,連結デ ータは2000年3月期から2003年3月期までの期間を調査対象とすることにする。

 本章では,まず第2節において調査対象となる銀行ならびに調査対象期間における銀行 業特有の制度変更について説明することにする。分析にさきがけ注意すべきことや実証研 究の結果について考察するさいにふまえるべき事項を確認するのである。第3節と第4節 では,前章で明らかにした使用モデルにおいて用いられる変数の記述統計量を示すことに する。このことより,どのようなデータを調査対象としているのかを個別データのそれと 連結データのそれについて個々に確かめるのである。そして,第5節では本章の要約を行 い,個別データと連結データの特性において注意すべき点を確認することにする。

2.調査対象ならびに調査期間

 有価証券に関する会計制度の変更が有価証券の公正価値情報にあたえた影響を観察す るには,有価証券の公正価値情報がはじめて公表されるようになった1991年3月期から 2003年3月期までの13年間にたいして同じデータを一貫して入手できなくてはならない。

したがって,本研究において調査対象とする有価証券の保有割合の高い銀行業に属する企 業のうち,1991年3月期から2003年3H期まで一貫して東京証券取引所市場第一一部に上 場している銀行50行を調査対象とすることにする。なお,銀行業においては,近年,合 併や持ち株会社の設立などにより企業形態に変更のあった銀行が多く存在している。本研 究では,そのような変更の影響を可能な限り除くために,企業形態に変更がなくかっデー タを入手できる銀行を調査対象として選択している。

 しかしながら,1991年3月期から2003年3月期において個別データを対象として分析 するさいには,有価証券の公正価値情報は他の制度変更との関係から入手できないデータ が存在する。2000年3月期の個別ベースで開示される注記情報としての有価証券の公正 価値情報である。

 補足情報や注記情報として開示されていた有価証券の公正価値情報は,主要財務諸表に 付される情報である。2000年3月期以降は,主要財務諸表が個別財務諸表から連結財務 諸表へと変更になった。これにともない有価証券の公正価値情報に関しても2000年3月 期以降は連結ベースでの開示となったのである。そのため,2000年3E期における個別 べ一スの有価証券の公正価値晴報は入手できない。個別データを入手できない2000年3 月期の公正価値データは個別データの調査対象から除くことにする。

 また,有価証券の公正価値1青報が本体計上されるまでの2000年3月期以前については 個別ベースのデータのみ入手することが可能である。したがって,1991年3月期から2003 年3月期までを調査対象とする場合には,この間に一貫してデータを入手可能な銀行50 行の個別データを分析することになる。

 これらのデータを,有価証券公正価値情報の制度変更によって分類すると,補足期間で ある1991年3月期から1996年3月期までの6年間においては300個のデータが対象と なる。また,注記情報として開示されていた1997年3月期から1999年3.月期までの注 記期間におけるデータは150個である。そして,本体情報として報告されていた2001年

3月期から2003年3A期までの本体期間におけるデータは150個である。あわせると12 年間分のデータ600個となる。

 ただし,補足期間において対象とするデータの数が他の期間に比べて2倍になっている。

そこで本研究では,より詳細に補足期間における有用性の変化を観察するために,これを 二分することにする。有価証券の公正価値情報が補足情報としてはじめた開示された1991 年3月期から1993年3月期までのデータを補足上期とし,1994年3H期から1996年3 月期までのデータを補足下期とする。そして,補足上期から本体期間にかけての4期間に わたり,有価証券公正価値情報の有用性がどのように変化してきたのかを検証することに

する。

 しかしながら,調査期間においては有価証券に関する制度変更以外にも,銀行業特有の 制度変更が行われている。銀行業特有の制度変更とは,1996年6月に成立した『金融機 関等の経営の健全性確保のための関係法律の整備に関する法律』(以下では『健全性確保の ための法律』という)である。この法律にともない,銀行法第17条の2ならびに証券取 引法の第56条の2などがそれぞれ改正され,注記期間においては有価証券の公正価値1青 報に関する会計制度のほかに,銀行業特有の制度変更の影響が含まれていると考えられる のである。

 『健全性確保のための法律』は,すべての銀行に適用されるのではなく,内部管理体制 が整備されていると認められる銀行にたいしてのみ適用されるものである。一部の銀行が トレーディング目的で保有する有価証券などを,他の取引で保有するものと区別するため に「特定取引勘定」という勘定を別個に設置し,銀行が証券業売買目的で保有している有 価証券にたいして貸借対照表上で時価評価し,その評価損益を損益計算書に計上すること

を求めているのである1。この法律による措置は1997年4月1日以降始まる事業年度から の適用であり,1998年3E期決算データから一部の銀行に特定取引勘定が設置されるよ

うになった。

 注記期間を含めた分析を行う場合には,この法律の影響をうけないように調査対象を分 類し,会計制度の変更が有価証券の公正価値情報の有用性に与えた影響をみていく必要が

ある。特定取引勘定を設置している銀行(以下では,設置行という)は,年度により異な るが,調査対象としている銀行50行のうち10行から13行である。一度でも特定取引勘 定を設置したことのある銀行をみてみると,1991年3月期から1999年3月期までの全デ ータ450個のうち117個となる。補足上期,補足下期,注記期間に分類すると40個を少

し下回る程度のケース数しか確保できない数である。そこで,ここでは特定取引勘定を設 置していない銀行(以下では,非設置行という)もあわせて調査し,両者の比較を行いな がら全体として有価証券に関する会計制度の変更の影響を観察することができるのか否か をみていくことにする。次の図表9−1は個別べ一スで調査対象とした場合の銀行を特定 取引勘定の設置・非設置に分けて一覧にしたものである。

図表9−1個別べ一スの調査対象銀行名一覧(50行)

特定取引勘定の設置行 佐賀銀行

常陽銀行 東京都民銀行 名古屋銀行 肥後銀行 北陸銀行 横浜銀行

静岡銀行 住友信託銀行 千葉銀行 西日本銀行 広島銀行 山口銀行

(13行)

特定取引勘定の非設置行 青森銀行

池田銀行 愛媛銀行 沖縄銀行 京葉銀行 七十七銀行 十六銀行 第四銀行 東邦銀行 南都銀行 百十四銀 みなと銀行 琉球銀行

秋田銀行 伊予銀行 大分銀行 京都銀行 山陰合同銀行 清水銀行 駿河銀行 中京銀行 東和銀行 東日本銀行 福岡シティ銀行 武蔵野銀行

(37行)

阿波銀行 岩手銀行 大垣共立銀行 紀陽銀行 四国銀行 十八銀行 第三銀行 千葉興業銀行 栃木銀行 百五銀行 北越銀行 山形銀行

(五十音順)

 図表9−1より,個別べ・一・…スの分析では13年間という比較的長い期間にわたり調査を行 うために,調査対象となる銀行から大手都市銀行が欠落していることが分かる。調査対象 とする銀行は,調査対象期間において企業形態が変わったものを除いている。そのため,

近年,持ち株会社を設立するなどして企業形態を変更している大手都市銀行は調査対象に 含まれていないのである。

 本体計上されるようになった2001年3月期以降については,従来と同じような有価証 券の公正価値1青報を入手できなくなっている。会計制度の変更にともない開示・報告され

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