• 検索結果がありません。

会計情報の有用性の時系列変化に関する先行研究のレビュー

ドキュメント内 nagano 2005 keiei (ページ 84-110)

Lはじめに

 わが国に限らず,アメリカにおいても投資家などにたいする会計情報の有用性1を向上 させるための努力がなされている。たとえば,アメリカにおいてこれまで基準設定機関が 改変されてきたのは,投資家などの会計情報利用者にたいする情報の有用性を高めるため であると説明されている[Ely and Waymire(1999), p.295]。

 アメリカでは,1990年代に入ると,実務家などから会計情報の有用性が低下していると の批判がなされるようになった。有用性の低下という批判の背景にあるのは,1980年代以 降のビジネス環境の著しい変化である。「会計基準が設定されるまでには時間がかかり,結 果として会計情報は,ビジネス環境の変化に対応し切れず,その有用性を低下させている」

と考えられるのである[Lev and Zarowin(1999), p,363]。会計情報の有用性を高める ために新しい基準が公表されているとはいえ,会計基準を変更するには一定の手続きを踏 む必要があり,それほど急速な会計基準の変更がなされないのは事実であろう。したがっ て,会計数値が企業活動の経済的実質を完全に反映していないという可能性を想定するの は合理的なことである[Yaekura(2003), p.3]。しかしながら,たとえ,会計基準の変 更がビジネス環境の変化に遅れているとの批判があったとしても,有用性の低下が事実で あるか否かは実証すべき命題である。

 アメリカの会計研究者の間では,会計情報の有用性の時系列変化を検証する研究が活発 に行われてきている。またわが国でも,近年行われた一連の会計基準の変更に伴い,会計 情報が受けている影響を確認する研究がなされている[Yaekura(2003)]。そこで本章で は,会計情報の有用性の時系列変化を検証した先行研究を概観することにより,すでに明

らかにされていることを明確にすることにする。

 本章では,まず第2節において,会計情報の有用性を検証した伝統的な研究とその批判 についてみてみることにする。そして第3節においては,伝統的研究が抱えていた問題点 を解決すると考えられる割引超過利益モデル2により会計晴報の有用性の時系列変化を検 証した研究を取り上げることにする。つづく第4節では,そのような研究のなかでも,有 用性に影響を与えるものを考慮した研究を概観することにする。そして,第5節では,本 章において取り上げた先行研究をまとめ,本研究が明らかにすべきことを指摘する。そし て,有用性変化の指標としていかなるものが最適であるのかを確かめることにする。

2.会計情報の有用性に関する伝統的研究およびそれにたいする批判

 本節では,まず会計情報の有用性を実証した伝統的研究であるBall and Brown(1968)

による研究とBeaver(1968)による研究を紹介する。そしてそのうえで,このような伝 統的な研究方法の限界を指摘したLev(1989)の見解を取り上げ,その改善策として割引 超過利益モデルがあることを述べた八重倉(2001)の論文をみてみることにする。

 利益情報の有用性を検証した伝統的研究では,利益数値の報告に関連して,株価反応が 観察されれば,その情報は有用であるとする考えほうが根底にある[Ball and Brown

(1968),p.161およびBeaver(1968), p.68]。したがって,情報が有用であるか否か は,会計の利益数値の報告と株価反応の関係を実証することにより確かめられる。

 Ball and Brown(1968)の研究では,まず,市場による期待利益額を算出する2つの 方法が構築される。そして,その期待が外れたときの市場の反応,すなわち公表利益のな かに期待外の部分があったときに生じる市場の反応を調査することにより,利益情報の有 用性が検証されている。

 彼らは,期待利益額をナイーブモデルと名づけられた方法と回帰モデルと呼ばれる方法 によって算出している。ナイーブモデルとは,前期の利益額を当期の予想利益額であると するモデルである[Ball and Brown(1968), pp.161−162]。ここでは,前期利益額を 当期の予想利益額とするため,前期の利益額以上に当期の利益額が増加(あるいは減少)

していれば,その差にあたる部分が,期待外利益額として捉えられる。また,回帰モデル とは,株式リターンモデルともいい,各企業の株価を市場リターン指数で説明させること によって,期待利益を予測するものである[Ba皿and Brown(1968), pp,162−163]。

この市場リターン指数には,全企業の平均利益予想額が織り込まれていると考えられるた

め,市場リターン指数を1として,それと個々の企業の株式リターンとの差分に,各企業 の期待外利益が反映されていると考えるのである[Ba皿and Brown(1968), p.162]。

 期待利益を予想したあとに,それと公表利益との差額である期待外利益額が算出される。

期待外利益がプラスであるグループの利益清報はgood newsであり,それがマイナスであ るものの利益晴報はbad newsであると考えられる[Ball and Brown(1968), pp.163 − 164]。そして,それぞれのグループの情報が,異常投資収益率(Abnorma1 Performance Index,以下ではAPIという)とどのような関係にあるのかを調べることにより,利益情 報の有用性が検証されている3。APIとは個々の企業の個別情報がおよぼす影響を反映し た部分であり,一定期間の投資収益率から一般的な経済情報を除去することにより算出さ れている[Ball and Brown(1968), p.168]。 Ball and Brown(1968)では, good news

のグループにはプラスのAPIが,またbad newsのグループにはマイナスのAPIが観察さ れた場合には,公表された利益情報は有用であると解釈されているのである。

 このように,Ba皿and Brown(1968)の研究では,公表利益に含まれる期待外部分の 情報がプラスかマイナスかに応じて株価変動の方向を予測することにより,その情報の有 用性を確かめたのである。しかしながら,Ba皿and Brown(1968)の研究では,期待外 利益の符号と株価変動の方向から利益情報の有用性が判断されるので,期待利益の予想モ デルによりその有用性が左右されるとも考えられる。そこで次に,伝統的研究のなかでも,

株式の取引量や株価変動の分散を用いて情報の有用性を検証したBeaver(1968)の研究 をみてみることにする。

 Beaver(1968)の研究では,利益情報の公表週周辺における株式の取引量および株価 変動の分散に焦点があてられている。投資家が利益情報を用いていれば,公表後の株式の 取引量や株価変動には通常とは異なる反応がみられ,利益情報の投資家にたいする有用性 が検証されると考えたからである[Beaver(1968), p.67]。 Beaver(1968)が株式の取 引量をも調査対象に含めたのは,株価は市場全体の期待にたいする変化を反映しているが,

株式の取引量であれば個々の投資家の期待にたいする変化を反映していると考えられるか らである[Beaver(1968), p.69]。また, Beaver(1968)の研究では,株価を用いては いるが,調査対象となっているのは変動の方向ではなく,その分散が対象とされている。

それは,「株価変動の方向は,投資家が予測する期待モデルを知りえない場合には特定でき ないからである」[Beaver(1968), p.69]と説明されている。

 調査対象とされた株式の取引量の変化についてであるが,Beaver(1968)は利益公表

週の8週間前から8週間後にかけて,週次の動きを観察している。利益公表後に,取引量 に異常な動きが観察されれば,利益情報は市場に何らかの情報を提供したと考えられる。

この調査の結果,利益公表週には異常な株式取引量が観察され,利益情報の公表が市場に 情報をもたらしていることが確認された[Beaver(1968), p.74]。その後彼は,利益公 表週の株価変動の分散と他の週の分散との比較も行っている。利益に情報内容があり,投 資家の証券投資に有用であるならば,利益公表時点での株価変動はそれ以外のときよりも 大きいはずだと考えたからである[Beaver(1968), p.78]。その結果,年次利益を公表

した週の株価変動の分散は他の週に比べて大きく,異常な株価反応が観察されたという証 拠が示された。このことから,Beaver(1968)は,報告される利益は,情報内容を有して いると考えられると述べている[Beaver(1968), p.82]。

 Ball and Brown(1968)やBeaver(1968)により始められた利益情報の有用性を検証 する伝統的研究は,その具体的な検証方法に違いがあるものの,利益情報の公表にたいす る株価反応をみることにより,利益に情報内容があるのか否かを検証するものである。こ のような研究は,投資家にたいする利益情報の有用性を評価するその後の研究へと引き継 がれていった。しかしながら,現在ではそのような伝統的な研究方法が抱える問題点が指 摘されるようになっている。

 たとえば,Lev(1989)は,伝統的研究方法に依拠して利益情報の有用性を検証した1968

−1988年までに主要な会計雑誌に掲載された論文4を取り上げ,そのような研究が抱えて いる問題点を指摘している5。リターン・利益の関係から利益情報の有用性を検証した研 究では,その有用性のベンチマークとしてモデルの説明力(決定係数,R2)が重視される ことは少なく,モデルの偏回帰係数が用いられた。Lev(1989)は, R2ではなく偏回帰係 数に重きがおかれたのは,「多くのそのような研究では,利益の有用性を直接評価すること

に焦点があてられるのではなく,利益と偏回帰係数間における関係のように,むしろ特定 の仮説の検証に研究目的があったからである」[Lev(1989), p.156]と説明している。

しかしながら,Lev(1989)は,利益の有用性を検証するのであれば,モデルのR2は無視 すべきではないとも述べている[1.ev(1989), p.157]。 Lev(1989)が取り上げた20本

の論文では,R2がODIから0.30となっており[Lev(1989), pp.160−161],モデルの 説明力は非常に低かった。このことについてLevは,「まだ確認できていないモデルの特

定化(モデルの構造にっいての想定…長野)の誤りが存在し,それがリタv…ン・利益のR2 を低くしている」と述べている[Lev(1989), p.174]。

ドキュメント内 nagano 2005 keiei (ページ 84-110)