• 検索結果がありません。

使用モデルとその検証方法

ドキュメント内 nagano 2005 keiei (ページ 153-158)

1.はじめに

 前章まで,本研究を行うにあたってふまえるべき先行研究を概観してきた。第5章では,

会計情報の有用性の時系列変化を扱った研究を取り上げ,制度変更による有用性の変化を 検証しようとする本研究における検証方法についての示唆を得た。また,第6章では有価 証券の公正価値情報の有用性を検証した先行研究を概観し,モデルを構築するさいのベー スを得ることができた。認識情報と開示情報にたいする市場の反応の相違に関する先行研 究をレビューした前章では,認識情報と開示情報をどのようにモデルに組み込むのが最適 であるのかを明らかにした。これらの先行研究を取り上げたことにより,有価証券の公正 価値情報が認識情報とされる場合と開示情報とされる揚合では有用性に差違があるのか,

すなわち会計制度の変更にともない有価証券の公正価値情報には有用性に変化がみられる のか否かを明らかにするためのリサーチデザインを描くことができるようになった。そこ で本章では,実際にわが国のデータを用いて実証分析を行うに先立ち,使用するモデルと その検証方法を明らかにすることにする。

 有価証券に代表される金融商品に関する公正価値情報は,1990年代初頭から広範に開示 されるようになっていった。企業外部者にとって公正価値晴報が入手できるようになると ともに,第6章で取り上げたように,この情報が取得原価などの従来の情報に比べて,株 価にたいして増分説明力を有しているのかが研究されていった。1990年代に行われた公正 価値情報の有用性を検証する研究では,企業価値評価モデルとしてDCFモデルが用いら れていた。そこで,本章では,まずそれらの先行研究と同じようにDCFモデルをベース

とした検証モデルを構築することにする。

 しかしながら,わが国においてDCFモデルをべ一スとした研究を行う場合には,入手

可能な公正価値情報に制約があることから,最適なモデルだとはいえない可能性がある。

そこで,第5章で取り上げた会計情報の有用性の時系列変化について検証した研究が割引 超過利益モデルを用いて検証していたことを考慮し,本研究では割引超過利益モデルをベ ースとしたモデルも用いて有価証券公正価値情報の有用性が制度変更によりどのような影 響をうけたのかを観察することにする。

 また,それぞれのモデルを用いてデータの分析を行うさいに,どのような指標を有用性 変化の尺度とするのかを決めなければならない。本研究における検証方法も確認していく

こととする。

 まず,第2節において有価証券の公正価値情報の有用性を検証した多くの先行研究が用 いていたDCFモデルをベースとして本研究で検証するモデルを導き出すことにする。つ づく第3節では,第2節で取り上げたDCFモデルの不足部分を補うために,割引超過利 益モデルをベースとしたモデルを構築することにする。なお,そこでは割引超過利益を株 主持分簿価で除す割引超過ROEモデルを検討することになる。そして第4節では,本研 究における検証方法を明らかにすることとする。第5節では本節の要約を述べることにす

る。

2.DCFモデルによる検証モデルの構築

 第4章で取り上げたように,DCFモデルは期待将来キャッシュフローを資本コストなど の割引率で現在価値に割り引くことにより企業価値を求めることができる。また,アメリ カやわが国で行われた公正価値情報の有用性を検証した先行研究によれば,DCFモデルに おける期待将来キャッシュフローの割引現在価値として公正価値が使われることになる。

 公正価値は概念的に市揚で形成された期待将来キャッシュフローの割引現在価値だと 考えられるからである。DCFモデルにおいては期待将来キャッシュフローの割引現在価値 を軸として結びつく。さらに,資産と負債を将来キャッシュフローの割引現在価値,すな わち市場価値で評価するならば,株主持分の価値は,総資産の公正価値の総和から総負債 の公正価値の総和を控除することにより算出できることになる。次の(1)式を考えるこ

とができる。

・柵 =潤D FVA,,「写肌・ +G夙+θ ・ (1)

MVE:株主持分の市場価値 ΣFVA:各資産の公正価値の総和 ΣFVL:各負債の公正価値の総和

GW:公正価値により把握できない企業ののれん

添え字のi:企業が保有しているそれぞれの資産やそれぞれの負債 添え字のt:企業価値や資産や負債の市場価値の時期

e:企業のt期の各公正価値を見積るさいの見積誤差

この(1)式では,各資産や各負債がそれぞれ考慮され,各資産の公正価値の総和や各負 債の公正価値の総和が用いられている。それを総資産の公正価値や総負債の公正価値に置

きかえ,さらに有価証券の公正価値情報を個別に取り出し書きかえると,次の(2)式を 考えることができる。

Mvai =β。+β, Othei rvA一β2」四L+fi3 SEcrv

OtherFVA:有価証券を除いた総資産の公正価値 FVL:総負債の公正価値

SECFV:有価証券の公正価値

(2)

この式において,有価証券を除いた総資産の公正価値を示すOtherFVAならびに総負債の 公正価値であるFVLの値を観測することは極めて困難なことから,実証にさいしてはそ れぞれの簿価情報を代替的に用いることにする。

 しかしながら,分析にあたっては,たとえOtherFVAやFVLを簿価情報に置きかえた としても,(2)式をそのまま用いることはできない。貸借対照表のデータを用いた(2)

式では,分析結果を歪める可能性があるからである。

 企業活動において株主持分簿価の総額はあまり変化しない。そのため,資産総額の変動 は負債総額の変動とともに変化することが多い。したがって,たとえ有価証券を総資産か ら除いた後のものを用いたとしても,それと総負債の簿価を独立変数として回帰分析した 場合には,変数間の相関関係が非常に高くなってしまう可能性があるのである。相関関係 の極めて高い2つの変数をモデルのなかに同時に組み込むと,多重共線性の問題を引き起 こす。本研究ではこの問題を避けるために,(2)式から総負債の簿価を除く必要がある。

 また,貸借対照表データをそのまま用いる場合には,企業規模によっても分析結果が歪 められる可能性がある。企業規模がおよぼすこの問題にたいしては,株主持分簿価(以下 ではBVEと表す)で各変数を除すことにより和らげることにする。このような方法は,

有価証券公正価値情報の有用性を検証したNelson(1996)の研究においても用いられて いたものである。

 以上のことから,本章における検証モデルとして以下の(3)式を考えることができる。

携 一βo+β10 乃甕}讐≦ 

+β2響蕩 

+ε (3)

OtherBVA:有価証券を除いた総資産の簿価

この(3)式において,「有価証券公正価値評価額の偏回帰係数(β2)は0である」という 帰無仮説を検定していくことにする。なお,(3)式におけるβiならびにβ2は,有価証券 を除いた総資産と有価証券公正価値評価額が,株主持分価値にたいしてもつ説明力をそれ ぞれ示している。これらはともに株主持分価値をプラスの方向に説明すると考えられるた め,(3)式におけるβ1ならびにβ2は有意にプラスの値をとると予測できる。

 また,有価証券の公正価値情報の有用性を検証した先行研究では,公正価値評価額と公 正価値評価差額を分けてその有用性を検証していた。そこで,本研究においても有価証券 公正価値評価差額についても個別に取り上げ,観察していくことにする。

 有価証券の公正価値評価差額を1つの独立変数としてモデルに加える場合には,総資産 の簿価から総負債の簿価を除けばよい。したがって,評価差額を加えるモデルとしては以 下の(4)式を考えることができる。

募=角+A錫一嬬揚+角響響+・

(4)

BVA:総資産の簿価

SECdif:有価証券の公正価値評価差額

 この(4)式においても,(3)式で問題となったのと同様に総資産の簿価であるBVAと 総負債の簿価であるBVLとが,分析にあたっては区別できずに多重共線性の問題を引き 起こす可能性がある。したがって,(3)式と同じようにBVLをモデル式から除き,以下

の(5)式を検証することにする。

MVE

         BVA

   =β。+β,

      +β2          BVE

BVE

SE(rdif

    十8 BVE   

(5)

 この(5)式においても,「有価証券公正価値評価差額の偏回帰係数(β2)は0である」

という帰無仮説を検定していくことにする。(5)式におけるβ1ならびにβ2は,総資産の 簿価と有価証券公正価値評価差額の,株主持分価値にたいする説明力を示している。これ

らは(3)式と同様に株主持分価値をプラスの方向に説明すると考えられる。したがって,

β1ならびにβ2は有意にプラスの値になると予測できる。

 従属変数として用いる株価は,5月末日の株価とする。先行研究では,期末3ヵ月後の 株価データが使用されていた。本研究では吉田(2002)の研究1で用いられていたように,

5H末日の株価を使用することとする。これは,6E末日の株価は他の要因で大きく変化 する可能性があり,さらに会計情報の波及速度が近年高まっていると考えられるからであ

る。

 しかしながら,多くの研究で用いられているDCFモデルをべ一スとして有価証券の公 正価値情報の有用性を検証するためには,本来ならばできるだけ多くの貸借対照表項目の 公正価値情報を入手する必要がある。貸借対照表データをもとにしてDCFモデルを組み 立てる場合には,企業が保有している多くの資産や負債が生み出す期待将来キャッシュフ

ローを公正価値で代替することにより,株主持分の価値が算出できると考えるからである。

しかしながら,わが国のようにごく一部の資産や負債の公正価値しか入手できない場合に は,貸借対照表データをもとにしたDCFモデルはその精度が極めて低くならざるを得な い。企業が生み出すであろう期待将来キャッシュフローの割引現在価値と,一部の資産や 負債だけが公正価値で計算された株主持分の価値が乖離してしまうからである。

 Eccher et al.(1996)やBarth et al.(1996)の研究などで用いられたように,アメリ カでは多くの資産や負債の公正価値を入手できる。そのため,銀行業を対象とすればDCF モデルを基本として実証モデルを構築しても期待将来キャッシュフローの割引現在価値と 大きな違いが生じないと考えられる。しかしながら,わが国ではごく一部のものの公正価 値しか入手することができない。このような状況下でDCFモデルを基礎として有価証券 の公正価値情報の有用性を検証しようとする場合には,理論モデルとの間に大きな差がで るという問題が生じてしまう。そこで,本研究ではわが国の公正価値情報の入手可能性を

ドキュメント内 nagano 2005 keiei (ページ 153-158)