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5.2.3 鉄系超伝導体の各系における超伝導転移温度
各結晶構造の転移温度とドープ量依存性
鉄系超伝導体は大きく分けて、電子ドープ系とホールドープ系、等原子価ドー プ系に分類される。超伝導転移温度とドープ量について、この3つに分類して紹 介する。
SDW
BaFe2(As1-xPx)2
(c) Non-Fermi
Liquid
Superconductivity
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
0 100 200
x
T(K) Tczero
TSDW T0 Tcon 等原子価ドープ
ホールドープ 電子ドープ
LaFeAsO1-xFx
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 0
30 60 90 120 150
T(K)
K content [ TC
TS
TN
AF/O
SC
図5.6:各鉄系超伝導体のドープ量依存性の相図。電子ドープはLaFeAsO1−xFx[13]、
CoドープBa(Fe1−xCox)2As2[158]、ホールドープはKドープBa1−xKxFe2As2[159]、
等原子価ドープはPドープのBaFe(As1−xPx)2[140]となる。
全ての物質に共通している点として、母物質が反強磁性の性質を示し、母物質 から電子ドープを行うことで反強磁性が弱くなり超伝導が発現する(図5.6)。この
5.2. 鉄系超伝導体 151
Y X
鉄 1
鉄面の上側のヒ素 鉄面の下側のヒ素
鉄 2 単位格子
電子のスピン
図5.7: 鉄系超伝導体のストライプ型反強磁性
反強磁性はストライプ型(図5.7)の反強磁性となる[160]。ストライプ型の反強 磁性は、x−y方向の対称性が存在する正方晶では起こらないことから、a軸とb 軸の長さが変化した斜方晶となることで発現する。そのために、鉄系超伝導体は 反強磁性になる転移温度の前に斜方晶に構造相転移を起こす(TS)。FeTeではスト ライプ型の反強磁性ではなくスピン密度波が現れ、それ以外の鉄系超伝導体とは 性質が異なる[160]。どの系に対しても、反強磁性相がなくなることによって超伝 導が発現するが、例外としてLaFePOはドープをしない状況でも超伝導が現れる。
電子ドープ系のLaFeAsO1−xFx[13]、Ba(Fe1−xCox)2As2[158]のドープ量における 相図を図5.6に示す。超伝導転移温度はx= 0.1近傍でピークを取り、電子状態と してはFeがd6.1の状況となる。鉄系超伝導体に見られる傾向として、非磁性不純 物による超伝導転移温度の変化が少ないことが挙げられる。鉄系超伝導体の不純 物効果が調べられているが、どの非磁性不純物でも超伝導転移温度は大きく変化 しない特徴がある[161–163]。
ホールドープが可能とされる物質は現在122系のみで、Ba1−xKxFe2As2の相図を
図5.6に示した[159]。電子ドープよりも反強磁性相が大きなドープ量まで残って
おり、超伝導転移温度が最大36Kとなるドープ量はx=0.5である。また、x=1の KFe2As2でも超伝導転移温度が存在しており[164]、鉄系超伝導体ではホールドー プに対して電子ドープよりも超伝導転移温度が維持される傾向にある。
AsをPに置換する等原子価ドープはBa(Fe2As1−xPx)2[140]において行われてお り、AsからPに置換することによって反強磁性相がなくなり超伝導が発現する。
BaFe2(As1−xPx)2の相図では、反強磁性相がなくなるドープ量において超伝導転移 温度の極大が見られる。
各結晶構造の転移温度と圧力依存性
図5.8: 各物質における圧力に対する超伝導転移温度の変化[165]
鉄系超伝導体に特徴的な要素の一つとして、圧力によって超伝導転移温度が大 きく変化することが挙げられる。図5.8は各鉄系超伝導体の超伝導転移温度の圧力 依存性となる[165]。圧力によって超伝導転移温度が大きく変化し、超伝導転移温 度が高い物質ほど圧力をかけると下降する傾向にあり、小さな物質はある圧力ま で上昇する。LaFeAsOは26Kから43Kまでと大きく変化するが(図5.8(c))、特 にFeSeの圧力依存性(図5.9(b))は超伝導転移温度が約3倍以上変化し、鉄系超 伝導体として最も超伝導転移温度の上昇比がある(図5.8)[148, 166]。この超伝導 転移温度の圧力依存性は結晶構造の変化、特に鉄ヒ素面の変化に対して敏感に反 応していると考えられている。
5.2. 鉄系超伝導体 153
7F.
ȘGHJ
/D)H32 UHI 7E)H$V2 UHI /D)H$V2 UHI'\)H$V2 UHI
&H)H$V2 UHI %D)H$VUHI 3U)H$V2UHI /D1L32UHI 1G)H$V2 UHI %D1L3
UHI 6P)H$V2 UHI /D1L$V2UHI
*G)H$V2 UHI /D)H$V2RXUZRUN 1G)H$V2RXUZRUN
鉄ヒ素結合角 鉄面からのニクトゲン(カルコゲン)高さ
K3Q
α
(a) (b)
(c)
図5.9: (a)Leeらによる鉄ヒ素結合角と超伝導転移温度の関係[167]、(b)鉄面から のヒ素高さと超伝導転移温度の関係[148]、(c)鉄ヒ素面の結合角とヒ素高さの概 念図
鉄ヒ素面と転移温度
鉄系超伝導体の結晶構造と超伝導転移温度の関係が調べられており、代表的な 例として鉄ヒ素結合角と転移温度の関係を調べたLeeプロットがある[167](図
5.9(a))。Leeプロットから、ヒ素が正四面体を形成する鉄ヒ素結合角110度付近に
おいて超伝導転移温度が極大となることがわかる。鉄系超伝導体の圧力依存性で は、結合角が110度に近づくか遠のくかで転移温度の変化が起きていると考えら れる。例として、最大の転移温度を持つ物質の一つであるNdFeAsOは圧力で超伝 導転移温度が下がるが、結合角が110度から離れることが原因と考えられている。
この結果は1111系が主に調べられていた時期に発表されたため、最初の論文では 結合角の範囲が狭かったが、現在までの多くの物質に対してプロットしても同様 に110度近傍に超伝導点温度の極大が存在する[168]。
また、鉄ヒ素面における鉄面からヒ素の高さと転移温度の関係が高野らによっ て調べられ、この結果に対しても1.38Å周辺において超伝導転移温度の極大が見
られた[148](図5.9(b))。FeSeの圧力依存性について特に注目されており、圧力
をかけることによってSeの高さが下がり、超伝導転移温度が大きく上昇したと解 釈されている。