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バンド構造

ドキュメント内 電気通信大学大学院電気通信学研究科 (ページ 116-135)

第 4 章 第一原理計算から構築した有 効模型による熱電効果の理論効模型による熱電効果の理論

4.2 縮退効果に関するゼーベック効果の解析 - ペロブスカ イト構造を例に イト構造を例に

4.2.3 バンド構造

LaRhO3、SrTiO3、KTaO3それぞれのバンド構造を図4.5,4.6に示した。SrTiO3

LaRhO3については最局在ワニエ関数による強束縛模型のバンド構造を重ね書きし

ている。SrTiO3とKTaO3ではフェルミエネルギー直上の3本のバンドがt2gバン ドで、LaRhO3ではフェルミエネルギー直下の12本(t2g軌道3本×単位胞内Rh4 個)のバンドとなる。

Energy (eV)

-6.0 -4.0 -2.0 0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0

(a) SrTiO3

EF

R Γ X M Γ

R Γ X M Γ

EF

Energy (eV)

0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0

-2.0 -4.0 -6.0

(b) KTaO3

DOS(States/eV) DOS(States/eV) t2g

t2g

0 1 2 3 4 5 6 7 8

0 2 4 6 8 10 12 14

kx kz

Γ X

X M

R

ky

図4.5: SrTiO3、KTaO3のバンド構造、状態密度とブリルアンゾーン

また、有効ハミルトニアンによって得られたdxy、dyz、dzx軌道のうち、dxy軌道 からdxy軌道へのホッピングパラメータのみを残し、それ以外のホッピングパラ メータを無視する1軌道模型を構築し、エネルギーバンドと状態密度を求めた(図

4.2. 縮退効果に関するゼーベック効果の解析-ペロブスカイト構造を例に- 97

10 11 12 13

Γ S

Γ X R

EF

Energy (eV)

10 11 12 13 14 15

Γ M

Γ X R

0 1 2 3 4 5 6

-3 -2 -1 0

E -EF (eV)

DOS (eV / Rh)-1

現実の構造 仮想立方構造

Γ X

Z

R S T

U

(a)

Energy (eV)

(b)

(c)

kx kz ky

図4.6: LaRhO3の(a)歪んだペロブスカイト構造と仮想的な立方ペロブスカイト構

造のバンド構造(黒点:第一原理バンド計算、赤線:有効模型)、(b)状態密度と (c)ブリルアンゾーン

4.7)。状態密度はt2g軌道から求めたものと比較するため、3倍している。通常の ハミルトニアンから

H= ∑

i j

µν

tµνi jeik·ri jcµ†k cνk (4.4)

の軌道µ、νのうちの1つのみを取り出すことに対応し、

H= ∑

i j

ti jdxy,dxyeik·ri jcdkxycdkxy (4.5) より求める。このdxy成分のみのバンド構造はdxy軌道からdyz、dzx軌道へのホッ ピングが存在しない状況での結果を表す。3軌道モデルの結果と重ね合わせると、

1軌道模型の結果はt2g軌道3本のバンドのうちの1つとよく一致する。また、状 態密度も同じ値を持ち、dxy、dyz、dzx軌道の3つはそれぞれほとんど飛び移りがな く直交していることがわかる。

SrTiO3とKTaO3について見ると、立方ペロブスカイト構造をしているため、ブ

リルアンゾーンは立方体になる。それぞれ各点の間におけるバンド構造の変化に ついて見ると、R−Γ点で3重縮退しているが、これはdxy、dyz、dzx軌道がx= y=z に対して対称であるところに由来する。Γ−X方向で2重縮退と1つのバンドに分 かれる。これははky = kz = 0ではdxydzx軌道がx方向に対して同様の形を取 るためである。dxydzx軌道はy(z)方向は異なる関数となるが、y= z=0におい て同じ値となるためである。X−M方向においてはkz = 0、kx = π/a、ky , 0とな るため、すべての縮退が解かれる。最後にM−Γ方向ではkx = ky,kz = 0となるた め、x=yで軌道の形が同じになるdzxdyz軌道由来のバンドが縮退する。R点と M点を比較すると、3次元性について議論することができる。dxy軌道はz方向に ふくらまない軌道のため、(π/a, π/a, π/a)であるR点と(π/a, π/a,0)のM点を比較 することによってdxy軌道の3次元性を見ることができる。R点とM点との差は 0.25eVとなるため、バンド幅である約2.5eVの1/10程度と小さい。このことは対 称性からdxy軌道だけでなく、dyz軌道もx方向への電子の移動が小さく、dzx軌道 もy方向への電子の移動が小さいことを意味している。KTaO3でも同様に考える と、R点とM点の差が約0.2eVと、バンド幅が約4.8eV程度であるため1/20以下 と小さい。3次元性という点からはKTaO3よりもSrTiO3のほうが大きいことがわ

4.2. 縮退効果に関するゼーベック効果の解析-ペロブスカイト構造を例に- 99

0 1 2 3

E ne rgy(e V )

X M Γ

Γ

0 1 2 3 4

0 0.5 1 1.5 2 2.5

D O S (S ta te s/ eV )

Energy(eV)

図4.7: SrTiO3dxy1軌道のみを取り出した場合(黒線)と3軌道取り出した場合

(赤線)のバンド構造と状態密度。エネルギーのゼロはバンド下端。状態密度はt2g 軌道から求めたものと比較するため、3倍している。

かる。また、これらの物質はどちらもt2gバンドの上端に大きな状態密度を持つ。

これはX−M方向のdxy軌道に由来するバンド(t2g軌道の中でも一番上)が比較的平 らな形状になっていることに起因する。X点におけるバンドは特異性があり、ファ ンホーフ特異点と呼ばれ、状態密度が発散することが知られている。X−M方向に おいて、dxy軌道に由来するバンドが平らな形状をしていることがわかり、対称性 よりdyz,dzx軌道に由来するバンドは同様も大きな状態密度を持つことになる。バ ンド図で表記しているX点は(π/a,0,0)点だが、(0, π/a,0)点と(0,0, π/a)点も同様 にX点となることから、これらをX’、X”点と呼ぶと、Γ−X’点ではdyz軌道由来 のバンド、Γ−X”点ではdzx由来のバンドに平らな形状を見ることができる。この 意味でバンド構造はバンド上端の状態密度が高く平らな形状のプリン型バンドを 形成している。しかしながら、NaxCoO2のようなバンド最上端に大きな状態密度 が見られるわけではないため、理想的なプリン型ではない。バンド下端の状態密 度はバンド上端に大きな状態密度が寄っているために小さくなっている。Γ−X方 向においてdyz軌道に由来するt2g軌道一番下のバンドは平らになっているように 見えるが、dyz軌道のバンドはkx方向へほとんど分散しないため、これは3次元性 が弱いことを表し、状態密度が大きくなっているわけではない。

LaRhO3は結晶構造が歪んでいるためabc軸全ての格子定数が異なり、ブ

リルアンゾーンは直方体となる。さらに単位格子が4つあるためt2gバンドは12本 となり、単純にSrTiO3のような立方ペロブスカイト構造とバンド構造の比較を行 うことは難しい。そのため、状態密度の比較を行う。LaRhO3の状態密度の特徴は 最大となるエネルギー領域に大きな幅が存在することである。これは、立方ペロ ブスカイト構造が歪んだことにより、一箇所に集中するファンホーフ特異点がず れたことに原因があると考えられ、状態密度が大きくなるなるエネルギー位置が バンド中央よりの位置からバンド上端付近に移動している。鋭い幅が3つ現れな い理由はペロブスカイト構造が歪んだことによって単純に縮退が解けただけでは なくバンド構造も少し変化していることに起因する。LaRhO3の仮想的な立方ペロ ブスカイト構造はSrTiO3と同様のバンド構造を持ち、LaRhO3の歪んだペロブス カイト構造と比較してバンド幅が広くなっていることがわかる。結晶構造が歪ん だことによりバンド幅が狭くなる理由は、酸素の位置がずれたことによって電子

4.2. 縮退効果に関するゼーベック効果の解析-ペロブスカイト構造を例に- 101

の飛び移りが悪くなったことによると考えられる。

LaRhO3、SrTiO3、KTaO3の3つの立方ペロブスカイト構造のバンド構造はよく 似ているが、状態密度のピークの位置が異なっていることがわかる。バンドのよ り上側にピークを持つ順に並べるとLaRhO3、SrTiO3、KTaO3となる。この理由を 強束縛模型から考察すると、最隣接と第二隣接サイトへのホッピングパラメータ をt1,t2とするとき、3つの縮退している軌道のうちのdxy軌道については

E2t1[cos(kx)+cos(ky)]+4t2cos(kx)cos(ky) (4.6) となる。ここで、|t1|は|t2|/|t1|< 0.5のときにはバンド幅は8|t1|で決定される。t2

はファンホーフ特異点の位置を変化させるパラメータとなり、t1が負ならばt2/t1 が正のときバンド上端に移動し、負のときバンド下端に移動する。仮想的な立方ペ ロブスカイト構造のLaRhO3、SrTiO3、KTaO3それぞれのt2/t1の値は0.40、0.28、

0.18となり、これらの値の違いによって状態密度のピーク位置が変化している。こ のt2/t1の値が変化している理由としてはTi、Rhのメインとなる軌道の大きさや 電子数だけでなくLa、Sr、Kなどのイオン半径の変化も関わってくると考えられ、

原因となるものを特定することは難しく、今後の課題となる。

4.2.4 ゼーベック効果

SrTiO3,KTaO3

SrTiO3(x = 0.05,0.1)とKTaO3(x = 0.009)のゼーベック係数の計算結果を図4.8 に示した。ゼーベック係数、電力因子を計算するにあたり、キャリアのドープ量と La(Ba)のドープ量xが等しいことを仮定した。KTaO3については300Kで−170µV/K を示し、実験結果の−200µV/Kと近い値を得ることができたが、SrTiO3 につい てはx = 0.05でゼーベック係数が−87µV/K、x = 0.1で−58µV/Kと実験結果の

−147µV/K(x = 0.05)、−88.7µV/K(x = 0.1)と大きく異なることがわかった。ゼー ベック係数の2つの物質による実験結果との差異は、この2つの物質の間の大きな 違いであるTiの3d電子系とTaの5d電子系にあると考えられる。これら2つの物 質のバンド幅は倍程度異なるため、電子相関効果が大きく異なる。第一原理バン

ド計算によって得られるバンド構造は局所密度近似によって得られた交換相関汎 関数を用いるため、電子相関効果が大きいような系で再現することが難しい。実 際に3d軌道ではGGAでも実験と一致する結果を得ることが難しいため、LDA+U などの任意性のあるパラメータを用いて電子相関効果を上乗せするような手法が よく使われる[96]。5d軌道は軌道の広がりが大きいため電子相関効果はGGAで もよく再現できると考えられ、実際にRh系の熱電効果を考える場合、第一原理バ ンド計算によって得られたバンド構造を用いるとゼーベック係数は実験結果と一

致する[74]。電子相関効果による影響の一つはバンド幅が大きく変わることであ

り、NaxCoO2ではバンド幅が第一原理バンド計算と比べて約60%になることが角 度分解光電子分光の実験からわかっている[70, 97–99]。SrTiO3の実験においても、

x= 0.05において有効質量比m/mbが1.62倍異なる結果が得られている[19]。し かし、mbについての記述が存在しないためにバンド幅が変化している量を推し量 ることができない。そこで、SrTiO3のバンド幅が第一原理バンド計算の50%にな ると仮定しホッピングパラメータを全て半分とすることでゼーベック係数の計算 を行った。その結果、300Kのときにx=0.05で−149µV/K、x= 0.1で−103µV/K と実験結果に大きく近づいた(図4.8)。

LaRhO3

LaRhO3の現実の歪んだペロブスカイト構造と仮想的な立方ペロブスカイト構造

における、300Kでのゼーベック係数のドープ量依存性の結果を図4.9(a)に示す。

ゼーベック係数、電力因子を計算するにあたり、キャリアのドープ量(nh)とNiの ドープ量xが等しいことを仮定した。また、電力因子は準粒子寿命τを一定として 計算しているためにτに依存した関数となってしまうため、規格化している。これ により電力因子の単純な比較はできないが、傾向のみを比較した。実際の歪んだ ペロブスカイト構造のゼーベック係数を実験結果と比較すると、全体的に20%程 度低い傾向にあるがゼーベック係数のドープ量に対して一定になるという振る舞 いを再現できている。仮想的な立方ペロブスカイト構造ではその傾向が再現でき ず、ゼーベック係数はドープ量とともに落ちていき、x= 0.3では現実の構造と比 較して倍程度異なる。また、電力因子の結果(図4.9(b))では、電力因子が単調増加

4.2. 縮退効果に関するゼーベック効果の解析-ペロブスカイト構造を例に- 103

150

100

50

00 50 100 150 200 250 300

T (K)

-S ( µ V/K)

x=0.1 x=0.05 x=0.1

band width 1/2

x=0.05

band width 1/2

(a) SrTiO

3

200

150

100

50

0 0 50 100 150 200 250 300

T (K)

-S ( µ V/K)

(b) KTaO

3

x=0.009

図4.8: SrTiO3とKTaO3の各ドープ量におけるゼーベック係数の計算結果。SrTiO3

ではバンド幅を仮想的に半分にした場合についての計算結果(点線)も示している。

する傾向を現実の結晶構造による計算結果は再現しているが、仮想的な立方ペロ ブスカイト構造では再現することができていない。これは、LaRhO3の室温におけ るゼーベック効果はその結晶構造、またはバンド構造が重要な役目を負っている ことを表している。この結果は、ゼーベック係数は多重縮退だけでなく、バンド 形状も重要な要素となっていることを示している。

0 100 200 300 400

0 0.1 0.2 0.3

S( µ V/ K)

Ni content x(n )

h

0 100 200

0 0.1 0.2 0.30

1 2 3 4

[S / ρ ]

2 N

S / ρ ( n W /cmK )

22

計算結果(現実の構造)

実験結果 計算結果(仮想立方ペロブスカイト)

現実構造実験

仮想立方

Ni content x(n )

h

(a)

(b)

図4.9: LaRhO3のゼーベック係数、電力因子の計算結果

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