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鉄系超伝導体の超伝導ギャップ

ドキュメント内 電気通信大学大学院電気通信学研究科 (ページ 174-181)

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5.3 鉄系超伝導体の超伝導ギャップ

鉄ヒ素面と転移温度

鉄系超伝導体の結晶構造と超伝導転移温度の関係が調べられており、代表的な 例として鉄ヒ素結合角と転移温度の関係を調べたLeeプロットがある[167](図

5.9(a))。Leeプロットから、ヒ素が正四面体を形成する鉄ヒ素結合角110度付近に

おいて超伝導転移温度が極大となることがわかる。鉄系超伝導体の圧力依存性で は、結合角が110度に近づくか遠のくかで転移温度の変化が起きていると考えら れる。例として、最大の転移温度を持つ物質の一つであるNdFeAsOは圧力で超伝 導転移温度が下がるが、結合角が110度から離れることが原因と考えられている。

この結果は1111系が主に調べられていた時期に発表されたため、最初の論文では 結合角の範囲が狭かったが、現在までの多くの物質に対してプロットしても同様 に110度近傍に超伝導点温度の極大が存在する[168]。

また、鉄ヒ素面における鉄面からヒ素の高さと転移温度の関係が高野らによっ て調べられ、この結果に対しても1.38Å周辺において超伝導転移温度の極大が見

られた[148](図5.9(b))。FeSeの圧力依存性について特に注目されており、圧力

をかけることによってSeの高さが下がり、超伝導転移温度が大きく上昇したと解 釈されている。

5.3. 鉄系超伝導体の超伝導ギャップ 155

0.01 0.1 1

0 0 1 0

1

experiment two gap fit one gap fit

one gap with impurity

1/T 1 (sec-1 )

Temperature (K) T3 Tc(H)

図5.10: PrFeAsO0.89F11の1/T1の温度依存性[169]

する方法として、NMRのナイトシフトがある。ナイトシフトはKAχ/µB(Aは超 微細結合定数)で表され、静的磁化率χに比例する。スピンシングレット超伝導の 場合、クーパー対の全スピンがゼロとなるため超伝導転移した後のナイトシフト は転移前のものより減少することになる。一方、クーパー対の全スピンが1となる スピントリプレット超伝導では、クーパー対形成をしても全スピンがゼロでない ためナイトシフトは超伝導転移前後で変化しない。PrFeAsOの実験結果(図5.11) では、超伝導転移温度でナイトシフトが減少し、スピンシングレット対の振る舞 いが観測されている。その後の様々な鉄系超伝導体におけるナイトシフトの実験 結果でも、スピンシングレットが支持されている[172, 174]。

5.3.1 超伝導ギャップ対称性

超伝導ギャップ対称性を見る手段として、熱伝導率、磁場侵入長、角度分解光電 子分光などがある。超伝導ギャップがゼロとなるノードの有無は、比熱、磁場侵 入長、熱伝導率から間接的に判別でき、角度分解光電子分光からは直接観測でき

0.1 0.2 0.3 0.4

10 20 30 40 50 60 70 80

experiment two-gap fit one-gap fit

Knight Shift (%)

Temperature (K) Tc

図5.11: PrFeAsO1xFxのナイトシフト[169]

る。間接的に判別する方法ではフェルミ面との関係から超伝導ギャップ関数を推 測する。鉄系超伝導体はシングレット対であると仮定すると、s波対称性かd波対 称性超伝導ギャップの2つが主な候補となる。超伝導ギャップ関数はフェルミ面で ギャップ関数がゼロとなるノードがある場合とギャップ関数がゼロとならないフル ギャップとなる場合の2つに分けられる。s波対称性の場合、符号が反転しないs 波超伝導ギャップ、符号が反転するがノードが存在しないフルギャップs±波超伝 導ギャップと、符号が反転しノードが存在するノードのあるs±波超伝導ギャップ が考えられる。d波対称性の場合、Γ点の周りにあるフェルミ面で符号が反転する 超伝導ギャップが予想される。

鉄系超伝導体は図5.5に示したようにフェルミ面が複数あるマルチバンド超伝導 体となるため、BCS理論やフェルミ面に1バンドしか存在しない銅酸化物と直接 結果を対応させることはできない。超伝導ギャップ関数を直接観測できる手法と して角度分解光電子分光があるが、この手法は主に122系で行われており、他の 系では観測が難しいことからほとんど行われていない。そのため、鉄系超伝導体 では主に間接的に超伝導ギャップを観測する手法によりギャップ関数が判断されて いる。

磁場侵入長は超流動密度の逆数の2乗に比例することから、低温における振る 舞いが温度に比例するならばノードがあり、温度に対してほとんど変化しないな

5.3. 鉄系超伝導体の超伝導ギャップ 157

らばフルギャップと結論付けることができる。熱伝導率κは電子による熱伝導率が 温度に比例し、フォノンによる熱伝導率は温度の3乗に比例する。超伝導状態で は電子の熱伝導率はゼロになるため、T →0でκ/T =0ならばフルギャップと判別 できる。また、ノードが存在する場合には磁場により超伝導状態が壊されるため、

弱い磁場から電子の影響が現れ、熱伝導率は磁場の平方根に比例する傾向がある。

磁場侵入長と熱伝導率の振る舞いから、鉄系超伝導体の主な物質はフルギャップの 可能性が示唆されている[175–180]。角度分解光電子分光による結果、Ba1xKxFe2As2 はフルギャップであると観測されている[181]。しかし、NdFeAsOのミュオンスピ ン回転(µSR)による超流動密度の実験結果では、低温で温度に比例する振る舞い が見えており[182]、角度分解光電子分光が存在しない物質ではフルギャップか否 かを決定付ける直接的な結果はない。

図5.12: PrFeAsO1−yの超流動密度[176]

鉄系超伝導体ではフルギャップだけでなくノードが存在する結果も多く存在す

る。LaFePOでは磁場侵入長が低温で温度に比例する振る舞いがあり[183]、熱伝導

率が低温で温度に比例することから[184]ノードの存在が示唆されている。また、

BaFe(As1−xPx)2に対しても同様の結果が得られており[185]、鉄系超伝導体は結晶構 造によってノードの有無が変化する特殊な物質である可能性がある。BaFe(As1xPx)2 の熱伝導率からノードが電子フェルミ面に入る可能性が考えられているが、角度分 解光電子分光ではノードがホールフェルミ面に存在する結果が示されている[186]。

Ba(Fe1xCox)2As2では、熱伝導率の磁場依存性からドープ量によってノードの有無

図5.13: BaFe(As1xPx)2の角度分解光電子分光による超伝導ギャップ[181]

が変化する可能性がある[179]。

5.3.2 超伝導の起源

鉄系超伝導体における超伝導の起源として様々な起源が提案されているが、主 にスピン揺らぎと軌道揺らぎが考えられており、その2つを紹介する。

反強磁性相が超伝導相に隣接しているため、超伝導とスピン揺らぎの関係につ いては早期から調べられている。中性子散乱の散乱断面積はスピン感受率の虚部 に比例するが、図5.7のようなストライプ型反強磁性となる波数で増大することが 観測されている(図5.14)[187, 188]。Ba(Fe1xCox)2As2でも同様の結果が得られ

ており[189]、フェルミ面間のネスティングベクトルの波数と一致することから、

スピン揺らぎがその起源となる可能性が考えられている[180]。また、核四重極共 鳴(NQR)による緩和時間と温度の逆数1/(T1T )はスピン感受率に比例し、Ba122 や21311系のCa2Al4Fe2As2O6において大きなスピン揺らぎの存在が確認されてい

る[190](図5.15)。走査型トンネル顕微鏡(STM)によって得られた超伝導状態

の画像をフーリエ変換することによって、波数空間の情報が得られ、磁場による 強度の変化によって超伝導ギャップの符号反転を見ることができる。後述するスピ ン揺らぎ理論では符号反転するs±波超伝導が予想されており、FeSe1xTexによる

5.3. 鉄系超伝導体の超伝導ギャップ 159

実験において、超伝導ギャップが符号反転しているフルギャップs±波超伝導であ ることが結論付けられ、スピン揺らぎは超伝導に対し大きく関わっていると考え られている[191](図5.16)。

(H,0,1) [r.l.u.]

T = 136 K

図5.14: BaFe2As2の中性子散乱[187]

軌道揺らぎによる超伝導は後述するが、全てのフェルミ面で符号反転しないフ ルギャップs波超伝導となることが知られている。フェルミ面間で超伝導ギャップ が符号反転するスピン揺らぎ理論では、不純物効果による超伝導転移温度の大き な減少が知られており、不純物効果に対して強い軌道揺らぎが不純物の点から有 力視されている。構造相転移におけるの実験から、弾性定数C66が温度が下がるに つれて大きく減少する振る舞いが見られている[192]。この原因は反強的な軌道揺 らぎが増大したことによるものと考えられている。

図5.15: 核四重極共鳴における核磁気緩和率[190]

q1

q2

q3

Γ M

+

-k space

(π, π) A

q1

q2

q3

q space

(2π, 2π) B

q

q

P9

'HF ,QF

10 T

(a) (b)

図5.16: STMにより観測された超伝導ギャップの符号反転[191]

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