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鉄系超伝導体のこれまでの理論研究

ドキュメント内 電気通信大学大学院電気通信学研究科 (ページ 181-200)

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5.4 鉄系超伝導体のこれまでの理論研究

のように散乱された場合、もう一つの電子は(−k ↓) → (−k ↓)と散乱される。こ れはS = 0のクーパー対となるスピンシングレット対を仮定している。ハミルト ニアンは

H= ∑

k

ξ(k)cc+∑

k,k

V(k,k)ckckck↑ck↓ (5.3) となり、ξは化学ポテンシャルµから測ったバンド分散ξ(k)k−µで、電子・フォ ノン相互作用は一般化してV(k,k)とした。このハミルトニアンは多体の相互作用 があるため、厳密に計算することはできない。そのため、平均場近似を用いて

ck,↓ckck↑ck↓ ≃ ⟨ck,↓ckck↑ck↓+ck,↓ckck↑ck↓⟩ − ⟨ck,↓ck⟩⟨ck↑ck↓⟩ (5.4) と近似することによって、BCSハミルトニアン

HBCS= ∑

k,σ

ξ(k)ckσckσ−∑

k

(k)(ckck+h.c.)+∑

k

(k)ckck⟩ (5.5) を得る。ここで∆(k)はギャップ関数と呼ばれ、

(k)= −∑

k

V(k,k)⟨ckck⟩ (5.6) で与えられる。通常のフェルミ粒子では⟨ckc−k⟩がゼロとなるが、超伝導状態が 実現されると有限の値を持つ。

このハミルトニアンを解くためには、ボゴリューボフ変換を行うことが必要と なる。

αk = ukckvkck (5.7) αk = ukckvkck (5.8) ここでuk,vkは任意の定数であり、uk+|vk|2 = 1を満たす。αkαkなどの非対角 項をゼロにする条件を課すと、

u2k= 1 2 [

1+ ξ(k) E(k) ]

(5.9)

|vk|2= 1 2 [

1− ξ(k) E(k) ]

(5.10) E(k)= √

ξ(k)2+|∆(k)|2 (5.11)

5.4. 鉄系超伝導体のこれまでの理論研究 163

となり、ハミルトニアンは

H = EGS +∑

k

E(k)(αkαkkαk) (5.12) EGS =∑

k

[2ξ(k)|vk|2+2∆(k)ukvk+ ∆(k)c−k↓ck↑⟩]

(5.13) と求まる。この演算子はフェルミオンの性質を満たすように定義されているため、

⟨αkαk⟩=⟨αkαk⟩= f (E(k)) (5.14) となり、これと式(5.8)から、超伝導ギャップ方程式

(k)=−∑

k

V(k,k) ∆(k) 2E(k)tanh

(1 2βE(k)

)

(5.15) を得る。温度の関数となっているため、∆がゼロでない解が存在する最大の温度 が超伝導転移温度TCとなる。

エリアシュベルグ方程式

BCS理論では格子の自由度を消去したハミルトニアンから平均場近似により超 伝導ギャップ方程式を導いた。しかし、電子・格子相互作用が強い系では格子と電 子のハミルトニアンから出発する必要がある。格子と電子のハミルトニアンは

H =∑

ξ(k)ckσckσ+∑

q

ω(q)aqaq+ 1

N

k,q,σ

α(q)(aq+aq)ck+qσcqσ (5.16)

となる。このハミルトニアンにおける電子のグリーン関数の運動方程式は、

[

− ∂

∂τ −ξ(k) ]

G(k, τ−τ)=δ(τ−τ)+ 1

N

q

α(q)Γ(q,k, τ, τ, τ) (5.17)

ここで、

Γ(q,k, τ, τ′′, τ) = −⟨Tϕq)ck+q′′)ck↑)⟩

ϕq(τ) ≡ aq(τ)+aq(τ) (5.18)

である(付録C参照)。このΓに対しても運動方程式 [ ∂2

∂τ2 −ω2(q) ]

Γ(q,k, τ, τ′′′, τ)

= −2ω(q)α(q)

N

l

T clσ)clqσ)ck+q′′)ck↑)⟩ (5.19)

が成り立つ。一方、フォノンのグリーン関数

D(q, τ−τ)=−⟨Tϕq(τ)ϕq)⟩ (5.20) を定義する。電子との相互作用を無視した自由なフォノンに対しては運動方程式

[ ∂2

∂τ2 −ω2(q) ]

D(q, τ−τ)=2ω(q)δ(τ−τ) (5.21) をΓの運動方程式に代入することで

Γ(q,k, τ, τ′′, τ)=−

β

0

dτ1

α(q)

ND(q, τ−τ)

l,σ

clσ1)clqσ1)ck+q′′)ck)⟩ (5.22)

となる。これを電子のグリーン関数の運動方程式に代入して [

− ∂

∂τ −ξ(k) ]

G(k, τ−τ)=δ(τ−τ)− 1

N

q

β

0

dτ1α2(q)D(q, τ−τ1)∑

l,σ

T clσ1)clqσ1)ck+1)ck)⟩ (5.23)

を得る。ここで、平均場近似

l,σ

T clσ1)clqσ1)ck+1)ck)⟩

→ ⟨T ck+q)ck+q1)⟩⟨T ck1)ck)⟩

−⟨T ck+q)ckq1)⟩⟨T ck1)ck)⟩ (5.24) を導入する。ここで、異常グリーン関数

F(k, τ−τ)=⟨T ck)ck)⟩ (5.25)

5.4. 鉄系超伝導体のこれまでの理論研究 165

と、自己エネルギー、異常自己エネルギーを Σ(k,iϵn)= −kBT

N

q,m

α2(kq)D(kq,iϵniϵm)G(q,iϵm) (5.26)

(k,iϵn)= kBT N

q,m

α2(kq)D(kq,iϵniϵm)F(q,iϵm) (5.27) として方程式を書き直すと

[iϵn−ξ(k)−Σ(k,iϵn)]

G(k,iϵn)−∆(k,iϵn)F(k,iϵn)= 1 (5.28) [iϵn(k)+ Σ(k,−iϵn)]

F(k,iϵn)−∆(k,iϵn)G(k,iϵn)= 0 (5.29) となる。これら式(5.28)から式(5.29)の連立方程式をエリアシュベルグ方程式と いう。

自己エネルギーと異常自己エネルギーに含まれる相互作用項にはフォノン以外 にも複数のボソンによる影響が考えられる。上記のフォノンの理論を一般化して 書いたダイアグラムは図5.17となる。

= +

Σ(k)

+

∆(k)

+

Σ(−k) ∆(−k)

=

図5.17: エリアシュベルグ方程式のダイアグラム

このダイアグラムから、自己エネルギー、異常自己エネルギーを Σ(k,iϵn) = kBT

N

kϵn′

VΣ(kk,iϵniϵn)Gσ(k,iϵn) (5.30)

(k,iϵn) = −kBT N

kϵn′

V(kk,iϵniϵn)Fσ(k,iϵn) (5.31) と書きなおすことができる。2章においてラッティンジャー-ワードの汎関数Φ[G](式

(2.177))から自己エネルギーをグリーン関数の汎関数微分から求めることができた。

2章における結果を拡張して、異常グリーン関数を考慮したラッティンジャー-ワー ドの汎関数Φ[G,F]を用いて、自己エネルギーと異常自己エネルギーは

β δΦ

δGσ(k,iϵn) = Σσ(k,iϵn) (5.32)

β δΦ

δFσ(k,iϵn) = −∆σ(k,iϵn) (5.33) となる。超伝導転移温度付近を扱うだけならば、∆とFは微小とすることができ、

2次の微少量の項をなくすことができる。ここから、線形エリアシュベルグ方程式

(k,iϵn)=−kBT N

kϵn′

V(kk,iϵniϵn)G(k,−iϵn)G(k,iϵn)∆(k,iϵn) (5.34) が導かれる。

揺らぎ交換近似

自己エネルギーと異常自己エネルギーの有効相互作用VΣ,Vを揺らぎ交換近似 を用いて計算する。スピンシングレット対における異常自己エネルギーのバブル 型とラダー型のダイアグラムから得られた相互作用項Vは、自己エネルギーを求 めた方法と同様にして、図5.18より、

Vˆbubσσ¯ = Vˆ1Vˆ2χˆσσ¯Vˆ2Vˆ2χˆσσVˆ1Vˆ1χˆσσ¯ Vˆ1Vˆ1χˆσ¯σ¯Vˆ2 (5.35)

Vˆ = Vˆbubσσ¯ +Vˆlad (5.36)

となり、結果として1次を無視すると

Vˆ(k,iωm) = Vσσ¯ +Vlad

= 3

2Vˆs(k,iωm)− 1

2Vˆc(k,iωm) (5.37) より表され、Vs、Vcは式(2.207)(2.208)である。また、トリプレット対の場合は Vˆ(k,iωm)=−12Vˆs(k,iωm)− 12Vˆc(k,iωm)となる。エリアシュベルグ方程式を多軌道

5.4. 鉄系超伝導体のこれまでの理論研究 167

=

σ

σ

V σσ

bub

σ

σ

σ

σ

σ

σ

+ + +

+

=

V

σ σ

=

σ

σ

V lad

S^ S^

図5.18: 異常自己エネルギーのダイアグラム

に拡張すると、超伝導ギャップ関数も軌道依存の関数∆lm(k,iϵn)となり、松原周波 数を省略すると

µν(k)=−kBT N

k

l1m1

V∆µνµν(kk)Gµµ(k)∆µν(k)Gνν(k) (5.38) より表される。

計算上は

λ(T )µν(k)= −kBT N

k

l1m1

V∆µνµν(kk)Gµµ(k)∆µν(k)Gνν(k) (5.39) と、温度の関数として固有値λを求める。この値が1になった場合線形エリアシュ ベルグ方程式が成り立つため、この温度を超伝導転移温度と定めることができる。

固有値λは転移温度と正相関する関数になるため、物質ABの間でλA(T )> λB(T ) のとき、AのTc >BのTcと仮定することができる。低温での計算は1/(kBT )が大 きくなってしまうため、最大松原周波数を大きくしなければならない。また、低温 では解析に必要なエネルギー範囲にある状態の数が減ってしまうため、波数を多 くとらなければならない。このような理由から低温での計算は難しいため、ある

程度の温度における線形エリアシュベルグ方程式の固有値を比較することによっ て、転移温度の大小を定性的に決める(図5.19)。

λ

T

1

T A c T c B

A B

T

1

λΑ1) λΒ1)

0

図5.19: 超伝導転移温度と線形エリアシュベルグ方程式の固有値の関係

超伝導ギャップの対称性とフェルミ面の関係

従来型の超伝導では、電子-フォノン相互作用を媒介とした有効的な電子間引力 相互作用に起因して、スピン・シングレット対となる等方的なs波超伝導ギャップ が開く。しかし、反強磁性相やSDW相と隣接した超伝導相ではスピン揺らぎが大 きいと考えられ、スピンや電荷の揺らぎを媒介とした波数依存する有効的電子間 相互作用に起因した超伝導の可能性がある。そのようなペアリング相互作用を媒 介とした超伝導状態では、超伝導ギャップ関数が波数依存性を持った異方的超伝 導が実現しうる。ここでは、単純化のために1軌道でボゾンの松原周波数依存性 を無視し、銅酸化物超伝導体の最も簡単な模型である単一バンド正方格子ハーフ フィリングのハバード模型を例として、異方的超伝導ギャップとフェルミ面のネス ティングの関係について説明する。2.5.2項で述べたように、スピン感受率はネス ティングベクトルQ近傍で大きな値を持ち、電荷感受率はスピン感受率よりも小

5.4. 鉄系超伝導体のこれまでの理論研究 169

kx

ky

π

π kx

ky

π

π

kx ky

π

π

kx

ky

π

π

(a)

(c)

(b)

(e)

singlet s-wave

Q=(π,π)

singlet dxy-wave

+

+

+

triplet px-wave

+

singlet dx2-y2-wave (d)

kx

ky

π

π

+

+

図5.20: ギャップ関数の対称性の種類

さな値を持つ。この模型のフェルミ面は図5.20(a)で表され、ネスティングベクト ルはQ= (±π,±π)となる。スピン揺らぎを媒介としたペアリング相互作用はシン グレット対の場合式(5.37)で与えられる。このペアリング相互作用に起因した異 方的超伝導ギャップ関数の対称性は以下のように理解される。1軌道ハバード模型 ではχs≫ χcのため、電荷感受率を無視し、Uの1乗も無視すると

V(q)singlet ≈ 3

2U2χs(q) (5.40)

V(q)triplet≈ −1

2U2χs(q) (5.41)

と求まる。これは、シングレット対では斥力相互作用、トリプレット対では引力 相互作用となることを表している。シングレット対の方が絶対値が3倍異なるこ とから、1軌道ハバード模型の場合は必ずシングレット対が有利となる。

超伝導ギャップを計算する線形化エリアシュベルグ方程式は式(5.34)で表される が、グリーン関数はフェルミ面上で大きな値を持つため、波数の和をフェルミ面に 限定すると、式(5.34)の両辺に∆(k,iϵn)をかけ波数kで和を取り、∑

kFS(k)2で 両辺を割ると

1= −

k,kFSV(kk)G(k)G(k)∆(k)∆(k)

k∈FS(k)2 (5.42)

を得る。∑

k,kFSは波数k,kにおけるエネルギーがフェルミエネルギーだけのとき に和を取ることを表している。さらに、V(kk)のベクトルkkがスピン感受 率が発達するベクトルQに等しいときのみの項だけを計算する。

1=−

kFSV(Q)G(k+Q)G(kQ)(kQ)(k)

k∈FS(k)2 (5.43)

左辺は正の値になっていることから、必ず右辺は正とならなければならない。条 件として、フェルミ面ではG(k,iϵn)G(k,−iϵn)が必ず正になることから

V(Q))(kQ)(k)< 0 (5.44) が要請される。シングレット対の場合を考えると、V >0となることから、スピ ン感受率が発達するベクトルQをつなぐフェルミ面間では超伝導ギャップ関数の 符号が反転しなくてはならない。また、一般にフェルミ面上に超伝導ギャップの

5.4. 鉄系超伝導体のこれまでの理論研究 171

ノードが多い超伝導ギャップ関数の対称性は不利となる。さらに、パウリの原理 からシングレット対の場合には超伝導ギャップ関数には偶パリティが要請される。

よって、この要請を満たすもののうち、図5.20にあるdx2y2 波の対称性を持った 超伝導ギャップが最も有利な超伝導ギャップ対称性として現れる。

次に今の議論を多軌道に拡張する。多軌道において、電子間相互作用である軌 道内Uと軌道間Uの2つについて考える。式(2.159)で定義されるように、軌道 内相互作用Uは異なるスピン間に働く相互作用Sˆ、同スピン間に働く相互作用Cˆ のどちらに対しても斥力として働く。しかし、軌道間相互作用UCˆに対しては 引力として働く。そのため、電荷感受率(式(2.199))の分母における1+χ0Cˆがゼ ロとなり、電荷感受率が発散する可能性がある。これにより、軌道内相互作用が 大きい場合はスピン揺らぎが、軌道間相互作用が大きい場合は電荷揺らぎが発達 しやすい。スピン感受率が発達するベクトルは同じ軌道成分を持つフェルミ面の ネスティングベクトルとなる。このベクトル近傍においてスピン感受率が大きく なり、

max(χ0(Q) ˆS )→1 (5.45)

がスピン感受率が発散する条件となる。実験結果と比較するためにはχs(Q)の最 大固有値を見ることになる。例として、2バンド模型の図5.21のようなフェルミ 面を考えると、フェルミ面の軌道分布が異なる。各軌道分布におけるフェルミ面 のネスティングベクトルはこの例では(0, π)となり、偶然2つの軌道に対するネス ティングベクトルが重なっている。

多軌道ハバードモデルにおいては異なる軌道間の相互作用Uはスピンにより反 転しない行列部Cˆにおいてマイナスの符号であることで引力として作用するため に電荷感受率も発散する可能性がある。しかし、同軌道におけるクーロン相互作 用の方が異なる軌道間における項よりも大きくなる傾向があるため、スピン揺ら ぎの方がより大きくなりやすい。このときは斥力相互作用となるためスピン感受 率が発達するベクトルの始点と終点で超伝導ギャップ関数の符号反転が要請され る。そのとき、スピン感受率が発達するベクトルの始点と終点でバンドが異なる 場合があるため、符号反転として確認する場合は、超伝導ギャップもバンド間で反 転していなければならない。例としてあげたフェルミ面の超伝導ギャップはノード

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