RAGE
第二節 酸化ストレスによる変性アルブミンの
生成
試薬と実験方法
試薬
Nω一nitro−L−arginine methyl ester(L−NAME)、 streptozotocin(STZ)はSigma社よ
り購入した。テレピン油は関東化学工業より購入した。その他の試薬は本論文で 関連する各章において述べられている。
動物
Wistar系雄ラット (6週齢と6か月齢)を日本医科学動物資材研究所から購1入 した。ラットは前章と同様の方法で飼育した。
虚血性心疾患はNO合成阻害剤であるL−NAMEを飲料水(1mg/ml)として若 いラット(6週令)に与えることで誘導した(70)。この濃度では、L−NAMEの摂 取量は一日あたり25−40mgとなった。糖尿病は50 mMクエン酸ナトリウム(pH
4.5)に溶解させた339/1STZ(65 mg/kg体重(115))を腹腔内投与して誘導した。
急性炎症はテレピン油(5ml/kg体重(143))を背部皮下に投与することで誘導した。
内毒素中毒は前章と同様の方法で誘導した。
これら虚血性心疾患・糖尿病・急性炎症・内毒素中毒のラットは実験期間内で 最も重篤と思われる時期(内毒素中毒は1.5日後、急性炎症は2日後、糖尿病は
7日後・虚血性心疾患は10日後)に麻酔下で採血した。
チオバルビツール酸(TBA)活性
血液中のチオバルビツール酸反応物質(TBARS)測定はYagiの蛍光測定法に 従った(16g)。すなわち血液(50μ1)を0.9%塩化ナトリウム水溶液(1ml)と混 ぜた。600xg10 min遠心後,上清0.5 mlを4mlのN/12硫酸と0.5 mlの10%
phosphotungstic acidと混合した。この混合物を1,750 x gで10分遠心した。沈殿 に2m1のN/12硫酸と0.3 mlの10%phosphotungstic acidを加えた。混合物は1,750 xgで10 min遠心した。沈殿を超純水に溶解し、1mlのTBA試薬(0.67%TBA 水溶液と氷酢酸を等量(v/v)で混ぜ、酸化防止剤BHTを添加)を加えた。混合 溶液を1時間煮沸して、室温になるまで冷却した。反応溶液に5m1のn一ブタノー ルを加え、激しく混合した。1,750xgで15 min遠心後、 n一ブタノール層の蛍光強 度を1cm幅のセルと蛍光分光光度計を用いて25°Cで測定した。励起波長は515
nm、蛍光波長は553 nmに設定した。尚、本法は標準物質1,1,3,3−tetraethoxypropane で補正を行った。
native,化学修飾,生理的変性 (1)2・D3)アルブミンの調製
血清アルブミンの単離は前章に記した方法と同様に行った。精製アルブミンの
α一ヘリックス量は、native状態の目安となる67%以上(22)であることを確かめた。
精製率はSDS−PAGEにより測定後、95%以上のフラクションを分析に使用した。
化学修飾アルブミンであるホルミル化アルブミン(F−Alb)は堀内ら(62)の方法 に従って行った・すなわち精製したnativeアルブミン(4 mg/mlの8ml)を37%
ホルムアルデヒド溶液と最終濃度が20%(v/v)になるように混合して、1時間37°C でインキュベートした。インキュベート後はPBSで透析して、実験に使用した。
もう1つの化学修飾アルブミンであるマレイル化アルブミン(M−Alb)の作製法 は前章に示した方法と同様に行った。
尚、F−AlbとM−Albのフリー(未反応)のアミノ酸残基はTNBS法(40)により 算出した。アルブミン分子のアミノ酸残基におけるホルミル化とマレイル化の効 率はそれぞれ37.7と95.5%であった。F.AlbとM.Albのα.ヘリックス量は32.4
と31.4%であった。
D2アルブミンとD3アルブミンの単離は前章と同様の方法で行った。すなわち
Blue Sepharose CL−6B°Sephacryl S−300・DEAE Sephadex A−50のカラムで5種類の
酸化ストレスモデル(虚血性心疾患・糖尿病・急性炎症・内毒素中毒・加齢)の ラットからD2・D3アルブミンを単離した。単離したこれらアルブミンの立体構 造はCDとプロテアーゼ感受性分析で確かめた。リソソーム酵素群によるプロテアーゼ感受性
本章では生理的変性アルブミンが肝内皮細胞のリソソームで消化されるという 仮説に基づき、プロテアーゼ感受性の分析に用いる酵素は、前章で使用したトリ
プシンではなくリソソーム酵素群を採用した。
1)リソソームの単離
ラット肝臓からのリソソーム画分の単離はOhshitaら(111)の方法に従って行っ た。すなわち生理食塩水で肝臓を灌流後、0.25Mスクロースを肝臓の湿重量(5
g)の5倍量加えた。テフロンホモジナイザーを800rpmに設定し、灌流した肝 臓を7ストロークでホモジナイズした。540×9で5分間遠心し、上清に100mM 塩化カルシウムを1%となるように加えた。37℃5分間インキュベートし、12,000
×gで20分高速遠心した。沈殿に0.25Mスクロースを27.8 ml加え、穏やかに ピペッティングした。90%Percollを含む0.25 Mスクロース22.2m1にPercoll終濃 度が40%になるように懸濁液を加えた。47,500×gで30分間遠心後、沈殿の1 mlを回収した。更に120,000×gで1時間遠心後、中心付近にある白色層(リソ
ソームは1.084g/mlの位置)をパスツールピペットで1ml回収した。回収液に 0.25Mスクロースを5倍量加え、12,000×gで1時間遠心した。沈殿に0.5M酢酸
ナトリウム緩衝液(pH 5.0)を2.5 m1加え、ポリトロンホモジナイザー(pT1200,
KINEMATICA社製)でリソソーム膜を破壊した試料を、リソソーム酵素消化群と して使用した。Percollによる密度勾配の作成は密度勾配マーカービーズにより確
認した。
2)プロテアーゼ感受性
立体構造が変化したアルブミンのプロテアーゼ感受性はOhshitaら(110)の方法 に従って評価した。すなわち、超純水に透析した34μ1の各アルブミン(0.4mg/ml)
を34μ1のリソソーム酵素群(1.O mg/ml)で2時間37°C, pH 5.0で消化した。この
消化反応は・32μ1の酵素変性buffer(3%SDS,1.2%2−mercaptoethanol,2Murea,3 mM EDTA,0.17 M Tris−HCI, pH 7.8)を混ぜ、更に10分間煮沸することで止めた。
その試料をSDS−PAGE後Westem blot分析にかけた。抗nativeアルブミン抗体(1 次抗体)とFITC標識抗IgG (2次抗体)によって検出したオリジナルバンドの 蛍光強度はFluorlmager 595を用いて測定した。
結果
本章では内毒素中毒で発見した変性アルブミンが他の酸化ストレスモデルにお いても、普遍的に増加するかどうかを確かめる事を最初に試みた。この目的のた めに虚血性心疾患・糖尿病・急性炎症・内毒素中毒・加齢の5種類を用意した。
STZ投与1週間の血糖値は468±29 mg/dlであることから、糖尿病であると判断
した。
表3−2は、5種類の酸化ストレスモデルの血漿TBARSレベルが、若いコン トロールラットに比べて有意に高い(2.5−4.0倍)ことを示している。そして重篤 な低アルブミン症が虚血性心疾患・急性炎症・内毒素中毒で観察された。
血漿TBARSと総アルブミン濃度には負の相関(r=.0.94)が観察された(図3
−2A)。そこで特異的変性アルブミン抗体を用いて、変性アルブミンの出現を調 べた。native−PAGEゲルから転写した膜には2つの免疫反応アルブミンが検出さ れ(図3−1A)、その移動度(Rf値)はD2(0.39)やD3(0.26)アルブミンと 同じであった。D2様・D3様アルブミンのαヘリックス量は32−33%・−4−0%であ り、5種類のモデル問で有意差はなかった。ラット肝臓から単離したリソソーム 酵素を使って、単離したアルブミンのプロテアーゼ感受性分析も行った。
SDS.PAGEから転写した膜におけるオリジナルバンドは、2時間のインキュベー トでD2様アルブミンが54−61%、D3様アルブミンが31.36%分解されずに残った。
尚、プロテアーゼ感受性においてもモデル間で有意差は観察されなかった。これ
らのCD・プロテアーゼ感受性分析から、本研究でとりあげた酸化ストレスモデ ルには、普遍的にD2・D3アルブミンが存在していることを確かめた。
D2・D3アルブミンの血中濃度は5種類の酸化ストレスモデルで有意に増加し た (図3−1B&C)。 D2とD3アルブミンの血中濃度比はモデル間で差はあるも のの、およそD3アルブミンはD2の10倍である。
図3−2B&Cは血漿TBARSとD2・D3アルブミン濃度の相関性を示してい
る。D2アルブミンとTBARSの問には弱い正の相関(r=0.52)、 D3アルブミンと の間には強い正の相関(r=0.87)が観察された。
以上をまとめると、本研究で試験した酸化ストレスモデルにおいて、2種類の 変性アルブミン(D2・D3)の血中濃度が普遍的に増加した。
モデル TBARS (nmol m1) 総アルブミン(m ml) 体重 ()
コントロール (7週齢)0.42±0.07
50.6±4.3 253.3±2.3虚血性心疾患
1.67±0.14** 25,3±4.3** 235.3±6.4*糖尿病
1.12±0.10*** 35.6±3.7*222.3±55**
急性炎症
1.61±0.15*** 17.6±9.2*** 211.1±3.2***内毒素中毒
1.63±0.19** 27。0±4.0* 213.2±6.0**加齢(6か月齢)
1.03±0.14*** 43.2±0.2 526.0±17.2***表3−2
5種類の酸化ストレスにおける血中チオバルビツール酸反応物質(TBARS)、血 中総アルブミン、体重
虚血性心疾患・糖尿病・急性炎症・内毒素中毒を誘導する為にL−NAME, STZ,テレピン油,
LPSをそれぞれ投与した。サンプルはそれぞれの異なるストレス状態において、本実験で最 も重篤な時期に採血した。尚、投与後の採血日は、虚血性心疾患は10日目、糖尿病は7日目、
急性炎症は2日目、内毒素中毒は1.5日目である。加齢ラットとしては、何も処理していな い6か月齢を用いた。血中TBARSは蛍光法(169)、血中総アルブミンは抗ラットアルブミン 抗体とFITC標識抗IgGを用いて定量した。
値は平均値±標準誤差(n=3) *p<0.05,**p<0.01,***p<0.001vs. control.
(A)b]ot after native・tPAGE
1 2 3 4 5 6
鞍灘難黙
懸懸
鰹繋
懸醜
←D3
←D2
←Native
(B)1)2 albumin concentration
control
図3−1 5種類の酸化ストレスに
おける変性アルブミンの
血中濃度IHD
dial}etes acute inflamma重ion endotoxicosis aging
まずコントロールと5種類の酸化
ストレス(虚血性心疾患・糖尿病・急 性炎症・内毒素中毒・加齢)のラット から採血して、血漿をnative−PAGEで 分離した。泳動後のゲルはPVDF膜に 転写し、特異的M.Alb抗体により変性 アルブミン (D2・D3)を検出した。
パネル(A)はWestern blotプロフィ ールを示している。レーン1はコント ロール、レーン2は虚血性心疾患、レ
ーン3は糖尿病、レーン4は急性炎症、レーン5は内毒素中毒、レーン6 o O 04 0 08 0°12 0 16は加齢である。各バンドの蛍光強度は
D2 Albumin Concentration(mg/ml)
(C)1)3albumin concentration
control
lHD
diabetes 謎cute infiammation endotoxicosis aging
FluorImager 595を使って定量した。パ ネル(B)と(C)はD2・D3アルブミ ンの濃度をそれぞれ示している。サン プルはそれぞれの異なるストレス状 態において、最も重篤な時期に採血し た(表3−2参照)。
値は平均値±標準誤差(n=3)
* p<0.05, ** p<0.01, *** p<0.001 vs,
control.
0 0.4 0.8 L2 1.6
D3 Albumin Concentration(mg/m1)