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酒田 哲

ドキュメント内 30人合体.PDF (ページ 64-68)

金沢学院大学教授

大 転 換 期 に あ る 日 本 の 経 済 社 会

  日本は今、大競争時代の中にあって、情報革命や世界規模でのグローバリゼーションとロ ーカリゼーションの進展等により構造的な大転換を迫られている。それは、経済面ばかりで なく、社会・国民生活などすべての面でキャッチアップ型からフロントランナー型へのパラ ダイムシフトを意味している。変化を規定する主なキー・コンセプトは以下のようなもので ある。

成 長 志 向 か ら 発 展 志 向 へ の 座 標 軸 の 転 換

  経済の高度成長や都市のダイナミズムの要因をつくった、大量生産−大量消費−大量廃棄 という物質的満足度をひたすら追求した成長システムに変わって、市民の生活様式・ライフ スタイルや、自然との共生など都市環境・地球環境に着目した政策・制度の導入、また、市 民の帰属意識の源泉となるような質的向上を目標とした、クリエイティブでサステナブルな コミュニティの構築など、成長システムから発展システムへの座標軸の転換が急速に進んで いく。

主 役 は 「 地 方 」 な ら び に 「 地 方 都 市 」

  世界規模での高度情報化は、グローバリゼーションとローカリゼーションを進展させ、

「地方」や「地方都市」がこれからの経済社会の主役として登場する。これからの世界は、

各国の地方都市と地方都市との経済、社会、文化等のネットワークが集まって国レベルのネ ットワークが構成され、ネットワーク自体が世界規模で重層化していくと考える。

  そのため、地方都市にとっては世界規模のネットワークへ、経済的要素ばかりでなく、文 化、歴史、伝統を含めた非経済的要素をも取り入れた有益な情報が発信できるか否かが問わ れることになろう。また、地方の投資市場としての開放性、透明性など主としてソフト面で の投資環境の整備が進むか否か、国際空港を核とする地方都市の高速交通体系や情報通信網 などのハード面での整備による国際性や地方の一体性など、魅力ある環境整備が可能か否か が、主役となる地方都市の重要な課題となってくる。

産 業 社 会 に お け る 「 調 達 ・ 生 産 ・ 販 売 」 等 の 世 界 規 模 化 が 進 展

  これからの経済社会においては、情報通信技術の発達ばかりでなく、それに刺激されて運 輸・金融技術(EDI−電子データ交換、CALS−生産・調達・運用支援総合情報システム、EC

−電子商取引)等の飛躍的発展もあり、世界規模での経済、貿易、投資などの拡大がみられ、

資源配分の適正化が進むものと考えられる。 

  特に産業社会では、①資材調達や生産・販売のグローバル化、②対外直接投資の世界規模 での拡大、③世界規模での企業の戦略的提携の加速化、④国境を越えた地方都市での産業集 積の進展が進むだろう。つまり、企業の国境を越えた多国籍化が一層進展する。

  その結果、世界経済は、従来の国境を前提とした国民経済から、国境を前提としない「ト ランスナショナル・エコノミー」へと移行し国民経済、国民国家といった概念が希薄化し変 容していく。そして、国内総生産をベースとした成長概念から「国民生活の満足度水準」の 向上がより強く国民の意識の中に定着していくだろう。

情 報 革 命 の 進 展 に よ る 産 業 シ ス テ ム の 構 造 変 化

  20 世紀後半の高度工業社会における産業システムは、フォーディズムと呼ばれる画一化、

規格化による効率性の重視や、規模の利益を追求するため自己完結的な統合化の方向に企業 形態を移行した。しかし、その形態では今日の市場経済への対応が困難になり、大組織の非 効率性が顕在化しはじめている。つまり、自己完結的、自給自足的性格からくる巨大性と硬 直性による不経済の発生である。 

  換言すれば、かつて規模の利益を追求する手段の一つとして、従来の部品等の要素技術の 企業間取り引きを組織的に内部化し、生産工程の統合化とラインの一貫化を進めてきた。し かし、半導体等による生産技術の革新や、デジタル通信という技術革新によって、製品・サ ービスの生産工程の分離の可能性が拡大したことや、需要の多様化、要素技術の革新テンポ が早くなったこと等によって統合化や内部化のメリットが低下したのである。 

  企業が、ある特定地域に集積することによって外部経済が発生し、個々の企業、個々の生 産単位ばかりでなく、産業集積全体として集積のメリットを享受することが可能になる。そ れは、企業内部に蓄積された産業の要素技術が、集積地内部の企業間で利用されていくこと によって細かい分業が進み、また、要素技術の組み合わせが可変的で多様化することによっ て新しい需要に即応することも可能となる。したがって、異なった産業が一定の地域に集積 し、相互に分業によるサポートする体制が望ましいのである。

  このように21 世紀の産業システムは、これまでのように自己完結的な統合化の方向では なく、国境を越えた世界規模のネットワークに支えられながら、集積地内部のみでなく集積 地相互間の柔軟な分業体制を維持しながら、外部に開かれた柔構造の産業システムとして変 化していくだろう。

人 口 構 造 の 変 化 及 び 人 口 総 数 の 減 少

  日本の人口は、国立社会保障・人口問題研究所の低位推計によると総人口は 2004 年に 12,705 万人をピークに減少しはじめ、2050 年には 9,230 万人、2100 年には 5,088 万人に達 すると予測している。つまり、2040 年代には1年間に 100 万人位の人口が減少し、100 年で 半分程度になるということなのだ。 

  総人口に占める高齢者(65 歳以上)の比率は、1960 年の 6%から一貫して上昇し続け、

戦後のベビーブーム世代が退職年齢に達する 2020 年には 25%を超えると予想されている。

しかし、人口の高齢化はここでピークに達するというわけではなく、出生率が現在の水準か らさらに低下し続けると、低位人口推計さえも楽観的な数字となりかねない。 

  日本の人口高齢化は、先進国に比べはるかに急速に進んでいる。平均余命の伸びと出生率 の低下が人口高齢化の主な要因となっている。

  人口の高齢化は、労働市場に直接的な影響を与える。出生率の低下が若年労働者数を減少 させ、最終的には労働人口全体の減少をもたらす。また、人口構造の変化はマクロ経済の貯 蓄・投資に影響を及ぼす。つまり、労働力供給の減少により期待資本利益が低下するため、

民間投資が抑制される。また、就労者人口に対する退職者人口の比率が上昇すると、家計及 び政府部門の双方で貯蓄率の低下が現れる。

  人口高齢化は様々な影響を経済に与える。もし、高齢化がこのまま続くなら、経済の見通 しは極めて悲観的なものとならざるを得ない。しかし、例えば、高齢者や女性の就労率の上 昇、省力化技術の開発等市場メカニズムが働き、ますます不足する人的資源がより効率的に 活用され、経済的分配が改善されるなら、経済の質的低下が部分的に相殺されるであろう。

労働市場と産業構造の改革が人的資源の配分を改善する鍵となる。 

社 会 資 本 整 備 の あ り 方

  これまでのわが国の社会資本の整備は、社会資本ストックの絶対的な不足に対して、これ を量的に充足するためのものとして受け止め、中央政府の指示によって進められた。そのた め、機能性と効率性が重視され、利用者のニーズや利便性・文化性そして美観といった視点 は欠落していた。

  しかし、わが国も世界有数の経済大国になり、国民の価値観も中流意識の中で多様化し、

生活水準の高度化やライフスタイルの変化に対応した都市施設の整備などのニーズも増大 している。また、グローバル化に対応して世界の多くの市民やビジネスマンが国境を越えて 移動する時代に入っており、都市の文化的アイデンティティが問われようとしている。

  従ってこれからの社会資本整備は、これまでのプロダクト・アウトつまり、整備する方の 論理ではなく、マーケット・イン、つまり国際的な変化の動向や、市民のニーズにこたえる 利用者の視点に立って、地方自治体が整備の主体となって進められるべきであろう。 

グ ロ ー バ ル 化 に 対 応 し た 基 幹 施 設 の 整 備

  前述してきたように、世界規模での高度情報化はグローバリゼーションとローカリゼーシ ョンを進展させる。このため、わが国においては国土全体の戦略的配置を考えながら、太平 洋側、日本海側それぞれに、24 時間可動する国際空港の整備、情報ハブの構築、地域の一 体化を進めるための主要都市を結ぶ高速自動車道(特に太平洋側と日本海側を結ぶ横断道路 の建設)の整備が急がれねばならない。

ドキュメント内 30人合体.PDF (ページ 64-68)