奈良女子大学助教授
2050 年 ま で の 経 済 社 会 を 規 定 す る 重 要 事 項
地球環境問題、産業構造の変化、マーケットの重視など重要な問題は沢山あるが、2050 年を考えると、特に少子・高齢化及び人口減少が重要なキーワードだと考える。そして、日 本においては、人口減少と同時に急速なグローバル化も進んでいる点が他の国とは違う特徴 だ。
また、今後一番大きく変わるのは、人間の価値観だと思う。老若男女、障害者か健常者に かかわらず地域で通常の暮らしをするノーマリゼーションが重要なコンセプトになると同 時に、機会の均等という概念が重要になっていくと考える。
現在、これらの重要な事項が大きな変動期に入っており、うまく日本経済にとけ込めるか は、ここ 10 年ぐらいにかかっている。
また、日本経済の将来展望に関しては、構造改革が成功するか否かによって、いろいろな シナリオがあり得る。今の政府は失業を出さないことに重点を置いて、つぎはぎだらけの対 策を行っているが、一時的には失業を出してでも必要な構造改革は進めるべきだと考える。
ここ 10 年は大変でも、構造改革に成功すれば、3%程度の経済成長は維持していけるだろう。
機 会 の 均 等 と 年 齢 差 別
今後は価値観が変化し、働き始めてから再び大学教育を受けてまた働く等、我々の世代よ りもフレキシブルに生涯の時間設計をする人々が増え、社会の仕組みもそういう生き方に適 応すべく変化していく必要がある。産業構造も当然変化し、就業形態も既に派遣社員やパー トタイマーが雇用者の2割ぐらいを占めるまでに変化してきており、さらに多様化するだろ う。これに伴って、一つの会社に雇用期間の制限なく勤務し続けることを前提とした、現在 の社会保障制度や福利厚生制度も変えていかなければならない。
機会の均等に関しては、最近は男女の雇用機会の均等は認識されるようになったが、年齢 差別についても、これからの 10 年間で大きくクローズアップされてくるだろう。就業にお ける年齢差別は、高齢になって職を失うことよりも、むしろ採用の段階で頻繁に見られる。
求人の条件に 35 歳や 40 歳という上限年齢が目につくが、ごく一部の業種を除けば、年齢の 高低は労働生産性に関係なく、社会全体としては、仕事はできるのに年齢差別で職に就けな い人々の能力を無駄にしている。そもそも、こうした年齢による制限は差別であるというこ とに、まだ気付いていない人もいるのではないか。
将来的には年齢差別が完全になくなると楽観はできないが、人々の意識が年齢差別を否定 する方向に向かえば、少なくともアメリカやイギリスのように法律で禁止することにはなる だろう。
少 子 化 と 人 口 減 少
少子化の問題は、個人のレベルでは選択の自由だと考えるが、社会全体で考えれば、活力、
労働力の不足という弊害をもたらすおそれがある。少子化が進む理由の一つに、育児の機会 費用が高い経済社会になってしまったことが挙げられる。まだ正確な統計はないが、専業主 婦と一生働き続ける女性との出生率を比較すると、専業主婦の方が若干高い程度でさほど大 きな差はなく、仮に結婚している女性全員が専業主婦になったとしても、少子化は進行する だろう。
子供の人数に応じて保険料を低くする、税を控除する等のパッチワーク式の政策ではあま り効果がない。育児のための休暇制度の充実、保育所の整備など、子供を産んでも働きやす い社会環境や、専業主婦が自由に子供を預けることができる場所の整備を行うことが重要だ と考える。
人口減少への対策として海外から移民を受け入れる方法が考えられるが、移民を受け入れ た経験のある国の事例を見ると、文化的な摩擦が非常に大きく、コストもかかる懸念がある。
一方で、このような文化的な摩擦を避ける場合、例えば、留学で日本に来ている(文化面で の摩擦が少ないと思われる)人々に帰化してもらうという方法もあるだろう。都 合が良すぎ るかもしれないが、少なくとも帰化したがる人を拒む必要はない。
医 療 ・ 福 祉 関 連 産 業 の 発 達
高齢化社会になり、福祉や医療分野の産業が成長すると考えられる。この分野に関しては 雇用の拡大ばかりが注目されがちだが、むしろ、車椅子や介護機器、住宅用エレベーター等 の福祉機器関連の産業の成長に注目したい。こうした福祉機器関連のマーケットは、種類に よっては介護保険も適用され、2005 年頃には公的主体が貸与する仕組みでも 2 兆円、もし 個人で購入するようになれば 6 兆円の規模になると言われている。
現在、電動の車椅子やベッドなど高度な福祉機器はスウェーデン製のものが進んでいる が、これらは北欧の人の大きな体に合わせて作られているので、体も手も小さいアジアの人 には使いにくい。こうした福祉機器をアジア人向きに開発すれば、将来的には高齢化が進む であろうアジア諸国にも輸出し、経済や雇用を支えることができる可能性がある。福祉と言 えば、税負担の増加等マイナス面ばかりが強調されがちだが、世界中に売れる商品を開発す る好機と考えるべきだ。
社 会 資 本 整 備 の 現 状 と 課 題
社会資本整備については、分野によって様々で一概に言えないが、例えば道路については、
歩行者の立場から見て、都市部では場所によってはまだ不十分で歩きにくいと感じる。特に 東京のベッドタウンとして開発された地域では、住宅だけ先行して開発されたためか、道路 が狭い所が多い。もちろん、道路整備が進めばそれだけ車も増えるという関係もあり、都市 部での整備が必要といっても程度問題である。交通量の増加への対応としては、時間帯によ
って車の通行を制限する等の対策も必要だろう。
さらに、3 人に 1 人が高齢者という世の中を想定すると、空港が遠い、JR と私鉄の接続が 悪い等、交通網全体で見た時に不便な箇所が見受けられる。他には、社会資本の立地の問題 もある。例えば、老人ホームを建てる際、コストが低いからといって市街化調整区域内に建 設してしまうことがあるらしいが、ノーマリゼーションの観点からみれば得策ではない。街 並みに関しては、様々な高さの建物が混在しており非常に汚いので、ある程度規制を加えて でも、きれいな街並みを整備する必要がある。
また、公共事業の費用対効果分析を最初の計画段階からきちんとやるべきだ。アカウンタ ビリティの問題になるのかもしれないが、事業における様々なリスクを考慮したシミュレー ションを行った上で実行しなければならない。
財 政 と 公 共 投 資 の 関 係
大きく変化しつつある経済社会の流れを受け、財政のあり方も変化している。費用対効果 分析も含め、効率的な財政出動を行っていくことや、財投の改革も含め、財源面のブラック ボックス的だったものを明るみに出して合理的な判断ができるようにすることなどが重要 だが、いずれにせよ、現在は公共部門が縮小していかないと社会経済は活性化しないとの共 通認識があるだろう。
ただ、政府部門の縮小といってもさまざまな理由で限界がある。例えば、社会資本整備は もう十分だという意見もあるだろうが、国際競争力をつけ国全体の活力を高めるために必要 なものは、やはり今後も公共部門が関与するべきではないか。一方、老人ホームやケアハウ スのように、便益が特定され、経済のグローバル化や国際競争を意識する必要のないものに ついては、受益者負担の要素が強くなってくるだろう。
構造改革を進めるためにも、地方の雇用対策的な公共事業はやめ、本当に必要な社会資本 整備をやっていかねばならない。また、省庁の縦割りの関係で、同じ所に何本も道をつける 等、明らかにおかしいと思われる状況は改めなければならない。
集 中 と 分 散 、 過 疎 の 問 題
集中と分散に関しては、基本的に市場の流れによって決定されるもので、政策で誘導する のは限界があると考える。ただ、東京一極集中は緩和し多極化していくのではないか。また、
全体的に人口が減少する中で、地方圏においては都市部に人口が集中していくだろう。
歴史を振り返ると、町も隆盛と衰退を繰り返してきたのであり、今の地域構造が未来永劫 に望ましいということはあり得ないし、集中すべきか分散すべきかとか、理想的な国土構造 というものは答えが出ない。そういう意味でも、市場の流れの中で衰退していく地域もある だろうが、ある程度はやむを得ないのではないか。政策的にできることは、地方の中心都市 と周辺の過疎地域が広域的に連携できるようネットワークの基盤整備を行うことぐらいだ ろう。