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細田 衛士

ドキュメント内 30人合体.PDF (ページ 99-103)

慶應義塾大学教授

2050 年 ま で の 日 本 を 規 定 す る 重 要 な 要 素

地域環境、グローバル・コモンズ、高付加価値化、成熟化が重要な要素である。 

環境保全という制約条件の中で、付加価値の高いものを作って耐用年数を長くしていく ことが大切になってくる。例えば、建物は付加価値の高い貴重なストックであるべきだが、

現在の我が国の建物は付加価値が低く耐用年数は 30 年程度しかないため、フローのように 扱われてしまっている。これから、1970 年代に建設したものが一斉に取り壊される。その ような無駄はなくすべきだ。

また、GDP に占めるサービス業の割合が 60%以上になっている現在、単に GDP が増えれば よいとは言えず、人々がどれだけ満足感を得るかが重要になってきた。このような社会の成 熟化によって、人々のニーズの多様化に対応した高付加価値化が追求されるようになる。

なお、高付加価値化することは、いわば経済のギアをシフトするということであり、長 期的に見れば経済に悪影響はない。今の日本車の耐用年数は、ベンツや BMW に比べ短いが、

長くなっても困らない。

日 本 の 中 長 期 的 な 方 向 性

我々のライフサイクルや経済の方向性は短期的には、ロックインされてしまっていてす ぐには変更できない。例えば、二酸化炭素の排出量を減らさなければならないにも拘わらず、

人々が車を路肩に止めて長時間アイドリングするのをすぐに止めさせることは難しい。しか し、短期的な妥協を漫然とつなぎ合わせて経済の舵取りをしていくと、長期的にはとんでも ない方向に迂回してしまう可能性がある。長期のシナリオについての合意形成が重要だ。基 本的には、地域環境、グローバル・コモンズ、高付加価値化、成熟化に配慮した長期のシナ リオが、人々によって自然に選択されることが望ましい。 

地 方 へ の 分 散

東京一極集中は集積のメリットがあり、経済的にそれなりの意味がある。しかし、自然 環境、リスク、外部性等の問題も含めて考えると、やはりある程度の分散が必要だ。もっと も、どうすれば分散できるのかは難しい問題だ。例えば、交通網を発達させると逆に一極集 中を促進する可能性がある。

分散化を促進する要素の1つとして、規制緩和による外資系の企業の進出がある。外資 系の企業は、官庁とのコネクションをあまり重視しない傾向があり、彼らが立地にこだわら ないことによって、分散に良い影響を与える可能性がある。もう1つ、今後ますます重要に なる「静脈のロジスティックス」であり、インフラストラクチャーとしての、リサイクル施

設や再資源化物のストックヤードの地方立地による活性化が考えられる。

望 ま し い 地 方 都 市 の 将 来 像

人口 50 万人ぐらいの都市と郊外とが交互に存在し、かつ、これらの都市の間でうまく連 携がとれている状態が理想だ。例えば、文化的な施設も 50 万人の都市では成り立たなくて も、2 つの都市で一緒になればできる場合がある。

日本では地形の問題もあって、このような構造になりにくい。東京の場合、都市が広範 囲に渡って連続的に広がってしまっており、かつ、次の都市として静岡を考えると、今度は 1 時間ぐらいかかってしまう。しかし、例えば九州では割とうまくいっている例がある。宮 崎市はあまり大きい都市ではないが、30 分程度で日向や延岡にアクセスできる。

都市間のネットワークをもっと整備してそのベネフィットを享受できるようにすること で、地方都市のメリットを引き出すことが望ましい。

現在は、大部分の情報を東京が発信している。地方都市も情報を発信することができる ようになれば、もっとアクティブで魅力的になれる。例えば、北九州市は、かつて環境が破 壊されたが、今はクリーンな都市に生まれ変わった。そのノウハウを活用して東京とは違う 情報を発信し、アジアの人々等の関心を集めることに成功している。実際、学会等が盛んに 開催されている。

社 会 資 本 整 備 の 現 状 と 将 来

現状では、地方圏の整備が不十分だ。例えば、ベーシックなインフラストラクチャーに ついて考えてみても、下水道や短距離の交通手段の整備状況は、地方と東京で大きな格差が ある。静脈のインフラストラクチャーまで考えると、その差はもっと大きくなる。例えば、

ゴミの収集を民間に委託したときに、地方だと遠いところには収集に来ないとか、高い料金 をとられるということになると、ますます魅力がなくなり人口が減少する。

  これからの社会資本の整備について考えるとき、受益者負担を考えなくてはならない。し かし、全てそれで賄うのは無理で、ある程度税負担も考えなければならない。受益者負担の 部分と税金による負担の部分のすみ分けを明確にするべきだ。そのことについて国民の理解 を得ることが重要であり、どのような社会資本を整備すればどれだけお金がかかるかについ て等、国民ともっと対話すべきだ。

高 度 情 報 化

  単に情報化が進展すれば、東京への一極集中がなくなるとは限らない。ただ、コンピュー ターがもっとイージーアクセスになって、銀行の ATM のように本当に誰でも使えるようにな ってテレビのように一般的な存在になれば、一極集中が緩和する可能性はある。 

  医療についても在宅看護が増えてくるだろう。医師と情報のやり取りが十分にできれば、

患者が移動しなくても済むわけで、このようなインフラの整備は大事だ。

物 流 の 変 化

  今の物流はフロー経済に基づいたものとなっている。ジャストインタイムとか看板方式に よって在庫が減った分、道路の上を在庫が走り回っている。ストックがフロー化してしまっ ている。コンビニエンスストアの弁当にしても、必要以上の入れ替えがなされているが、便 利さではなく、もっと成熟化社会にふさわしい本当に味わえる食品の提供に力を注ぐべきだ。

ただ、米国式のライフスタイルが続くと難しいかもしれない。

産 業 構 造 の 変 化 と 地 域 経 済 へ の 影 響

  経費節減の観点からさまざまな製品の規格の統一化が進んでいる。例えば、CALS で、自 動車の部品が統一化されると、地球の裏側からでも一番有利なものを取り寄せることになる。

地方のどこかで優れたものがつくられていれば、それが使われることになる。

高付加価値化、成熟化の観点からは、多様化した個々のニーズへのきめ細やかな対応が 重要になる。例えば、スーツにしても、安価なものをいくつも所有するよりも、自分に良く あったものをひとつ仕立てることが優先されるようになる。技術的にも、CAD の発達により、

テーラーメイドのものもリーズナブルな価格で提供されるようになってくる。

標準化の傾向とニーズ多様化の傾向の軸が交差する点で、産業構造が決まる。その結果、

同種の商品を大量に製造する場合と違って、東京への集積のメッリトは薄れてくる可能性が ある。 

企 業 の 立 地 動 向

  規制緩和が進み、監督官庁に日参する必要がなくなってくれば、東京に本社を置く必要性 も減少する。官庁はあくまでもグッドコーディネ―ターとして調整役に徹し、民間は自己責 任を負うという流れが出てきており、本社集中は緩和される傾向にある。ただし、サービス 業については、それぞれ大都市に集積し、相互にロックインしている側面があるので、今後 も東京に集中せざるを得ない。

また、いわゆるベンチャー企業が地方に立地するケースもあるが、浮き沈みが激しく、

結局は大企業の傘下に入るケースが多い。地方での産業立地という意味では、むしろ、地場 産業のように地に足のついた産業の活性化を重視すべきだ。

環 境 問 題

  環境問題は今後の日本経済を左右する重要な問題だ。今まで、日本ではいわゆる動脈の経 済しか考慮してこなかったが、今後、環境問題に対応していく為には、いわゆる静脈の経済 に配慮することが必要だ。官も、動脈の政策だけでなく、静脈の政策をやらざるを得なくな

る。官が、長期的展望に立って、静脈のインフラストラクチャーをきちんと整備すれば、民 も安心して静脈のビジネスに進出できる。欧米ではそのような動きが始まっている。日本も 早くその方向に転換してロックインするべきだ。例えば、静脈側の再資源化物のストックヤ ードを国が整備してはどうか。先が読めないので民間は投資しにくい。分別したガラス瓶、

缶、鉄スクラップ等を一時置くストックヤードを国が整備して事業者にレンタルすれば、い ろいろな環境ビジネスが発生して大きな波及効果が得られるだろう。

日本も社会が成熟化して環境保護の重要性が認知されつつある。しかし、環境を保護し たいという需要はあっても、そこに資金を供給する仕組みが整備されていない。例えば、米 国では、NPO や NGO が非常に多くの会員を擁しているので、寄付が多く集まり、そこから環 境保護活動に資金が供給されている。また、有名なキーポン事件では、有毒物質で河川を汚 染した化学会社が、損害賠償の一環として環境問題に特化した財団の設立を命じられた。こ れは非常に大きな財団で、NPO や NGO に資金を供給している。

  日本も、環境問題に資金が供給される仕組みを整備する必要がある。また、いわゆる静脈 産業が成り立つような法整備も充実させていく必要がある。 

ドキュメント内 30人合体.PDF (ページ 99-103)