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自然資本への影響や依存度の価値は?

7.2 アクション

7.2.3 適切な価値評価方法を選択する

価値評価とは、特定の文脈において物事の重要性、値打ち、有用さを決定するプロセスである。この社会 的、経済的、あるいは環境上の文脈を理解することは重要である。これを理解していないと、価値を有意 に推計することも、結果を正しく解釈することもできない。必要な文脈情報のほとんどはステップ01から 06までで特定したが、この先へ進めていく中でレビューすることが重要である。

価値評価を簡潔に済ます方法として一般的なのが「価値移転」である。これは新規の分析のために一次デ ータを収集するのでなく、過去の評価の結果を使うというやり方である。価値移転は正確さや信頼性に劣 ることが多いため、この方法にはいくつか重要な制約があるものの、このショートカットを使って評価する 方が手間と時間がかからないことから人気が高い。価値移転についての詳細はボックス7.1に解説されて いる。

特定した各コストや便益に対し、価値を定性的、定量的、金銭的のどの観点から評価する必要があるのか に応じて適切な価値評価手法を選択する必要がある。

定性的価値評価手法 は、定性的、つまり数値以外の観点で表されるコストや便益の潜在的規模を伝え るために使われる(例:大気排出の増加、レクリエーションの社会的便益の減少)。

定量的価値評価手法は、これらコストや便益の指標として使う数値データに重点を置く手法である(

例:汚染物質の重量(トン)の変化、レクリエーションから便益を受ける人数の減少)。

金銭的価値評価手法は、コストや便益の定量的推計を共通の単一通貨に変換する手法である。

どの価値評価手法を選ぶかは、自然資本のどの影響要因や依存度を評価したいか、選択した価値視点(

ビジネスまたは社会、もしくはその両方)、評価の最終目的、そして使える時間とリソースに応じて決める。

それぞれの価値評価手法は、評価の精度、所要時間、コスト、目的の用途に適うかどうかという点から、ど こかで妥協することになるかもしれない。どの価値評価方法にも長所と短所があり(TEEB 2010)、一般 論として、まずコストや便益を特定して定性的に推計し、その後可能な場合は定量化、金銭化(貨幣価値 化)するという、順を追って取り組む実際的なやり方が推奨される(TEEB 2011)。価値評価を行ううえで 重要な妨げがあるとすれば、それは特に臨界閾値付近や、潜在的に回復不可能な生態系の変化が起こっ た際に、将来のコストや便益を把握しきれないことである。したがって、文脈によっては予防的アプローチ を取ることが望ましい(詳しくはボックス8.1を参照)。

・ス・スステステ用語ョン

表7.1に、一般に使われているたくさんの価値評価手法をまとめてある。これらの手法は、ほとんどのビジ ネス用途に関連する、自然資本のストックまたはフローにおける漸増的もしくは微小な変化の価値を評価 するために使われる。同じ手法は自然資本ストックの総合的(集合的)価値を評価するのに使うこともでき るが、これが必要になることは稀であり、追加の分析が必要になることもある。ボックス7.2で、定性的、定 量的、金銭的評価を通した自然資本ストックの価値評価について概説し、これら値のいくつかを求める際 に必要となる仮定に伴う問題を議論する。付録Bで、自然資本評価にそれぞれの価値評価手法を用いる方 法についてさらに詳しく紹介する。

注:手法を適用する際、それが実際的で適切かどうかに影響を及ぼすさまざまな要因を考えると、ここで は専門家の意見が役立つと思われる。

定性的、定量的価値評価手法はすべて、潜在的に3つのコンポーネント全部に適用可能である。

ほとんどの金銭的価値評価手法は3つのコンポーネントすべてに使用できるが、社会への影響を価値評価 する場合は、「支払い意志額」(willingness-to-pay:WTP)を導く方法(表明選好方法と顕示選好方法 を含む)の方が適していることが多い。

支払い意志額と財やサービスに対する市場価格はまったく別のコンセプトである。WTPはある財やサービ スに対し本人が支払う用意がある最高額である。これは個人の趣味と嗜好によって決まり、所得、つまり支 払い能力によって上限が決まっている。市場価格は財やサービスに対し実際に支払われる額である。これ は市場と制度的要因(例:市場構造と競争、規制介入、所有権等)によって決まる。WTPと市場価格の違 いを理解すれば、社会への影響を価値評価する際に本質的な見極めができる。

金銭的価値評価で重要な点として、二重カウントを避けることが挙げられる。これは、例えば最終的なコス トや便益だけでなく、中間のコストや便益を評価するときに起こりうる。例えば、販売されている自動車の 価格には車輪の価値が含まれている。ここで、車輪の価格と自動車の価格を両方バランスシートに記載す ると二重カウントになる。ただし、最近では生態系サービスの共通国際分類(Common International Classification of Ecosystem Services: CICES)や生態系の財とサービスに関する最終分類(Final Ecosystem Goods and Services:FEGS)など、生態系サービスの分類が進歩したことで、二重カウント を避けられるようになってきた(ボックス1.1と付録Aを参照)。

自社の評価にどの価値評価手法が相応しいかは、さまざまな要因に影響される。選択した範囲に対しどの 手法が最適かを決めるとともに、データの可用性、予算と時間の制約、どの程度までステークホルダーに参 画させるか、目的に対しどの程度の正確さを求めるかについても考慮する必要がある。例えば、定性的価 値評価手法は文脈の詳細と無形の価値を導き出すには良いが、数値の精度、サンプル内の差異の計測、

金銭的コストや便益に匹敵するような結果を提供することはない。

表7.1にこれら要因をまとめたので、ニーズに応じて適切な手法を選択する一助としてほしい。十分なデー タが存在せず、一次調査を行うだけの時間もリソースもない場合、最も費用対効果の高いやり方は価値移 転を使うことであり、そこから始めるのが一般的である。とはいえ、価値移転は一次的な価値評価ほど信 頼性が高くないため、結果を適用する際にはその点を念頭に置く必要がある(ボックス7.1を参照)。

用語集 価値評価手法

特定の文脈において物事の重要性、値打

表7.1は、時間と予算の3段階評価 ( ‒ / $ - $$$). も示している。表を使う際は、これらの評価 は必要なリソースの絶対量ではなく、あくまで相対的なものであることに留意してほしい。これらは、ある 状況において効果的に導入するのにどの手法がより少ないリソースで済みそうであるかを示すにすぎな い。

$や$$の評価を与えられた手法が詳細に展開される場合、より多くの予算が必要ということである。高予算 の手法では一般に一次データをより多く収集する必要があったり、自然資本や社会経済の変化をより詳細 にモデル化したりする必要がある。

注:ステップ03はどの価値評価手法が最適かを左右するため、このステップに戻り、計画上の課題をもう一 度参照すること。

表7.1さまざまな価値評価手法の主な特長

手法 説明 必要なデータ 想定期間 想定予算 必要なスキル 長所 短所

定性的評価

意識調査* 一連の質問(例:半構造化インタビュー)を通して見解を表現

するよう作られた調査 抽出枠を決めるためのステークホルダ

ー情報

数週間 - 数か月

$$

アンケート形式、インタビ

ュー 幅広い情報を集められるようオープ

ンエンド形式 あまり定量化できない。

結果が回答者の先入観に左右される可能性がある。

審議方式 ブレーンストーミング・セッション/ワークショップ/フォーカス・

グループ/徹底的な議論など、ディベートと学習を盛り込んだグ ループ・ディスカッションやフォーカス・グループの促進

抽出枠を決めるためのステークホルダ ー情報

数週間 - 数か月

$$

アンケート方式、 幅広い情報を集められるようオープ

ンエンド形式 あまり定量化できない。

参加者の代表的サンプルを入手するのが難しい。

結果が回答者の先入観とサンプル抽出に左右される可能性があり、 性質上、仮説に基づくことになる。

相対価値評価 入手できるデータと専門家の判断を使い、カテゴリーの点から 便益(やコスト)の相対価値を求めるため、高/中/低の値を使 う。

価値評価するすべてのパラメータに関 する情報

数日 - 数週間

$

分析 非常に広範囲に亘り、希望するあら

ゆるパラメータを含めることが可 能。

主観的になりがち

結果が回答者の先入観に左右される可能性がある。

定性的価値評価

構造化調査* 定量的価値を導き出すために構造化した調査やアンケートを 使うことができる。「非公開の」回答選択肢からなる一貫した 質問集を採用した1対1の調査(例:イエス/ノー、採点、数字選 択)により、統計分析が可能になる。

抽出枠を決めるためのステークホルダ ー情報

数週間 -数か月

$$

アンケートのデザイン、イン

タビュー、統計 より高いレベルの定量化を可能にす

る。 より広範な情報を捕まえる機会が減少する。

結果が回答者の先入観に左右される可能性がある。

指標* 大気排出、ヘクタール当たりの生産高、種の絶滅リスク、観光 客の数など、情報を定量化するためにさまざまな指標を使え る。

価値評価する全パラメータに関する情 報( 理想的には定量化した情報)

数週間

$$

分析、統計 非常に広範囲に亘り、希望するあら ゆるパラメータを含めることが 可能 。

関連する価値をすべて捕えられないことがある。

スコアリングと重み付け を使用した多基準分析

(MCA) **

一定のパラメータを選択し、ワークショップ、利用可能なデー タ、専門家の判断を使ってスコアリングと重み付けすることで その価値をレーティング、ランキングする。これは実際上の「価 値評価」手法であるスコアリングと重み付けである。

価値評価する全パラメータに関する情 報( 理想的には定量化した情報)

数週間 - 数か月

$$

分析、統計 非常に広範囲に亘り、希望するあら ゆるパラメータを含めることが可 能。

シンプルに維持可能 。

選択したレーティングおよびランキングへの感応度が高い。

過度に複雑になることがある。

金銭的価値評価 市場価格と金融価

格*** これは以下の複数の関連アプローチを含む。

市場で取り引きされる財とサービス(例:木材、炭素、水道 料金や汚染許可)に対して支払われるコスト/価格

その他の社内/財務情報(例:負債、資産、売掛金の推定さ れる金銭的価値)

市場データのその他の解釈(例:導出需要関数、機会コス ト、軽減コスト/回避行動、病気のコスト)

生態系の財やサービスの市場価格 生産物を加工して市場に出すためのコ

スト(例:作物) 数日 - 数週間

$

経済学者または計量経済

学者 市場データに基づくため、透過的で 擁護できる方法

実際の支払い意志額(WTP)を反映

財やサービスに対する市場が存在し、価格データをすぐに入手できる 場合のみ該当

市場価格は不完全な競争や政策の失敗により歪められているかもし れないので、社会的価値の良い評価基準ではない。

生産関数 (生産におけ

る変化) 市場で販売されている財やサービスのアウトプットにおける変 化を自然資本のインプット(例:生態系サービスの質または 量)における計測可能な変化に関連付ける、経験に基づくモデ リング・アプローチ

生産高の変更に関するデータ 因果関係に関するデータ(例:利用可 能な水の減少を原因とする作物の損

失) 数日 - 数週間

$

経済学(農学者、水文学 者、プロセス・エンジニア 等)

必要がデータがすべて揃っていれ ば、この手法はかなり簡単に導入可

自然資本への依存度を財務会計に リンク可能

自然資本における変化、生態系サービスや非生物的サービス、生産物 のアウトプット間の関係を認識、理解する必要がある。

自然資本における変化、生態系サービス、生産への影響に関するデー タを入手するのが難しい場合がある。