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自然資本の状態の変化を計測する

6.2  アクション

6.2.4 変化の計測方法を選択する

次に、さまざまな影響パスウェイと依存度パスウェイについて、自然資本における変化を計測または推計す るために最も適切な方法を選択する必要がある。さらに、該当する場合には、特に依存度を評価する際、

外部要因が自然資本に起こっているさまざまな変化に影響する可能性を判断する必要もあるだろう。

(6.2.4bを参照)

a.自然資本における変化を評価する方法

自然資本の変化を計測または推計する方法はたくさんある。自然資本における異なるタイプの変化を計測 または推計する方法について、表6.3にいくつか例を示す。この表には、変化を直接計測する方法とより大 まかで外観的な方法、推計またはモデル化の詳細な方法を掲載している。

どの選択肢が適切かは、どこまで詳細に行う必要があるか(もしくは与えられた時間と資源でどこまで行 うのが現実的か)と、検討している地理的範囲による。本書は包括的なガイダンスを提供するより、むしろ 評価の実施者がすでにある多数の方法から的確な情報をもとに自分自身で選択できるよう手助けするこ とを目的としている。ここでは主な方法の概要と、アプローチを選択するうえでの考慮点を説明する。

自然資本における変化を直接観察できない、もしくは計測不可能な場合でも、モデル化によって変化を推 計できることが多い(ボックス6.3を参照)。例えば、モデル化することで、サプライチェーンでの活動に伴 い自然資本にどのような変化が起こりうるか、それら活動の正確な場所を知らなくても推計することができ る。その場合、モデル化により分析に現地の知識を組み込み、自然資本の変化についてより的確な推計を 出すことができる。

社内で、あるいは専門家の手を借りて、自然資本における変化を推計するための適切な方法を選択できる よう、表6.3を参照しながら次の問いを考え、意思決定の一助にしていただきたい。

• 検討中の変化は直接計測可能か、それとも推計もしくはモデル化しなければならないか?

• 使える時間とリソースを考えると、目標を達成するのにどの程度の精度が必要で、またその精度を達成 できるか?

• 選択した方法は自社の文脈において外部圧力と自然資本における状態およびトレンドの定量的推計を 必要とするか、あるいは別の文脈から移転した推計を使っている場合、主な前提の定性的な確認を行う ことができるか?

• 地域の環境における変化を理解するためにどのような地域的/文脈的データが必要か?

• さまざまな方法を適用するうえで技術的に必要なことは何か?

・ス・スステステ用語ョン

表6.3自然資本における変化を評価するための計測および推計方法の例

自然資本の変化 直接的な計測方法 モデル化手法 モデル化手法-より詳細な方法 気候変動 N/A ‒現在の排出が将来の気

候変動につながる。モデル化す ることは可能だが、まだ起きて いない変化があるので計測は できない。

気候のモデル化は複雑な科学だが、IPCCは現在および将来の世界的/地域的変 化を特定できるよう、企業の評価に使えるいくつかのシナリオを公表している。

カスタムメードのモデル化も可能だが、ほとんどの企業にとっては費用対効果が 低い

土地被覆 植生の密度、年齢、種の分布、

その他の種を評価するためのト ランセクト法

土地被覆の変化の確率は土壌と雨量の データ、人間の定住とインフラ等から予 測できる。

土地被覆に関係する一定の変数(例:

炭素蓄積、一次生産力、水循環)を計 測・モデル化するためにリモートセンサ ーのデータを使用可能。

大気/水/土壌にお ける汚染物質の濃 度の変化

水、空気、土壌の質を直接計

ライフサイクル影響評価(LCIA)の資 料に、排出または資源使用(「基本フロ ー」と「廃棄フロー」)の結果として起こ る自然資本の変化を記述している「特 性化係数」がある。これら係数は潜在 的変化の一般的視点を提供するもので あり、富栄養化や酸性化といった地域 環境や社会経済学的状況を考慮に入れ ることは稀である。

化学物質の化学特性や生物物理学的 状態をもとに、さまざまな媒体における 特定汚染物質の残留と移動を考える一 連の運命モデルが利用できる。大気と 水については、ほとんどの方法は時間 と空間を通じた分散モデルを使う。土 壌への排出については、まず汚染物質 が土壌、空気、水中を移動するパスウェ イを推測することが必要である。

物理的水不足の変

再生可能な淡水貯水池を直接

計測する。 さまざまな地理的スケールで水ストレス 指数や水欠乏指数を利用でき、水消費 量の増加または減少後の変化を推計す るために使用できる。

水文モデルでは水循環におけるプロセ スを単純化して見ることができ、これら プロセスのバランスを変えることが各 部における水の可用性にどう影響する かを推計できる。

洪水の変化 洪水の頻度と実際の洪水被害 における変化を直接計測す る。

歴史的な洪水に基づくリスク評価 景観と気候予測の物理特性に基づいて リスク要因を計算するため水文モデル を利用できる。

浸食の変化 表土の消失と地域の水路の沈

殿を直接計測する。 特定タイプの土壌、気候、土地管理手 法について、公表されている要因に基 づく推計

地域の物理的景観特性、浸食につなが る水文系および気候系、ならびに擬人 化した要因とフィードバックを考慮に入 れたプロセス・モデル

漁業資源における

変化 漁獲量や生態学的調査方法に 基づく直接計測(種と場所によ り変動)

属データ入力による基本的な個体群動

態モデル 資源の一次データ、既存の圧力、個体

数回復統計に基づく個体群動態のより 詳細なモデル

注:観察された変化に寄与している行為者が企業だけでない場合、これらの方法には注意が必要である。

観察された変化に他者が及ぼす影響についても正当に推計することが重要である。

ボックス6.3自然資本における観察可能な変化と観察不可能な変化

影響パスウェイは、ビジネス活動とそれに伴う影響要因がどのようにして自然資本の変化につながるか を述べたものである。場合により、これらの変化は直接観察でき、(時間とリソースさえあれば)現地で 計測可能である。その一方で、自然資本における大きな変化が(人間でも機械でも)観察できず、直接 計測できないため、間接的に推計するかモデル化するしかない場合もある。変化を観察できない理由は 以下のとおりである。

タイムラグ – 例えば、高地に植林すれば土壌の浸食と下流の水域における土砂の堆積を抑えることは できるが、結果を観察できるようになるまで何年もかかる。

距離 – 例えば、プラスチック廃棄物は地球の反対側の海洋生物にも害を及ぼすが、そこで評価を行っ ている人たちはその影響の存在を知らない、あるいは認識していないことがある。距離の問題はサプ ライチェーンの上流で起こる影響にも当てはまる。変化が目に見えないからといって、それが重要でな いということにはならず、さらなる検討から除外してよいということにもならない。

複雑化要因 – 種の減少には多くの要因があるように(例:生息地の消失と分断、違法伐採、外来種の 侵入、他の種との競争、気候変動)、容易に判断できない複数の要因が絡み合っている場合、変化の 原因を特定の影響要因に求めるのは難しいことがある。

・ス・スステステ用語ョン

ボックス6.4では河川の例について全体的なプロセスを紹介する。なお、ボックス6.5は組織的フォーカスと バリューチェーンの範囲に関係して、選択した評価の対象範囲と対象項目に適用できそうないくつかの関 連ポイントを示す。

ボックス6.4 企業が川の淡水を使用する際の自然資本リスクを特定して、自社のビジネスに及ぼす影 響と社会に及ぼす影響のコンポーネントを通してこれらリスクを評価する例

ある企業が河川の水を使うと(a)、利用できる水の量は減少する。影響パスウェイにより水の流入に伴 う自然資本の主な変化と、河川と水辺の地域の淡水生態系における変化を特定した(b)。 気候変動と 需要の増大により、今後2、3年かけて利用できる水量が減少するものと予測される(c)。したがって、そ の企業は現在の変化と、その地域の気候変動に基づく将来予想される変化を両方理解したいと考えて いる(d)。

図は、ステップ05で特定した影響要因と、その企業の影響要因ならびに状態とトレンドに影響を与える 外部要因に関係する自然資本の変化を示している。それぞれの変化について、自然資本における変化を 推計し、それがどの影響要因によるものかを決めるための方法を特定する。

a)

ステップ05で計測し た影響要因

水利用量(m3) 河川流量や水深の 直接的な変化

河川内の推量の計 測、漁獲量データ から魚類量の推定

気候モデル、生態 系モデルによる将 来の変化の推定 競合者の需要の

増加 河川中に特定され

た取水点

渇水の増加 気候変動による降 水量の減少

年間通じて一定と 確認された取水

河川・水辺の生態 系機能や魚類の量

の間接的な変化 河川・水辺の生態 系機能や魚類の量 の間接的な変化 例、表流水の利用

b)

関連する変化の 特定

c)

状態と傾向の特定 d)

変化を推定する方 法の選択

図6.1影響要因と外部要因から自然資本の変化を特定する方法の例