自然資本の状態の変化を計測する
6.2 アクション
6.2.1 ビジネス活動と影響要因に関連する自然資本の変化を特定する
6.2.2 外部要因に関連する自然資本の変化を特定する。
6.2.3 自然資本の状態に影響を及ぼすトレンドを評価する。
6.2.4 変化の計測方法を選択する。
6.2.5 計測を実施もしくは委託する
6.2.1 ビジネス活動と影響要因に関連する自然資本の変化を特定する
このアクションでは、ステップ05で計測または推計した影響要因に起因する可能性の高い、自然資本の変 化(結果(outcome)ともいう)を考察する。
注:下記のいずれかの場合、このアクションを省いて直接6.2.2に進んでもよい。
• 自社のビジネスへの影響が、自社が社会に与える影響の大きさとは無関係である(例:多くの法規制や 税制は影響の社会的価値に基づいて決められてはいない)。
• 影響要因と自然資本の変化における関連性をすでに推計した、価値移転を含む他の調査を使っている
(例:公表されている多くのLCAデータが自然資本の変化を暗に含んでいる)。
• 自社が社会に与える影響が、自社が依存する自然資本になんら影響を及ぼさない(例:廃水の放出に起 因する人間の健康に及ぼす影響は、必ずしも淡水の利用可能性に影響しない)。
ビジネス活動に起因する自然資本の変化を評価するため、価値移転や公表されている影響要因を使って いる場合、自社のビジネスや目的のサイトと元のソース調査の場所や文脈との相違を調整できることがあ る。その場合、このステップを行うことで、そうした調整を行えるようになる。調整が不要な場合でも、自然 資本における変化を概観的に考察すべきである。これにより、ソース調査で説明されている自然資本の変 化のタイプや程度と、自社の評価における目的サイトで起こる変化との比較を確認できるようになる。
表6.1に、さまざまな影響要因に対する自然資本の変化の例をまとめた。直接、間接を問わず、多くの影響 要因が自然資本における複数の変化に結び付いていることに注目されたい。例えば、大気汚染物質の排 出は大気の質に影響し、人間の健康に影響を及ぼす可能性があるうえ、酸性雨を招いて結果的に生態系 と建築環境の両方に影響を及ぼす。
ステップ05で選んだ関連指標を影響要因の分類によってマッピングし、その結果として引き起こされる可 能性の高い自然資本の変化を特定すると便利である(表6.1参照)。
用語集
価値移転ある文脈で求めた価値を別の文脈に適用 する手法。双方の文脈が類似している、も しくは文脈の違いを穴埋めするための適 切な調整が行われていれば、価値移転に より価値の妥当な推計が得られる(ボック ス7.1参照)。
フレーム・ステージスコープ・ステージ計測と価値評価のステージ適用ステージ用語集オリエンテーション
表6.1さまざまな影響要因に対する自然資本の変化の例
特定の場所における指標 の例(ステップ05の指標を 参照)
影響要因の分類 影響要因の結果起こる特定の場所における自然
資本における変化の例
表流水からの取水量(m3) 水利用 物理的水資源の変化(季節変動する場合もある)
牧草地に転換された森林の
面積(ha) 陸上生態系の使用 野生生物の個体数、材木および材木以外の林産物
のストック、浸食制御機能の変化 ダムのために浸水した渓谷
の面積(ha) 淡水生態系の使用 さまざまな資本ストックと生態系サービスにおける
変化(例:野生生物、炭素隔離、洪水制御)
伐採されたマングローブ生態
系(ha) 海洋生態系の使用 漁業資源と生態系サービスにおける変化(例:高潮
からの保護)
大西洋タラの漁獲量(トン) 他の資源の使用 大西洋タラの資源量の変化(個体群の回復力を考 慮することもある)
大気中に排出された温室効
果ガスのCO2換算量(トン) 温室効果ガスの排出 CO2換算濃度の変化とグローバルな気候変動への 寄与度
大気中に排出されたPM2.5
の量(トン) 温室効果ガス以外の大気汚染物質 PM2.5 の濃度変化とスモッグの頻度/深刻度の高 まり
表流水に排出されたヒ素
(kg) 水質汚染物質 ヒ素の濃度変化と魚類の個体数の減少
土壌に撒かれた有機リン農薬
(kg) 土壌汚染物質 有機リン化合物の濃度変化と無脊椎動物の個体数
の減少 焼却された非有害廃棄物(ト
ン) 固形廃棄物 温室効果ガス、温室効果ガス以外の大気汚染物
質、陸上生態系を参照 通常の暗騒音レベルを超え
る騒音(デシベル) 騒音 営巣する鳥類の個体数や繁殖成功率の変化
自然資本における変化を考える際は、範囲ステージで下した決定をもとにする。これには自然資本のスト ックとフローどちらを重視するか、あるいは両方を重視するか(ボックス6.1参照)と、代替シナリオを評価 するかどうか(例:一定期間における純変化の評価についてはボックス6.2を参照)も含まれる。自然資本 における変化のうちどれを評価に含めるかの選択は、利用可能なデータ、追加データを外部委託またはモ デル化するコスト、適切な手法、評価に利用可能な時間その他の資源によっても決まる。
ボックス6.1 自然資本のストックやフローにおける変化を推計する
自然資本のストックとフローどちらを重点的に評価するかは、範囲ステージで特定した目的に応じて決 める。企業がこれまで実施してきた自然資本の評価はその大多数が主にフローを対象にしてきたため、
本書ではストックよりもフローの計測と価値評価についてのガイダンスをより多く提供する。
多くの場合、フローの変化を推計する方が簡単であり、その土台となる自然資本のストックにおける変化 を推計する必要もない。例えば、価値移転を使い、大気汚染の影響を概観的に評価する場合がこれに 当たる。
状況によっては、ストックの状態における変化を理解することが重要なこともある。具体的には、調達サ ービスへの依存度を評価したり、サイトレベルの生物多様性への影響を評価したりするときに、ストック の変化を直接観察できる(例:森林における立木の量)、もしくはフローから推測できる(例:2ヘクター ルの伐採で減少したストック)というケースである。
自然資本のストックと便益のフロー間の時間的、空間的つながりを明示的に考える必要がある。場合に より、フローはストックの変化とは異なる地理的または時間的スケールで起こる。例えば、炭素隔離の便 益は世界的に生じるが、炭素ストック(例:バイオマス)における変化は地域レベルで評価されることが ある。フローの推計に基づいてストックを価値評価する方法について、ステップ07で詳しく解説する。
ボックス6.2 一定期間における正味の変化を推計する
範囲ステージでは、ベースラインとシナリオの議論で自然資本における正味の変化の問題を取り上げ た。一定期間における自然資本の正味の変化を考慮した評価においては、さまざまなシナリオを検討す る必要がある。したがって、各シナリオに対しステップ05の個別のアウトプットを必要とし、そのアウトプ ットがステップ06にそれぞれのインプットを提供することになる。
これらのシナリオと並行して、各シナリオに表されている自然資本の変化それぞれについて、別々の前提 を考える必要があるかもしれない。例えば、さまざまな気候変動シナリオの下、自然資本における変化を 考える際には異なる前提が必要になる。このステップに対しては、目的のシナリオごとに分析を複数回実 行する必要がある。その後、シナリオごとの結果の差をもとに正味の変化を算出することができる。
フレーム・ステージスコープ・ステージ計測と価値評価のステージ適用ステージ用語集オリエンテーション