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目的を達成するのに適切なスコープは?

ボックス 3. 1 定性的、定量的、金銭的評価

本書において価値評価とは、特定の文脈において、人々(もしくはビジネス)にとっての自然資本の相対 的な重要性、価値、有用性を推計するプロセスを指す。価値評価は定性的、定量的、金銭的アプローチ と連続的に位置づけられ、それぞれが次のアプローチに寄与する。

定性的価値評価 は通常は記述的であり、より主観的な変化の認識に焦点を当てる。定性的価値評価は 一般にアンケート調査、審議会方式、専門家ヒアリングを通して行われ、影響や依存度についての予備 調査に便利である。金銭的評価が必要ない場合や、一部のステークホルダーが金銭的評価を受け入れ られない、もしくは解釈できないといった場合(精神的な価値など)には、定性的価値評価が唯一の選 択肢ということもある。定性的価値評価は、「高い、中程度、低い」、「はい、いいえ」といった言葉を使っ たり、決められたカテゴリーを使ってオプションをランク付けしたりすることで相対的価値を表現する。

定性的価値評価は、自然資本の変化についての物語や事例史、引用文、感情表現などの形を取ることも ある。

定量的価値評価は、影響や依存度の価値を貨幣以外の数値で表すことである。定量的価値評価は、文 脈を考慮に入れ理想的には影響を受けるステークホルダーを含めることで影響や依存度の重要性、価 値、有用性を扱うという点で、定量的計測(ステップ05)とは若干異なる。例えば、水不足に悩んでいる 地域で1日1,000m3の水を使う会社は、水に恵まれた地域で1日100,000m3を使う会社よりも他のステー クホルダーに及ぼす影響の価値ははるかに大きい。一般に、物理単位での定量的計測値(ステップ05の アウトプット)は定量的価値評価のための入力データとして必要であり、通常は金銭的評価のための必 須の情報である。影響や依存度の定量的価値評価は、例えばアンケート(例:環境の変化により影響を 受ける人数を算出するため)を使ったり、指標(例:障害調整生存年数(DALY))と指数(例:水利用を 水ストレス指数に関連付け)を適用したり、価値ベースの加重・スコアリング方法(例:多基準分析)を 用いて行われる。

金銭的評価は、特定時点や特定期間での影響や依存度における変化分の限界価値に関する情報を提 供するために使うのが最善である。金銭的評価は需給状態における変化の関数として価値のトレンドを 評価するためにも使える。金銭的評価に対する市場アプローチと非市場アプローチは両方とも、前者の 場合は市場において観察された価格を使って、また明示的な市場価格を持たない影響や依存度に対す る「顕示」もしくは「表明」選好メソッドを使って社会的選好を計測することを目的としている。金銭的 評価は以下を行う必要がある状況で特に有益である。

i. 金銭的価値(例:事業のコストや収益)と簡単に比較できるよう、米ドルやユーロなど共通の単位で 影響や依存度の価値を決める。

ii. 生態系や提供される非生物的サービスの質や量を変える介入の正味のコストと便益を決める。

iii. コストと便益が異なるステークホルダー間でどのように分散されているかを評価する。

iv. 潜在的な資金調達源や収益源の規模を評価する。

通常、自然資本インパクトや依存度の金銭的価値は高度な統計手法に基づいて算定され、資格を有す る専門家によって実施されるべきである。

表3.5には、目的に合わせて最も適切なタイプの価値評価を決めるための考慮点をまとめる。

表 3.5

価値のタイプを選択するときの主な考慮点

価値のタイプ 考慮すべき点

定性的 ‒ 定量的計測を行うにはデータが不十分な場合に適している。

‒ 多くの異なる影響や依存度がある、もしくはそれらについて多くの視点があるときに使いや すい可能性。

‒ 影響や依存度が強い道徳的または倫理的側面を持つ、あるいは重要なステークホルダーが 金銭的価値を受け入れがたい、もしくは解釈しがたいときに適している。

‒ 精神的、宗教的、審美的、レクリエーション、その他の文化的価値を評価するときに適してい る可能性。

‒ 定性的価値評価の一貫性を確保するのは困難であるため、通常は意味のある比較はできな い。

‒ アウトプットにはバイアスがかかっていることがあり、確認や再現は困難な傾向がある。

定量的 ‒ 物理的目標(例:炭素排出量の削減や廃棄物のリサイクル)に向けた進捗状況を評価するの に適している。

‒ 自然の尺度(例:水の体積)と意味を付加した尺度(例:生物多様性の価値が高い地域)に ついて計測可能。計測には直接的計測(例:魚類の豊富さ)や代理指標(例:魚類の豊富さ の代理指標としてのサンゴ礁の面積)が使える。

‒ 影響や依存度が強い道徳的または倫理的側面を持つ、あるいは重要なステークホルダーが 金銭的価値を受け入れがたい、もしくは解釈しがたいときにも適している可能性。

‒ 複数の影響や依存度の間で比較するのは困難な場合がある(例:水の体積と排出物の重量 の比較)。

‒ すべての影響や依存度を定量的に計測できるわけではない(例:精神的、宗教的、審美的、

レクリエーション、その他文化的価値、歴史的重要性、政治的安定)。

金銭的 ‒ 金銭的価値を正確かつ一貫性をもって推計すれば(厚生経済学や幸福の経済学の手法を 用いて)、それらの価値は幅広く比較でき、トレードオフの評価に役立つ有意義な情報とな るはずである(詳しくはボックス8.2を参照)。

‒ 意思決定(例:設備投資に関する決定)に必要となる、金銭的もしくは経済的価値を決定す るときに必須。

‒ 金銭的VaR(バリュー・アット・リスク)や(純)収益の変化を検討するのに有益。

‒ 特に新たに調査をしてデータを揃える必要がある場合、時間とコストがかかることがある。

‒ 低コストの金銭的評価手法がある(例:価値移転法)。

‒ ステークホルダーの中には、特定の便益(例:精神的価値)を金銭的に評価することを受け 入れがたい、もしくは解釈しがたいと考える人もいるだろう。その場合、金銭的評価の利点と 限界を説明する特別な努力が必要となるかもしれない。

出典: A4S (2015)

・ス・スステステ用語ョン

3.2.6 他の技術的問題(ベースライン、シナリオ、空間的境界、時間枠)を考慮 する

a. ベースライン

ベースラインは自然資本における変化を比較する基準となる開始点またはベンチマークのことである。ほと んどの評価では、有意な結論を導き出すには明確なベースラインが必要である。

ベースラインのタイプは評価の性質によって異なる。以下に例を挙げる。

• 一定期間における状況の変遷(今年の排出量を昨年と比較するなど)

• ある時点における自然資本の状態(例えばプロジェクト開始直前の大気汚染状況など)

• 特定の自然資本への影響や依存度のセクター全体、もしくは経済全体の平均レベル(例:業界ベンチマ ーク)

長期間にわたって評価を実施するときは(例:プロジェクトの影響を20年にわたって評価)、ベースライン がその期間でどう変化するかを考える必要がある。例えば、自社がプロジェクトを実施しなくても、自然資 本は他の圧力(例:人口の流入、気候変動、他のビジネスの影響)によって変化する可能性がある。自社の プロジェクトと無関係に起こる変化は、「ビジネス・アズ・ユージュアル」(BAU)または「将来予測」(どのみ ち起こると予想されること)とも呼ばれる。これらのトレンドを考えることで、プロジェクトを「実施する場 合」のシナリオと「実施しない場合」のシナリオを有意な方法で比較することができるようになる。

表3.6に、さまざまな評価対象とバリューチェーン・オプションのベースラインを選ぶときに考慮すべき点を 概説する。

表3.6ベースラインを選択する際の主な考慮点

コーポレート プロジェクト 製品

‒ ベースラインとして過去の年のデー タ、もしくは昨年の始めと終わりのデ ータなどがあり得る。

‒ ベースラインを財務報告や戦略的時 間枠と合わせると役立つだろう。

‒ セクター内とセクター間で)他社の実 績とベンチマークを行うとさまざまな ことが明らかになるだろう。

‒ プロジェクト・レベルの評価には、ベース ラインや代替オプション・シナリオが必要 になることが多い。

‒ オプションを1対1で比較したり、複数のオ プション同士を比較したり、また一つのベ ースライン・シナリオに対して一つまたは 複数の代替シナリオを比較したりでき る。

‒ プロジェクトのベースラインは、自然資本 のストック(程度と状態)を評価する詳細 な調査に基づいて設定されることが多 い。

‒ プロジェクトまたはサイト・レベルのベー スラインは、ある特定の時点(例:会社が そのサイトの支配権を得たときや、数年前 の過去の状態)のこともあれば、時間とと もに発展していくもの(通常は、「ビジネ ス・アズ・ユージュアル」のように徐々に変 化し予想できるもの)もある。

‒ 製品評価のためのベースラインの設定は難題 であることがある(特にライフサイクル評価ツ ールを使っている場合)。

‒ 製品のベースラインを設定する前に、他の同 様の評価をレビューすると良い。

バリューチェーン

‒ 細かくセクター分割された経済的な産業連関表を使えば産業界のバリューチェーンの構造について有益な情報を得られ、自然資本ま で拡張することでバリューチェーンに沿って自然資本への影響と依存度のバランスについても情報を得られる。

‒ バリューチェーン全体に適切なベースラインを確立するには、評価の対象とするバリューチェーンとベースラインとするバリューチェーン が地位的に同じ地域にあり、他の構造上も類似性を持つなど、単純化のための仮定を置くことが必要になる。

用語集 ベースライン

本書において、事業活動に起因する自然 資本の変化を比較対照できる開始点また はベンチマーク。