しかしながら、事例で見たごとく
KEDO
プロセスや六ヵ国協議におけるコミットメ ント問題を鑑みるに、アナーキーが生む不確実性による不信は根深い。この安心供与プ ロセスの完遂の困難さが結局、緊張状態の中にある国家を敵対国を抑止する手段の確保 へと誘うといえる。第
3
節 政策上の含意最後に、スパイラル・モデルの観点から冷戦体制崩壊後における米朝間の緊張形成要 因について事例検証をして得た結論および事例上、理論上の含意に基づき、政策上の含 意について検討したい。
前述のように冷戦体制崩壊以後における緊張形成要因は、米朝間に生じた誤認による 相手国の動機に対する認識のギャップが生じる過程で、相手国を差し迫った脅威と認識 し、合理性の変質が発生する点にある。換言すれば、米朝間の緊張はそれぞれの行動が 拡大的動機に基づくものであるとは言えないにもかかわらず、相手国がその拡大的では ない行動に対し拡大的であるという誤認が生じるに至ったがゆえに形成されてきたの である。これらを踏まえると、米朝間の緊張が緩和へ、そして緩和から解消へと向かう ためには相手国の動機に対する認識のギャップが極力生じない枠組みを確立し、誤認が 発生する余地を極力縮小することでフレーミング効果に伴う合理性の変質を予防する ことが効果的であると考える。
そのためにはまず、事例が示すように相手国の認識を顧みない一方的な抑止政策は米 朝間の認識のギャップを拡大させるのみである点を踏まえなければならないであろう。
特に北朝鮮は米国の抑止政策を拡大的動機の表象と認識しており、その認識が継続する 限り、唯一の対米抑止力である核保有への道を進み続けるであろうことが予見される。
そしてまたこの北朝鮮による核兵器開発の進展が米国の観点からは拡大的であると認 識されるならば、認識のギャップが拡大するだけでなく、ギャップの硬直化が懸念され る。特に北朝鮮は第
2
次核危機とイラク戦争以降、通常兵器では米国は抑止できないと 認識を強めたことで核兵器保有へと転換した経緯を踏まえると、北朝鮮に朝鮮半島の非 核化へと再転換させることは容易ではないと考える。さらに、一方的な抑止政策の応酬によって引き続き合理性の変質が起これば、米朝間 の認識のギャップは強まるばかりである。加えて、北朝鮮は朝鮮半島の非核化へ向けて 真摯な行動を見せるならば、協調政策を採るという米国による実質的な現状維持政策-
戦略的忍耐―に対しても、敵視政策の具現化であると認識し非難していることから、米 国の一方的な抑止政策および現状維持政策が米朝間の認識のギャップを縮小させる見 込みは少ないといえよう。換言すれば、米朝間の非対称性が解消されない間、協調政策
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以外に米朝間の認識のギャップを緩和しうる方策はないことが示唆される。
協調の枠組み設定にあたってはまず、米朝間の誤認を助長している事象、とりわけ不 可分性が重複している事象について精査し対策を立てることが不可欠である。事例を見 るに、米朝にとって不可分と認識され、かつ重複している変数としては①北朝鮮の核開 発に対する査察、②米韓合同軍事演習、③経済制裁、④核実験、⑤ミサイル/人工衛星 発射について米朝間のギャップが極力生じない枠組みが必要である。①は④に密接に関 連した変数であるが、これについては北朝鮮の原子力の平和利用の権利を認める範囲で 核施設の凍結、および査察・監視体制を構築しなければならない。
ここで注意点はこの査察問題において、平和利用すら認めないとなれば北朝鮮が自主 権と平等という不可分の権利の侵害と認識し、査察を拒否する公算が高いということで ある。ゆえにそれを認めるシグナリングとして軽水炉の提供あるいは軽水炉建設の容認 などが有効であろう。あるいは、軽水炉の代替となりうる
LEU
の稼働を核兵器の増産 につながらない範囲で認める必要があろう。これと引き換えに米国は最も懸念する核拡 散を防ぐために必要不可欠な措置、すなわち北朝鮮のIAEA
による監視装置および査察 官の復帰、そして通常査察を得なければならない。この次段階の措置として、北朝鮮の 包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)および原子力供給グループ(NSG)加盟問題が検討 されなければならないと思われる。上記においては、米印原子力協定および米・イラン 枠組み合意が前例となる。しかしながら、北朝鮮の
NPT
復帰については、非常な困難を伴うであろう。まず北 朝鮮は核実験を経た事実上の核保有国であることから、NPT に復帰するには①北朝鮮 による核兵器廃棄あるいは②NPT の改定もしくは例外を設ける必要があるが、この両 方の選択肢ともその実現の見通しは暗い。②については北朝鮮がそれ自体を拡大的動機の具現化と認識している点から、冷戦体 制崩壊直後のように中止するか、あるいは防御的・自衛的であると北朝鮮が認識しうる 範囲で行われなければならない(表
8-3
参照)。これにはまず第1
に、米朝韓間における 意志疎通手段の確保、第2
に演習の時期と場所についての配慮が必要である。また、北 朝鮮による核実験モラトリアムなどと米国が主導する米韓合同軍事演習の中止あるい は強度の低減とのバーターが有効であろう。③についてはそれが米国の対北朝鮮抑止の一部であることを踏まえると、米朝間の緊 張緩和の中で解決しうる問題である。つまり平和条約の締結、米朝国交正常化、不可侵 条約、先制不使用宣言(NFU)などの進展によって必然的に解決されていく。このために は④と⑤の問題解決が伴わなければならない。
まず④については朝鮮半島非核化に基づいた核実験モラトリアムの実行が必要不可 欠であるが、そのためには米国の上記変数における譲歩とともに安全の保障が必要とな ってくる。次に⑤についてはこれまでの事例が示すように、北朝鮮が宇宙の平和利用の
187
権利を自主権と平等に根ざす不可分のものとして捉えていることから、その権利を認め ロケットによる人工衛星発射については容認する一方、まず再突入体に関する実験をし ないという合意形成が必要であると考える。加えて、ミサイル技術の拡散を防ぐ目的で 米朝共同コミュニケ交渉過程において取り沙汰された北朝鮮による
MTCR
加盟も再度 検討される必要がある。またこれら措置に際し、北朝鮮側のミサイル・モラトリアムが 実施された場合、米国側にはMD
の縮小やINF
条約をモデルとした相互のミサイル戦 力を制限する条約の締結が求められる。とりわけ核抑止においては損害限定を目的とす る核防衛は攻撃優位状況を促進することを踏まえると、MD
設置範囲を必要最小限にと どめることは重要であろう434。また北朝鮮の核開発の自立性を踏まえると、リアシュアランスを提供し④におけるモ ラトリアムを引き出すことが喫緊の課題であるといえる。そもそも北朝鮮による核兵器 開発が格段の進展を遂げた事実は、米国の外科手術的オプションを持たない現状維持的 政策の限界を示唆している。北朝鮮の核開発への対処方法には以下の
3
つの選択肢しか ない:①核施設へのピンポイント爆撃などの外科手術的オプションを伴う強硬政策、
②リアシュアランスを提供する代わりに自主的な核開発モラトリアムを引き 出す協調政策、
③上記のどちらも完遂せず、北朝鮮の脅威に対する現状維持的政策、
であるが、これまでの事例で自制を見せてきた米国にとって、①の選択肢は依然採用 しにくいことには大きな変化はないといえる。かといって先述のように余分の安全(同 盟管理、対中抑止)を合理的に確保する点を念頭に置くと、北朝鮮の脅威が消滅しうる リアシュアランス政策への転換も容易ではないばかりか、その脅威認識により朝中関係 が堅固になりすぎるのも好ましくない。ここに米国における対北朝鮮政策のディレンマ がある。
こうして現在米国は③の選択肢を苦心しながら実行しているのであるが、この③では 北朝鮮の核開発は止められない。なぜならば、北朝鮮は核開発を自立的に進められる条
434 S. ボストルMIT教授とJ. ルイスコーネル大教授は、韓国にTHAADが配備された場合、そのシステ
ムは①北朝鮮だけでなく中国のミサイルを探知可能である、②北朝鮮ミサイルの迎撃は難しい、③軍拡競 争を招く点を指摘している。ハンギョレ新聞(2015年6月1日)「THAAD、中国発ミサイル3000キロ以上 探知…中国に脅威」、http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150601-00020855-hankyoreh-kr、アクセス日:
2015年6月3日。後にこの評価はF. コイル元国防総省兵器運用・試験・評価局長による同意を得た。ハ ンギョレ新聞(2015年7月6日)「米国防総省元高官、「THAADで北朝鮮のミサイル迎撃は困難」との分析 に同意」、http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150706-00021230-hankyoreh-kr、アクセス日:2015年7 月7日。