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によって、逆に攻撃優位の状況が緩和されうるのであった。この意味で、延坪島砲撃は 核抑止力を背景とした核使用のコミットメントの信頼性を高めるための合理的選択で あったとも解釈可能である。そして、上記のような核兵器能力を背景とした米朝の合理 的選択としての強硬姿勢による対立が確立されれば、一定の安定、あるいは均衡を生み だす状況―スタグ・ハント―が形成される可能性がある。

これらを考慮すると、延坪島砲撃は天安艦沈没事件に際し北朝鮮側に生じた心理的重 圧に起因し、また北朝鮮側における合理性の変質による先制攻撃誘因の発生が直接的に 証明されたものであると同時に、全面戦争への発展可能性を低く見積もる合理的誘因も 働いていた結果生じた事象であると考えられる。そして、合理的誘因が作用したとすれ ば、米朝双方が核抑止力を用いて対峙する中で延坪島砲撃が起きたことは、米朝間に「安 定-不安定のパラドックス(Stability-Instability Paradox)」が生じつつある可能性が 示唆される。

最後に第

3

次核危機がリアシュアランス・プロセスが欠如し、かつ核兵器開発が進展 した中で生じた危機である点を踏まえると、この緊張形成プロセスは北朝鮮の核開発に 対し完全に軍事利用であるという認識の下に進行した点が先の事例と比較して特徴的 であるといえよう。

3

節 小括

以上のように

2009-2013

年における緊張形成の過程を鑑みると、既存の

6

ヵ国協議 の破綻後、天安艦沈没事件という事象の浮上に端を発した緊張のスパイラルが強硬的シ グナリングや自衛的抑止行動-軍事演習、延坪島砲撃、ミサイル/人工衛星打ち上げ、

制裁、核実験-の浮上の連鎖によって加速したことが観察された。

この緊張のスパイラルの上昇を食い止めようと、米中が主導し

6

ヵ国協議に代わる新 たな信頼醸成プロセスが出帆、2.29合意に達することとなった。この

2.29

合意におい て米朝が双方の自衛的動機を相互確認したことで、

6

ヵ国協議の実質的破綻以後続いた 米朝間の動機に対する認識のギャップの拡大が止まり緩和へと向かっていくかに見え たが、北朝鮮の人工衛星打ち上げをめぐり米朝間の認識のギャップは再び拡大、その拡 大につれ緊張が強化されていった。

この第

3

次核危機形成プロセスを総じてみると、まず第

1

に米朝ともに制限がない拡 大的動機の具現化を示す証拠は観察されない。唯一延坪島砲撃については議論の余地が あると思われるものの、北朝鮮は延坪島砲撃はそれに先立ち行われた韓国軍による北方 限界線以北への砲撃に対する自衛的措置であると認識しており、また領土拡張などの現 状変更は行われていないことを踏まえると抑止のコミットメントの信頼性を上げるた めの強硬的シグナリングに分類可能である。

北朝鮮による核実験も相手国を害する制限なしの現状変更とはみなされない。核実験

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は米国も

2009‐2013

年の間に実施しており、かつ北朝鮮は

NPT

から脱退している状

況を踏まえるとその非合法性を一概に問うことはできないであろう。そして、北朝鮮は 米国が最も懸念する核実験に伴い進展した核技術の拡散を犯したという証拠の提示も これまでない。

これと関連して指摘しておきたいのは、米朝間に自制が観察されることである。北朝 鮮で言えば、まず北朝鮮が先制攻撃に言及した事実から抑止が効かない合理性の変質が 生じたとも見られ、実際に延坪島砲撃に及んだものの、核拡散やテロ行為およびテロ支 援といった実行しようと思えばいつでもできる状態にある拡大的行動を実行に移して いない点を鑑みるに、米国の抑止力によって北朝鮮が抑止されたという単純な論理だけ では説明がつかない。

この反面、米国がもしパワー・マキシマイザーであったなら拡大的動機の具現化の絶 好の機会であった延坪島砲撃事件を利用しないはずがなかった。しかしながら、現実に は米国は韓国による北朝鮮への報復のための攻撃にストップをかけたのである。これら の事実は米朝が自制をとりうるアクターであることを示していると言えよう。

また第

3

次核危機においては、とりわけ北朝鮮による

ICBM

獲得に近づく飛翔体発 射実験が米朝間の相手国の動機に対するギャップを拡大させる重要な変数となってい るが、これもまた拡大的動機に基づいているとは断定できない点には留意が必要であろ う。北朝鮮にとっては飛翔体の発射という行為は拡大的動機に基づかない現状変更であ ったが、米国からは拡大的動機に基づく現状変更と映ったことを直接的契機として、北 朝鮮による第

3

次核実験と米側の国連制裁、非常に強度の高い軍事演習という自衛的措 置―拡大的動機に基づかない抑止行動―の応酬がなされ、北朝鮮が先制攻撃に言及する までに緊張レベルが高まることとなった。いわば、この一連の危機形成過程では、抑止 モデルに基づく抑止政策が米朝間の誤認を助長したともいえる。

以上のように、第

3

次核危機緊張形成プロセスにおいても米朝間に①領土拡張などの 現状変更が観察されず、②NPR2010が指摘するような核拡散およびテロ行為、テロ支 援行為が認められず、③抑止政策が誤認を助長し、かつ④2.29 合意という協調政策に よって米朝間に緊張緩和局面が出現した危機である点を踏まえると、第

3

次核危機の形 成要因および経路は抑止モデルよりもスパイラル・モデルが主張する誤認に基づき説明 可能であると結論づけられる。ただし第

3

次核危機形成過程においては、その誤認をも たらした抑止行動は核抑止力を伴うものである点には注意が必要である。そして、第

3

次核危機以降、先の

2

度の核危機で見られたような安心供与プロセスが確立されていな いことを踏まえると、いまだこの火種はくすぶり続けていると指摘できよう。

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第 8 章 結論

これまで本論においては、米朝間の緊張が米朝一方の拡大的動機によって形成されて きたと主張する抑止モデルに依拠した分析に疑義を呈し、冷戦体制崩壊以後に生じた米 朝間の緊張形成における

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つの事例について、認知心理学的アプローチを採用したスパ イラル・モデルの観点から検証を進めてきた。この検証過程では、主に冷戦体制崩壊以 後に生じた米朝間の緊張形成において観察される誤認に起因して起こりうる相手国の 動機に対するギャップに着目した。

この検証の結果としては、冷戦体制崩壊以後から

2013

年までにおける米朝間の緊張 形成の事例中:

①米朝双方に現状変更を伴う拡大的動機の具現化といえる行動が観察されなかった点、

②現状変更を伴う拡大的行動が可能な場合にも自制するケースが観察された点、

③これらの拡大的であるとはいえない行動に対する米朝間の誤認により、相手国の動機 に対する認識のギャップが観察された点、

④米朝双方の抑止政策によって緊張レベルの強化が観察された反面、抑止行動の終わり と自衛的動機の相互確認を柱とする協調政策の遂行によって緊張緩和局面が現出した 点、を踏まえると、冷戦体制崩壊以後における米朝間の緊張形成においてはセキュリテ ィ・ディレンマの発生が認められるといえる。

したがって、冷戦体制崩壊以後における米朝間の緊張形成要因はスパイラル・モデル によって適切に説明可能であると結論づけられる。具体的には、冷戦体制崩壊以後にお ける米朝間の緊張形成を説明するにおいては、国家間の拡大的動機(DC>CC)のみによ るのではなく、自衛的動機(DD>CD)の存在を認めた相互認識作用(スタグハントおよび 繰り返し囚人ディレンマ)および心理的誘因に基づき緊張形成を説明しうるスパイラ ル・モデルが、拡大的動機のみに焦点をあてた抑止モデルよりも優位であると考える。

さらに言えば、スパイラル・モデルでは抑止モデルが十分に説明できない米朝間の緊 張形成の非合理的側面について、緊張形成要因は誤認により米朝間に生じた相手国の動 機に対する認識のギャップであり、それによって発生した失う不安を米朝双方が埋め合 わせようと威嚇や軍事力の動員をともなう抑止行動を連鎖的に実行する中、米朝双方あ るいは一方において差し迫った脅威に対する心理的重圧に起因し合理性の変質が生じ たことで、危機不安定性の浮上に至ったと説明することが可能である。上記の結論を踏 まえ、以下事例上、理論上、政策上の含意を記す。

1

節 事例上の含意

1

3

つの傾向による含意

これまでスパイラル・モデルの観点から冷戦体制崩壊以後における米朝間の緊張形成