この
2009-2013
年においては北朝鮮の核開発は核の「武器化」に向け着実に進展した。韓国国防部が指摘するように「2010年までは開発・実験水準であったが、2013年 現在にはいつでも核を武器化し、実際に使用しうる実際の脅威に発展した417」のである。
前述のように
2009
年11
月には先進的なウラン濃縮施設が稼働していることを示し、2012
年12
月の人工衛星打ち上げでは、米国本土に到達しうる核弾頭運搬手段の保有に 近づいていることを示し、2013
年2
月の第3
次核実験ではその爆発力は約7-12
キロト ン、つまりその威力は広島に投下された米国の原子爆弾に匹敵し、また小型化、軽量化、多種化が進んだことを示した418。
あと核兵器の武器化に残された課題は、核の小型化、軽量化と再進入体技術の確保で ある。まず小型化成功基準は
10kt
と言われていることから一定の小型化はすでになさ れたと思われるが、S. ヘッカーによると核ミサイルに搭載可能にするほどの小型化に は追加の核実験が必要あり、また再進入体(Reentry Body)の開発にも高度の技術と追加 実験が不可欠であると指摘していることから、現時点において北朝鮮が米国本土を直接 打撃可能な核ミサイルを保有している可能性は低い419。ただ2
度の核実験で核保有国と なったインドの例もあり、北朝鮮の小型化がすでになされている可能性も排除できない であろう420。いずれにせよ、2013年
3
月党中央委員会全員会議で採択された並進路線の具体的措 置として2013
年4
月の最高人民会議第12
期第7
次大会において採択された法令で核 抑止力とともに「核報復打撃力の質量的強化」を目指す意思が明らかにされ421、かつ同日本海側に配備していたノドンとスカッドの計7基を撤去している。朝日デジタル(2013年5月24日)
「北朝鮮、ミサイル7基も撤去 日米韓との緊張緩和模索か」、http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=2013 0524-00000003-asahi-int、アクセス日:2014年2月14日。またケリー米国務長官は2013年10月には 北朝鮮に非核化を条件とする不可侵条約締結の意思があることを明示したが、北朝鮮はこれを拒否した。
417 연합뉴스(2014年2月9日)「北 3차핵실험 1년…무기화 능력 보유 추정(北 3次核実験1年…
武器化能力保有推定)」、http://www.yonhapnews.co.kr/politics/2014/02/07/0505000000AKR201402071 68300043.HTML、アクセス日:2014年2月18日.
418 第3次核実験の爆発力について韓国国防省は6.7kt水準、ロシアは7kt、中国科学技術大学は12.2kt という分析を発表している。聯合ニュース(2013年6月20日)「中国科技大、北朝鮮3次核実験 地点、
威力確定」、http://www.yonhapnews.co.kr/international/2013/06/20/0601400100AKR201306200877 00097.HTML、アクセス日:2014年2月18日、アジアプレス・ネットワーク(2013年6月24日)「第3 次北核実験、広島燕麦に匹敵」、http://www.asiapress.org/apn/archives/2013/06/24113342.php、アクセス 日:2014年2月18日.
419 Bulletin of the Atomic Scientists (Apr. 5. 2013), op cit.を参照。再突入体実験については2012年12 月の飛翔体発射の際、弾頭実験を行っていたという情報もある。中央日報(2013年4月18日)「北朝鮮、
昨年のロケット発射当時に核弾頭実験(1)」、http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130417-00000006- cnip pou-kr、アクセス日:2014年4月18日。
420 백성원(2014年4月24日)「전문가 “북한 핵무기 소형화기술 이미 보유”」、VOA、http://www.
voakorea.com/content/article/1899777.html、アクセス日:2014年5月6日.
421 조선중앙통신(2013年4月1日)「자위적핵보유국의 지위를 더욱 공고히 할데 대한 법 채택 (自衛的核保有の地位をより強固にするための法採択)」、http://www.kcna.co.jp/calendar/2013/04/04-01/
2013-0401-030.html、アクセス日:2014年2月14日.核報復打撃の強化には、移動式ICBMの開発、
多弾頭化などが含まれると思われる。
167
大会では宇宙開発法も採択されていることを踏まえると、米朝間において新たなリアシ ュアランス・プロセスが機能しない限り、北朝鮮の核兵器開発は今後も継続されていく と思われる。
実際に同月
2
日には朝鮮原子力総局が並進路線に合わせてウラン濃縮工場の再整備 と6
ヵ国協議の措置として稼働が凍結されていた5MW
黒鉛減速炉の再稼働を含む核施 設における用途の調節変更に言及している422。事実2013
年9-10
月、北朝鮮において上 記の2007
年以来閉鎖していた原子炉を含む寧辺核施設の再稼働が捕捉されることとな った。この米朝間の信頼醸成が停滞する中で着実に進展した北朝鮮の核兵器能力は、北朝鮮 からすれば第
2
次核危機以来の米朝間の緊張緩和を目的として出帆した6
ヵ国協議とそ れに代わる信頼醸成プロセスが破綻する中で、第2
次核危機に起因して公的に開始した 核兵器開発―「自主と平等」を固守するための自衛的措置-を加速させることは当然で あると認識した反面、米国からすれば北朝鮮による核兵器保有は、安全保障・核不拡散・同盟管理のいずれの視点からも脅威の増大に他ならないと認識している。この北朝鮮に おける物理的能力の進展がもたらした相手国の動機に対する認識のギャップの拡大が
2009-2013
年における緊張形成の促進剤をなしている。ただ動機が不明な敵国の
ICBM
の保有は攻撃防御バランス上では攻撃優位の状況を 認識の主体に認識させるものの、第1
に核兵器保有は攻撃防御バランスにおいては防御 的と分類される事実、第2
にこれまで歴史上核保有国間の紛争は生じておらず、最後に 米ソ、印パが見せている相互確証破壊の安定性を鑑みると、北朝鮮の核兵器能力が確立 されれば安保的側面からは米朝間に危機不安定性が生じにくくなるといえよう。上記を踏まえると、北朝鮮による実質的な核保有が北朝鮮だけでなく、米国によって 共有されつつあることは注目すべき事実であろう。北朝鮮は
2012
年4
月の憲法改正に おいて自らを核保有国の地位にあると明記したが、3 度の核実験以降この認識は2005
年の時のような北朝鮮による一方的なものではなくなってきている。例えば、2013 年
1
月に行われた米上院公聴会でC.
ヘーゲル米国防長官は「北朝鮮 は脅威以上である。現実的な核パワー(a real nuclear power)であり、予想できない423」 と述べ、2013
年9
月にはF.
ローズ米大統領副補佐官が「北朝鮮はすでに核兵器を持っ ている424」と発言している。そして2013
年4
月に米下院公聴会において存在が明らか になり物議を醸した米国防省情報局(DIA)のレポートやクラッパー米国家情報長官の422 조선중앙통신(2013年4月2日)「조선원자력총국 현존 핵시설들의 용도 조절변경 언급 (朝鮮原子力 総局現存核施設の用途調節変更言及)」、http://www.kcna.co.jp/calendar/2013/04/04-02/2013-0402-020.h tml、アクセス日:2014年2月18日.
423 P. Weiss (Feb. 2. 2013), “Full transcript of Chuck Hagel hearing before Senate Armed Services Committee” , http://mondoweiss.net/2013/02/transcript-services-committee.html, accessed on Apr.
22nd. 2014.
424 朝鮮日報日本語版(2013年9月25日)、「『北は核兵器を保有』 米大統領副補佐官の発言が問題に」、 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130925-00000960-chosun-kr、アクセス日:2014年4月26日。
168
「北朝鮮はまだ実験していないが、移動式
ICBM
が初期実戦配備段階に入った425」と いう証言、米国防長官室が発行した「北朝鮮に関わる軍事・安全保障開発2013」の内
容を踏まえるに、その関心は北朝鮮による核保有を前提とした上で、米国に対する直接 的脅威となりうるか否かに移ってきている426。一方、以上のように北朝鮮の核兵器保有が現実味を帯びる中で、米国主導による
MD
開発および東アジアの同盟国―日本・韓国―への配備が一層促進されていった。具体的 にはこの間、米の地上配備型ミサイル防衛システム(Ground Based Interceptor:GBI) 導 入 推 進 と グ ァ ム へ の 終 末 高 高 度 防 衛 シ ス テ ム(Terminal High Attitude AreaDefense:THAAD)の配備、日米 MD
の実戦配備・訓練と2
基目の車載移動式X
バンドレーダー(AN/TPY-2)の配備がなされ、また韓国への
MD
配備についての議論が再浮 上していった。ま た
2012
年6
月 に は 日 韓 秘 密 情 報 保 護 協 定(General Security of Military
Information Agreement:GSOMIA)が締結の一歩手前で延期されるという動きも MD
と関連している427。この日韓
GSOMIA
の締結は、先に発効している日米GSOMIA
と韓米
GSOMIA
をつなぎ、米国主導ですでに日本に導入されているMD
とこれから韓国に構築されるであろう
MD
開発および配備に向けて必要不可欠なものであった。結局、この反故になった日韓
GSOMIA
は米国を仲介する仕組みを新たに設け、かつ協定では なく覚書という形態をとって2014
年12
月日米韓軍事情報包括覚書として成立するこ ととなった。先の事例でも述べてきたように、これら米国主導の
MD
開発・導入というファクタ ーは、北朝鮮の脅威に対する米国の合理的選択に作用してきたと考える。つまり北朝鮮 の核の脅威によって米国は失うものばかりではなく、それが維持されることによって得 るものも存在するのであった。それは、まさにMD
を通じての同盟管理および対中抑 止の進展であった。このMD
配備の進展に比例して、また北朝鮮の米国に対する脅威 認識も強まっていく428。425 NY Times (Apr. 11. 2013), “Pentagon Finds Nuclear Strides by North Korea”, http://www.nytimes.
com/2013/04/12/world/asia/north-korea-may-have-nuclear-missile-capability-us-agency-says.html?pag ewanted=all&_r=0, accessed on Apr. 11. 2014.
426 複数弾頭(MIRV)を装着可能な核弾頭開発の成功に加え、移動式かつ固体燃料を使用した11000km以上 の射程距離を持つICBMを保有した時、北朝鮮は米国の直接的脅威として定着化すると思われる。米国の 直接的脅威となるICBMについてはThe Voice of Russia(2014年10月11日)「新型ミサイルで国防力を 強化する中国」、http://japanese.ruvr.ru/2014_10_11/278534960/、アクセス日:2014年10月12日、を 参照。
427 ちなみに、中国はこの日韓GSOMIAに反対した。日韓GSOMIA調印1時間前に中国が韓国に反対の 意を表したことにより、韓国は調印をキャンセルしたといわれる。
428 MDに対する北朝鮮の脅威認識については조선중앙통신(2012年5月21日)「로동신문 미국의 신형요격미싸일시험발사놀음 규탄 (労働新聞 新型迎撃ミサイル試験発射遊びを糾弾)」、
http://www.kcna.co.jp/calendar/2012/05/05-21/2012-0521-009.html、アクセス日:2014年2月18日;
연합뉴스(2014年2月9日)「北 美 MD 체계 추진은 군비경쟁 몰아오는 범죄(北 米MD体系推進は軍備 競争をもたらす犯罪)」、http://www.yonhapnews.co.kr/northkorea/2014/02/08/1801000000AKR201402 08045500014.HTML、アクセス日:2014年2月18日.