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目次 1. 本調査の目的と実施方法

3. 諸外国の ICT 活用教育に関する権利制限規定及び運用実態等

3.4 韓国

3.4.3 運用実態

3.4.3.1 ICT 活用教育の概況

韓国政府は、1996年に「教育情報化促進施行計画」を発表し、学校情報化、デジタル教科書構 想、教員情報化研修を開始した。2007年には、国家戦略「デジタル教科書商用化推進計画」が発 表され、2008年から全国の小学校 20校を対象に実証実験が始まった。

2015年から全国の小学校・中学校・高等学校でデジタル教科書と紙の教科書の併用が決定して いる。韓国教育科学技術部(Ministry of Education, Science and Technology)の副大臣及びデジ タル教科書の特別委員会の下、韓国教育学術情報院(Korea Education & Research Information

257 가이드라인(ガイドライン) V-1 google翻訳(日本語)から要約

(http://gongu.copyright.or.kr/html/guideline/original/original_5_1.jsf参照)

258 가이드라인(ガイドライン) V-1 google翻訳(日本語)から要約。

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Service、以下「KERIS」という。)がデジタル教科書の開発プロジェクトの管理を担当している。

現在は、小学校、中学校(1、2年)の社会、英語、科学の3教科についてデジタル教科書が導 入されている。「教科用図書規定」において、教科書としてデジタル教科書も追加されている。

その他、大学入試対策のインターネット講義である「メガスタディ」259も盛んである。

韓国のeラーニングの市場規模は、2010年の2兆2,243億ウォンから2013年には2兆8,611 億ウォンに増加している。同期間における個人支出は1兆31億ウォンから1兆2,564億ウォン、

事業者の支出は9,631億ウォンから1兆2,842億ウォンに増加している。

(1) デジタル教科書発行者への支援260

KERIS は、国定教科書261、検定教科書262、認定教科書263それぞれの発行者対象の説明会を開

催し、現場適合性検討のための研究学校(初等学校8ヶ校)支援を実施している。

デジタル教科書技術審査業務マニュアル開発及び審査支援(主管は教育部及び韓国教育課程評 価院)を実施している。

図表 3-10 2014 年に発行されたデジタル教科書

区分 学校 学年 科目 冊数

国定 初等学校 3~4 年 社会、理科 8

検定 中学校 1~2 年 社会 5

認定 中学校 1~2 年 理科 8

(2) 大学情報化事業

KERIS では、大学講義の公開及び共同活用を通じて、高等教育の質の向上、及び知識共有の

推進を目指している。2012年には大学の講義情報のみならず、公共及び民間高等教育のコンテン ツまで収集範囲を拡大し、「高等教育教授学習資料共同活用サービス(Korea Open Course Ware、

以下「KOCW」という。)264」にて教育コンテンツの提供を開始した。

KERISは、翌2013年に、利用者アクセス拡大のために、モバイルサービスの高度化及び利用

便宜性を目的にKOCW のウェブサイトを改善した。また、国立大学を対象とした eラーニング 講義情報の収集システムの運営及び対象校の拡大を進めるとともに、メタデータ管理機能の改善 及びKOCWとの連携システムを構築している。

(3) 国家 e ラーニング品質管理センターの運営

国民が安心して活用できる良質の教育コンテンツサービスの確保及びオンライン教育産業の活

259 KOSDAQに上場しているインターネット専業の予備校Megastudy Co Ltdが運営している。

260 (1)から(3)までは、韓国教育学術情報院「2013教育情報化白書」p.6-7, 12, 18, 37より抜粋。

261 国定制とは、国家や地方政府で直接教科用図書を製作し、発行し、義務的に使用するようにする制度。小学校 の全科目と中学校の一部の科目が国定教科書であり、使用が義務付けられている。

262 検定制とは、民間が教科用図書を製作し、国家や公益機関が設けた基準に基づいて審査される制度。大部分の 中学校・高等学校の教科書が該当する。

263 認定制とは、民間が制作、発行した図書を国家や自治体で認定後、リストを作成し、学校で選択できるように した制度。検定教科書または認定図書については、それぞれの学校長が、複数の教科書または認定図書のなかか ら、教科ごとに1種類を採択、使用する権限と責任を有している。

264 Korea Open Course Ware:http://www.kocw.net.

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性化を支援するため、国家レベルでのeラーニング品質管理体制が運営されている。具体的には、

産業通商資源部所管の「eラーニング産業発展及び活性化法」による、eラーニング品質認証機関 の指定(2013年12月13日)やeラーニングコンテンツ品質認証の実施(457種)が実施されて いる。

(4) 韓国における MOOC の概況265

韓国におけるMOOCはまだ初期段階ではあるが、すでにKOCWを通じて、ほとんどの大学の 講義にアクセス可能となっており、放送大学266や遠隔大学(Distance University)、サイバー大 学も参加している。

ソウル大学やKorea Advanced Institute of Science and Technology(以下「KAIST」という。)

267をはじめとして、いくつかの大学が世界の主要な MOOC プラットフォームに参加している。

ソウル大学はエデックスと契約し講義を提供している。一方、KAISTはコーセラと契約し、講義 を提供している。

1) KOCW

2007年5月、KOCWが開始され、同年12月からは、国内一般大学及び遠隔大学で開発した高 等教育eラーニングコンテンツ、及び海外高等教育機関の講義資料を、国民が無料で利用できる サービスとして提供している。

2014年8月31日現在、国内の大学や研究所179か所、海外の機関11か所、合計190か所の 機関によって9,566個の講義と、24万4,539個の講義資料が提供されている。なお、モバイル講 義は279個が提供されている(図表3-11参照)。

本サービスはインターネットを介して大学講義を全国民に開放しているシステムであることか ら、MOOCとみなすこともできる。もっとも、①韓国人のみを対象としていること、②課程の修 了ではなく資料の利用に焦点を当てていること、③受講生とのインタラクティブな関係は想定し ていないこと、といった点から海外のMOOCとは異なっている。

図表 3-11KOCW で提供されている e ラーニングコンテンツ数(単位:個、2014 年 8 月 31 日現在)

区分 機関数 講義数 講義資料数

国内 179 9,210 121,513

海外 11 356 123,026

合計 190 9,566 244,539

なお、KOCWのサイトには、大学公開講義のための「大学公開講義著作権管理方案」及び「大 学公開講義著作権事例別ガイドライン」が公開されている。KERISが作成したこれらのレポート には、「大学公開講義の特性と著作権法上の争点」「大学公開講義の製作流通のための管理基準」

265 現代経済研究院「開放型オンライン大学 (MOOC)拡散の意味と示唆点」VIPレポート588号(2014.10.22)

から抜粋要約。

266 国立韓国放送通信大学(KNOU:Korea National Open University)は1972年に設立された。放送による講義 と全国各地の物理的キャンパスが結合した形態を採っており、TVによる放送講義と、放送講義をインターネット で提供するシステムを用いた遠隔講義を提供している。

267 大韓民国大田広域市儒城区に本部を置く国立大学。

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「大学において著作物を利用するための公正利用チェックリスト」「大学の著作権管理体制方案」

などが紹介されている。

3.4.3.2 権利管理団体の概要

KORRAがICT活用教育における著作物利用に関して補償金の徴収を行っている。図表3-12

に示すように、各分野の協会がKORRAの会員となっている。

図表 3-12 KORRA の信託契約一覧

区分 協会名

正会員 社団法人韓国文芸学術著作権協会 http://www.copyrightkorea.or.kr 社団法人大韓出版文化協会 http://www.kpa21.or.kr

社団法人韓国音楽著作権協会 http://www.komca.or.kr 社団法人韓国放送作家協会 http://www.ktrwa.or.kr 社団法人韓国学術団体総連合会 http://www.kaoas.or.kr 社団法人韓国シナリオ作家協会 http://www.scenario.or.kr 准会員 社団法人韓国音盤産業協会 http://www.riak.or.kr

社団法人韓国音楽実演者連合会 http://www.fkmp.kr 社団法人韓国映画配給協会 http://www.kmva.or.kr 社団法人韓国放送実演者協会 http://www.kbpa.co.kr

KORRAは、1,196の図書館と著作物利用契約を締結し268、417の大学と授業目的利用契約(す

べて包括方式)を締結している269。このほか、KORRAは、27カ国の権利管理団体との相互管理 契約も締結している。

3.4.3.3 著作物利用の許諾手続き

授業目的で著作物を利用した場合の補償金基準は、「授業目的著作物利用補償金基準」(図表 3-13)で規定されている。

ただし、著作権法第25条第4項により、「高等学校及びこれに準ずる学校以下の学校」におい ては、補償金の支払いが免除されている。したがって、著作物利用に関する契約は、専門大や一 般大等の高等教育機関のみが対象となっている。著作物利用の契約は、包括方式と従量方式が用 意されており、以下にその手続きを記す。

(1) 包括方式

①大学等の教育機関(利用者)がKORRAと契約を締結する。

②教育機関が補償金算定のための学生数を毎年3月末までKORRAに提出し、KORRAは学生 数を確認し確定する。学生数は4月及び10月の公示基準の在学生数(大学院生含む)の平均 値とし、卒業猶予者などを勘案して、5%の割引を一括適用する。

268 「저작물이용계약(약정)현황」、

http://www.copycle.or.kr/jsp/library/LibraryInfoCtrl.jsp?L=4&M=5&S=1&ACT_CD=MVW。

269 韓国教育開発院「2012教育統計年報」http://www.niad.ac.jp/english/overview ko j.pdfによると、韓国の高 等教育機関数は2012年で432か所である。

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③KORRA は確定された学生数及び文化体育観光部長官が定める基準により大学別の補償金を 算定し、教育機関の確認を経て確定する。

④KORRAは確定した補償金を教育機関に請求し、教育機関は請求日から1か月以内にKORRA に補償金を支払う。KORRAは徴収した補償金を著作権者に分配する。

(2) 従量方式

①大学等の教育機関(利用者)がKORRAと契約を締結する。

②教育機関が授業目的で著作物を伝送する場合、著作権法施行令第9条で定める複製防止措置 を取り、契約締結後1か月以内にKORRAの基準による検査及び確認を経なければならない。

算定装置の不備で著作物利用の内訳を確認できない場合には、契約に基づき包括方式による 補償金を支払わなければならない。

③教育機関は著作物利用内訳の確認のために、次の資料を提出しなければならない。

・利用内訳書270に記載されたオンライン利用著作物確認のための管理者アカウント

・利用内訳書に記載されたオフライン利用著作物のコピー

・教育機関の全体開設科目及び受講人数

・伝送に関連する補償金算定装置の認証のための資料

上記資料の虚偽の提出又は未提出により著作物利用の内訳を確認できない場合には、契約に 従い、包括方式による補償金を支払わなければならない。

④KORRA は教育機関の提出資料と著作物利用内訳書を相互比較し、文化体育観光部長官が定め る基準により大学別の補償金を算定する271

⑤KORRA は確定した補償金の確認を教育機関に要請し、相互検討後に最終確定する。KORRA は確定金額を請求し、教育機関は請求日から1か月以内にKORRAに補償金を支払う。KORRA は徴収した補償金を著作権者に分配する。

3.4.3.4 授業目的著作物利用補償金基準

「授業目的著作物利用補償金基準」(文化体育観光部告示)において、補償金基準が定められ ている。包括方式における一般大学の学生1人あたりの金額は年間1,300ウォン(約131円)と なっている。

※2014年の平均レート1ウォン=0.1006円で換算

図表 3-13 授業目的著作物利用補償金基準

授業目的著作物利用補償金基準(文化体育観光部告示第2014-8号2014.2.26一部改正2014.2.26 施行)

270 利用内訳書は毎月作成し、協会が指定するウェブサイトを通じて提出(前期分は7月末、後期分は12月末)

し、利用内訳書に記載された著作物のコピー(講義資料集、図書類の表紙、CD等は製作者情報の確認可能な部分 のコピー)を学期別に協会に提出することとなっている。

271 協会は教育機関の提出する内訳書およびコピーを確認し、補償金を算定する。著作物のオンライン利用内訳は、

内訳書およびオンライン管理者IDおよびパスワードを利用して確認する。確定された補償金は利用者である教育 機関との相互確認を経て、金額を通知する。