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目次 1. 本調査の目的と実施方法

3. 諸外国の ICT 活用教育に関する権利制限規定及び運用実態等

3.2 米国

3.2.2 教育に関する権利制限規定

米国著作権法においては、フェアユース(第107条)を設けて権利制限を行うほか、利用目的 に応じた個別規定による権利制限も設けられている。

個別規定による権利制限のうち、教育目的で著作物を利用する場合の権利制限規定を以下に示 す。

・第 110 条「排他的権利の制限:一定の実演及び展示の免除」

・第 118 条「排他的権利の範囲:非商業的放送に関する一定の著作物の使用」

現在の米国著作権法は、1976年の「Public Law 94-553, 90 Stat. 2541」(以下「1976年法」

という。)により抜本改正されたものがベースとなっている。2002年には、デジタル化の進展によ る遠隔教育に対応するため、Technology Education and Copyright Harmonization Act of 2002172

(通称TEACH 法。以下「2002 年改正法」という。)による改正がなされた173。2002年改正法

171 現在では、エデックス、Sipx、XanEdu3社が認可教材提供会社に認定されている

(https://www.copyright.com/content/cc3/en/toolbar/productsAndSolutions/MOOCs content licensing solutio n.html参照)

172 Pub. L. No. 107-273、§13301、116 Stat. 1758.

173 2002年改正法による改正に至る経緯は次のようなものである。

米国は、国土が広大であることから、古くから遠隔教育(distance education)が盛んであったが、1976年法に おいては、通信手段のデジタル化に対応した規定は設けられていなかった。このような事情を背景として、1996 年には、全米短大大学メディアセンターコンソーシアム(Consortium of Colleges and Universities Media Centers;CCUMC)により、「教育マルチメディアのためのフェアユースガイドライン」(Fair Use Guidelines for Educational Multimedia)が下院に提出された。あくまでガイドラインであり、法的な拘束力はないものである が、作成には出版社や放送局などのいわゆるコンテンツホルダーも交えて合意されたものであり、一定の意味が あるものと考えられる。

また、1998年にはデジタルミレニアム著作権法(Digital Millennium Copyright Act; DMCA)が制定されたが、

当該法律において、遠隔教育についての言及がされている(第403条)。当該条項では、DMCAの施行から半年 以内に、著作権局長がデジタル技術を通じた遠隔教育の推進について検討し、議会に対して報告すべき旨が規定

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による改正は、米国著作権法を抜本的に改正するものではなく、第110条(2)を刷新し、第112条 第(f)項を追加するというものである。

3.2.2.2 第 107 条「排他的権利の制限:フェアユース」

本条は、利用される著作物や利用形態を問わない、一般的な権利制限規定である。

フェアユースは権利制限の一般規定174であり、その適用の有無に関して予測可能性が十分では ない。そのため、各業界においてフェアユースについてのガイドラインが制定されており、教育 分野でもいくつかのガイドラインが制定されている。ガイドラインは、フェアユースの該当性の 判断における十分条件が示されたものであり、ガイドラインを充足しなければフェアユースに該 当しないという必要条件を示したものではないとされている。

まず、1976年にフェアユースが明文化されるにあたり、以下の2つのガイドラインが制定され ている。

①「非営利目的の教育機関において授業のために行う書籍及び定期刊行物の複製行為に関する ガイドライン」175

②「教育目的による音楽著作物の使用に関するガイドライン」176

①は、教育機関、著作者、出版社の代表らにより制定された、書籍や定期刊行物の複製(copying)

に関するガイドラインである。②は、音楽出版社と教育機関の代表らにより制定された、教育機 関における音楽利用についてのガイドラインである。

さらに、1981 年には、③の教育機関における放送の録画についてのガイドラインが教育機関、

著作権者、芸術家団体の代表らによって制定されている。続いて 1996 年には、④のe ラーニン グを対象としたガイドラインが教育機関や著作者、e ラーニング運営会社らによって制定されて いる。

③「教育目的のための放送録画に関するガイドライン」177

④「教育マルチメディアのためのフェアユースガイドライン」178

された。これを受けて19995月に著作権局より報告書 ”Rreport on Copyright and Digital Distance

Education”(U.S. Copyright Office, May 1999)が提出された。同報告書を踏まえて行われたのが、2002年改正法 による改正である。なお、2002年改正法の背景は、作花文雄「遠隔教育の進行と著作権制度―米国”TEACH ACT”

からの示唆と著作権制度の課題―」(コピライト 2005.12)に詳しい。

174 フェアユースは、基本的に以下の4要素を考慮して判断を行う。

①商用的か非営利的な教育かなどを含め、利用の目的や性質

②著作物の特性

③著作物全体との関連における利用部分の分量及び実質性

④当該利用による著作物の潜在的市場や価値に及ぼす影響

175 Guidelines for Classroom Copying in Not-for-Profit Educational Institutions with Respect to Books and Periodicals.

176 Guidelines for Educational Uses of Music.

177 Guidelines for Off-Air Recording for Educational Purposes.

178 “Fair use guidelines for educational multimedia”, http://copyright.lib.utexas.edu/ccmcguid.html.

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それぞれのガイドラインについての概要は、以下のとおりである。

(1) 「非営利目的の教育機関において授業のために行う書籍及び定期刊行物の複製行為に関する ガ イ ド ラ イ ン 」(Guidelines for Classroom Copying in Not-for-Profit Educational Institutions with Respect to Books and Periodicals)

(a) 制定年:1976年

(b) 制定主体:教育機関、著作者、出版社の代表ら (c) 概要:

本ガイドラインは、書籍や定期刊行物の複製利用に関するものである。ある一定の基準を 満たした場合には、教室で利用することを目的として、授業を受ける生徒の数を上限とする 複数部の複製がフェアユースとされる旨が定められている。その基準としては、「2,500語よ り短い小説、エッセイ等の散文は、全文。2,500語以上の散文であれば1,000語若しくは10%

(500語を下限)のいずれか少ない分量以内であること」といった分量に関する基準や、「す べての複製物に著作権表示を付すこと」、「教師個人の要望、発意により複製する場合である こと」、「許諾を受けることが不合理であるほど著作物使用の必要が時間的に切迫していると きであること」といった基準が設けられている。

なお、教育の過程で「消耗品」として利用される著作物を複製する場合、例えばワークブ ック、練習問題などの複製については、フェアユースに該当しないと定められている。

(d) ガイドラインの適用範囲について:

本ガイドラインの扱いが問題となった裁判例がいくつか存在するが、いずれも裁判所とし ては、フェアユースを判断する上で本ガイドラインが一つの指標になることを認めつつも、

本ガイドラインの規定から直ちにフェアユースの該当性を導くことができるものではないと している。(裁判例については、後述3.2.2.5参照)

(2) 「教育目的による音楽著作物の使用に関するガイドライン」(Guidelines for Educational Uses of Music)

(a) 制定年:1976年

(b) 制定主体:音楽出版社、教育機関の代表ら (c) 概要:

本ガイドラインは、教育目的における音楽著作物の使用に関して適用されるものである。本 ガイドラインにおいては、演奏以外の学術目的で、著作物の抜粋を生徒の人数分以下の部数に 限り複製することや、評価等の目的で、生徒による演奏を録音・録画したものを複製し、教師 等が保管することなどがフェアユースに該当する例として挙げられている。一方で、演奏目的 での複製や、購入することに代替する目的で行う複製、出所表示を付さない複製などが禁止さ れている。

(3) 「教育目的のための放送録画に関するガイドライン」(Guidelines for Off-Air Recording for Educational Purposes)

(a) 制定年:1981年

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(b) 制定主体:教育機関、著作権者、芸術家団体の代表ら (c) 概要:

本ガイドラインは非営利の教育機関による放送の録画(recording)について適用されるもの である。本ガイドラインにおいては、放送番組を録画し、45日間にわたり保管することができ ることが定められているほか、使用回数を教師1人につき原則1回までとすること、録画物に 著作権表示を含むことなどの制限が定められている。

(4) 「教育マルチメディアのためのフェアユースガイドライン」(Fair Use Guidelines for Educational Multimedia)

(a) 制定年:1996年

(b) 制定主体:教育機関、著作者、出版社、eラーニング運営会社、著作権管理団体、映画協 会、レコード会社の代表者ら

(c) 概要:

本ガイドラインは、教師及び生徒が作成する教育的マルチメディア作品における著作物使用 を定めるものである。本ガイドラインで言われる「教育的マルチメディア作品」とは、「教師や 生徒のオリジナルの作品と動画、音楽、文章、画像、図、写真、デジタルソフトウェア等の形 態の複数の著作物を結合したもの」と定義されている。

本ガイドラインにおいては、作品の制作の準備段階、使用段階などに分けて、権利制限され る場合が規定されている。使用段階における権利制限の例としては、教師が作成目的となった 授業において実演し、展示すること及び生徒が後に就職面接や卒業面接で自らの学業実績の一 例として私的利用(personal use)すること等が挙げられている。

3.2.2.3第 110 条「排他的権利の制限:一定の実演及び展示の免除」

本条は、第106条(4)ないし(5)に規定された実演権、展示権に対する権利制限を規定する。教育 に関連する規定は、対面教育活動に関する第110条(1)、送信を手段とする実演・展示に関する同 条(2)、非営利の実演に関する同条(4)、障害者向けの実演に関する同条(8)である。

(1) 第 110 条(1)「対面教育活動」(face-to-face teaching activities)について

第 110 条(1)は、教師又は生徒(instructors or pupils)が、非営利教育機関(a nonprofit educational institution)の対面教育活動の過程で教室又は教育にあてられる同様の場所で行う著 作物の実演(performance)又は展示(display)についての権利制限規定である。

本条により権利制限の対象となる典型例としては、教室における、教科書に掲載された著作物 の音読、音楽の授業での楽曲の演奏が考えられる179

対象は非営利の教育機関であるため、営利目的の語学学校やダンススタジオなどは本規定の適 用外であるとされている。また、「対面教育活動」の要件は、教室の外へ放送等の送信が行われる 場合を除外することを意図した文言であり、マイクの使用やプロジェクターで画像を映すなど、

179 下院報告No.94-1476、82頁。