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目次 1. 本調査の目的と実施方法

3. 諸外国の ICT 活用教育に関する権利制限規定及び運用実態等

3.5 フランス

3.5.3 運用実態

3.5.3.1 ICT 活用教育の概況

2003年に教育省により、教育におけるデジタル環境整備の推進を目的とした「デジタル作業空 間(Espaces Numériques de Travail、以下「ENT」という。)」が開設された。ENTは学校活動 に関連する一連のデジタルサービスに教員や生徒がアクセスできるようにするインターネットの

280 データベース指令72項(a)で「手段形態を問わず、永続的又は一時的にデータベースのコンテンツの全部 又は実質的な部分を他のメディアに移転すること」(the permanent or temporary transfer of all or a substantial part of the contents of a database to another medium by any means or in any form)と定義される。

281 データベース指令72項(b)で「複製物の配布、貸与、オンライン又はその他の送信の手段によって、形態 を問わず、データベースのコンテンツの全部又は実質的な部分を公共に利用可能にすること」(any form of making available to the public all or a substantial part of the contents of a database by the distribution of copies, by renting, by on-line or other forms of transmission)と定義される。

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教育ポータルで、生徒のデジタル教科書へのアクセスも計画されている。2009 年度には、69 校 の中学 1 年生を対象として、電子教科書の導入実験を開始した。導入実験の成果を受けて 2011 年から全国で電子教科書の正式な導入が開始された282。現在、アンジェ市をはじめ各自治体によ ってiPad等が生徒・学生に配布されるなど、教育のデジタル化に向けた取り組みは、今後、さら に拡大していくと予想される283

3.5.3.2 教育活動において著作物を利用する際の権利管理団体との合意について

フランスでは、著作物の種類ごとに国、教育機関、及び各業界の権利管理団体との間で、教育 目的で利用可能な著作物の範囲を決める合意が形成されている。合意された覚書には、第122の 5条第1項第3号(e)によって使用可能な限度を示すことを目的とした規定と、同条により使用 できる範囲を越えるものについても条件付きで許諾することを目的とした規定の両方が存在して いる。

(1) 本、楽譜、定期刊行物、芸術作品

教育活動において説明の目的で使用する本、楽譜、定期刊行物、芸術作品については、教育省、

大学学長会議、書籍に関する権利管理団体Centre Français d’exploitation du droit de Copie(以 下「CFC」という。)、楽譜に関する権利管理団体Société des Editeurs et Auteurs de Musique

(以下「SEAM」という。)、美術著作物に関する管理管理団体société des Arts Visuels(以下「AVA」

という。)との間で、2014年11月6日に2014年から2015年末までの期間の合意を定めた「教 育及び研究活動における説明の目的による本、出版された音楽著作物、定期刊行物、視覚芸術の 使用に関する覚書284」が成立している285。当該覚書は、幼稚園、初等教育機関、中等教育機関及 び高等教育機関における著作物の利用を対象としたものであり、第122の5条第1項第3号(e)

により使用可能な範囲と同条の適用外での利用で許諾される条件等を定めている。

なお、CFCは映画、テレビ番組などの視覚芸術、オペラ、ミュージカルなどの演劇芸術に関す る権利管理団体Société des Auteurs et Compositeurs d’œuvres Dramatiques(以下「SACD」

という。)が管理している著作物についても、管理委託を受けている。同様に、AVA はグラフィ ックアートと造形芸術についての権利管理管理団体Arts Graphiques et Plastiques、ドキュメン タリー作品に関する著作権管理団体Société Civile des Auteurs Multimédia、美術著作物に関す る権利管理団体Société des Auteurs des arts visuels et de l’Image Fixe が管理している著作物 についても管理委託を受けている。

覚書では、第122の5条の適用外である教育目的のために作成される著作物及び楽譜の使用に

282 大日本印刷「ICTを活用した課題解決型教育の推進事業(諸外国における教育の情報化に関する調査研究) 20153月、93頁。

283 “Angers première ville d’Europe à doter toutes ses écoles de tablettes numériques”,

http://www.angersmag.info/Angers-premiere-ville-d-Europe-a-doter-toutes-ses-ecoles-de-tablettes-numerique s_a4873.html.

284 “Protocole d'accord sur l'utilisation des livres、 des œuvres musicales éditées、 des publications périodiques et des œuvres des arts visuels à des fins d'illustration des activités d'enseignement et de recherche”.

285 “MENE1400726X - Ministère de l'Éducation nationale、 de l'Enseignement supérieur et de la Recherche”

(国民教育・高等教育・研究省)http://www.education.gouv.fr/pid25535/bulletin_officiel.html?cid_bo=84937.

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関して許諾される具体的な基準が規定されており、概要は以下のとおりとなる。なお、()内は覚 書で該当する条文の番号を示す。

・書籍の形態で出版されている教育目的のために作成される著作物については、連続した4ペ ージ以下で、全ページ数の10%以内(4.2.1)

・定期刊行物の形態で出版されている教育目的のために作成される著作物については、同一出 版物からは2記事まで、かつ全ページ数の10%以内(4.2.1)

・出版された音楽作品(les œuvres musicales éditées)については、連続した3ページ以下 で、全体の10%以内(4.2.1)

・教育目的のために作成される著作物については、原則として紙媒体の著作物の利用のみが許 諾されるが、著作物によっては電子化されたものの利用も許諾される(4.2.2)

・視覚芸術については全体を利用できるが(3.2.1)、使用できるのは20作品までで、解像度も

400*400px、72dpiを超えてはならない(4.2.3)

上記の条件に適合する限り、利用方法については、複製又は上演・演奏(日本法で言う公衆 送信を含む)が広く認められ、ICT 活用教育の一環としてデジタル方式の利用や、イントラネ ットやインターネットでの利用を行うことも可能となっている。

上述した基準を踏まえたうえで、第122の5条が適用される使用と、覚書で許諾される使用に ついて合わせて補償金が算定されている。2014年と2015年のそれぞれの年度で総額170万ユー ロ(約23億円、1ユーロ135円換算)と規定されており(第7条)、教育省がCFCとAVAに支 払う。なお、コピー機などの複写方式を用いた複製についてはこの覚書の対象外であり、後述す る複写方式を用いた複製に関する合意(「電子データを残さないコピーについての合意」)による ことになる。

(2) 音楽の実演、録音物、ミュージックビデオ

音楽の実演、録音物、ミュージックビデオの使用については2009年12月4日、教育省、大学 学長会議と音楽著作権の権利管理団体 Société des Auteurs Compositeurs et Editeurs de

Musique との間で、「教育及び研究活動における説明の目的による音楽著作物の実演、音楽著作

物の録音物の使用、ミュージックビデオの使用についての合意」286が形成されている。当該合意 は、幼稚園、初等教育機関、中等教育機関及び高等教育機関における著作物の利用に関し、第122 の5条第1項第3号(e)により使用可能な範囲と同条の適用外での利用で許諾される条件等を定 めたものである。

概要は、以下のとおりである。

・録音物、録画物については、30秒以内かつ全体の10分の1以内。1つの作品から複数の抜 粋を利用する場合、合計時間が全体の15%を超えてはいけない(2.3)

286 “Accord sur l'interprétation vivante d'uvres musicales、 l'utilisation d'enregistrements sonores

d'uvresmusicales et l'utilisation de vidéo-musiques à des fins d'illustration des activités d'enseignement et de recherche - MENJ0901121X - Ministère de l'Éducation nationale, de l'Enseignement supérieur et de la Recherche”(教育及び研究活動における説明の目的による音楽著作物の実演、音楽著作物の録音物の使用、ミュ ージックビデオの使用についての合意、国民教育・高等教育・研究省),

http://www.education.gouv.fr/cid50450/menj0901121x.html.

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・オーディオビジュアル、映画については、6分以内かつ全体の10分の1以内。1つの作品か ら複数の抜粋を利用する場合、合計時間が全体の15%を超えてはいけない(2.3)

・授業において録音物の全体を再生すること、音楽著作物の全体を生徒によって上演すること が認められる。また、オーディオビジュアル、映画においては、無料の動画配信サービスに よって無線で放送されたものについては、全体を教室で上映することができる(1.1.1)

上記の条件に適合する限り、利用方法については、複製又は上演・演奏(日本法で言う公衆 送信を含む)が広く認められ、ICT 活用教育の一環としてデジタル方式の利用やイントラネッ トやインターネットでの利用を行うことも可能となっている。

(3) 映像作品

教育活動において説明の目的で使用する映像作品については2009年12月4日、教育省、大学 学長会議と、映像作品についての権利管理団体 Société des Producteurs de Cinéma et de

Télévision との間で「教育及び研究活動における説明の目的による映画、オーディオビジュアル

作品の使用に関する合意」287が形成されている。当該合意は、幼稚園、初等教育機関、中等教育 機関及び高等教育機関における著作物の利用に関し、第122 の5条第1項第3号(e)により使 用可能な範囲と同条の適用外での利用で許諾される条件等を定めたものである。概要は以下のと おりで、(2)の音楽における合意と同様である。

・録音物、録画物については、30秒以内かつ全体の10分の1以内。1つの作品から複数の抜 粋を利用する場合は、使用時間の合計が全体の15%を超えてはいけない

・オーディオビジュアル、映画については、6分以内かつ全体の10分の1以内。1つの作品か ら複数の抜粋を利用する場合は、使用時間の合計が全体の15%を超えてはいけない(2.3)

・授業において録音物の全体を再生すること、音楽著作物の全体を生徒によって上演すること が認められる。オーディオビジュアル、映画においては、無料の動画配信サービスによって 無線で放送されたものについては、全体を教室で上映することができる(1.1.1)

上記の条件に適合する限り、利用方法については、複製又は上演・演奏(日本法で言う公衆 送信を含む)が広く認められ、ICT 活用教育の一環としてデジタル方式の利用やイントラネッ トやインターネットでの利用を行うことも可能となっている。

(4) 複写方式を用いた複製

複写機やFAXによるハードコピー(電子データを残さないコピー)については、公立、私立の 初等教育機関に関しては、2014年6月2日、教育研究大臣、CFC、SEAMとの間に 2014年か ら 2016 年末までの期間の合意となる「公立及び私立の初等教育機関における著作物の複製手段 を用いた複製についての合意に関する2014年6月2日の実施合意288」が更新289されている。一

287 “Accord sur l'utilisation des uvres cinématographiques et audiovisuelles à des fins d'illustration des activités d'enseignement et de recherché”(教育及び研究活動における説明の目的による映画、オーディオビジ ュアル作品の使用に関する合意), http://www.education.gouv.fr/cid50451/menj0901120x.html.

288 “Mise en œuvre du contrat du 2 juin 2014 concernant la reproduction par reprographie d'œuvres protégées dans les établissements d'enseignement du premier degré public et privé sous contrat” (公立及び私立の初等 教育機関における著作物の複製手段を用いた複製についての合意に関する201462日の実施合意).

289 “MENE1416581C - Ministère de l'Éducation nationale、 de l'Enseignement supérieur et de la Recherche”, http://www.education.gouv.fr/pid25535/bulletin_officiel.html?cid_bo=81401.