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目次 1. 本調査の目的と実施方法

3. 諸外国の ICT 活用教育に関する権利制限規定及び運用実態等

3.4 韓国

3.4.2 教育に関する権利制限規定

韓国著作権法は、2006年12月に全文改正され(公布2006年12月28日、施行2007年6月 29 日)、条文が一新されている。韓国著作権法は、日本法を参考に起草されたと言われることも あり、日本の著作権法と同様、個別の権利制限規定を法改正によって追加することで新たな利用 に対応してきたが、加えて、2011年の改正により米国型のフェアユース規定が設けられた。

教育目的で著作物を利用する場合の権利制限規定は、フェアユース規定を含め、以下のとおり である240

・第25条「学校教育目的等への利用」

・第28条「公表された著作物の引用」

・第29条「営利を目的としない公演・放送」

・第35条の3「著作物のフェアユース等」

なお、上記の権利制限規定は、第87条第1項により、著作隣接権にも適用される。

3.4.2.2第 25 条「学校教育目的等への利用」

本条は、公表された著作物を教科書に掲載(第1項)、授業及びその支援のために複製等をする こと(第2項)、又は学生に授業に必要な範囲で著作物の複製や公衆送信(第2項、第3項)等を 認める権利制限規定である。当該規定により著作物を利用する場合には、著作権者に対する一定 の補償金の支払いが必要とされている(第4項)。ただし、これを怠っても著作権侵害に該当する わけではない。

第1項の「教科用図書」には、「教科用図書に関する規定」241により教科書・教師向け指導書の みならず、それらの電子著作物(デジタル教科書)や映像媒体も含まれる。このことから、「掲載」

には、複製及び配布が含まれることに加え、電子著作物に「掲載」するには公衆送信が必須とな

240 この他に試験問題作成のために著作物を複製、配布する行為についての権利制限規定がある(第32条)。ただ し、本条は「複製し、配布」することのみを認めているため、「公衆送信」となるオンライン上での試験や、授業 に出ていない学生のために学校のウェブサイトで掲示される試験問題には適用されないとされる

241 「教科用図書に関する規定」(大統領令第259592015.1.6.一部改正2015.1.6.施行)においては、『教科用 図書』とは、教科書および指導書をいう。『教科書』とは、学校で学生の教育のために使用される学生用の書冊・

音盤・映像および電子著作物等をいう。『指導書』とは、学校で学生の教育のために使用される教師用の書冊・音 盤・映像および電子著作物等をいう。」とされており、デジタル教科書も教科書に含まれる。

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るため、公衆送信も含まれる、と解釈することもできる。しかし、これに反対する学説もあり、

解釈は定まっていないようである242

また、第1項の権利制限規定では、その対象を「高等学校及びこれに準ずる学校以下の学校で の教育」に限定しており、高等教育法による大学や専門学校などは含まれていない。したがって、

大学で使用する教材において他人の著作物を利用する場合には、本権利制限が適用されない。

本権利制限規定は、あくまで著作物を「教科用図書」に掲載することを一定の条件下において 許容しているだけである。すなわち、教科用図書に掲載された著作物を著作権者の許諾なしに学 習用参考書などに利用することは本項の対象外であり、著作権侵害となる。また、教科用図書の 内容について、インターネットを介した講義で利用する場合、引用の要件が満たされない限り、

複製権及び公衆送信権の侵害となる。

第2項は、学校243や教育機関244、教育支援機関245による授業において、公表された著作物の一 部の複製、配布、公演、展示、公衆送信を認める権利制限規定である。「国若しくは地方自治団体 が運営する教育機関及びこれらの教育機関の授業を支援するために国若しくは地方自治団体に所 属する教育支援機関」には、法律によって設置されただけの機関や、国、地方自治団体が支援を 行うだけの機関など教育に関する実態のない機関は該当しないとされている246。一方、「授業」は 広く解釈されており、学校行事や授業のための準備もこれにあたるとされている。ただし、現在、

すでに進められている、あるいは、具体的な日時・内容が定められている「授業」のみを意味し ており、将来の授業で使用予定、といった抽象的な目的である場合、本規定は適用されない247。 なお、課外活動が授業に含まれるかは意見が分かれている248

第2項によって許容される行為は、「公演」「放送」「複製」に限られていたが、2009年の法改 正により「配布」「伝送」も対象となった。続く2013年の改正では「展示」が対象に加わったほ か、「放送又は伝送」249が、これらの上位概念となる「公衆送信」に改正された。その理由には、

授業方式の多様化への対応が挙げられている250ほか、2011年6月29日に発表された「スマート 教育推進戦略」において、必要な法整備の項目として本条の改正が掲げられていたことも一因と 考えられる251

第10項では、受講者以外によるアクセスや複製を防止するため、「保護される権利の侵害を防

242 Lee,Gyooho, “Copyright Protection and Its Limitation regarding E-Learning in Korea’’ ,2013,30-31頁.

243 特別法により設立された学校若しくは「幼児教育法」「初・中等教育法」若しくは「高等教育法」による学校。

244 国若しくは地方自治団体が運営する教育機関。

245 これらの教育機関の授業を支援するために国若しくは地方自治団体に所属する教育支援機関。

246 “Copyright Protection and Its Limitation regarding E-Learning in Korea”,32頁.

247 「가이드라인(ガイドライン)II-1」のgoogle翻訳(日本語)から要約, http://gongu.copyright.or.kr/html/guideline/original/link title/original 2 1 T.jsf.

248 “Copyright Protection and Its Limitation regarding E-Learning in Korea”, 33,34頁の私訳。

249 「伝送」とは、「公衆送信のうち、公衆の構成員が個別的に選択した時間及び場所においてアクセスすること ができるよう、著作物等を利用に供することをいい、それに伴って行われる送信を含む。」と定義されている(第 2条第10号)

250 韓国レコード産業協会(Recording Industry Association of Korea)「2013저작권 입법 동향 결산 보고」

(2013年著作権法の動向報告)5頁、張睿暎「韓国における「ICT活用教育における著作物等の利用」に関する 法制度」、1頁。

251 スマート教育推進戦略(2011629日発表)、10頁。

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止するため、複製防止措置等大統領令で定める必要な措置」252が義務付けられている。著作権法 施行令においては、伝送する際に必要な技術的措置として、授業を受ける者以外は利用すること ができない「アクセス制御措置」と、授業を受ける者以外が複製できない「複製防止措置」が記 載されている。加えて、著作権保護に関する警告文表示や補償金を算定するための装置の設置も 明記されている。

第4項には、補償金の支払いに関する規定が置かれている。これらの補償金の徴収業務は、文 化体育観光部長官が指定する権利者団体を介してのみ行うことができる、と規定されており(第 25条第5項)、いわゆる指定団体業務となっている。

このほか、本条で権利制限がなされる場合において、第13条第2項では、学校教育の目的上、

やむを得ない変更は同一性保持権侵害にならないと規定されている。

3.4.2.3 第 28 条「公表された著作物の引用」

本条は、公表された著作物の引用についての権利制限を規定したものであり、日本国著作権法 の第32条第1項とほぼ同様の権利制限規定である。なお、第36条第2項により、翻訳して引用 することも許容されている。

本条では、「正当な範囲内」での引用を認めている。引用が「正当な範囲内」であるか否かの判 断においては、引用の目的を含む引用の状況、引用元の著作物の種類、内容、量、引用元と引用 先の相互関係、受け手の理解、引用元の市場を侵害するか否か、などの要素が考慮される253。韓 国大法院2006年2月9日の判決では、「正当な範囲内で公正な慣行に合致して引用したかどうか は、引用の目的、著作物の性質、引用された内容と分量、被引用著作物を収録した方法と形態、

読者の一般概念、原著作物の需要を置き換えるかどうかなどを総合的に考慮して判断しなければ ならない。」としており254、その後もこの考え方が踏襲されている。

従来は、この権利制限規定が相当に広い範囲で適用されていたようで、子供が既存の楽曲のサ ビ部分を歌いながら踊っている様子を撮影、ブログにアップロードした行為において、当該楽曲 の使用を「引用」とした裁判例も存在している255。もっとも、フェアユースの導入に際し、この 事例が適用例として挙げられているため、今後、このような事例もフェアユースに該当するもの と考えられる256

252 ドラッグアンドドロップによるコピーの禁止を含む、とされている。

253 Sang Jo Jong, “Copyright Law of Korea”, http://www.academia.edu/8209890/Copyright Law of Korea.

254 가이드라인(ガイドライン) IV-c google翻訳(日本語) http://gongu.copyright.or.kr/html/guideline/original/original_4_c.jsf.

255 ソウル高等法院20101013日判決

日本語の概要は金・張法律事務所「韓国の知的財産権侵害判例・事例集(2010年度版)」97頁、

http://www.jetro.go.jp/world/asia/kr/ip/pdf/han 2010.pdfで確認できる。

256 문화체육관광부(文化体育観光部)、개정 저작권법 해설(2012)(改正著作権法の解説(2012))33頁、

http://www.mcst.go.kr/servlets/eduport/front/upload/UplDownloadFile?pFileName=%EA%B0%9C%EC%A0%

95+%EC%A0%80%EC%9E%91%EA%B6%8C%EB%B2%95+%ED%95%B4%EC%84%A4%EC%84%9C.pdf&p RealName=1339056264213.pdf&pPath=0301000000.