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目次 1. 本調査の目的と実施方法

3. 諸外国の ICT 活用教育に関する権利制限規定及び運用実態等

3.7 まとめ

3.7.1 各国の ICT 活用教育に関する制限規定と補償

今回調査対象とした国においては、様々な権利制限規定が見受けられるが、ICT 活用教育に関 連する権利制限規定の特色や、権利制限規定によらない著作物利用についてまとめると下記のと おりとなる。

3.7.1.1 権利制限規定による ICT 活用教育における著作物の利用

英国においては、近年の法改正によって、教育機関が非商業的な教育を目的として、放送の録 音・録画物を作成し、作成された放送の録音・録画物又はその複製物を生徒及び教職員に対して 伝達することが権利制限の対象となっている。また、教育機関が非商業的な教育目的の授業のた めに、発行された著作物(「放送」や、「他の著作物に組み込まれたものではない美術の著作物」

は除く)の抜粋部分を複製し、その抜粋部分の複製物を教育目的において生徒及び教職員に対し て伝達することを認める規定がある。また、条文において定める行為が、ライセンスにより利用 可能である場合は、当該契約は権利制限規定に優先するとされている。ライセンス制度の適用外 となる著作物を、著作権法による権利制限で利用できるようにする制度となっている。

米国はフェアユース及び個別の権利制限規定が定められており、教師自身が、あるいは教師の 指示に従って又は教師の監督の下、政府又は認定された非営利の教育機関の組織的な媒介的教育 活動の通常の行為として提供される授業において、日本国著作権法でいう公衆送信を手段とする 著作物の実演・展示をすることが可能になっている。権利制限規定の適用には、技術的に可能な 限り受信者を限定する措置や、複製防止措置等の義務が課せられている。

オーストラリアにおいては、近年の法改正で、教師又は生徒が、教育指導の過程において、教 室又は聴衆のいるその他の場所において著作物を実演する場合やその実演を送信する場合が権利 制限の対象となっている。また、教育機関の運営団体又はこれに代わる者が、教育機関における 教育目的のために、放送やその他の著作物を複製し送信することが法定許諾制度によって可能と なっている。

韓国は近年の法改正により、学校、教育機関及び教育支援機関と当該教育機関等において教育 を受ける者が、その授業の目的上又は授業を支援する目的上必要と認められる場合において、公 表された著作物を複製、配布、公演、展示、公衆送信することが可能となっている。権利制限規 定の適用にはアクセス制限措置や複製防止措置等を講じることが義務付けられている。

フランスでは、近年の法改正で、専ら教育における説明を目的とする場合、公表された著作物 の抜粋の上演・演奏又は複製が認められている。上演・演奏には日本国著作権法でいう公衆送信 に該当する行為も含まれると考えられる。なお、主体についての明示的な限定はないが、教師に 限定されるものと考えられる。

ドイツにおける権利制限規定は、そのほとんどの場合に補償金の支払いが必要であることが特 色である。学校、大学、養成及び研修教育に関する非営利施設並びに職業教育に関する施設にお ける授業において、専ら明確に限定された範囲の授業参加者のために解説することを目的として、

公表された著作物の一部の公衆提供や、そのために必要とされる複製が認められている。

142 3.7.1.2 権利制限規定によらない著作物の利用

英国においては、権利管理団体による教育機関へのライセンスによる著作物の利用が広く行わ れており、教育機関は権利制限規定によらない著作物の利用もしやすい環境にある。

米国では、法定・独占ではないが権利管理団体であるCCCがある程度機能しており、フェアユ ースや権利制限の適用とならない著作物の利用についても、都度、手続きを行い、対価を支払う ことで、利用が可能となっている。ただし、有利な条件となるよう権利者と直接交渉する教育機 関も存在する。

オーストラリアでは、法定許諾制度が定められていないものについて、権利管理団体が包括的 な許諾制度を提供している。権利管理団体の役割が大きく、教育機関が著作物を利用しやすい環 境にあることも特色である。

フランスにおいては、教育機関による権利制限規定に該当しない著作物の利用も含めて、国や 権利管理団体、教育機関間で合意が形成されており、合意に基づき著作物が利用されている。

ドイツも各州と各権利管理団体の間で契約が締結され、権利制限規定により教育機関の利用が 許容される範囲について合意が形成されているほか、権利制限の対象とならない利用についても、

利用可能とする合意がされている。

3.7.1.3補償の有無

著作権法の中で、ICT 活用教育に関連して権利制限規定の適用を受けるにあたり、補償金の支 払いが義務付けられているのはオーストラリア、韓国、フランス、ドイツであり、いずれも相当 な補償金を支払うことが規定されている。そのうち、韓国については「授業目的著作物利用補償 基準」(文化体育観光部告示)で補償金額が設定されており、高等教育機関が権利管理団体に支払 う。オーストラリア・ドイツ・フランスにおいては、国や自治体、権利管理団体、教育機関等の 間で交渉・合意が形成され、その中で分量や金額などが定められている。国や自治体、教育機関 等が権利管理団体へ補償金額を支払う。

一方、英国においては、著作権法の中で補償義務は明記されていないが、ライセンス制度が利 用できる場合には権利制限よりライセンス制度が優先される。英国のほとんどの教育機関は権利 管理団体と年間契約を締結しライセンス料金を納めており、実質的には補償金を支払っているの と同じ状況にあると言える。

対して、米国では補償義務もなく、権利管理団体と教育機関等の合意も存在しないが、利用の 都度、ウェブサイト上で手続きを行い、対価を支払うといった仕組みが用意されている。

3.7.1.4補償金・ライセンス料金と権利管理団体

各国の著作物の利用に関する補償金額、ライセンス料金を下記の表にまとめる。なお、表では 主として言語著作物関連の金額を掲載している。

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図表 3-15 各国の教育機関における著作物の利用に関する補償金額、ライセンス料金※1

国名 権利管理団体 金額 備考

英国 CLA 学生 1 人あたり年間 7.22 ポンド(1,256 円)

米国 CCC 学生 1 人・1 ページあたり概ね 10~50 セント程度

年間の包括契約の場 合は、高等教育機関 のカーネギー分類に よって金額が決定さ れる(金額は非公表)

オーストラリ

Copyright Agency 学生 1 人あたり年間 16.93 オーストラリ アドル(約 1,600 円)

文書・画像 韓国 KORRA 学生 1 人あたり年間 1,300 ウォン(約 131

円)

言語・音楽・映像 フランス CFC、SEAM、AVA 1 年間で総額 1,700 万ユーロ(約 23 億円)

※2

本・楽譜・定期刊行 物・芸術作品 ドイツ VG WORT 学生1人・1ページあたり 0.8 セント※3 言語

※1高等教育機関の学生が対象の場合

※2教育省が権利管理団体に支払う総額

※3利用著作物の電子申告システムの試験運用での金額

なお、上記のうちフランスは、権利制限による著作物の利用に加え、権利制限が適用されない 著作物の利用も含む金額であることに注意しなければならない。

また、各国の、主に言語著作物を扱う権利管理団体の位置づけを整理すると、英国のCLAは著 作権法に基づき設立されており、オーストラリアのCopyrightAgencyも政府によって任命されて いる。韓国の KORRA は「授業目的著作物利用補償基準」(文化体育観光部告示)によって権利 管理団体として位置づけられている。フランスのCFCは知的所有権法典第L. 122条第10項~第 12 項に則り認可を受けた新聞・雑誌及び書籍の著作物を扱う唯一の権利管理団体とされている。

また、これらの権利管理団体は、ほとんどの教育機関や国・自治体と著作物利用に関して契約や 合意を締結しており、権利管理団体が著作権者の代表機関として相当程度、機能していることが 伺える。

一方、米国のCCCは、コンテンツ製作者、出版者、利用者によって設立された非営利企業であ り、その位置づけは前述の各国の権利管理団体とは異なる。しかしながら、CCC以外に言語著作 物を扱う権利管理団体が存在しないことや、直近10年間で15億ドル以上を著作権者に還元する など、権利者を代表する組織として機能している。