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目次 1. 本調査の目的と実施方法

3. 諸外国の ICT 活用教育に関する権利制限規定及び運用実態等

3.3 オーストラリア

3.3.3 運用実態

3.3.3.1 ICT 活用教育の概況

オーストラリア連邦政府は、オーストラリア国内の学校のICT環境の整備を目的として、2008 年から毎年、「デジタル教育改革」(Digital Education Revolution)と称して予算を計上してきた。

2011年には高速ブロードバンド接続に大きな投資を実施するなど、予算総額は21億オーストラ リアドル以上となっている。2012年2月には、デジタル教育改革に向けたプロジェクトの推進の ために、政府が91万台のパソコンを学校に整備したことが発表された。結果として、中学校に相 当する第9学年から第12学年の生徒1人に対するコンピューターの割合は1:1となっている。

各学校のワイヤレス環境の整備も進むなど、一定の効果を上げている224

オーストラリアにおけるICT産業の中心であり、2番目の人口を誇るビクトリア州では、他州

219 Australian Copyright Council, ”The 'Special Case' or 'Flexible Dealing' Exception: Section 200AB”, 2012,2 頁,http://www.copyright.org.au/admin/cms-acc1/_images/12211091175239250d33038.pdf.

220 “1.13 Copyright exceptions”

221 スリーステップテストとは、特別の場合であって、著作物の通常の利用を妨げず、著作者の利益を不当に害し ない場合には権利制限を可とするもの。

222 “Copyright Amendment Bill 2006 Explanatory Memorandum”,10, http://www.austlii.edu.au/au/legis/cth/bill_em/cab2006223/memo_0.html.

223 一方、2014年にオーストラリア法改正委員会(Australian Law Reform Commission )が公開した「著作権 とデジタル経済」と題する報告書では、フェアユース規定の導入は重要な提言として紹介されているが、既存の 権利者からは強い反対が示されている(“Copyright and the Digital Economy”,24頁参照)

224 “DER Mid-Program Review: Assessing Progress of the DER and Potential Future Directions FINAL REPORT“, 4, 7頁,

https://docs.education.gov.au/system/files/doc/other/digital_education_revolution_program_review.pdf.

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に先行して学校に高速ブロードバンド・ネットワーク接続環境を整備し、学校及び家庭で質の高 い学習及び指導を行うためのオンライン学習環境を整備する等、教育のICT化に積極的な取組を 行っている225

3.3.3.2 ICT 活用教育における著作物の利用および権利処理状況

オーストラリア著作権法においては、教育機関による放送やその他の著作物の複製及び送信に ついて法定許諾制度が適用され、各分野において権利管理団体が許諾と補償金の徴収を行ってい る。

主に以下の団体が権利管理団体として許諾と補償金の徴収を行っている226

・文書・画像関連:Copyright Agency

・美術品関連: Visual Arts Copyright Collecting Agency(運営はCopyright Agencyによ って行われている)

・音楽関連

著作権:APRA/AMCOS

録音物の使用に関する権利:PPCA (Phonographic Performance Company of Australia

Limited、以下「PPCA」という。)

(ただし、キリスト教の音楽については、他の権利管理団体が複数存在する)

・放送関連:Screenrights

オーストラリアでは、法定許諾制度があり、法定許諾制度が定められていないものについても、

権利著作権管理団体が包括的な許諾制度を提供している。権利管理団体が提供している枠組みに よって、教育機関の教師及び生徒・学生が各分野の著作物を利用できる。したがって、権利管理 団体が扱わない作品を積極的に活用する教育機関はほとんどない。

例えば、Copyright Agencyが管理する教育機関向けの法定許諾は、初等中等学校・大学・専門 学校を対象としている。このライセンスでは、年間の学生1人あたりの金額が定められており、

紙だけでなく電子化された著作物の利用も包括している。このライセンス制度は、1968年著作権 法第ⅤB 節で新設されたもので、教育機関による文芸・演劇・音楽著作物・芸術的作品の複製を 認めたものである。

3.3.3.3 法定許諾制度

(1) 概説

法定許諾制度(statutory licences)とは、補償金と引き換えに、特定の条件の下で著作権者の 個別的な許諾なく著作物を利用することができる制度をいう。利用者が個別に許諾を求める必要 がない点、著作権者が利用を拒めない点、利用の条件が法定され変更できない点において通常の 許諾と異なり、補償金の支払いが必要な点においてフェアディーリングなどの権利制限規定と異

225 大日本印刷「ICTを活用した課題解決型教育の推進事業(諸外国における教育の情報化に関する調査研究) 20153月、321頁。

226 Australian Copyright Council, ”Copyright Collecting Societies”, 2014,

http://www.copyright.org.au/admin/cms-acc1/_images/1818855106534caa2fe48ae.pdf.

105 なる。

オーストラリア著作権法における教育に関する法定許諾制度としては、第ⅤA 編において放送 の複製及び送信に関する法定許諾を、第ⅤB 編において印刷媒体及び電子化された文書の複製及 び送信に関する法定許諾を定めている。

これらの法定許諾に基づく著作物の利用の流れは、以下のようなものである。

①教育機関から権利管理団体に対し、補償通知を行う。補償通知は公正な補償金を権利管理団体 に支払うことを約定する通知であり、補償金の算定方法を選択し、記載する必要がある。

②教育機関は、法定の条件に従って著作物を利用する。

③権利管理団体と教育機関は補償金の金額について協議し、合意に達すればその額を、達しなけ れば著作権裁判所が定める額を教育機関が権利管理団体に支払う。いずれの場合でも、補償通 知に記載された算定方法ごとの考慮要素を考慮して金額を決定しなければならない。

④権利管理団体は、補償金を各権利者へと分配する。

(2) 放送

放送の複製及び送信に関しては、Screenrightsが権利管理団体として第ⅤA編第135E条の利 用に対する補償金の徴収を行っている。ほとんどの教育機関は補償金算定の通知方法としてサン プリング制を採用し227、その結果に基づいて算出した料率に生徒数を掛け合わせて補償金額を定 めている228

徴収される補償金の分配は、以下のような方法で行われる229

・各教育機関から徴収された補償金からは、まず管理手数料等が控除され、その上で美術著作物 の著作者に対する分配が行われる。2014年11月に採択された分配基準においては、管理手数 料等が控除された残額の1.9%が美術著作物の著作者への分配に充てられている。

・美術著作物への分配金は、放送番組における美術著作物の使用品目数、扱い、番組の複製数に 応じ、著作者ごとに1番組あたりの点数をつけ、その点数にしたがって分配がなされる。

・残りの補償金は、教育機関の種別(初等・中等教育、大学、職業訓練専門学校)ごとに分割さ れ、さらに算定方法(記録制を採用した機関からの徴収、サンプリング制を採用した機関から の徴収等)ごとに分割される。各番組の権利者には番組内容、複製・送信方法、複製数、番組 の時間、サンプリングにあたっての調整係数によって点数がつけられたうえで、点数に応じて 補償金額が分配される。

・音楽著作物の著作権者に対する分配金はAPRA/AMCOSへ、商業的音楽の録音物の著作権者に 対する分配金は、録音物の複製権を管理する団体であるオーストラリアレコード産業協会(The Australian Record Industry Association 、以下「ARIA」という。)をはじめ、PPCA、ニュー ジーランドの音楽に関する権利管理団体Phonographic Performance NZ へ、放送番組等への 利用許諾が予定されている音楽の録音物の著作権者に対する分配金はAMCOSへ分配され、各

227 “Screenrights Licence Application”,3頁,

https://www.screenrights.org/sites/default/files/uploads/SVAA 1114.pdf.

228 “Screenrights Licence, Part VA Copyright Act 1968 SCHEDULE”,1頁,

https://www.screenrights.org/sites/default/files/uploads/SchoolsRNAgmt1415-1.pdf.

229 Screenrights「分配規程 2014」,

https://www.screenrights.org/sites/default/files/uploads/Dist_Policy_26112014.pdf.

106 団体から権利者に分配がなされる。

また、Screenrightsでは、放送局が配信する、無料で放送されたテレビ、ラジオ番組のオンラ イン配信についても第 135E 条の許諾スキームで複製、送信を認めている。その一方で、たとえ 同内容であっても商業用に制作されたDVDの複製、送信は認めていない230

(3) 文書・画像関連

第ⅤB編による補償金の徴収・分配はCopyright Agencyが行っており、以下のような方法で行 われる231

・補償金算定の通知方法は第ⅤA編と同様、主に記録方式(第135ZV条、第135ZX条第(1)、(2) 項)又はサンプリング方式(第135ZW条、第135ZX条第(3)項)により行われる。各教育機関 から徴収された補償金は、徴収元、使用方法、著作物の種類に応じて分割される。さらに管理 手数料及び文化的活動を支援する目的の基金であるオーストラリア文化基金(Cultural Fund)

への割当額(2014年においては1.5%が上限とされている)232が控除された後、補償金が分配 される。分配は、著作物の価値、使用方法、使用料を考慮して決定される233

(4) 音楽著作物

第ⅤA 編及び第ⅤB 編で法定許諾制度が定められていない、楽譜の形式を除いた音楽著作物に 関しては、APRA/AMCOS及びARIAが初等中等教育学校について、APRA/AMCOS、ARIA及 びPPCAが大学について包括的な許諾を提供している。

3.3.3.4 ライセンスの状況と管理団体の概要

本項では、 Copyright Agencyについて言及する。

(1) 許諾の対象となる用途

Copyright Agencyが管理する教育利用の法定許諾(statutory license)では、書籍、雑誌、新

聞、ポスター印刷、音楽、写真、地図、電子ブック、CD-ROMやインターネットからの複製を許 可しており、ハードコピーと電子コピーの両方をカバーしている。

ICT 活用教育における典型的な利用方法としては、e メールでの送信、あるいはセキュリティ が確保されたネットワーク又はパスワードで保護されたネットワークでのインターネットやイン トラネットでの利用が挙げられる。具体的には以下のとおりである。

学習管理システムから利用できるようにする iPadやタブレットでの閲覧

iPadやタブレットにダウンロード 変更や複数の著作物を組み合わせること

230 Australian Copyright Council, “Education: Using AV Materials”, 2014,1,3頁, http://www.copyright.org.au/admin/cms-acc1/ images/847453812541fae1b53e8b.pdf.

231 Copyright Agency,“How Copyright Agency allocates licence fees to rightsholders”,2014, http://www.copyright.com.au/assets/documents/operations/distributions/distribution_rules.pdf .

232 “How Copyright Agency allocates licence fees to rightsholders”12頁(3.3.5).

233 “How Copyright Agency allocates licence fees to rightsholders”16頁(3.4.4).