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目次 1. 本調査の目的と実施方法

3. 諸外国の ICT 活用教育に関する権利制限規定及び運用実態等

3.3 オーストラリア

3.3.2 教育に関する権利制限規定

オーストラリア著作権法においては、英国著作権法から継承された「フェアディーリング(fair

dealing)」(公正利用)の概念に基づき権利制限対象を定める規定のほか、個別の権利制限規定や、

2006年の改正(2007年1月から施行)により導入された、目的を限定した一般権利制限規定(第

200条AB)が存在する。そのうち、教育目的で著作物を利用する場合の権利制限規定は、以下の

とおりである。

・第28条「教育指導の過程における著作物又はその他の権利対象物の実演及び送信」

・第44条「教育の場での使用のための著作物の編集物への収録」

・第135E条「教育機関等による放送の複製及び送信」

・第135F条「試写用コピーの作成及び送信」

・第135ZGA~135ZME条「教育機関及びその他の機関による著作物等の複製及び送信」

・第200条「教育目的のための著作物及び放送の使用」

・第200条AB「特定の目的のための著作物及びその他の権利対象物の使用」212

3.3.2.2第 28 条「教育指導の過程における著作物又はその他の権利対象物の実演及び送信」

本条は、教育指導の過程で行われる著作物の実演及び送信に関する権利制限規定である213。第 (1)項により、教師又は生徒が、その教育指導の過程において、教室又は聴衆のいるその他の場所 で、言語、演劇、音楽の著作物、録音物又は映画フィルム(a literary, dramatic or musical work, a sound recording or a cinematograph film)を実演214する場合に権利制限がなされ、第(5)項の 規定によりこの実演を送信する場合にも権利制限がなされる。なお、本条第(3)項により、保護者 などが観客となる学芸会等については適用されない。

第(5)項の規定では、第(1)項により権利制限がなされる実演を送信することが可能となっており、

例えば、授業のために必要な映像をストリーミングで各教室において再生したり、ヴァーチャル・

クラスの学生らに映像を送信したりすることが、一定の条件の範囲内で可能となっている。ただ

212 2006年の改正に当たっては米国のフェアユースに類似した一般権利制限規定の導入も検討されたが、利害関

係者の支持を集められず、「文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約」のスリーステップテストを基礎 とした第200ABが導入された。導入の検討背景については、作花文雄「豪・米自由貿易協定(AUSFTA)を 背景とするフェアユース規定導入議論に関する考察-安定性と柔軟性の調和・融合を図る制度の模索-」コピラ イト57928頁(2009)や“Copyright Amendment Bill 2006 Explanatory Memorandum”,10

(http://www.austlii.edu.au/au/legis/cth/bill_em/cab2006223/memo_0.html参照)に詳しい。

213 2006年の改正によって第5項以降が追加され、第1項により権利制限がなされる実演の送信が可能になった

ものである。送信については、「著作物又は他の権利対象物をオンラインで利用可能にし、又は電子的に送信する こと(一つのパスを経由するか、パスの組み合わせを経由するか、有体物によって提供するか、その他の方法に よるかを問わない)をいう」(第10条)と定義されている。

214 録音物又は映画フィルムの実演は、録音された音声を聴かせる行為又は視覚的映像を見せる行為をさすものと されている(本条第(4)項)

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し、本条によって複製についてまで権利が制限されるわけではない以上、複製を行う場合には、

別途の権利制限規定に該当するか、権利許諾を受ける必要がある。

このほか、第(6)項ではテレビ放送又は音楽放送(a television broadcast or sound broadcast)

の送信について、第(7)項では美術の著作物(an artistic work)の送信についての権利制限が規定 されている。それぞれ、教育指導の過程において、教師によって送信され、送信の聴衆が当該指 導の参加者に限定される場合に適用される。

3.3.2.3第 44 条 「教育の場での使用のための著作物の編集物への収録」

本条は、教育の場において使用するための編集物の一部として著作物を用いる行為についての 権利制限規定である215

利用主体に限定はなく、教科書出版社による教科書作成について適用されることが主に想定さ れるが、教師が教材として編集物を作成する場合にも適用されうる。

発行された言語、演劇、音楽又は美術著作物の短い抜粋(言語、演劇、音楽著作物は翻案物の 抜粋を含む)を、教育の場で使用するための書籍、録音物又は映画フィルムに含まれる言語、演 劇、音楽又は美術著作物の編集物に含む(inclusion)行為が権利制限の対象となる。権利制限が なされるには、書籍の中、録音物を収録したレコードのラベルもしくは容器、又はフィルム中の 適切な箇所に、当該編集物が教育の場での使用を意図したものであることが記述されていること、

当該編集物が、著作権が存続しない権利対象物から主として構成されること、当該著作物又は翻 案物の十分な出所表示がなされていることが必要となる。さらに第(2)項により、同一の著作者の 著作物からの抜粋を、5 年間のうちに複数使用して編集物を発行することはできないこととされ ている。

3.3.2.4 第 135E 条「教育機関等による放送の複製及び送信」

本条は、教育機関等による放送216の複製及び送信について認め、代わりに補償金支払いの義務 を定める規定である。

教育機関自身又は教育機関に代わる者によって(by, or on behalf of, a body administering an

educational institution)、当該教育機関又は別の教育機関における教育目的のために、放送又は

これに含まれる著作物、録音物若しくは映画フィルムを複製(copying)、送信(communication)

する行為が対象となるが、複製、送信を行うにあたっては、補償算定の方法を記載した補償通知

(放送の複製、送信に対する補償金を権利管理団体に支払う旨の通知。第 135G 条)を事前に権 利管理団体に提出することで法定許諾が行われる。また、第 135K条により記録制通知あるいは サンプリング制通知のどちらが行われる場合においても、複製の保管方法として、複製物又はこ れを保管する容器にアナログ形式で印をつけることが規定されている。加えて、第135KA条によ

215 趣旨について、Australian Copyright Council、 “Exceptions to copyright”、 2014,6頁, http://www.copyright.org.au/admin/cms-acc1/_images/873030488546d5c5218b2d.pdf.

216 本条で権利制限の対象となる「放送」は、第10条第1項で「1992年放送事業法における意味での放送事業者 が行う公の通信をいう」とされている。また、1992年放送事業法での「放送事業者」の定義からすれば、「無線 周波数スペクトル、ケーブル、光ファイバー、衛星その他の手段又はこれらの手段の組み合わせを用いて行われ る、適当な受信装置を有する者に対し、テレビ、ラジオ番組を送る行為」と定義できる。

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り受信又はアクセスすることを認められた者のみが受信し又はアクセスするよう全ての合理的な 手段をとることが規定されている。

本条では、対象とする放送全体についての複製、送信を認めている。回数の制限はなく、複製 物を保存する場合でも保存期限は存在しない。

本条による複製等に対する補償金算定の通知方法として、下記が用意されている。

①本条の適用がある複製、送信の回数を常時記録することで行う記録制(第135H条)

②一定期間の複製、送信回数を記録することで行うサンプリング制(第135J条)

③教育機関と権利管理団体との合意による合意制(第135J条)

教育機関が権利管理団体に送付する補償通知には、上記のいずれかの方法に基づくものかが、

記載される(第135G条)。

3.3.2.5 第 135F 条「試写用コピーの作成及び送信」

本条は、教育機関に対して、放送又はこれに含まれる著作物、録音物若しくは映画フィルムに ついて試写用コピーの作成及び送信(making and communication of preview copies)を認める 権利制限規定である。

教育機関又は教育機関に代わる者が、放送番組の複製物を保有するのか、あるいは、破棄する のかを選択するために行う、複製、送信行為を対象とする217。本条により作成された複製物は原 則として作成から14日以内に破棄する必要があるが、教育機関の教育目的のためにのみ保有され る場合は 14 日を超えて保有でき、保有された複製物には第135E 条第(1)項が適用されて更なる 複製、送信が可能となる。

3.3.2.6 第ⅤB 編「教育機関及びその他の機関による著作物等の複製及び送信」

第ⅤB編は書籍、定期刊行物(a priodical publication)等の印刷媒体(ハードコピー)(第2

節第135ZGA条、第135ZG条~第135ZM条)及び電子書籍等の電子化された文書(an electronic

form of the work)の教育目的の複製(第2A節第135ZMA条~第135ZME条)を教育機関に認

め、代わりに補償金支払いの義務を定める規定である。なお、電子化された著作物については送 信も認められる。

第ⅤB編はその利用可能な範囲等について詳細に規定しており、以下に概略を示す。なお、(1)

及び(2)は言語、演劇著作物についての著作権を、(3)はこの2つに加え、音楽、美術著作物に 対する著作権を対象としている。

本編による複製、送信も、第135E条、第135F条が規定された第ⅤA編における放送の複製、

送信と同様、教育機関が補償金算定の方法を記載した補償通知を事前に権利管理団体に提出する ことで法定許諾が行われる。

(1) 些細な部分の複製(第135ZG条、第135ZMB条)

217 “Copyright Amendment Bill 1988 Explanatory Memorandum”,22頁.