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運動組織による資源動員

ドキュメント内 学位授与年月日 2020‑03‑21 (ページ 131-144)

多様な団体や個人の連合体であるNKPはしかし、安定的な収入源や、事務所のような固 定された活動拠点を持たない。NKPや反原発運動の活動に必要な物的資源や専門知識の多 くは、公的職業団体や労働組合、政党、環境団体など既存の組織から提供されている。以下 では反原発運動の中で特に大きな役割を果たしてきた公的職業団体、環境団体、政党、自治 体、芸術家による資源動員について見ていく。

2-1. 公的職業団体

トルコの反原発運動を理論や資金の面で大きく支えてきたのは、トルコ技術者建築家会 議所連合(Türk Mühendis ve Mimar Odaları Birliği: TMMOB)、トルコ医師連合(Türk Tabipleri Birliği)、トルコ弁護士連合(Türkiye Barolar Birliği)などの公的職業団体であ る。公的職業団体とは、特定の職業に従事する者の権利を守り、公共の利益に適合した職業 の発展を目指す公益法人である9。民間部門の就業者は関連する公的職業団体に加盟する義 務があり、公的職業団体は会費や専門事業に関する許可申請料などを基に一定の資金力を 有している。

公的職業団体は専門的知見に基づいて政策提言を行うなど政治の舞台でも活動しており、

特に上記3団体はAKP政権の政策に対して批判的である10。反原発運動でも、TMMOB、 トルコ医師連合、トルコ弁護士連合は、出版や記者会見などを通じて、原発の技術的問題、

人の健康への悪影響、建設プロセスにおける法的問題などについて問題提起してきた。また

9 トルコ憲法第135条は、公的職業団体について、「公的団体の性質を有する職能別組織お よびその上部機関は、特定の職業に従事する者に共通の必要性を満たし、職業上の活動を円 滑にし、社会一般の利益に適合した職業の発展を確実にし、各職業従事者が互いにまたは一 般国民との間に誠実で信頼にもとづく関係を構築するために、職業上の規律および倫理を 擁護する目的で法律に基づいて設立され、司法の監督の下で、法律に規定された手続きに従 って秘密投票により組織の成員が役員を選出する公益法人である」と定義している[澤江 2001]。

10 2013年のゲズィ抗議運動では、TMMOBをはじめ多くの職業団体がAKP政権への抗議 行動を支持した。実権大統領制導入のための憲法改正の是非を問う2017年の国民投票でも、

TMMOBは憲法改正への反対を訴えた。2018年1月にはトルコ医師連合がトルコ軍による

シリアのアフリンでの軍事作戦に反対したことで、代表を含むメンバー数人が「テロ組織の 宣伝」を理由に逮捕された。

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原発の環境影響評価の取り下げを求める裁判など反原発運動の裁判闘争には TMMOB、ト ルコ医師連合、トルコ弁護士連合が原告として参加し、裁判に必要な専門的知見や資金を提 供してきた。

TMMOBに属する24の職業団体の一つである電気技師会議所(Elektrik Mühendisleri Odası: EMO)は原発建設が計画された初期から反対の立場を表明し11、トルコの反原発運 動の中で重要な役割を果たしてきた。

1970 年代、EMO は職業の専門領域だけでなく、トルコ全体レベルの課題にも関心を向 け始めた。特にエネルギー政策や公共投資について積極的に提言し、他の市民社会組織と共 に社会運動にも参加するようになるなど、この時期にはEMOの「政治化」が進んだ[Becerik

2004a]。1976年にアックユ原発に土地ライセンスが発行されると、EMOは機関誌などを

通じて原発に関する情報提供や議論を始めた。1978年から1979年にかけては、EMOを中

心としてTMMOBがトルコ各地で原発に関するシンポジウムを開催した。EMOはシンポ

ジウムで、「帝国主義の大企業が際限なく利益を追求」しており、原発建設は「IMFやOECD、 民間金融機関からの押し付け政策」であり、外国依存を強め、国益に反するとして批判した

[Becerik 2004b: 48]。

1980のクーデター後、あらゆる社会運動や政治活動が禁止された中、公的職業団体も政 治活動を禁止された。EMOやTMMOBはデモ行進による示威行動など、1970年代に積極 的に行ってきた政治活動を停止した[Becerik 2004c: 61]。一方で、機関誌を通じて原発に ついての情報や議論を提供するなど、専門家の立場からの啓発活動は継続した。特に1986 年にチェルノブイリ原発事故が発生した後は、原発問題を積極的に議論するようになった。

1993 年の NKP設立では、EMO のキュナルがキツツキ誌などを通じて積極的に呼びか けを行った。NKP設立後、EMOはNKP参加団体のコーディネーター的役割も果たし、ア ックユ反原発フェスティバルの準備作業でも中心的役割を果たした。1990年代に反原発運 動が盛り上がる中、EMOは専門家の立場から出版、声明の発表、講演などを通じて原発の 問題点を伝えたほか、抗議イベントにも多くのメンバーが参加した。

現在も、EMOやTMMOB、トルコ医師連合、トルコ弁護士連合ら公的職業団体は反原発

運動に多くの資源を提供している。電気技師、物理学者、地質学者、生物学者、医師、法律 家などの専門的立場から運動を理論面で支え、原発に関する書籍の出版、講演会やシンポジ

11 筆者による、EMOのA19氏への聞き取り。2019年4月24日、アンカラ。

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ウムの開催などを通じて、実質的に反原発運動の多くを担っている。

筆者が参与観察を続けたイスタンブールNKPは、定例会議の会場としてEMO、農業技 師会議所、医師会議所の事務所を利用しており、中でもEMOの事務所が多く利用される。

NKPが記者会見やシンポジウムを開催する際の会場にも、EMO、環境技師会議所、機械技 師会議所、建築家会議所の施設が利用されてきた。こうした公的職業団体の事務所には、抗 議イベントで使用する横断幕やプラカード、ゼッケン、過去に印刷したパンフレットなども 保管されている。シンポジウムのポスター、横断幕やプラカード、NKPのロゴが入ったゼ ッケンや帽子、パンフレットなどの作成は、多くをEMOが担っていた。また、NKPのウ ェブページは、アンカラのEMOが運営している。メルスィンやシノップでも、NKPの定 例会議、記者会見やシンポジウムなどのイベント、運動に必要な道具の保管のために場を提 供しているのは公的職業団体や労働組合の事務所である。

毎年 4 月のシノップ反原発集会には、イスタンブールやアンカラなどトルコ各地から参 加者が集まる。EMO、シノップ県人会、環境団体などの市民社会組織が遠方からの参加者 のために往復の貸し切りバスを手配しており、大勢の参加を可能としている12。またイスタ ンブール NKP からの代表としてシノップ反原発集会など遠方の抗議イベントに参加者を 送る際には、EMOの予算から航空券を手配することもある。

2-2. 環境団体

すでに第1章で見てきたように、1980年クーデター後に市民社会組織の政治活動が厳し く統制されていた時期にも、環境運動は当局から政治的活動とは見なされず、環境問題の顕 在化にともなって各地で環境団体が運動を展開してきた。環境団体は他の社会運動が制限 されていた時期にも、署名、集会、デモ行進などの運動レパートリーを維持し、市民社会運 動の政治活動が解禁された後は運動のレパートリーや経験を他の運動へ伝播させていった。

1990 年代以降は多数の環境団体が反原発運動を開始し、NKP にも環境団体の運動レパ ートリーが持ち込まれた。また、環境団体は各地で地域に密着した環境問題に取り組むこと を通じて人々の環境意識を高め、反原発運動の潜在的支持者や参加者を育ててきた。現在も

12 筆者による参与観察。毎年、イスタンブールからは1~5台前後の貸し切りバスがシノ ップ反原発集会へ向かう。

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環境団体はNKPによる集会やデモ、様々なキャンペーン活動の実質的な担い手であると同 時に、単独でも反原発イベントを開催する。4月26日のチェルノブイリの日や、3月11日 の福島原発事故発生日などの記念日には環境団体がデモや記者会見の他、チャリティーコ ンサートなどのイベントを開催し、原発問題の啓発に取り組んでいる。NKPが主催するシ ノップ反原発集会へも、環境団体がバスを確保するなどして大勢の参加者を送り込んでき た[図 5-4]。さらに、多くの環境団体が公的職業団体と共に原発の裁判闘争に原告として 関わり、自然環境や環境規制についての専門知識を活かして重要な役割を果たしている。

2-3. 政党と地方自治体

政党は、国会で原発問題を議論の課題に取り上げることで、原発推進勢力に圧力をかける とともに、原発問題に国民の関心を向けることができる。また主要政党が反原発運動と足並 みをそろえ、抗議行動の現場に国会議員が居合わせることで、運動側は当局からの圧力を幾 分か回避することができる。

トルコの政治政党は、原発への反対世論とどう向き合っているのだろうか。2018年6月 の総選挙後のトルコ国会で議席を擁する政党は、AKP、CHP、HDP、MHP、善良党(İyi

図5-4:環境団体が準備したシノップ反原発集会参加者のためのバスの案内

2015年4月25日に開催されたシノップ反原発集会への参加者のために、「北部森林 防衛隊」と「黒海地方は反乱中プラットフォーム」がイスタンブールからシノップに向 かうバスを準備した。

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