トルコはなぜ原発導入を目指すのだろうか。原発導入の目的としてまず挙げられるのは、
増加するエネルギー需要への対応である。トルコはAKPが政権に就いた2002年以降、新 興国の一つとして経済発展が注目されてきた。トルコはBRICsに次ぐ経済の急成長が期待
されるNEXT11に数えられ、G20にも参加するなど、世界経済における存在感を増してき
た。経済成長と同時に人口も拡大を続け、大都市への人口集中も進む。さらにトルコは建国 100周年にあたる2023年に世界第10位の経済大国となることを目指している。経済成長
原発の建設・運転・所有 エネルギー天然資源省
事業会社:アックユNGS ロスアトム(出資率51%)
その他官民協力(出資率49%)
エネルギー市場調整 機構(EPDK)
トルコ原子力庁
(TAEK)
発電ライセ ンス申請
ライセンス 発行
土地・建設事業者 ライセンス申請
ライセンス 発行
環境・都市整備省
トルコ電力取 引・保証会社
(TETAŞ)
電力販売
買取保証
内務省 建設行為の
許可申請 許可 環境影響評
価レポート 許可 出資
図2-3: 原発事業の運営体制(アックユ原発事業の例)
出所:日本原子力産業協会[2014]を基に筆者作成
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と人口増加は、電力需要を増加させてきた。トルコの電力需要は1970年代中頃から毎年平 均7.3%上昇しており、2023年まで年平均6~7%の増加が予測されている[JETRO 2014:
125]。トルコ政府は経済成長と人口増加による電力需要の増加を賄う電源として、原発に 期待している。
エネルギー源の輸入依存からの脱却の必要性も、原発導入の重要な動機となっている。ト ルコは石炭(褐炭)を除き化石燃料資源に乏しく、その多くを周辺国からの輸入に頼ってい る。トルコの発電エネルギー源のうち、大きな割合を占めているのは天然ガスである[図 2-4]。天然ガスのほぼ全量は輸入に依存しており、ロシアやイランからの輸入が大半を占め る。エネルギー源の輸入依存低減は、トルコのエネルギー安全保障上の大きな課題となって いる。
2009年にトルコの閣僚会議で承認された「エネルギー戦略白書」では、エネルギー源構 成における天然ガスの比率を 2023 年までに 30%未満にすることと並び、発電エネルギー 源の多様化が目標とされている。エネルギー源多様化戦略の一環として、国産褐炭と水力発 電、再エネ利用の最大化、エネルギー効率の改善と共に、原発の導入が掲げられている。
2023年までに原発導入を果たし、2030年までに3つの原発、計12基の原子炉を稼働させ、
総発電容量の10%を原発で賄うことが目標とされている。
図2-4:トルコの発電設備容量におけるエネルギー源別の構成(2017年7月)
出所:エネルギー天然資源省ウェブページ(Republic of Turkey Ministry of Energy and Natural Resources, http://www.enerji.gov.tr/en-US/Pages/Electricity.)を基に筆者作成
天然ガス 34%
石炭 31%
水力 24%
風力 6%
地熱 2%
その他 3%
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原発導入の理由としては他に、安定的な電力供給、温室効果ガスの削減、燃料価格の安さ などが挙げられている。エネルギー天然資源省のウェブページには、原発のメリットとして 以下の項目が挙げられている13。
原発は天候に左右されずに安定した発電を行うことができる。
原発は運転において温室効果ガスを排出しない。したがって地球温暖化の防止に 貢献する。
他の電源と比べ燃料価格が非常に安い。
原発の燃料であるウランは世界各地に存在する。
原発に必要な敷地は他の電源に比べ小さく済む。したがって農地や居住地、自然環 境への影響が小さい。
図2-5は、2015年3月に街頭や空港、公共交通機関の広告掲示板などに登場したアック ユ原発の広告である。同時期に、テレビでもアックユ原発の広告が放送された。街頭広告用 には、異なるスローガンを使用した 5 種類の広告が制作された 14。筆者がイスタンブール
13 Republic of Turkey Ministry of Energy and Natural Resources, http://www.enerj i.gov.tr/en-US/Pages/Nuclear. (Last accessed: 2019 November 19)
14 2015年3月から4月の期間にトルコに滞在した際の筆者による観察。
図2-5: アックユ原発の街頭広告
筆者撮影(2015年4月13日、サムスン)
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とサムスンで見つけた街頭広告の宣伝文句を以下に紹介する。
強いトルコの、新しいエネルギー(Güçlü Türkiye’nin Yeni Enerjisi)
強いトルコの、安全なエネルギー(Güçlü Türkiye’nin Güvenli Enerji)
強いトルコの、専門的エネルギー(Güçlü Türkiye’nin Uzman Enerjisi)
強いトルコの、クリーンなエネルギー(Güçlü Türkiye’nin Temiz Enerjisi)
強いトルコの、国民的エネルギー(Güçlü Türkiye’nin Milli Enerjisi)
さらに、それぞれのスローガンには以下の文言が加えられていた。
トルコは歴史上もっとも大きな投資を実現し、エネルギー外国依存を解消しようとし ている。誇り高いトルコのこの投資は皆のためのものだ!
以上のメッセージから、原発はエネルギーの外国依存を低減させるものとして期待され ているだけでなく、「強い」トルコの「誇り」として位置づけられていることが読み取れる。
先進国へのキャッチアップに向けた開発は、建国以来のトルコにおいて、政治的立場 の違いを問わず共有された重要な国家目標であり続けてきた[Adaman & Arsel 2005:
293-294; Keyman 2005]。原発は国の発展や経済成長の原動力あるいはその象徴として
掲げられ、いくつもの政権が原発建設を目指してきた。本章で見てきた通り、これまで トルコでは原発建設計画が政権交代によって中止されたことはなかった。原発反対派に は政党による受け皿がなかったからこそ、制度外政治である社会運動を通じて原発建設 の阻止が試みられてきた。
では、トルコにおいて反原発運動はどのように生じ、原発建設を目指す政府にどう対 抗してきたのだろうか。次章以降では、反原発運動の展開過程やその特徴について明ら かにする。
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