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原発建設に対するトルコの世論

ドキュメント内 学位授与年月日 2020‑03‑21 (ページ 103-113)

1970年代から続くトルコの反原発運動に、人々はどのような理由で参加してきたのだろ うか。本章ではトルコの人々が原発に反対する理由や、反原発運動への参加動機について明 らかにする。本節では、過去に実施された世論調査を分析し、反原発運動の背後にある原発 への反対世論について明らかにする。

1-1. ボアジチ大学の研究者による調査(20077月~8月実施)

ボアジチ大学のプナール・エルトル=アクヤズ(Pınar Ertör-Akyazı)らは、望ましいエ ネルギー源について2007年にトルコ市民へのインタビュー調査を実施した。この調査は質 問票を使った対面インタビュー方式で、トルコの都市部2422世帯を対象に2007年7月か ら8月の時期に実施された。原子力、再エネ(風力・太陽光)、石炭、天然ガス、大規模水 力の選択肢から、トルコが投資すべきではないエネルギー源を選ぶ質問に対し、回答者の 62.5%が原子力を選択した。逆にトルコが投資すべきエネルギー源を上記の選択肢から2つ 選ぶ質問では、原子力を選んだ回答は7.2%であった[Ertör-Akyazı et al. 2012]。

この調査では、トルコが投資すべきエネルギー源と投資すべきではないエネルギー源に ついて、それぞれの選択の理由を自由回答形式で尋ねる質問も行われた。その結果、原子力 に投資すべきではない理由で多かったのは「健康への悪影響」や「事故のリスク」であった。

原子力に投資すべき理由では、「効率が良い」「安い」「温室効果ガスを排出せずクリーン」

が多かった1

1 さらに回答者の性別や年齢、学歴や環境問題への知識レベル、環境保護キャンペーンへの 参加、環境問題の将来予想などを問う質問がされ、分析の結果、気候変動に関する知識が高 いほど、原子力と再エネを支持することがわかった。原子力を支持する回答は男性に多く、

トルコの環境の未来についてより楽観的であった。原子力を支持しない回答者はトルコの

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エルトル=アクヤズらによる調査が実施されたのは2007年であり、この時の世論は2011 年の福島原発事故による影響をまだ受けていない。それでもトルコは原子力に投資すべき ではないとした回答が 62.5%に上った要因として、エルトル=アクヤズらはチェルノブイ リ原発事故がトルコに及ぼした健康被害や食品汚染を指摘している[Ertör-Akyazı et al.

2012: 314]。原子力利用を支持しない理由として事故のリスクや健康への悪影響があげら

れていることからも、チェルノブイリ原発事故の影響をうかがうことができる。

1-2. グリーンピース地中海による調査(20113月~4月実施)

次に、グリーンピース地中海がトルコの原発建設計画について実施した世論調査を取り 上げる。この世論調査はグリーンピース地中海が調査会社のA&G社に依頼したもので、ト ルコ国内34県の137地区で、18歳以上の有権者2469名を対象に、自宅での対面インタビ ュー方式で行われた。調査結果は2011年4月29日にグリーンピース地中海のウェブサイ トで発表された2[Greenpeace Akdeniz 2011 April 29]。以下に調査結果の一部を紹介す る。

まず原発建設に対する賛否については、トルコ全体で回答者の 64%が原発に反対であっ た。メルスィン市では反対が69.6%、シノップ市では反対が76.5%であった[図4-1]。原 発建設に反対と答えた回答者にその理由を自由回答してもらうと、「人間の健康への悪影響」

「自然環境への悪影響」「放射線の危険性」に分類される回答が多かった。また回答者の 86.4%が、原発の近くでは暮らしたくないと答えた。

支持政党ごとに原発建設への賛否を尋ねた質問では、AKP 支持者の原発賛成比率は 58.5%で、反対の41.5%を上回った。その他の政党支持者では原発反対が賛成を上回った。

CHP支持者の原発反対比率が最も高く、86.2%であった[図4-2]。ここから、原発建設へ の反対は支持政党の枠を超えて共有されており、AKP支持層でも4割が原発建設に反対し ていることがわかる。回答者の年代別、学歴別に原発への賛否を見ても、原発反対が賛成を 常に上回っている。原発に反対と回答したのは27歳以下の62.3%、28歳~43歳の61.8%、

環境の未来についてより悲観的で、技術を完全には信用しない立場であった[Ertör-Akyazı et al. 2012]。

2 調査の詳しい実施時期は不明であるが、質問項目の中には福島原発事故や、事故後のエル ドアン首相の発言についての質問が含まれている。したがって、調査が行われた時期は2011 年3月中旬から調査結果が発表された4月下旬までの間であると考えられる。

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44 歳以上の 67.8%であった。学歴では大学卒業者の 71.3%、中学卒業者・高校卒業者の 61.3%、それ以下の学歴の回答者の64.8%が原発に反対と答えた。

図4-1:原発建設に反対する人の割合 トルコ全体 メルスィン シノップ

64% 69.6% 76.5%

出所:Greenpeace Akdeniz2011 April 29]を基に筆者作成。

出所:Greenpeace Akdeniz2011 April 29]を基に筆者作成。

トルコで建設される原発は安全だと思うかどうかについては、回答者の 19.6%が安全だ と答え、57.7%が危険だと答えた。同じ質問の回答はメルスィン市では安全 13.4%、危険 68%、シノップ市では安全10.1%、危険76.1%であった。原発は危険だと答えた回答の率 を地域別に見ると、マルマラ地方では 61.5%、エーゲ地方 63.2%、中央アナトリア地方 60.6%、地中海地方55.4%、黒海地方58.7%、東アナトリア地方32.7%、南東アナトリア 地方46.3%であった。

原発や原発事故について、何が情報源となるかを尋ねた質問では、メディアと答えた回答 は76.3%、NGOは67.3%で、政府と答えたのは58.3%であった。エネルギー天然資源相 が原発を導入しなければ停電が起きると発言したことについて、それを信じると答えたの

58.5%

41.5%

13.8%

86.2%

22.4%

77.6%

26.9%

73.1%

賛成 反対 賛成 反対 賛成 反対 賛成 反対

AKP CHP MHP BDP

図4-2:支持政党別の原発建設への賛否

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は回答者の28.6%、信じないと答えたのは55.8%だった。エネルギー天然資源相のこの発 言を信じるかどうかを回答者の支持政党ごとに調べた結果では、AKP支持者のみ「信じる」

が45.7%で、「信じない」の34.8%を上回った。他の政党支持者の中では、エネルギー天然 資源相の発言を信じないとする回答が多数を占めた。CHP 支持者では「信じる」11.1%、

「信じない」81.1%、MHP支持者では「信じる」18.1%、「信じない」71.6%、BDP支持 者では「信じる」20.1%、「信じない」55.2%であった。

福島原発事故について知っていると答えた回答者は 93.4%であった。福島原発事故の後 にエルドアン首相が原発事故のリスクを台所のガス事故に例える発言をしたことについて は、支持が43.8%、不支持が54.7%であった。

1-3. Ipsos社による調査(20115月実施)

国際調査会社のIpsosは2011年5月、トルコを含む24か国を対象に原発についての世 論調査を実施した。調査はオンラインでの記入方式で実施され、トルコでは 16 歳から 64 歳までの約500名が対象となった。調査対象となった24か国は、アルゼンチン、オースト ラリア、ベルギー、ブラジル、カナダ、中国、フランス、英国、ドイツ、ハンガリー、イン ド、インドネシア、イタリア、日本、メキシコ、ポーランド、ロシア、サウジアラビア、南 アフリカ、韓国、スペイン、スウェーデン、トルコ、米国である[Ipsos 2011]。

原発への賛否を問う質問に対し、トルコでは11%が強く支持、18%がやや支持、15%が やや反対、56%が強く反対と答えた。やや反対と強く反対を合わせると、トルコでは71% が原発に反対している[図 4-3]。なお、同じ質問に対し日本では強く支持 5%、やや支持 36%、やや反対30%、強く反対28%であった。やや反対と強く反対の合計は 58%と過半 数に達したが、調査対象24か国中、原発反対の比率が多かった順番で日本は16 位であっ た。トルコはメキシコ(計 81%)、イタリア(計 81%)、ドイツ(計 79%)、アルゼンチン

(計72%)に次いで第5位であった。福島原発事故を経験した直後の日本よりも、トルコ の方が原発に反対する回答率が高かった。

原発の建設を続けるべきかどうかを問う質問では、トルコの回答者の20%が続けるべき、

80%が止めるべきと答えた[図4-4]。原発建設を止めるべきとする回答の比率で、トルコは 24か国中、ブラジル(89%)、メキシコ(87%)、ドイツ(85%)、イタリア(83%)、アルゼ ンチン(82%)に次いで6位だった。

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原発に反対と答えた回答者に対し、いつからそのような意見になったかを問う質問では、

福島原発事故をきっかけに原発に反対するようになったのか、それ以前から原発に反対し ていたのかが尋ねられている。福島原発事故がきっかけだとする回答は事故当事国である 日本(52%)、日本から近い韓国(66%)、中国(52%)など、東アジアで多数となった。一 方でトルコでは、福島原発事故がきっかけと答えたのは 25%であり、71%が以前から原発 に反対していた[図4-5]。

すでに紹介したエルトル=アクヤズら[2012]による調査でも明らかになったように、

トルコでは福島原発事故の以前から原発に反対する世論が強い。エルトル=アクヤズらも 指摘しているように、これはトルコがチェルノブイリ原発事故による被害を経験したこと が関係していると考えられる。チェルノブイリ原発事故ではトルコでも茶葉やヘーゼルナ ッツをはじめとする食品が深刻な汚染被害を受けた。Ipsosの調査で、原発事故後の日本産 食品の消費を控えるかどうかを問う質問に対し、トルコでは 69%が少なくとも一品目の消 費を控えると答えている。これは日本から近い韓国(89%)、中国(87%)についで3番目 に高い比率である。食品の放射能汚染に対する懸念がトルコでは非常に高いことも、チェル ノブイリ原発事故の経験が関係していると考えられる。

ほかに、原子力による発電は長期的に有効な選択肢だと思うか、それともすぐに時代遅れ になる選択肢だと思うかを尋ねる質問では、トルコの回答者の 23%が長期的に有効、77%

が時代遅れになると答えた[Ipsos 2011]。

5%

11%

36%

18%

30%

15%

28%

56%

日本 トルコ

図4-3:原 発 利 用 を 支 持 す る か

強く支持 やや支持 やや反対 強く反対

反対 71%

反対 58%

出所:Ipsos[2011]を基に筆者作成。

ドキュメント内 学位授与年月日 2020‑03‑21 (ページ 103-113)