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5 結果

6.2 資源創出の理論の視点からの考察

1)自社製品・技術の特⾧、強みを整理してわかりやすく情報発信すること。

このとき、不特定多数へはウェブサイトや展示会で情報発信する。ソーシャル・ネットワー クの特定の関係者へは、社⾧の思いや取組なども加えて、会合や面談で情報発信する。

2)情報発信への反響に含まれる現製品で対応できない案件に着目すること。

3)着目した案件の問合せ元やソーシャル・ネットワークの専門家等と情報のやり取りをし て、市場・ニーズを明確にして、保有資源を組み替えたり新たな資源を組み合わせたりして ニーズに適合する様結合して新製品コンセプトを創造すること。

4)そのために、ソーシャル・ネットワークを構築し、活用して資源調達能力を向上させる こと。

5)知識結合能力をもつこと。

6)不特定多数への情報発信と問合せへの対応ができる社内体制をつくること。

7)社⾧が、企業ビジョンを設定・共有し、権限委譲して挑戦を奨励するとともに相談中心 のコミュニケーションを行う支援型のマネジメントを行うこと。

また、PLS-SEM 分析の結果、ソーシャル・ネットワーク→資源調達能力のパス係数が 0.559**で有意であること、および、インタビュー内容の定性分析からソーシャル・ネット ワークがニーズ情報の源となるとともに、新たな技術等の資源調達の源ともなることが示 されたことから、ソーシャル・ネットワークが資源調達能力を支援する効果が確認された。

このことは Caniëls et al.(2014)、水野(2018)、岸本(2017)などの先行研究とも整合す る。

2006; 福嶋・権, 2009)を機能させるための触媒として重要な役割を持つことが示唆され た。

水野(2018)が指摘したのは、ソーシャル・ネットワークを構築し、顧客を含むステー クホルダーから情報やニーズをえて、保有資源を活かして新たに事業展開していく戦略で あった。これに対し、本研究で明らかにした情報発信からの新製品開発は、情報やニーズ が得られるのをただ待つのではなく、積極的に情報発信することで情報やニーズを得られ やすくする点、ソーシャル・ネットワークからだけでなく不特定多数の中にある潜在顧客 からも情報やニーズを得られる点、保有資源が活用できる、それまで知らなかった思いも よらない異分野の用途の新たな市場、ニーズの情報を得られる点が特⾧となる。

新製品を開発していきたいというビジョンを持ち、現製品の顧客を増やす意図で情報発 信することで、新たな市場、ニーズの情報を含む現製品で対応できない案件という意図せ ざる結果(藤本, 2003)が得られる。その意図せざる結果に着目して、顧客候補や専門家 等を巻き込んだプロセスを通じて新製品コンセプトという知識を創造していた点では、情 報発信の効果を活用した新製品コンセプト創造は「創発」(藤本, 2003)的な資源創出とい える。ただし、この新製品コンセプト創造のプロセスが野中・紺野(2003)が示した知識 創造の SECI モデルを使って説明することについては今後の研究課題となる。

池田(2012)によると、自社製品をもつ独立型中小企業は独自技術や商品企画提案力を 持つ企業の割合が受注生産型の中小企業の場合より多く、研究開発、新市場開拓の取組に ついても独立型中小企業と受注生産型の中小企業では差が見られる。独自技術といった資 源や商品企画提案力、研究開発や市場開拓の組織能力を保有していることは、新製品開発 に有利なのではないかという推定もできる。しかし、アンケート調査結果の相関分析で は、「自社開発製品」を 5、「発注元設計の受注生産製品(下請け型)」を 1 とした製品タイ プと、新製品コンセプト数、事業化できた新製品数との間に有意な相関は見られなかっ た。これは、新製品開発に必要な資源や能力が、新製品コンセプト創造、新製品開発とい った資源創出に寄与するには、情報発信から新たなニーズや機会の情報を得るという触媒 作用が必要であるということが説明の一つとなり得る。しかし、この点の検証も今後の課 題となる。

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表 16 6 つの事例から抽出した資源創出メカニズム、資源創出プロセスに当てはまる内容 事例 保有資源 情報

発信

得られたそれまで 知らなかった 異分野の用途の

ニーズ・機会

資源創出の状況

(新製品コンセプト創造)

当てはまる 資源創出メカニズム、

資源創出プロセス 三 郷

金属 工業

レーザー・ク

リーニング レーザー技術 不特定

多数へ 塗膜剥離 得られた案件から保有資源のレーザー技術が塗 膜剥離に応用展開できることに運よく気づき、

視点を転換して、社外から技術情報を導入して 組合せて新たな資源を創出した。

・運 ・視点の転換

・アライアンス ISO コンサル

ティング・教 育サービス

社内向け ISO

指導者 特定の

関係者へ ISO コンサルティ

ング、教育 社内向けの資源を視点の転換により社外向けの 資源とし、教育プログラムの「内部開発」をし て新サービスという資源を創出した。

・視点の転換

・内部開発 医薬品、化粧

品製造の一部 請負サービス

製造管理、品 質管理、変種 変量生産対応 力

特定の 関係者へ 製造品質管理、変

種変量生産 視点の転換により精密溶接部品、車載向け製品 向けの資源の「既存のつながりの多重利用」を し、新サービスという資源を創出した。

・視点の転換

・既存のつながりの多 重利用

チト セ工 業

無線電子回路 試作開発受託 サービス

電子回路製品 開発と営業の 人的資源

特定の 関係者へ 電子回路試作開発 「自社商品を作りたい、東大阪でモノづくりを したい」というビジョンを持って人材採用し、

「資源採取」した。その後、案件を紹介され、

視点を転換して自社商品向けの人的資源で受託 型の新サービスという新たな資源を創出した。

・資源採取

・視点の転換

無線式防水型 温湿度センサ ー開発

無線電子回路

試作開発技術 特定の

関係者へ 無線式防水型温湿

度センサー開発 プロジェクトへ参画する機会、ニーズ情報、シ ーズ情報を運よく得て、視点を転換し受託サー ビス向けであった資源に三重大学等と共同研究 して得られる資源に組み合わせて新たな資源を 創出した。

・運 ・視点の転換

・アライアンス

無線式防水型 温湿度センサ ー商品展開

無線式防水型 温湿度センサ ー、技術

不特定 多数へ コンクリート養 生、食品加工、食 品保存での使用ニ ーズ

問合わせから運よく、左記ニーズに応用展開で きる資源であることに気づき、視点の転換をし て、顧客や顧客候補からニーズ情報という資源 を導入し組合せて新たな資源を創出した。

・運 ・視点の転換

・アライアンス

7.結論