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5 結果

6.1 メカニズムについての考察

アンケート調査の PLS-SEM 分析とインタビュー内容の定性分析結果から検証した仮説内 容とインタビュー内容の定性分析結果の発見事項、および、インタビューで得た事例の新製 品コンセプトが創造される経緯にもとづいて、情報発信から新製品コンセプトが創造され るステップとメカニズムを、不特定多数への情報発信の場合について次のように整理し、図 11 にメカニズムの概念図を示した。

①現製品の特⾧や会社の強みについての情報発信により②現製品の販売につながる案件だ けでなく、顧客候補から現製品で対応できない案件が得られる。

③その現製品で対応できない案件に着目する。(発見事項 1)

④、⑤顧客候補と自社、自社とソーシャル・ネットワークの間で情報をやりとりし、あたか も共鳴させるプロセス(「インフォメーション・レゾナント効果」と名付ける)により、そ れまで知らなかった思いもよらない異分野の用途の市場や潜在していた新たなニーズを把 握し(発見事項 2)、ソーシャル・ネットワークを活用してシーズ情報などの資源調達がで きる。

⑥保有資源について視点の転換が行われ(発見事項 3)、新たに調達できた資源と組み合わ せて新たなニーズに適合する様に結合して、問合せ元の要望に応えるだけでなくある程度 汎用性のある、新たな市場に向けた新製品コンセプト創造ができていた。

図 11 新製品コンセプト創造を促進するメカニズムを示す概念図

上記は、不特定多数への情報発信の場合を説明した。ソーシャル・ネットワークの特定の 関係者への情報発信の場合には、①の情報発信の内容に、社⾧の思いや取り組みなどが加え られることがある点、②の反響がソーシャル・ネットワークの特定の関係者から得られる点、

その特定の関係者または紹介された顧客候補等と④の情報のやり取りを行う点で違いがあ る。しかし、次に示す本質的な内容については、不特定多数への情報発信とソーシャル・ネ ットワークの特定の関係者への情報発信の場合で共通のメカニズムが見られた。

このメカニズムは情報発信することと、そこから得られる現製品では対応できない案件お よびそのニーズ情報に着目することを通して発現していた。これは仮説 1~6 を定量分析・

定性分析で検証した、ソーシャル・ネットワーク、資源調達能力が情報発信を介して新製品 コンセプト創造、さらに新製品開発を促進する結果を補強し意味付けする内容である。すな わち、情報発信することで、保有資源が活用できるそれまで知らなかった思いもよらない異 分野の用途の新たな市場、ニーズの情報が得られ、これが触媒となり、その市場、ニーズに 適合するようにソーシャル・ネットワークの活用とシーズ情報等の資源の調達が行われ、そ れらの知識を結合して新製品コンセプトが創造されたのである。また、更にそのように創造 された新製品コンセプトが新製品開発の成功に密接に関係していることが示唆された。

また、事例では企業ビジョンを設定、共有し、権限委譲して挑戦を奨励するとともに相談 中心のコミュニケーションを行う支援型の社⾧のマネジメントが見られた(発見事項 4)。

このマネジメントは、担当社員が現製品で対応できない案件に着目し、社⾧に相談して顧客 候補との情報のやり取りやソーシャル・ネットワークの活用を行い、情報収集して知識結合 能力を発揮して新製品コンセプトを創造する際に有効に作用していることも示唆された。

現製品の販売促進という意図で情報発信した際「意図せざる結果」(藤本, 2003)である現 製品で対応できない案件にも着目し、「意図せざる結果の意味を後付けでしっかり認識」(藤 本, 2003)するように情報のやり取りなどの活動をして新製品コンセプトを創造し新製品開 発を成功させた。これができたのは、藤本(2003)が指摘する組織の成員が共有する、ある 種の心構え(preparedness)、思考習慣が上記の社⾧のマネジメントにより醸成できたため ではないかと推察される。しかし、このようなマネジメントにより、社⾧だけでなく、担当 する社員も現製品で対応できない案件にも着目することができ、知識結合能力を高める効 果があるのかどうかの検証は今後の研究課題になる。

さらに、チトセ工業の無線式防水型温湿度センサーの用途別の新製品展開の事例にみられ るように用途別に開発した新製品について、用途展開例とともに情報発信してシリーズ展

開を積極的に進めている事例もあり(発見事項 6)、このことからは,新たなニーズ情報を 得られることを意図して情報発信し、現商品で対応できない案件を多く得て、それらの案件 からのニーズ情報や機会の情報を整理して新製品コンセプトを創造していく組織能力を構 築していくことが有効ではないかと推察されるが、この点についても検証は今後の課題と なる。

PLS-SEM 分析の結果で新製品コンセプト創造の R2(決定係数)が 0.094 であり、予測力

(predictive power)が低かったが、情報発信が新製品コンセプト創造を促進することは定 性分析からも検証できた。また、知識結合能力が新製品コンセプト創造を促進すること、企 業ビジョンを設定・共有し、権限委譲して挑戦を奨励するとともに相談中心のコミュニケー ションを行う支援型の社⾧のマネジメントも新製品コンセプト創造を促進すると示唆され ることから、情報発信だけで予測しようとした図 10 のモデルでは R2(決定係数)が小さく なったと推察されるが、この点についての定量的検証は今後の課題である。

6.1.2 情報発信の役割、もたらす効果

それまで知らなかった思いもよらない異分野の用途の市場や潜在していた新たなニーズ 情報、機会を獲得できること、さらにその機会は保有技術、保有資源を活用できる機会であ ること、は新製品開発のリスクとコストの削減をしたい中小企業にとって有用な効果であ る。また、顧客または顧客候補を把握して新市場をひらく新製品が開発できることも大きな 効果といえる。

また、自社製品の販売促進を狙った自社製品、技術の特⾧、強みについての情報発信によ り、新製品開発成功につながるニーズ情報が得られることから、先行研究で指摘された情報 発信による模倣リスク(真鍋・米山, 2017; 亀岡, 2008; 児玉, 2017 など)の回避については 通常の技術マーケティングと同様の配慮(名取, 2013 など)で良い。このことは、中小企業 が実践していくうえで有用な点である。

6.1.3 メカニズムを発現させるために重要な点

情報発信することで得られるニーズ、情報、機会から新製品コンセプトを創造するメカニ ズムを発現させるために重要な点は、仮説検証結果と発見事項およびメカニズムから下記 の 7 点に整理できる。

1)自社製品・技術の特⾧、強みを整理してわかりやすく情報発信すること。

このとき、不特定多数へはウェブサイトや展示会で情報発信する。ソーシャル・ネットワー クの特定の関係者へは、社⾧の思いや取組なども加えて、会合や面談で情報発信する。

2)情報発信への反響に含まれる現製品で対応できない案件に着目すること。

3)着目した案件の問合せ元やソーシャル・ネットワークの専門家等と情報のやり取りをし て、市場・ニーズを明確にして、保有資源を組み替えたり新たな資源を組み合わせたりして ニーズに適合する様結合して新製品コンセプトを創造すること。

4)そのために、ソーシャル・ネットワークを構築し、活用して資源調達能力を向上させる こと。

5)知識結合能力をもつこと。

6)不特定多数への情報発信と問合せへの対応ができる社内体制をつくること。

7)社⾧が、企業ビジョンを設定・共有し、権限委譲して挑戦を奨励するとともに相談中心 のコミュニケーションを行う支援型のマネジメントを行うこと。

また、PLS-SEM 分析の結果、ソーシャル・ネットワーク→資源調達能力のパス係数が 0.559**で有意であること、および、インタビュー内容の定性分析からソーシャル・ネット ワークがニーズ情報の源となるとともに、新たな技術等の資源調達の源ともなることが示 されたことから、ソーシャル・ネットワークが資源調達能力を支援する効果が確認された。

このことは Caniëls et al.(2014)、水野(2018)、岸本(2017)などの先行研究とも整合す る。