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アンケート結果のうち、情報発信、資源調達、ソーシャル・ネットワークと新製品コンセプ ト数、事業化できた新製品数について PLS-SEM 分析(詳細は後述)を行った。また、従業

員数、創業年、製品タイプと新製品コンセプト数、事業化できた新製品数について相関分析 を行い、これらの制御因子の影響がないことを確認した。判断基準は有意な相関がないこと とした。

4.3.1 PLS-SEM(Partial Least Squares Structural Equation Modeling)について PLS(Partial Least Squares)法は、計量化学の分野で Wold(1975)によって開発された 回帰分析手法で、サンプル・サイズに比べて圧倒的に変量が多い場合や変数間の共線性が高 い場合に有用とされている。PLS 回帰はデータをそのまま使わずにスコア(潜在変数、成分 とも呼ばれる)を計算し、そのスコアへの回帰を行う点が通常の重回帰と異なる。スコアを 計算する際の重みは、スコアと従属変数の共分散が最も高くなるようにし、かつ、スコアが 互いに無相関となるように逐次求めていく。そして得られたスコアの一部に対して最小2 乗法で係数を推定していく手法である(橋本・田中, 2010)。

Hair, Hult, Ringle and Sarstedt(2017)によると、PLS-SEM(Partial Least Squares Structural Equation Modeling)は、主な目的が対象の構造の予測と説明である場合など、理論の探索的 開発に用いられる。PLS-SEM では潜在変数間の関係は一方向の矢印で示され、関係の方向 性を示す。この矢印は関係を予測していると考えられており、理論的な裏付けにより因果関 係として解釈が可能となる。CB-SEM(Covariance-based Structural Equation Modeling)で は正規分布するデータを前提とするが、PLS-SEM では分布を仮定しない。それにより CB-SEM に比べて、PLS-CB-SEM では特定の関係の統計的優位性を得やすい、といった特徴があ る。また、PLS-SEM は小さいサンプル・サイズと複雑なモデルで能率的である。サンプル・

サイズについては、潜在変数がリフレクティブに測定される場合には、潜在変数へのパス数 の最大値の 5 倍から 10 倍より大きいサンプル・サイズが推奨されており、パス数の最大値 が 2 のモデルについて 17 のサンプル・サイズで分析した先行研究がある(Majchrzak, Beath, Lim and Chin, 2005)。

4.3.2 PLS-SEM を選定した理由

本研究では、仮説の構造を検証することが第一の目的であるが、ソーシャル・ネットワー ク、資源調達能力は先行研究からは情報発信を介さず新製品コンセプト創造、新製品開発に 直接効果を持つことが示唆されており、仮説の検証とともに、直接の効果を含めて探索的に モデルを分析するために PLS-SEM を用いることとする。また、ソーシャル・ネットワーク、

資源調達能力の測定因子間に相関があり、多重共線性の問題を回避できること、サンプル数 30 で統計的に有意な関係を分析できることも、PLS-SEM を選択した理由である。

4.3.3 PLS-SEM の分析と評価

モデル作成と計算に PLS-SEM のソフトウェアである、Ringle, C.M., Wende, S., and Becker, J.-M. 2015. “SmartPLS 3,” www.smartpls.com. を使用した。

仮説 1、2、4、5 を検証するため、仮説の因子間の関係を示した図 9 に従いモデルを作成 した。さらに、ソーシャル・ネットワークと資源調達能力が情報発信を介さずに新製品コン セプト創造、新製品開発の成功に寄与するかどうかを調べるために、ソーシャル・ネットワ ークから新製品コンセプト創造、新製品開発の成功へのそれぞれのパスと、資源調達能力か ら、新製品コンセプト創造、新製品開発の成功へのそれぞれのパスを加えた、また、ソーシ ャル・ネットワークと資源調達能力の間の関係を調べるパスを加えたモデルとした。1 つの 潜在変数へ向かうパスは最大 3 で、Majchrzak et al.(2005)に示された 5 倍から 10 倍の推 奨サンプル・サイズは 15~30 となり、本研究で用いたサンプル・サイズ 30 はこの推奨範 囲に入る。

PLS algorithm を用いて計算し、5000 の Bootstrapping を行った。

分析の評価は Hair, Hult, Ringle and Sarstedt(2017)に示された手順と評価基準に従い収 束的妥当性(Convergent Validity)、内的整合性信頼度(Internal Consistency Reliability)、

弁別的妥当性(Discriminant Validity)でモデルを確認し、パス係数(Path Coefficients)が 有意な正の値となることを検証の基準とした。それぞれの確認、検証の基準は下記のとおり である。

1)収束的妥当性(Convergent Validity)

各測定因子の outer loadings が全て、0.70 を超え、潜在変数の AVE(Average Variance External)が 0.50 を超えていることを確認する。

2)内的整合性信頼度(Internal Consistency Reliability)

潜在変数の Composite reliability が 0.70 を超え、Cronbach’s alpha が 0.50 を超えている ことを確認する。

3)弁別的妥当性(Discriminant Validity)

Heterotrait-Monotrait Ratio (HTMT) の値が 0.90 より低く、バイアス補正した信頼区間 に 1 を含まないことを確認する。

4)以上によりモデルの妥当性と信頼度を確認したのち、パス係数(Path Coefficients)が正 の値であり、P値が 0.05 以下で有意であることを検証基準とする。

5)また、潜在変数の決定係数 R2はモデルの予測力(predictive power)の尺度として参考 にする。ただし、調査の評価基準とモデルの複雑性とにより、その指標は異なるため、注意 が必要である。例えば、消費者行動の調査において、0.20 は高い値と考えられているが、マ ーケティングの学術的研究においては、0.75 では予測力が堅固、0.50 では予測力が中程度、

0.25 では予測力が低いという評価がされている。本研究では後者を参考指標とする。

4.4 インタビュー調査に基づくケース・スタディの方法