第 5 章 日本医大(2次救急医療機関)での傷害予測のための事例調査
5.3 調査結果
5.3.1 調査事故の概要
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車両破損程度をバリア換算速度でみると,31~40km/h, 21~30km/hが11~12台と多く,
次いで51~60km/hが8台となっており調査車両の約1/4(バリア換算速度不明10 台を除
く)が51km/h以上となっている.
表 5-2 車両の衝突面別,衝突部位別,バリア換算速度別車両数
~10 ~20 ~30 ~40 ~50 ~60 ~70 ~80 81以上 不明
1/2以上の衝突 4 4 1 5 1 15
1/4以上 〃 1 3 1 1 6
1/4以下 〃 3 5 4 12
もぐり込み衝突 1 1
Aピラー前の衝突 1 1 1 1 4
A~Cピラー間の衝突 1 2 2 1 6
Cピラー後の衝突 0
4 4
1 1
0 3 11 12 4 8 0 1 0 10 49
衝突面 Vb (km/h)
計
前面
側面
転倒・転覆 その他
計
5.3.1.3 車両衝突面と乗員傷害程度
本調査は病院を基点として,救急搬送される交通事故患者を対象として調査を行った.こ のため同一事故において複数の患者が運ばれる場合は,その中で最も傷害程度が高い患者を 主患者として以下の解析を行った.事故車両 49台における主患者乗員49 人について車両の 衝突面別,衝突部位別,MAIS別人数を表5-3に示す.主患者乗員49人を最大傷害程度(MAIS) との関係でみると,MAIS(1)は12人(24%),MAIS(2)は17人(35%),MAIS(3)は9人(18%),
MAIS(4)は7人(14%),MAIS(5)は4人(8%)とAIS1~2が多くなっているが,調査基点
の病院は救急病院に指定されているため重症以上を示すMAIS(3)以上の乗員が20人(40%)を 占めており重症以上の割合が比較的多くなっている.
表 5-3 車両の衝突面別,衝突部位別,MAIS別乗員数
1 2 3 4 5 6 計
1/2以上の衝突 1 4 4 4 2 15
1/4以上 〃 4 1 1 6
1/4以下 〃 5 5 1 1 12
もぐり込み衝突 1 1
Aピラー前の衝突 2 1 1 4
A~Cピラー間の衝突 2 3 1 6
Cピラー後の衝突 追突衝突 もぐり込み衝突
3 1 4
1 1
12 17 9 7 4 49
MAIS
前面
側面
後面
転倒・転覆 その他
計 衝突面
これら主患者乗員の傷害程度と車両衝突面との関係でみると,重傷レベル以上を示す
MAIS(3)以上の乗員は衝突面が前面の車両で12人(46%),衝突面が側面の車両で6人(60%)
と側面衝突車両で重傷以上の割合が高くなっている.側面衝突車両の中では破損部位がA~
Cピラー間の客室部側面(ドア部など)であった車両での乗員,重傷以上の乗員がいずれも 多くなっている.
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5.3.1.4 傷害部位と加害部品
調査事故49件における主患者乗員49人と同一事故で搬送された乗員10人の全傷害合計は 193件である。全傷害につて,傷害部位・傷害名称別,加害部位別の傷害数を表5-4に示す.
傷害部位別の傷害数をみると,乗員が受傷し易い身体部位は胸部と下肢でそれぞれ45件(各 23%)の傷害を負っており,次いで頭部と腹部がそれぞれ 36 件(各 19%)の傷害,上肢が 23件(12%)の順となっている。
これを傷害程度でみると平均AISが高いのは胸部が平均AIS(2.6),腹部が平均AIS(2.1)と 高く,次いで頸部が平均AIS(1.9),頭部が平均AIS(1.6)となっている.
胸部傷害45 件の詳細を傷害名称でみると,発生が多いのは胸部打撲12 件,胸骨や肋骨の 骨折が合計 14 件等であるが AIS(1)~(2)傷害程度は比較的低くなっている。これに対し傷害 程度が高い傷害は心臓損傷(AIS(5))で3件,肺臓や大血管の損傷(AIS(4))で前者は6件,
後者は 3 件などとなっており胸部は傷害発生数が多く,傷害程度も平均 AIS(2.6)と高い身体 部位となっている.これら傷害程度が高い心臓損傷や大血管損傷,肺臓損傷などはいずれも 治療経過も良く治癒しているが,処置が遅れると死亡に至ることもある傷害である.
胸部傷害の加害部位をみると,シートベルトが 21 件と多くなっているが AIS(1)~(2)と軽 傷が多い意が AIS(3)以上の傷害も9 件と約半数を占めてい.次いで,ステアリング系が多く 14 件となっており,AIS(4)以上の胸部傷害も6 件と多い.胸部傷害45 件のうちシートベル トとステアリング系による傷害が35件(78%)と大部分を占めている.
胸部に次いで多い腹部傷害36件の詳細を見ると,多いのは腹部の打撲・擦過省等でAIS(1) となっているが,AIS(3)以上の傷害も 11 件発生しており肝臓損傷,小腸損傷,腸間膜損傷,
腹部血管損傷などの重傷例が見られる.
これら腹部損傷の加害部位は胸部と同様にシートベルト,ステアリング系が多く約70%を 占めている.シートベルトによる AIS(3)以上の腹部傷害は小腸損傷,腸間膜損傷,腹部件刊 損傷などとなっている.またステアリング系によっても同様の AIS(3)以上の傷害が認められ る.
表 5-4 傷害部位・傷害名称別,加害部位別の傷害数 加害 数平 均加害 数平 均加害 数平 均加害 数平 均加害 数平 均加害 数平 均加害 数平 均加害 数平 均加害 数平 均加害 数平 均加害 数平 均加害 数平 均加害 数平 均 頭部・顔部・頸部の擦過傷等 117111455 脳震盪 217134 クモ膜下出血 311 下顎骨開放骨折211 頚椎捻挫155 頚椎骨折 3211 頚髄損傷 411 胸部打撲 112462 胸骨骨折 24121 肋骨骨折Ⅰ2541 肋骨骨折Ⅱ352111 フレイルチェスト 3211 血気胸 311 片肺挫傷 3321 胸部大動脈(静脈)損傷 4321 多発肋骨骨折または肺挫傷(気胸伴う)444211 両肺挫傷 4211 心臓損傷 5321 多発肋骨骨折(片肺挫・傷気胸・肺嚢胞伴う)511 腹部・腰部の打撲・擦過傷 110181 大腸損傷211 膵損傷25311 肝損傷Ⅰ2431 骨盤骨折211 肝損傷Ⅱ311 小腸損傷 3211 腸間膜損傷Ⅰ3211 腹部血管損傷 3321 腸間膜損傷Ⅱ4211 腰椎骨折Ⅰ244 腰椎骨折Ⅱ311 上肢擦過傷・打撲・挫創1122136 上肢骨折 261131 鎖骨骨折25212 下肢擦過傷・打撲・挫創 12541131114 足指骨折 111 膝靱帯損傷211 下肢骨折 213232222 大腿骨骨折 352111 1931.9332.3412.182.111.0201.4122.431.741.051.082.023.0201.9361.9
-フロア等ドアパネル 等インパネルーフ 3.01.7--
3.01.7--1.0--2.01.4 2.01.5
2.6 2.1 1.5
その他(不 明含む)空振間接傷害車室侵入フロントガラ ス等 -1.0 ------- 1.7--
1.7----- 1.31.0--1.41.73-1.5
1.6--1.0-2.0 1.3
2.0 1.32.0--1.01.42.0-
1.32.0--1.01.42.0--2.6
-2.0--
------3.3 2.51.82.5-----
2.51.82.5---頭部・顔部
傷害名平均 AIS傷害 数AIS
ステアリン グ系 1.6
受傷部位 1.8--4.0
1.9
チャイルド シート
ステアリン グ+ベルト +バッグシートベルト 2.9 全傷害
下肢
上肢
腹部・腰部
胸部
頸部
61
62
5.3.1.5 比較的小さい車両破損で比較的厳しい傷害となった事故例
調査事故49件の中から,サブマリン現象を生じシートベルトにより腹部に高い傷害を被っ た事故およびシートベルト非着用によりバリア換算速度 30km/h での高齢者死亡事故につい てそれぞれの事故概要を以下に示す
a サブマリン現象を生じ腹部に重傷を被った事故(No 2011-001)
【事故状況】
1名乗車の軽自動車が朝の通勤時間帯に交差点を直進通過の直後,横断歩道付近にある店 舗の入口をはいろうと対向車線から前車に続いて右折してきた普通乗用車と正面衝突した.
【車両破損】
車両破損は前面左2/3が衝突接触したため左前面の変形が激しく,バリア換算速度は
約45km/hである.左フロントサブフレームは約200mm後退し,左前輪が後退しAピラー
を押しているがピラーの後退はほとんどない(写真5-1).
車室内はダッシュパネルが侵入した.さらに,運転席シートはシーとクッションの支持 フレームが折れ曲がったためシーとクッション全体が下がり,前端部中央付近で座面が約 100mm低くなっている(写真5-2,写真5-3).
写真5-1 車両前面の破損は少ない
写真 5-2 運転席はシート座面を支持する 写真 5-3 正常な助手席シート座面
フレームが折れ曲がり最大約10cm下がった.
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【受傷状況】
運転者は腹部の腸間膜損傷(AIS(4)),結腸損傷(AIS(2))等の傷害を被った.運転者は
43歳,身長183cm,体重85kgと比較的大柄な体格ではあった.
【検討】
運転者は自動車関係の技術業務責任者であり,正しい方法でシートベルトを着用してい たが衝突によりサブマリン現象を生じずり上がったルトが腹部に掛かり腸間膜が破ける重 篤な傷害を被った.これはシートクッションのフレームが衝突時に体重を支えきれずに折 れ曲がり座面が低下したため,運転者の腰が下がり腰骨からシートベルトがはずれベルト が腹部にせり上がったためである.運転者の腹部にはベルトがせり上がる様子が数条の皮 下出血痕としてハッキリ残っていた.
b バリア換算速度30km/h,シートベルト非着用で死亡事故(No 2010-010)
【事故状況】
1名乗車の軽自動車が細い村道の左カーブを直進し,路がい逸脱して田圃までの斜面を 下り,斜面途中にあった鉄支柱と衝突後,小さな水路に達した.
【車両破損】
車両破損は鉄支柱と衝突したが押し倒して進んだため,車両前面下面にもぐり込んだ鉄 支柱との接触による破損,水路に達した際の右前面の破損(写真5-4)を生じただけであっ た.
写真5-4 車両前面の破損は少ない
【受傷状況】
運転者はシートベルトを着用していなかったが,心臓損傷(心タンポナーデ)AIS(5),肺挫傷 を伴う多発肋骨骨折(フレイルチェスト)AIS(4),肝臓損傷 AIS(3)などを被り,病院到着後 に死亡した.
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【検討】
運転者は 88 歳の高齢でシートベルトを着用していなかったため,ステアリング・ボス 部に胸部を衝突させたと思われる.ステアリングホイールは上辺が押されており,運転者 は車両が斜面を下る際にやや前のめり気味の姿勢となり,ステアリングホイールにかぶさ るような姿勢のまま衝突し胸部に衝撃を受けたと考えられる(写真5-5).
事故発生場所の付近から病院まで約30kmをドクター同乗のヘリコプターにより緊急搬 送が行われた.ヘリコプター収容直後から心停止状態であったが搬送中も必要な手術や処 置が行われ,病院到着後に心拍再開したが肝臓等からの大量出血があり出血多量で死亡し た.
写真5-5 乗員が胸部等を接触したステアリング
5.3.1.6 調査49件の総括概要
これら調査した事故49 件,車両 50 台,乗員 59 人の全概要を調査事故概要一覧として表 5-5(1)~(9)に示す.
表 5-5(1) 調査事故概要一覧
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表 5-5(2) 調査事故概要一覧
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表 5-5(3) 調査事故概要一覧
67
表 5-5(4) 調査事故概要一覧
68
表 5-5(5) 調査事故概要一覧
69
表 5-5(6) 調査事故概要一覧
70
表 5-5(7) 調査事故概要一覧
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表 5-5(8) 調査事故概要一覧
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表 5-5(9) 調査事故概要一覧
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