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第 5 章 日本医大(2次救急医療機関)での傷害予測のための事例調査

5.3 調査結果

5.3.2 調査事故と事故自動通報システム

74

75 0

5 10 15

年齢

図 5-6交通事故負傷者の年齢別人数

対象者は55歳の区分年齢となる50歳代が少なく,55歳未満の者,55歳以上の者に 区分すると55歳未満では55未満者の中でも比較的若い者が多く,55歳以上では55 歳以上でも比較的高齢者が多い区分となっている.

対象者49人のうち乗車していた車両のバリア換算速度が判明できたのは33人であ る。これを55歳未満,55歳以上に分けると前者は17人,後者は16人となり,それ ぞれの別にMAISとバリア換算速度の関係をみると図5-7に示す通りである.

0 1 2 3 4 5 6

0 20 40 60 80

バリア換算速度(km/h)

図 5-7年齢55歳未満,55歳以上別,MAIS別,バリア換算速度別負傷者の分布

55歳以上ではMAIS(3)が6人と比較的多く,これらはバリア換算速度30~55km/h の範囲で発生している.ただバリア換算速度がこの範囲であってもMAIS(2)と傷害程 度が低い者あるいはMAIS(4),MAIS(5)と傷害程度がMAIS(3)の6人に比べて高くな る者も発生している.特にMAIS(5)の重篤な傷害がバリア換算速度30km/hで発生し ており,同一のバリア換算速度でも個人的な身体条件や衝突条件などでバラツキは比較 的大きい.最も傷害程度が高いのはMAIS(5)でバリア換算速度30km/hとバリア換算

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速度75km/hで発生している.反対に最も傷害程度が低いのはMAIS(1)でバリア換算

速度20km/hで発生している.このようなバラツキは認められるが全体的にはバリア換

算速度が高くなるに従い傷害程度が高くなる(MAISが大きくなる)傾向は示されてい る.

一方,55歳未満ではMAIS(2)の発生が6人と比較的多く,これらはバリア換算速度

20~40km/hの範囲で発生している.これに対し同一バリア換算速度の範囲でも傷害程

度がMAIS(2)の6人よりも低いMAIS(1)が4人,傷害程度が高いMAIS(3)が2人,

MAIS(4)が1人発生しており55歳以上の場合と同様にバラツキが認められる.最も高

い傷害度はバリア換算速度55km/hでMAIS(5)の発生を認め,反対に低い傷害程度は

MAIS(1)がバリア換算速度30~50km/hの範囲で発生している。しかし,55歳以上の

場合と同様にバラツキはあるものの全体的にはバリア換算速度の増加と共に傷害程度 の高くなる傾向が示されている.

55歳未満の者と55歳以上の者でバリア換算速度に対する傷害程度を比較すると,全 体的傾向としてMAISで1ポイント程度の差を認め55歳未満の者の傷害程度が低くな っている。しかし,この両者の差もバリア換算速度が高くなるに従い縮小の傾向となっ ている.

5.3.2.2 特定の身体部位におけるMAIS(4)以上発生と生存率

調査事故49件において頭部あるいは胸部,腹部にMAIS(4)以上の傷害発生は14件

(表5-7)で,頭部における発生は認められていない.AIS(4)以上14件の傷害部位は 胸部が12件と大半を占め,残る2件は腹部の傷害である.

胸部の重傷外傷部位は心臓,肺臓,血管系,多発肋骨々折となっており心臓,肺臓の 傷害が多くなっている.傷害程度はAIS(4)またはAIS(5)で前者は10件,後者は4件と なっており死亡2人では傷害4件の発生となっている.死亡例ではいずれも心臓に

AIS(5)の傷害を受けており,さらにAIS(4)の血管系損傷または多発肋骨々折(肺損傷

を伴う)を伴っている.

AIS(4) 以上の胸部・腹部の傷害についてAISとISSの関係を図5-8,AISとRTS

の関係を図5-9に示す.

表 5-7傷害程度AIS(4)以上の頭部,胸部,腹部における傷害

性別 年齢 転帰 身体部位 傷害名 加害物 ISS RTS Ps (%) EBS ヘリ

搬送 緊急

手術 車名 乗車位

シートベ ルト

エアバッ 女性 72 生存 胸部 右心房心タンポナーデ 5 シートベルト 38 7.55 78.1 25 × 軽乗用 左後席 着用 展開

胸部 外傷性血胸 4 シートベルト

男性 88 死亡 胸部 心臓損傷 5 ステアリング 35 0 0.4 30 × 軽乗用 運転席 非着用 非装備

胸部 多発肋骨骨折 4 ステアリング

男性 70 死亡 胸部 心臓損傷 5 ステアリング 34 0 0.4 75 × 普通乗用 運転席 着用 展開

胸部 下大静脈損傷 4 ステアリング

女性 73 生存 胸部 胸部大動脈損傷(Ⅱb) 4 シートベルト 16 7.55 94.4 25 × 軽乗用 運転席 着用 非装備

胸部 両側肺挫傷 4 シートベルト

男性 34 生存 胸部 右肺挫傷 5 ドアパネル 29 7.84 87.5 55 × × 普通乗用 運転席 非着用 非展開 男性 80 生存 胸部 外傷性下行大動脈解離 4 ステアリング 20 7.55 98.3 35 × × 軽貨物 運転席 非着用 非装備

男性 26 生存 胸部 肺挫傷 4 アームレストorシートベルト 24 7.84 98.2 30 × × 普通乗用 運転席 着用 展開

女性 56 生存 胸部 右血胸 4 ステアリング 29 7.84 89.8 55 軽乗用 運転席 非着用 展開 男性 66 生存 腹部 腸間膜損傷 4 シートベルト 26 7.55 89.3 55 × 軽貨物 運転席 着用 非展開 男性 43 生存 腹部 腸間膜損傷 4 シートベルト 16 7.11 98 45 軽乗用 運転席 着用 展開

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0 1 2 3 4 5 6

0 20 40 60

ISS

AIS

胸部傷害

(死亡)

胸部傷害 腹部傷害

図 5-8 傷害程度AIS(4)以上の胸部,腹部の傷害とISS

0 1 2 3 4 5 6

0 2

4 6

8

RTS

AIS

死亡 生存

図 5-9 傷害程度AIS(4)以上の胸部,腹部の傷害とRTS

図5-8に示すAISおよびISSはいずれも病理的な傷害度指標であるため比較的傾向 が近似し,死亡2例ではAIS,ISSともに死亡2例では生存例に比し比較的高位の傷害 度となっている.

一方,図5-9に示すRTSは生理的指標である.このRTSとAISとの関係をAIS(4) 以 上の胸部,腹部の傷害者についてみると,死亡2例では圧倒的にRTSが悪く,生存例

ではAIS(4)~(5) の傷害があっても RTSはほとんど正常に近い値を示している.これ

は病院到着時のRTS値であることが影響していると思われ,特別身体部位における

AIS(4) 以上の傷害発生と生存・死亡との関係を明らかにするためには事故直後からの

継続的なRTSの観測が必要と考える.

78 5.3.2.3 RTS-ISSと予測生存率(Ps)

調査事故におけるRTS-ISSの関係を予測生存率との関係でみると図8-11に示す通 りである.今回の調査例は55歳以上,55歳未満をとわず多くがPs=90%以上の範囲で あったことがわかる.

死亡 2 例はヘリコプター搬送されているがいずれも病院到着時ほぼ心肺停止状態を 示しRTSは「0」近くISSは34であったが,Psは50%ラインから遠い状態であった.

55 歳以上では55 歳未満に比べ ISSの割にRTS は高くなる傾向はみられているがPs との関係を考察するには調査事故例の積み上げが必要である.

0 1 2 3 4 5 6 7

0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75

RTS

ISS

Ps=50% 55歳未満 Ps=50% 55歳以上 Ps=90% 55歳未満 Ps=90% 55歳以上 55歳以上RTS-ISS 55歳未満RTS-ISS

図 5-10 事故調査患者のRTS-ISSとJTDBによるPsとの関係

5.3.2.4 車体加速度と傷害予測

本プロジェクトでは事故発生の場合に,事故の重大性,乗員の傷害程度を自動的に予 測・判定し通報することを目標としている.その判定指標として現在は車体合成加速度 を基準として合成加速度の大きさで判定を行いている.

事故調査データには車体加速度が無いので,バリア換算速度で車体衝撃度の大きさを 代表させ傷害程度と車体衝撃度の関係を検討する.プロジェクトでは車体加速度として 20G,40Gを基準として20G以上を中等症の発生危険レベル,40Gを重篤者の発生危 険レベルとしている.図5-10に前面衝突車両における55歳未満者と55歳以上者に分 けてバリア換算速度とAISの関係を示す.

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0 1 2 3 4 5 6

0 10 20 30 40 50 60 70 80

MAIS

Vb(km/h)

54歳以下

55歳以上

図 5-11前面車両乗員における年齢区分(55歳未満者,以上者)別MAISとバリ

ア換算速度

調査事故での傷害者は①事例を除きバリア換算速度25km/h以上の範囲で発生して いるが,55歳未満の者には速度の増加と共に傷害程度が高くなる傾向を若干ではある がうかがえる.しかし,55歳以上の者にはその傾向は認められていない.特に,55歳 以上の者での死亡事故2件,バリア換算速度75km/h--AIS(5),バリア換算速度30km/h

-AIS(5)の条件となっておりバリア換算30km/hでも死亡例が発生している.

この事故は高齢者であること,さらに転落気味の傾斜した現場状況やヘリコプターに よる約30kmの患者搬送など多くの事情や条件が重なった結果の死亡事故であるが,傷 害予測のためには事故時の車体衝撃度ばかりではなく,事故時の状況や衝突後の条件を 評価・データ化して車体衝撃度と加えることにより傷害程度を精度よく予測し,自動通 報できる可能性が高まるものと考えられる.今後さらなるデータの検討や事故調査の積 み上げが必要である.